表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/244

第134死 丘梨栄枯ってなに?

 教育TVハイスクールダンシングタイムの撮影が終了した。バックダンサーとして努めたお姉さんたちは学校から割り当てられた空き教室で私服に更衣を済ませた。


 タオルで汗を拭き。おでこを拭き。


「ちょっと月無先輩、このところ後輩栄子に振り回されてない?」


「ん? んー……振り回すつもりがいつの間にかな……。ははははでもアイツにはスタイルだけではなくべらぼぅにただならぬモノを見抜いていたんだ私は、あぁ、ひじょうに私にはないものを」


「絶対じぶんの踏み台バランサーとして選んでたでしょ……。はぁ、ただならぬねぇ…………まぁ、私もだけど」


「ん? しっちーもそうだったのか?」


「出会ったとき謎のむず痒い吸引力を感じていたわ……だから気味悪くて! ちょっと距離を取っていたんだから。でも別にそんな自分と合わないって肌感覚で分かるヤツって普通に居るじゃない?」


「まぁ居るなぁこの世界とくに?」


「後輩に対してその目はナニ……だからそれでそうよ、だからここ最近よ! もぅ無視できない気味の悪さ! 滋賀の合宿だってこれについて行かなきゃ死ぬってぐらい吸い寄せられるの! バカみたいって、おもう?」


「フ、なるほど……しっちーの表現するは吸引力か。そうかそうか私ではなく私がべらぼぅに吸い寄せられていたということか。ふふふ馬鹿だとおもうのはこうもラッキーがつづ」


「何を話しているんですか?」


 ガラリ教室の戸を引き開けて、漏れ聞こえていたひそひそとしている2人の席の方に白いジャージ姿は近付いていった。


「なんでもっない、あんたのCMの再生回数がしょぼいって話」


「先輩を差し置いて大手企業のウェブCMに大抜擢なんてエイコ、何様だ?」


「ええ? ふふ、ですからこうして」


「毎度あんたのおこぼれなんていらないからね栄子、舐めてる?」


「ふふ、何も言ってないですよ。私は私のチカラで」


「何がチカラよ、このコネマシーン!」


「コネマシーン? それは……?」


 コネマシーン……そう言われてじっとお嬢様を見つめ沈黙。


「私じゃないわよ!!」


 物言わずものをいう栄子は次に月無先輩の方へと視点を変えた。


 その視線に気付いたブラウンショートはタオルごしにさっと髪をかき上げ表情をリセットしたかのように。


「なんのことだエイコ? あぁ、しちつき水産のしっちーお嬢様の実力を疑っているのか、あのなぁ……この世界コネだけじゃ通用しない今はもうそういうのにひじょうにっ客は敏感なんだぞ小さな舞台の主役だって簡単じゃないんだぞ。そんなわけは、ないだろ?」


「本人の前で馬鹿ヤッてんじゃないィィ」




▼▼▼

▽▽▽




 空席の目立つカフェテラス。一仕事を終えたその後は学校近くのカフェへと3人は軽食を取るために移動した。


 時刻は午後4時12分、ほどほどの曇り空の中途半端な時間にコーヒーとパンケーキのシェア。


「ところで、このコメントの丘梨栄枯ってなに?」


「──エイコにひじょうに似ているな」


「さぁ? 目の色とか服が全然似てませんが私の偽造AIでは、ええ、よく出来てます」


「それはそうだけど偽造にしちゃぁファンらしき何かがちらほらどこかで聞いた変なノリのコメントで我ムチュウ動画で喧嘩してて気になるのよね。──このチンキスってナニ?」


 七月は二画面式のピンク色スパホを手帳のように広げて机上に置き例のCMのこめんと欄を流し読み。


 気になった丘梨栄枯なる人物について調べあげていく。


 栄子は甘すぎる分厚いパンケーキを大口を開けて摂取、もぐもぐ黙々と咀嚼し、ゆるり白いカップを傾けコーヒーの苦さとよく感じた酸味で流し込んでいく。


「──何かとおもったら死のダンジョンね。ほんとに最近できたエログロなんでもありの無法地帯……ハ、私が見たことないわけね」


「死のダンジョンあのヤバすぎる裏のエンターテイんメントのことか、あぁいうのを観ているとお嬢様や役者はアンテナが染まってしまうからな」


 じーっと、しばしの無言の時間に、じーっとパンケーキとそのエログロコンテンツを消化していく。


 やがて2人のフォークとナイフは止まり──


「ねぇ……これどっからどう見ても声聞いてもあんたよね、栄子」


「いえ」


「べらぼぅひじょう……これ私をパクってないかエイコ?」


「いえ」


 ふれる唇、2人はコーヒーをゆっくりとひとくち。


「フフ、エイコおまえ……」


「はぁ……なによこれ、なにかおかしいと思っていたのよ」


「DODO公式……【死のダンジョンの吐い信者、丘梨栄枯】ぼこぼこチューブ有料会員登録者数2万人を超える。死のダンジョン第3死にあらわれた強敵白龍の討伐者であり丘パのリーダー、スキルは拘束系のチンキス、圧倒的なスタイルと長身そのクールな美貌とレベル70を超える謎の成長率と戦闘力を誇るビギナー吐い信者であり稀代のエンターテイナー。MMO、バトルカードMark.Ⅱといった革命的なシステムを用いて戦った唯一の吐い信者パーティーを指揮したビギナーにしてレジェンドでありダンジョンからの帰還を果たしたとされるその後の詳細は不明。男女ともに幅広い層に支持されているミステリーに包まれた妖しい魅力の溢れる人物である。ちなみに彼女はホットプレート料理が得意であり──────」


 DODO公式サイトの吐い信者紹介ページ、new1番上に表示されていた丘梨栄枯のプロフィールをチェックして七月は読み上げていく。


 おでこに右手を当てながら渋い表情で情報を処理していく。


「なにかは分からないけど……」


「丘梨エイコ、連日裏のエンターテイんメントの話題の中心にもなっているひじょうにすごい人気のようだな」


「…………おいエイコ、おまえの見せている余裕の意味が今分かった気がするぞ……。おまえまさか先輩風を吹かせる私を見下してこんな風に楽しんでいたんじゃないだろうな?」


 見せつけるスパホ画面、垂れ流されている、吐い信者丘梨栄枯過去の吐い信の一部。臙脂色のジャージを着た月無先輩の訝しみと眉間の皺を深めた表情が栄子へと突き刺さる。


 白ジャージは余った残り少ないコーヒーにミルクを。開けて注いでスプーンでかき混ぜながら──


「ふぅ……ええ、私は舞台役者栄子です」


 テラス席、丸机に対面する2人の表情はさーっとデフォルトへと戻り。


 ガラリと椅子を引く音を立てて立ち上がった。


「おい、しっちー」


「えぇ、ツッキーせんぱい」




「エイコおおおお、お前はアレかあの急に4日間私の個人レッスンも連絡も来なくなったのもこれか! ふざけるなよ! こんな裏の世界でこっそり私をデフォルメして馬鹿にしてパクってカネ儲けかァァァ」


「ナニが舞台役者ぁ!? 栄子あんたね、舐めてんじゃねぇわよ!! ただの運良く宝くじ当てた成功者のちょっくらお遊びじゃないここさいきんの謎のコネもソレでしょう!! このコネマシーン!! 私物化!! クールキザ気取り!! ド素人!! あやまりなさァァァ」


「!?!? ちょ、ちょっと!! あははは、ええ、ふふあはははひじょ────」




 くすぐり拷問は2分ほどつづいた。丘梨栄枯とバレてしまった栄子はポーカークールフェイスを保てず崩壊、周りの視線の集まる過度なスキンシップ、大人の女性たちのおかしな笑い声が響き渡っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ