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第149死 掃除屋


掃除屋ちゃん:


キジュウ→



えれほわくん:


①えれましんがん


②ほわほわそーど


③ほわいとひーる♡



DELETE



 明智マリアは手に持ったピンク色の鍵でそのモノのロックを開いた。可能性のスキルを解放した────。



「えれほわ、ほわいとひーる」



 白い掃除機えれほわは、スキル【ほわいとひーる】を発動した。掃除屋とえれほわの身体は白い仄かな光に包まれていった。


「ふふ、どうだい? 成果はあったかい」


「……うん、すごいえれほわの技が増えてる! たぶん回復効果があるみたい」


「あっは! それは貴重で便利なスキルだなおめでとう。そうかいそうかいそうだなそうだな」


 椅子に座る金髪白衣は、掃除屋と掃除機をまじまじと楽しそうな瞳で見つめる。


「にしても、キミのスキルはひじょうに面白いじゃないか。【キジュウ】……機械の獣、機獣といったところかな? あっは!」


「そう。えれほわはレベルが上がるしスキルも覚える。だけどこの子はなかなか覚えなくて……」


 えれほわは白いおおきな耳をぱたぱたと、ホースノズルの長鼻をなんどか持ち上げて喜んでいる。


 顎に手をやる明智マリアはそんな可愛いらしい機獣を見つめながらも──


「ふむ、スキル対象をチェンジできないのか?」


「……」


「おっと余計な質問だったかな、あっは、すまない」


 単純な彼女たちへの興味からか余計な言葉を選んでしまい、掃除屋は押し黙ってしまった。だが素直に彼女たちに謝意を述べて──首をかるく横に振った掃除屋は口を開いた。


「私はえれほわとこれからも一緒に冒険したいだけ……死のダンジョン攻略にはもう興味ない」


「ふむ。私は戦士でも探索者でもないからな、そういうことは分からないが。……ただキミのスキルは興味深いこれからもよろしく頼むよ」


「……」


 白衣の女は微笑み背を向けてさっそく興味深い作業へと取り掛かった。スパコンの音がカタカタと静寂の余韻に立つ。




▼▼▼

▽▽▽




「はぁはぁ……なんだったんだ……」


 ひどく、喉が渇いている……近くの棚上に置いてあった新品のミネラルウォーターに手を伸ばそうと──


 ガチャリ。


 開かれて、入っていく。


「え?」


 ついさっき見たことのあるフワフワ帽子と灰色のロングコートにデニムパンツ、何故か掃除機を背に抱えた女がそこに。




▼▼▼

▽▽▽




 知り合ったばかりの男女が風呂場にいる。


 それはここでは特別おかしな光景でもなく。


「私のスキル【キジュウ】で従えているのがえれほわ」


「あぁー、もしかして! 白い象みたいだからエレホワですか?」


「そう、えれほわ」


「あはは、いいっすね」


 風呂に浸かり端と端に、お互い適度な恥じらいを持ち向かい合う距離感は適切。


 えれほわは見守る2人の間を泳ぎ、彼女の元へと戻っていった。



「……そう」


 そう一言だけ──ちんもく。


 青年は訪れた沈黙にたいしてまだ何か話せる事があるはず……と考えあることを思い出し口を開いた。


「あ……えとあの……掃除屋さんってたしか探索者ランキングの3位にも居ましたけどお兄」


「ちがう!」


「え?」


 青年が全てを言い切るまえに少し声を荒げた。表情もすこし……。



「アイツは私と同じスキルなだけ」


「え、同じスキル?」


「……そう私が先に死のダンジョンを攻略していたの、アイツが後から来て全て奪った」


「……いったい……」


「……」


「……あの」



「掃除屋として私は死のダンジョンのモンスターたちを倒してえれほわと一緒に冒険してきた。何回も挑んで吐い信する内に死鳥舎だってすこしづつ増えてきた、彼らと一緒にたたかったり苦難を乗り越えてえれほわも成長して私たちは生きて帰って来た」


「……これから、これからもっとたのしい冒険が待っている。そんな時にアイツは現れた私と同じ吐い信者名で私と同じスキルを使って私よりも強くなっていった、今アイツは3位、私は19位」


「それもアイツのおこぼれ、で」


「何を奪われたかはっきりしないモノ……パクリだとか弱いだとか言われて、たらればで被害妄想が、頭が……おかしくなりそうな事もあった……分からない、だけど私はアイツ掃除屋の男に全てを奪われつづけている……今も」


 掃除屋は悲しそうに全てを話した。えれほわの胴体をなでながら。


 まさかそこまで……その話を聞いただけでも彼女の事を深く知ることができた気がした。


 黒く濡れた髪の彼女のどことなく悲しげな表情に──


「……なんかすみません……でも許せないですねソイツ」


「……そう、ありが」


「わざわざ掃除屋さんと同じ名前にするなんて変なヤツですよ! 同じスキルだからってそんなの絶対おかしいすよ! なんか……なんかァしらないけどッ! ソイツ絶対!! そんなのワザと当てつけでやって、変態ですよソイツ! オレ、事務局長に」


「……」


「あ……すみません」


「私こそ、こんな話ごめん」


「いや、いえ……」


「「…………」」


「でも、えっと……掃除屋さんすごいですよ」


「私がすごい?」


「どんなに屈辱を受けても嫌がらせされても、掃除屋ってずっと名乗りつづけて本当にすごい! つよい! です! だからソイツも掃除屋ってなかなか辞めてくれないから意地になって変えてないんですよ、あははははは」


「……」


「あ……またすみません……」


「いやそんなに私のきもちを言語化されたの初めて」


「え、えっと……」


 みぎの手を伸ばした。


「私はわたしを応援してくれている死鳥舎のためにえれほわといっしょに頑張る、それにアイツにも負けたくない。千晶、私にチカラを貸して欲しい」


「え……っと、それはもちろん……ハイ!!」


 みぎとみぎは、水をかきわけて合わさる。がっしりと温かく手のひらが、心が、ぬくもる。


 掃除屋は微笑む。今日彼にははじめて。


 そんな素敵な目の前の女性の微笑みに釣られて笑ってしまったのは──


「んぁ!?」


「んんんひゃああおちんッッおひん!?」


「あ!? えれほわ吸うな、ストップ」


 水面下で元気に吸い付く機獣により、硬い握手は解けてしまった。ばしゃばしゃとげんきな水音を立てて。

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