第145死 死のダンジョン完全攻略に向けて
▼スキルバトル演習場(カフェ休憩所前)▼
目的地まで荷を運び置き運搬訓練を無事終えたコンテナの中身は────
「ご苦労」
エクレアの包装を片手に赤いコンテナの中から出てきた金髪白衣をメインカメラは拡大し捉えている。
「後で事務局長室に来なさい」
「あっはっは! それは出来ないこれからみんなで飲むのだからな」
「事務局長からの差し入れだ、運び出してくれ」
喜びの声が上がるエスト電機のメカニック、技術者、荷運びたち。コンテナの中身は酒ワイン、高級チーズとハムにメロン香り高い紅茶など事務局長からの差し入れと称したそれにこの場のテンションは高まりさっそく荷を協力して休憩所のカフェへと運び出していく。
「……明智マリア」
「なんだい」
グラウンドに両手と両膝を突きメインカメラは騒ぐ連中と白衣を前のめりの威圧感を放ち見つめた。
「後で事務局長室に来なさい。エスト電機のあなた達もこれの整備をきちんとしてください。視野が広すぎて情報も多い酔います、なんでも人間の枠を超えて拡張すれば良いというものではありませんよ作り直してください。それに余計な機能があるにしてはこのシステムでは操り切れません、カードやジェスチャーに物理ボタン、音声認識などいくらでも方法はあります咄嗟に使えるようにしてください。この程度の素人でも考えつく問題をクリア出来なければ今後テストパイロットとしてコレに乗ることはありません。では、よろしくお願いします」
「フフふふ、手厳しいな」
胸部に格納されていたハッチは開き、そのままコックピットから高く飛び降りた白い人影、乱れた髪をざっと整えて制帽を被り佇む。酒瓶を抱き抱えた連中や頭を抱える者、尊い方にお飲み物をお持ちする者、また場は騒がしく話し合いスキルロボットEGGのメンテナンス改善ブラッシュアップに励む事となった。
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それから数日後……。
事務局長がデータベースの資料で確認して雇った人物がいる。性格、能力ともに問題なし、丈夫な身体と高い精神を持ち、与えられた仕事は報酬を貰えればきちんとこなす。そんな──
▼市街地BバベルB上階(まりじの部屋)▼
まりじはこのところ大忙しであったが。スキルロボットEGGの操縦制御システムやマイライフNTカードの調整、バベルB内に溜まっていた生電子量がEGGの調整により何故か大幅に減ってしまった問題、スキルの実験データの研究もある。
多忙を極めるとはこのこと、だが彼女にとってこの上のない充足されていく欲望。
スパコンをカタカタと部屋に篭りっきりの彼女の元に主に彼女のお世話係として、狗雨雷の選んだ長身の黒スーツは既に到着していた。
「葬儀屋の円山塔子──ん、キミはスキルなしか」
「私は、はい、死のダンジョンには関わりは一応ありますが行ったことがないので。DODO様に雇われたイチ葬儀屋ですので」
「そうかその恵まれた見た目からはおもしろそうな予感がしたんだがな実験出来なくて残念だ、ふふ、まぁ初めての電境セカイを楽しんでいってくれよ葬儀屋くん空いている部屋は自由に使ってくれ。うーんと、今日のところはいいよ観光でもしていてくれ」
あちこち、乱雑に物が散っている……この部屋はいいと金髪白衣は言っているようだ。
「……はい、精一杯お仕事に努めさせてもらいます。……200万ですので。待機していますのでいつでもお呼びください」
「ふっ、あっは、ドッツはその辺の大学の客員教授より高待遇のようだな。……ならフルーツ盛りと紅茶を、よろしくたのむよ」
「はい、ただちに」
「ゆっくりでいいんだがな、フフふ、ふ、あっは! キミもシンプルでおもしろいな」
ご丁寧にご挨拶を終えた葬儀屋の円山はまりじの部屋を後にした。
さっそく、仰せつかった指示に取り掛かるために買い出しそれとも食材保管庫はどこにあるのかを──
「あれ? 葬儀屋さんどうしてここに?」
出てすぐ、つい最近どこかで見たことのある人物と人物がばったり廊下で出くわした。カーキのジャケットと白シャツ青いジーパン、お気に入りの服セットを何度も着る習性のある狩野千晶がそこにいた。
灰色の瞳とホワイトブロンドのショートヘアに薄化粧。葬儀屋は着飾らない。彼を見つけて少し驚いた様子で──
「あっ。……はい、雇われメイド兼メンタルケアのお坊さんとしてこの場に派遣されました」
「えっと、そうなんすか……すごい肩書き」
「いえいえ。あっ、このところ狩野さん。自宅に帰られていなかったようですので、一応部屋の掃除とゴミ出しはしましたが……まさかの再会できてうれしい限りです」
「あぁ! たしかに全然帰ってなかった
……俺もまた会えてうれしいっす! あっ! そういえばおばみんさんは?」
「はい、私、お忙しいおばみんさんに任せられてあのアパートの仮の大家という形で一応管理させてもらっていました。……以上ですね。それからは何も」
「あはは、そっすか。あの人自由人って感じでしたからね。まぁみんな元気でやってそうでよかったです。あ、俺DODOの職員になりました」
「なんとそれはまぁ、その若さですごい事です。おめでとうございます」
「いえ、えっと、はは、ありがとうございます!!」
「あっ、ここのホテルの厨房と食材保管庫はどこに────」
久しぶりの2人は他愛もない会話と再会の挨拶を終えた。
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▼グリーンエリア、ベースキャンプ宴会場▼
本日は晴天、ほんじつも晴天。
葬儀屋と夏海ノ香水のメンバーにより配られていくグラスに注がれていく酒ワイン果物ジュース各種。
この広大なグリーンエリア、ベースキャンプ場に文字通り全員集合。結集したのである。
ガヤガヤと特にまとまりはなく好き勝手に各地で騒がしくなってきた。
樽の椅子に座る洒落た者や、既に準備されたキャンプ場の焚き火の色を眺める者、30、40、50は超える大人数の集いに。
「あれ!? ……あなたは?」
「久しぶりね、まさかあのときの子が丘パボーイだったとはね。ふふふふふ、パラってるわね」
バーベキュー用の食料の詰まったダンボールを各地に運搬していた彼に近付いて来たのは──。
海月のバンダナを頭に巻き、黒と深い青のロングヘアをアレンジ。洒落たダークオレンジ色のロングコートを見に纏っている長身の。
狩野千晶がなんとなく見たことのあるインパクトの強い容姿の人物であった。
「え!? ドッツの関係者だったんですか!?」
「んー、そうね。熱に当てられた……ところかしら」
「はい?」
「パラっとバラすわよ」
「えっ、すみません!」
「ん? その服」
「あー、はい。なんか気に入っちゃって、はははは、なんかすみません」
カーキのセット衣装は、そう彼女が彼に与えたもの。彼がそれを熱心に着ている事に彼女は上品にげらげらと笑ってしまった。
「ふふふふふふ、この私のハイセンスがっ、ん? そのダセンスな足元はナニかしら……」
彼女はすこし顎に手を置いた──青年の足元は黒いヒョウ柄のスポーティー。
「あっ……これはぁ……ちょっと今黄色いのは洗濯中で……はははすみません」
「ふふふふふふ、ん、それよりアレはナニかしら」
「あぁ、えっと、アレはEGGって言って今事務局長が」
旗を持ち、巨人が立ち上がる。
『この電境開発部の技術の結集であるリアルシミュレーター内で、今おおきく時代が動きはじめています』
『そうです』
『ここに集った勇気あるあなたたち、強い探索者のレベルとスキルの更なる底上げがDODOと日本の未来につながるのです。エスト電機のメカニック技術者荷運びの皆さまも、電境技術を混じえた新型ヤクトドローンの開発をはじめスキルロボットEGGの完成に向けて日々共に歩んで行きましょう。では、乾杯。死のダンジョンの完全攻略に向けて』
EGGがグレーの右手に日の丸を晴天へとかかげる。
聳え立つ巨人の演説に、みんなでした「乾杯」のレスポンス。ベースキャンプ各地で沸き起こり、盛り上がっていく。
完成したリアルシミュレーター内でこれまでよりもより質の高い死のダンジョンへ向けての準備と訓練が可能になった。事務局長がリストアップし集ったDODO内外の探索者たち、彼女の野心には能力的に優れた探索者であればDODO外部の者であっても今は協力を惜しまない。
肉を焼き酒を食らう。酒池肉林の一端をグリーンエリアにいるこの場の全員が喜び話をし分かち合っていく。
「やはりシミュレーターとは素晴らしいな狩野生徒くん。こんなにも可能性に満ち溢れている」
「ハイ!! ほんとすごい経験です!!」
「ふっ、シミュレーションだけにな」
リアルシミュレーターからリアルへと、死のダンジョンへと。各々の夢をノセて日々磨き上げていくのだろう────。