第165死 神様、仏様、オーバー未惇
味覚、視覚、聴覚、触覚、あらゆる感覚を棄て、身体機能を生命活動出来るギリギリまでに削ぎ落とす。
暗がりに身を置き思考する選択肢は狭まり制限を得る、そして見えてくる──極限の選択。
捧げ選び手に入れたチカラをシロと共に制御し空間を大きく歪め──上空にゆっくりと開かれていく。
テンション5のオーバー未惇は自力と戦闘経験、突破するのも厄介な雷膜のガードでぶつかり勝り、生じた隙に敵を翻弄する。
独立させ──巧みに操作するミトンは地表スレスレの死角から白い怪物の足首を忍び掴み、浮遊しながら力強くぶん回し彼方へと投げ捨てた。
「戦士オーバー未惇、D級探索者、コイツの意地だ使え」
「おっ? ──にゃははははソレは見てみたいねぇ、ならっオーバージェットミトン!!!」
テンション5の全てを込めたチカラを解放。
赤い眼光はロックオン、戦闘プランを即座に変え惜しみなく──解放。
突き出し構えた右拳。放電し逆立つ緑の触角。雷爆のエンジンを得て今、射出。
一直線に投げ捨てた速度に、本体から射出された超光速、右のミトンは追いついた。
真下からボディーへと貫き刺さる、荒ぶり続ける雷光の尾を引きながら。
目指すのはおもしろい予感のする方へと。
一瞬にして届き運ばれた。
宙に鎮座する黒柿の仏壇は完全に開き、
『ナイスアシストだ怪物』
当てられないのならば当てる必要はない、じっと機を待つ。その時間をかけ冷静に──宙にデカデカと鎮座するD級探索者の意地にオーバー未惇が応えた。
強引に押し込まれたソレに対して待機させていたチカラをここぞの行使、ギリギリと開き耐えていた戸と障子はパンとナカに引っ張られるように激しく音を立て閉められた。
いつの間にやら、かなえの首に巻きついたシロの身体がクロく染まっていく。妖しいどころか禍々しい黒ネコは、大口を開けて上品にワラう。
ナカへと誘われた──ここはどこなのかと黄色い眼で右往左往。宙を泳ぐも分からない。見回す限りの黄金の景色にぞろぞろと、
『八百万・須弥・葬葬ダダブツversion.──金輪際──ッ!!!』
黒い像が一瞬に続々と姿を現し、数多の軍勢となり敵を囲んだ。ワラう邪悪の化身の面々が見つめる八百万の瞳が──一斉に襲いかかった。
もみくちゃに──黄金の空に不似合いな黒い円球が縮小していく。
……
……
…………
ボロついた戸が。
がごっと引き破るように戸は開いていく。
其処から覗き見える──黄色い眼と、食しこぼす黒々としたナニか、穢れた血を口端から垂らしながら。
かなえに巻きついていた黒いネコは、眼をギョッと見開き全身の毛を逆立たせ──黒く霧散し失せた。
「────ッぁ……ハァハァハァハァ……っ……まじかよ」
「これは俺の想像の上だな……怪物というより、悪鬼」
身を震わせ、ナイトは驚く瞳で静観する。
ふたつ膝ふたつ手をつき、大きく乱した息。どっと滝のような汗を流して全てのチカラを使い失せたおだぶつりかなえは空を見つめた。
両手を隙間に差し込みギリギリと強引に軋ませ開けていく。身を捩りナカから再び外へと禍々しい黒いオーラを漏らしながら這い出していく。
テンション5が切れたミトンはその色とチカラがまた1へと戻ってしまった。
その状態で悪鬼と戦う事は、見えた先であると、この場の2人の想像に容易い思うところであった。
だが、その横顔は絶望とは程遠い強がりとも探索者のプライドとも違う────自信!
「────神様仏様がダメでもさぁ……オーバー未惇がいるならサァ!」
自信に満ちた狂気と愉悦の表情からバチバチと出力していく雷電が周囲を焼いていく。
左眼の紅い雷を食らった。
繊細なチカラの制御は未だ彼女には出来ない、甲賀流忍者のような穏やかな心のセカイも彼女にはない、戦いでテンションを高め溜まっていく……自分の中に溜まりあるもののスベテをリアルへと吐き出し喰らい再び自分のモノにする。
「────バージョン0。丘梨栄枯になくてオーバー未惇にはコレがあるっ!」
紅く禍々しく、されどド派手に美しく。
垂れ流す強大なテンションはもう待ちきれない、構えた右の拳は天を見据えて射出された。
「ジェット波ミトンパンチ!」
「めぇえええええええンンンンンッ」
悪鬼を仏壇を貫きながら。放った紅いミトン。三つの雷電の紅い尾を引きながら獲物にぶち込み上昇していく。
紅く染まり感電しグレーの空を突き抜けていく、そのチカラの塊を引き剥がそうと悪鬼はもがくがボディーにめり込み離れない。
彼方へと誘われた悪鬼とミトンをターゲットに、カードを切り瞬間移動。
「オーバーミトン・ジャスト・天雷赤夏レッグミトン岩墜死!!!」
生成し再び纏った紅いミトンを右脚に、天へと掲げて振り落とした脳天直砕のイチゲキ──紅い天雷が全てを打つ。
「アレがDODOのトップ探索者か。同じD級とは冗談にしてほしいな、フッ騎士として」
「あんにゃ郎……これじゃ道化じゃねぇか、チッ……死にかけの必死でダサいぜ…………うちガナッッ!」
天から堕ちてくるのは────勝利した──ボロつく怪物探索者の紅いかかと。
地へと突き刺さり粉塵に塗れ──天を見上げてやがて大の字に笑っている。
「少々長ったらしいのはご愛嬌! にゃははははははははッ……あぁーもうだめだこりゃ動けない。ばったばったの大活躍の予定が全力使っちったァァァ。まさかのE級の強敵ィィふざけんなァァァよっ! ってねぇ……」
そのトップ探索者の大暴れの始終を隠れて見ていた──駆けつけた孝太が寝転ぶ女子へと近寄った。
「いややべぇだろこれ、街消し飛ぶかと思ったぞ……おまえこれっ……何人か巻き添えで死んでんじゃね?」
「とっとと回復しぃ!」
「いや、するけどさ滅茶苦茶だろこの状況」
スキル【ナースシップ】をぺたり、戦闘終了でアツくなった美少女のべたつくおデコへと貼り付けた。
「ひゅーやっぱこれこれぇいさんきゅっ。あぁーー、ダイジョブダイジョブ! きっとみんな避難か仲良くお陀仏してるってぇ細かいこと気にしないの、全快したら次行くよ次! こんなのより滅茶苦茶やばいのアッチに1、2、3固まってる! 他もそこそこちょっと強い予感がいっぱいいるんだからね!」
「冗談だろ、お前でもさっきのフツウに負けかけてただろ……まじかよ……て、そんなすぐ治せるかよ」
「負けかけてないしぃ、圧勝だしぃ、MP回復はよはよーーん♡」
「これ以上お前と居ると死ぬ予感しかしねぇんだが……あっち治してくる」
ぺたり適当に顔に貼り付けて男子高校生は、苦い顔で怪物美少女を見下し去っていった。
「うわぶ!? ちょとちょっとコウタァァァコウタきゅん! 美少女のほそい腰とぷりっぷりのお尻がまだまだのこってんのさね! はやくしないと売れち」
「知るか自力でハってろ!」
オーバー未惇とD級探索者2人の協力もあり、ミントを喰らう謎の男は見事滅された。ヤングホビーエリアの6割は激しい戦闘で廃墟と化したが、脅威を取り除きここにその場の一応の勝利を手にした。