第144死 巨大ロボット
シカイハイからDODO本部へと。
続々とやって来た本来はスペースシャトルを運ぶために造られた特注トレーラー。虹色の境光をくぐりバラしたブツを──リアルシミュレーター内市街地Bの中へと運び入れた。
全ての納入を確認したエスト社のメカニックたちは脚パーツ、腕パーツを胴体へと繋ぎ組み立てていく。
▼スキルバトル演習場▼
何も無くてちょうど都合の良い。このだだっ広く要らない建物を間引いたグラウンドで。
先生と生徒の2人は、キャンプ用のタープの下で陽を避けてざわざわと活気に満ちている光景を眺めながら。
「先生これってほんとに……」
「フッ、ほんとうのようだな」
「こんなものがこのハイサカイの下に……隠れていた?」
「シカイハイだ。未だ未完成の地下迷宮メトロという事になっているが、怪しいものだろう?」
「シカイハイ……でもなんで運び入れたんですか」
「制御系はこちらでテストし仕上げるといったところだろう。実際私も有り難いことに協力を頼まれていた。なにより地下よりはこちらの方が堂々の表舞台だろうこの子にとって」
「ヤクトドローンは分かりますけど何のためにこんな保管に困るデカブツを……造った?」
「さぁね、人類の夢に挑む見切り発車のプロジェクトの権威の誇示か、表向きは主に運搬作業や災害救助用だろう」
「はぁ、なるほど……たしかに日本は自然災害の……大国ですからね」
「あっはっは、フフ、そのまま受け取るなよ。なんにしても人目がある、別世界リアルシミュレーターの出番でしかないだろう」
「……でもこれ動くんですか? 壊れちゃったり」
「一般的な死のダンジョンのようにスパホがぶっ壊れたりはしないか? ということか、大丈夫だぞ。ここではフツウに現世の電子精密機器類の使用が可能だ、そのための環境適応実験でもあったんだぞ。生電子の濃度に起因するのか、死のダンジョンのチカラはまだまだ解明すべき点が多いがな」
「はぁ。でもアレはそもそも……大きすぎてAIでは動かせないですよね? どうするんですか?」
「規則上はそうなる。よく知っていたな狩野生徒くん。車や交通機関の航空機などの乗り物以外、用途の不明な大型機のAI操縦機能の実装は禁止されている。何のために? と思っていたが……この状況を見越してだとすれば、あながち間違いではないのかもな、フフふ」
「──それに事務局長がアレを使えるようにしろとのことだ」
「使う……ことってあるんですか!?」
「訓練ではたくさんな」
「マァマァ、尊敬する先生への質問はもういいかい? とは言っても私はドローンはまだしもデカブツは専門外、今回はエストくんとの技術交流というものだったが……これを見てくれ。私はこう考えた探索者補助用プロトタイプカード【スキルロボット】」
「探索者補助用……プロトタイプカード? スキルロボット?」
机上のスパコンに映し出されたプラン。それを生徒に見せた。
じっと読み込んでいくが……よく分からない。真剣に考え込む──そんな彼の表情を横目に、彼女は口を閉じ堪えながら目をワラわせている。
「スキルだよスキル、その名の通り」
「これまでのスキル実験のついでにマイライフNTカードこれを学習データ代わりにロボットに情報をロードする手段を思いついたんだよ、狩野生徒くん脳みそが遅いぞ、あっはっはふっふ」
「えっと、ええ!? 全然! 意味……わかりませんよ先生……」
「あっはっは! 君は本当にシンプルだなぁっはっは! ────」
グラウンドに寝かされた巨大なグレーの五体がある。組み立て作業はバラし前提に造られており、プラスチックモデルのように容易で気が付けば終わっているモノであった。
まだまだ肉付きが細いのはプロトタイプだからか。余計な見栄えする外殻が無い。
巨大ロボットの点検を部下へと任せる。細かなパーツ物資を納入していた中型車を走らせて広大なグラウンドを移動。
一通りの作業を終えたこの現場を監督していたメカニック長が臙脂色のタープの下へと向かって来ている。
「あっはっは! あはは、だならなこれはキーなんだよ。そして操縦するロボットはこの世界ではただの機械じゃないぞ、全ては生電子により存在しているんだからな」
「あっ、分かりました!! けどどうやって操縦を」
「わかるだろ? あっはっは! おそらくナカはレバーとペダルのマニュアル操縦だろうが全部取り替えてもらうんだよ。このマリオネットシステムに」
「ま、マリオネ!? なんですかソレ!?」
「あっはっは! 何度も説明したろ? あっはっは! 本当に君はダメな生徒だなぁ、よぉし、このまりじ先生が──────」