第135死 予感
お洒落なカフェテラスから、見つめる四の瞳を抜けて、下校中の生徒たちが見える。
「とにかく栄子、きっちりゼンブ吐くことね先輩の断りなくコソコソ勝手なことはもうしないこと!」
「ええ」
「ええじゃない! はいでしょ!」
「はい」
「はぁ、あぁ、そうだな……。よし、エイコの自宅でべらぼぅに飲んでつづきだ。今日は逃げられると思うなよエイコ」
「ええ、逃げません、すみません先に行っていてください」
「ちょっと栄子! コウハイ栄子!」
「ここは先輩にまかせます、ええ!」
机上に鍵をジャラッと置き、2人の先輩を数秒見つめて──そそくさと席を立った栄子は歩き出し店を後にした。
「ほんとなんなの……このデカくて意味不明に勝手なコウハイは……しかも説明もなしに鍵だけ置いてくって」
「さぁな……いつまで先輩でいられるかだなしっちー、私にとってエイコは……食らいついていけばハッタリを現実にするようなそんな後輩だ、フフ」
「喰らわれそうにしか感じないけど……はぁ」
何かに向かって歩き出した白ジャージの長身が人ごみへと溶け込んでいく。
「もしかすると私は仙人様にハメられたのでしょうか? おかしなことが気になる身体になったものです…………」
「さて、予感が足音を立てながら向かうサキとは一体────」
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大型ショッピングモール近くの商店街の道をゆく、午後4時過ぎこの辺りは帰宅する学生やサラリーマンが多いのか買い物客も入り混じりそこそこの人ごみを形成するほどの────
いい匂いがする……せっかくなので栄子は脇に外れ──ラッキーにも客のいないコロッケ屋でコロッケを6つほど注文。待ち時間をながめながら。
交差する人ごみ、基本的に日本人とはあまり他者と肩肘ぶつからない生き物、例外も多いがそうであるのが美しいとインプットされている。しかし見つけた点に対して自分からぶつかりに行くようなおかしな動きがあってもきっと誰も気づきはしない。
肩がぶつかりそうなほど近づいた紅いパーカーと紺のブレザーがすれ違い。
「お嬢さんコロッケほら600円」
「ええ、揚げたてをおねがいします、このおいもソフトクリームも」
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ユメマクラ、これを飲めば世界が終わり世界が変わる。
中学、高校と、ずっと目指して来たことがある。
日常の中でゆるやかに多少は苦しみながら死ぬ。そんなハッピーエンドを迎えられたらいい、合格だ。
遺書は書いた葬式は盛大にしないでおくれと、きっとつながりの薄い親戚に笑われるだけだから、勘弁。
そうだスパホのエロ画像データは…………まいいや明日消そう、今日はどのぐらい死ねるのか……お試し。
誰も恨まずうらむなら自分と世界を恨みながら死んでゆけ、俺。
そしてついでにくたばれ、青春。
かしゃかしゃと──3錠。薄く小さい長方形のケースから左手に移ったタブレットを眺めて────2つ戻した。
そして1つ、口に含みコップの水で流し込んでいく。
ブレザーを脱いだ学生は敷いた布団に寝転びながら、枕は抱きかかえて。
澱んだ良くない空気の匂いがする、帰ってきてから一度も閉め切った部屋の窓を開けてないからだ。
障子から射し込む光だけ、薄暗い部屋の中──黒くておおきな影が学生を覆った。
「ナ!? ダレ!? はっ!?!?」
白い姿、黒髪のオンナ。
見上げるその長身を、黒く輝かしい瞳を。
ソレを見た瞬間、あまりにもデカすぎる……八尺様、妖怪かなにかかと思った。今まさに体験している怪奇現象に寝そべって動けない学生のドキドキと心臓の鼓動が速まっていく。
「死の予感。べらぼぅに感じてしまいました」
「し、しのよかん…………しにがみ」
茶の袋を持ち突っ立っている。空気の澱んだ小部屋に充満していく謎のコロッケのようなお惣菜の香りは恐怖オカルトと混ざり合い、学生の頭は情報の処理が追いつかない。
やがて隣に立つ造形美しい長身はクールに微笑んでみせたが、それはより一層の訳の分からない彼の恐怖を煽った。




