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第132死 スキル悪用

 死のダンジョンのスキルを悪用する。現世でスキルが使えない以上そんな事は思い付いても出来ない。


 だが稀に現世でもスキルが使える者がいる。神に選ばれたのか神の子孫であるのか、そんな事は誰も知らない、だがスキルが使えるならば小さな悪意が複雑に絡まり合い世界を巻き込み混迷に陥れる事態になることも考えられる。



 午後11時10分。海岸線コンテナハウス地帯。この日はフルムーン、人を人で失くすような得体の知れない狂気のパワーに満ちている。


 黒い銃を握りしめて──



「ペポコピ」


「ちゲェよ!」


「ぺ、ぺぺポピー!」


「ペパコピだボケぇ!」


「ぺ……ペポプペ!!」


「舌引っこ抜くぞポンコツクソ馬鹿アマがァァァ」


「ひ……ぺ、ぺパコピ!!」


 小太りの男に威圧恫喝されながら黒いスーツの地味女は正しく叫んだ。


 発動したスキル【ペパコピ】出来たのは白いハンドガンであった。左で握った本物の銃を右の手の平から机上にコピー排出。


 微かな軽い音で舞い落ち。


「ハァクソが……こんなの何の意味があんだよ成谷、ポンコツペーパーナードアマ野郎だぞこいつ」


「意味だと?」


 平手打ちが小太りの若者の左頬を弾いた。


 硬い鉄に打たれたように鈍い衝撃が加わり、奥歯が1本飛んだ。


「ヴいがァァァなにすんだナリヤァァァクソガッ俺の歯がァァァ」


 痺れ痛む頬をおさえながら小太りはセンター分けの黒髪男に怒号を上げた。


「歯は大事だァよく磨け波暮(はぐれ)……」


「そんでよく磨けやァァァその雑魚い脳味噌をよぉおおおお」


 怒鳴り返した──おもむろに手にした白い銃の銃口を成谷は波暮へと向けた。


「俺のスキルは付与タイプの【カテコチ】、リアルでも使用可能なレジェンドレアスキルよ。合言葉を唱えてこいつを触るとおそらく永続的に鉄より硬ぇ紙のように軽い」


「銃だ」


 ひょいと、投げ渡した。


 投げ渡された銃は紙のように軽く、小太りが押さえつけて握り潰そうとしても硬過ぎるチグハグな感覚が返って来るだけであった。


「お──おおおおおナリヤさすが! おおおおお、お……でもよぉ弾がなきゃ意味ねぇだろ! おい俺の歯返せクソがァァァ!!」


「だから雑魚いんだよ脳味噌がよおおおお」


「敷居をだハードルをだ下げていくんだよこいつで、そこの底そこそこの一般人感覚までぐーっとだ」


「ようはSNSでもなんでも闇抱えたヤツ銃が欲しいやつにこのお手軽ペーパー銃が届けばいいのよ」


「考えてみろやァァァ波暮、俺たちは折り紙屋だァ日本の伝統文化に寄り添ったなァ」


「折り紙屋? はぁ?」


「付与タイプのスキルこいつは便利だァ」


 成谷は机上にあった折り鶴を手に取り、パンと、両手の平の間にすり潰した。


「届けるのはただの折り紙、この日本いや世界中に折り紙の銃をお届けすんだよ、そうすればよぉ国民全員外人全員潜在的潜伏的暗殺者ってわけよ! ただ折り紙を折っているだけのな!」


「カテコチ」


 潰した鶴を愛おしく大事に広げて膨らます、そして手の上に乗せて見せたみどりの折り鶴。ふんっ、と鼻で笑い紫スーツのポッケに空いた手を突っ込んだ。


「うおおおおな、なるほど!! うおおおお、お……でも弾は? いくらハードル下げても一般人レベルじゃ無理だろ?」


 ブチギレて左手の平からこぼれ落ちた折り鶴はドガッ──蹴り飛ばされ小太りの頬をみどりの翼が掠めていった。


「……なんとか、なるだろうが!! 銃を手に入れたバイタリティがあったらァァァ!! ネットショップからドローンでお届けされんだろうが!! 銃弾製造禁止の日本だけじゃねんだよこのコンパクトペーパー銃の文化発信の相手はよォォ!! 俺たちァ流して稼いだカネで弾なんていくらでもグローバルに非合法にお取り寄せ出来んだよ!! ……ったく雑魚いんだよ島国脳がよ」


「そ、そうかぁマ、さすがナリヤだからな。俺より深ぇな。そだ銃以外にもテーブルとかでいいじゃねぇかナリヤ。今まで通りブランドの偽造品売るより紙製のテーブルとかベッドとかキャップとか動物の折り紙なんて珍しけりゃ馬鹿はアガルだろう?」


「チッ、雑魚脳がカミスキルで面白味のねぇ日用品作ってんじゃねぇぞダボが……」


 怒鳴り散らし殴る男どものやり取りに内容も頭に入って来ない──やり場なく震えているザOLな地味女の首肩に成谷は腕を回した。


「なァ折り紙職人、俺とおまえのスキルで天下取ろうぜ。銃だけじゃねぇ服も楽器もおむつも精巧なネコも全部丈夫な紙製だ。最強のパープルペーパーカンパニーだァ」


「ひ、へ……」


「歯は大事だァ。雑魚脳で失った暗号資産いくらだァおまえの借金が増えるよなァ」


「あ、が……」


 男の回した左手が女の口の中へと入り前歯を摘んだ、薄ら笑う男の言いようがない恐怖が女に流し込まれていく。



『アガァァァァァァ』


「なんだ!?」


「うおお!? ナニや!?」


「わりぃ天下は三日も一瞬もねぇぞガキ共」


「なんだおま」


 斬。小太りは左肩口から袈裟斬られ──壁に血飛沫が飛び移った。


 ドタリと、倒れていく。


 黒装束に黒髪、ギラつき笑う顔を隠す気もない。血が滴る黒いブレードを持った男が昼光色の部屋に目立ち立っている。


 ドアを破壊し突然現れた黒装束の二人組に成谷は唖然。


「あ?」


「なに殺してんだお前」


「おいおいおおおおおいいいいィィィ」


 センター分けの髪をぐしゃぐしゃ頭を抱えながら背を向け歩き出した。そして、ティーーんと聞き慣れたような何かがなる。


 丸くて可愛い猫耳の呼び出しベルが鳴り響いた。


「クソがよクソがよ波暮の仇だァァァ弾ゼンブ使って盛大に俺ごと撃ち殺せェェ!!」


 蹴破られたドアから侵入。ブチギレた成谷の部下たちが続々とあつまり、ハンドガンと突撃銃を構えて標的の2人へと斉射、乱射。


 激しい銃音と聞いたこともない高い金属音。


 薬莢が地に落ちる音と硝煙が辺りを満たし────


 若い半グレ共が散り重なり横たわる──


 二人の黒装束は姿に穴の空いた様子はなくその位置のままに突っ立っている。


「おい、相手は半グレを超えたクズだ銃なんて持ってる明確な悪だヤってみろ」


 男がそう言うとゆっくりともう1人は前へと出た。


「チッ……ふざけやがってェェ雑魚脳どもがァ」


 穴が開きボロくなってしまった紫スーツ、白煙を上げた身体で、大分乱れたセンター分けを後ろにかき上げ右拳を握り締めた。


 黒装束に黒いマスクをしたヤツが走り男に肉薄──忍者のように素速く8回ボロついた紫を殴り付けた。


「カテコチだっつってんだろ、アサルトライフルすら効かねぇ俺に素手で勝てるわけねぇだろうが雑魚脳がァ!!」


 防御姿勢の男は8回貰いずり下がる。溜めた左手をカウンター気味に、オラッ、と気合いを入れて振り回し虚空を切った。


 またも忍者のような素速い身のこなしいつの間にか後ろへとその黒尽くめの長身が下がっていた。


「なるほどべらぼぅに想像以上に硬いですね」


「タイムチンキス」


「ザアガッ!?」


 動けない──身体が石のように重くなり中途半端の姿勢のままに成谷は何故か固まってしまった。チカラを込めどギチギチとそれ以上のチカラで元に戻ろうと反発されるような訳の分からない脅威にそれまでは無かった強い男の広い額の汗がだらり──


「ではどれぐらいの硬さで死なないか、ええ、人を本気で殴るということをあなたという犯罪者で試させてください」


「ふざけんなザコの」


 右頬からぶっ飛んだ、捻れ宙を綺麗な軸でスピン。高そうな机へと硬い身体が突き刺さった。


 決まった、完全に勝負ありのイチゲキ。ソレは人が人を本気で殴るという次元を超えていた。


 ぴくぴくとうごくぶっ倒した男をしばらく見つめて、少しは痛む感触がある気がしないでもない、そんな風に左の拳をグーパーと開き閉じ確認した。


「やっぱり女は甘いな」


「男の顔面をナグれましたよ」


「宿題じゃねんだ褒めるかよ。殺せなきゃ意味のないことだな」


「殺してしまわない意味もありますよ、余韻も」


「ハッ、それより俺は人殺しだが、はははは」


 笑う男の辺りは血塗れ、コンテナハウスの中はものものしい凄惨な現場となっていた。


「……あなたが勝手にやっているだけです。私はわたしのチカラで敵を上回りました、文句無しの勝利です、ええ」


「これも波綿岩死、忍びの心ですよね? ふふ」


「全然ちげぇよ、都合よく逃げ場にカイシャクしてんじゃねぇ甘ちゃんが」


「おいもう帰れ邪魔だ」


「殺すのですか」


「さぁな、なんだ汚い仕事の見学は辞めて悪のアクを挫く正義のスーパーヒーローになってみるか? 本気のお前なら俺を止めれるかもしれねぇぞ」


 ギラついた顔で皮肉を言うおじ様を表情のよく分からないマスク姿で見つめ返して──目線を離した、壁際にゆっくりと────


「──……ですがこのようなスキルには利用価値があるんじゃないでしょうか。折り鶴、きれいです」


 壁にめりこんでいた緑の鶴を手に取り、手の平の上にノセて黒い瞳で数秒見つめた。


 男忍者に対して深々と一礼──みどりのソレだけを手にしこのコンテナハウスから立ち去って行った。




「フ、本当に帰りやがって丘梨栄枯。見たくないものを見て納得成長をしたつもりか、はははは」



「──さぁて」


 床に突き刺して退屈そうに杖代わりにしていた忍者ブレードを引き抜いた。


「マテ、俺は雑魚脳じゃないコロスなァァァ」


 必死に地を這いつくばり、紫に変色した右頰をしたその男は生きていた。きついイチゲキを貰ったはずが未だに声を張り上げる元気もある。右目が細くなる程に腫れ上がった顔で醜くも刃を抜いた相手に対し命乞いを始めた。


「コロさねぇよ、せっかくの有用スキル持ちをよ」


「ほぁ……はぁ、話が分かるじゃねぇか。あんた忍者か? 暗殺業か!? ご、このペーパーモバイル銃の有用性がカネのにおいが分かるだろ! コンパクト実にインパクトかみだ神だ紙の銃だぺしゃんこにしてトイレにでも流せばいつでも処」


 アガッ──




「スキルリストかぶりだ、大した野望もねぇ小悪党のお前はイラねぇ」


 地から突き出た無数の黒い針が這っていた生物の五体を貫いていた。しゅるりと針は失せていき。


「赤い紙屑にされたいか余生でたのしく折り紙をしたいか、よぉく心に岩を沈めてから選べシロウト」


 切っ先の先──


 地べたに崩れたまま流れる液体が何もない。恐怖で一通り流した涙は枯れ催すものももうなければ、まだ若いOLは何度も頷く頭でまた涙がこみあげて溢れて流れ出していく。

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