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第160死 コロッセウム、時を越えて

 戦いの時は過ぎ、晴天はグレーに濁り曇りゆく。


 玩具のブロックを敷き詰めた地にばったばったと騒々しい足音が重なり響き、鋭く荒い風音を立てて状況は斬り裂かれていく。



▼アニメフィギュアエリア▼



「物干し竿ッ」


 【ササクビ】でとどめを刺し斬り落としたMAX16のクビストックの内、4クビを使用して発動したスキル【ササロウ】。


 伸びる────緑にビカビカと発光した模造刀の刀身。


 ブロック体の雑兵共の首と胴を落としていく────真一文字の一閃。


 一振りで目の前が黒く散っていく。


 使用したチカラを失った模造刀赤蜜の刀身は元の長さへと戻った。


 金髪セミロングを乱し、頭から落ちそうなベレー帽を正した。少し疲れた呼吸もながく吐き出して正していく。


「ふぅぅ──何体倒したっけ……少しはマップの整理整頓された気はするけどっ」


 ちらりと背後を確認して、サムライガールは頷いた。震えながらも幼子をしっかりと抱きかかえた母親に強い意志を宿した瞳で。



 ──どこからともなく戦場に重い拍手が鳴り響く。



「一騎当千の働きだな──そこの侍。我と勝負しろ」



 ゆっくりと止み──。ぞろぞろと新たなブロック兵を引き連れて、いつの間にかサムライガールの前に乱れる赤い髪をした半裸の巨躯が現れた。



 しゃ、しゃべった!? こ、これは……敵の大将首? 玩具じゃなくてっデカい…………ッもしや私とッ一騎討ちってこと……!? 嘘でしょ! さすがに多勢に無勢だし、そんなのっ、状況は最悪だけどッ。キュプロの皆にも連絡がつかない……趙雲様みたいに切り抜けられそうもないし、ここは……ッ乗るしか。



「わかった。受けて立つからッ」


 いや、待って……ここで世間様が解放されても危ないか……。


「──観客に指一本危害は加えないで!」


 巨躯の男を強く睨み、背に控える親子を守るように右手の刀を払い広げた。


「観客とはな」


「──では、我相手に怯むことのないその勇猛さに免じてこうしよう」


 赤髪の男はどこからか取り出した長巻を地に深く突き刺した、やがて街が地が蠢き変容していく。


 男の周囲のアニメフィギュアエリアの店々は次々とバラバラになり──


 パーツを組み合わせるように玩具のブロックを積み上げ複数のアーチ構造で出来たコロシアムが形作られていく。


 サムライガールは地鳴る広大な円形砂地のステージにぐらつく足元のバランスを取りながら──



「な! コロッセウム!? ローマ帝国の!?」



「そうだ、今こそ価値のある歴史はもう一度。世の末で我と遊ぼうぞ侍ガール」


 すっかり変わり果てた──観客席にはブロック兵が多数、見た事のない連中も居る。一層高い王族と賓客の席に彼女が守っていた親子は座らされていた。


 良かったあの親子は高い席……無事か。それよりっ──これは現実味のなさすぎる連続……シナリオはずれの夢物語のつづきじゃないよねッ趙雲様っ!


 何人とも判別不可能、凄みのある顔、赤というよりは黒い血の色におそろしく鍛え上げられた肉体。確かにサムライガールの目の前にいる先程まで相手をしていた雑兵とは比べるのも馬鹿らしい……強大であろう敵の大将。



「くっ……こんな大掛かりッローマ帝国の亡霊だとでも言うの」


「フッそんな古びた亡霊などではない、貴様も我らの選択した戦いの果てだ」


「選択……戦いの果て……?」


「腹と生を満たした古代の民は次に願った。コロッセウムは見せ物であり、底知れぬ死への切望だという」


「死と炎に挑む我にとってコロッセウムは下らない褒美の一つに過ぎん。闘士がぶつかり、美しく熱い闘争劇場の果てにこそ死へと通じるチカラは拓かれていくのだ」


 男は高々と太々と鍛え抜かれた美しい両手を広げ掲げる。


「さっぱり……あなたの言う事がわからないッ、この状況もっ」


「分かる必要もない事だ人と人との言葉遊びなどそれ程価値もない事だろう、刀を構えろ。お前達がどれぐらい育ったかを虚勢と虚言ではなく見せてみろ侍ガール!」



 大舞台の砂の上に聳え立つ赤髪の巨躯、歴戦の雰囲気のただようその人物に対し。


 だらりと何の種類か判別しようのない全身から滲み出る汗が止まらない。


 休日の昼に運悪くコロッセウムへと迷い込んだ──青縁メガネと赤いベレー帽を身に付けた金髪に染め上げた異色の侍が震える模造刀の切っ先を光らせ向かい合う。

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