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第143死 栄子のジャンプ

「結局コロッケ、アイス、少年誌。子供の三大好きなものを買ってしまいました、ふふ」


 古本屋から商店街そしてコウタくんの家への帰り道、手土産の大きなレジ袋を左手に提げて。


 午後5時43分。


 幅員(ふくいん)の狭い住宅路地をゆく。


 静かな、しずかな、閑静な、足音はひとつだけ。遠くから見えていた白いフードに近づいていく。


 突っ立っている──白いパーカーフードを被った金髪がいた。カーキのカーゴパンツを履いている。鮮明になった服装をざっと確認して──突っ立つ彼の真横を通り過ぎようとした時。


「少し話そう丘梨栄枯!」


 いきなり、声をかけられたが彼女は振り向きもせずに。少しだけ立ち止まりまた大きな歩幅で歩き出した。


「ナンパなら今彼氏の家へと間に合っていますので」


「ハハハハハ、いいのかい? 君があんなにも利用してくれた、背にしているのはぼこぼこチューブの創設者だよ。彼氏よりも深い関係の僕と一緒に真のエンターテイんメントをしようじゃないか!」


 ぼこぼこチューブの創設者、嘘か本当か。声に、眼に、雰囲気に、予感に、なんとなく分かっていた栄子はまた立ち止まり、背にしてはいけない人物に振り返って──10歩ほど開いた距離に向き合う。


「……よく通る声ですね、ええ」


「それよりも、いただいた漫画の最終決戦、つづきの方が気になります」


「君の意志を尊重し君の言う事はなんでもきく! 吐い信者として復活するんだ丘梨栄枯。僕と姉さんのバックアップと君のチカラとその吸い寄せられるような魅力があれば必ず上手く楽しくこの世をもっとおもしろく出来る!」


「私の最終決戦はもう終わりました。アレ以上はきっと期待には答えられませんよ、ええ」


「みんな君を期待しみんな君を待っている! 第2幕へのシチュエーションは不足してないだろう?」


 フツウではない金色の眼をしている。口角は吊り上がったまま喋っている、ずっと上ずっている興奮気味の高いトーンに。


 白いフードは突如流れた強い風にずり下がり、対峙する栄子はその若い必死さに返す言葉を考えた。


「ぼこぼこチューブの創設者様、こんなにもまだお若い方だったのですね。一般人が途方もない夢を見させてもらいました、その事にひじょうに感謝します──では、さようなら」


 そう言い切り、ながい右手を中に払い深く一礼をした。そしてまた相手にターンが移る静寂の間にターン──背をみせて足音は歩きはじめる。




「君は一般人なんかじゃない! 必ず、かならずこの舞台、死のダンジョンに戻ってくる! だって君は死のダンジョンがッ死のダンジョンこそ一番似合い一番美しく、イチバン強い! ハハハハハハハハ丘梨栄枯きみはエンターテイんメントだ!」




 歩きつづけた。白いジャージの背を指し示す指は遠のいていく──振り返ることはない。


 くすりと笑ってしまい。


「どうも先輩のエンターテイんメントという言葉が独り歩きしていませんか? 流行っているのでしょうか? ……舞台……まぁ私は舞台役者ではありますが……」


 レジ袋から取り出した、にぎやかな少年誌の表紙をながめる。知りもしない主人公面々が写っている。


「歯切れの悪い第2部は……勘弁してほしいものです、ふふ。──さぁ、こちらも最終決戦!」


 言葉にしてみて急に溢れて出た元気を思わずホップ、ステップ、ジャンプ。


 宙に浮かんだ身体、2階で洗濯物を取り込んでいる主婦と目が合う──白ジャージの長身は着地した。


 予想以上に跳ねてしまった身体に、栄子はがさりとなったコロッケの心配をする。


 何かすぐ隣の視線を感じる。


 子供にソノ始終を見られていた。スパホを片手にしカメラを栄子に向けている中学生ぐらいの男子。いきなり通りすがりの長身お姉さんが宙を高く舞ったのだ、彼は悪気もなく条件反射的にいきなり撮るっきゃなかったのだろう。


 びびりながらもまだ撮り続ける──




「今、おもしろいのどれですか」




 カメラと生の瞳が見つめ合う少しの沈黙を置いて、少年誌の表紙を見せつけクールに微笑んでいる。

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