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第125死 甲賀流エンターテイんメント

 無回転で投げ放った手裏剣は林の中を移動するターゲットの案山子の頭を貫いた。


 各々、最後の手裏剣は投げ終わった。黒い半袖無地にGOEMONという青、黄、赤のシンプルなロゴのついたお揃いの服を着た3人は──



「ぜんいん忍者のポテンシャルはべらぼぅに高かったようだな、フフ」


「はぁいらないわそんなポテンシャル。ひとり投げ方がおかしかった気がするけど」


「ふぅ意外とたのしかったですね、シューティングゲームみたいで、ええ」


「ゲームじゃなくてゼッタイ本物の手裏剣でしょアレ……なんなのよここは……」



「「おしのびらんど」」



「そういうのを求めてないって文脈でわかるでしょゥゥゥ!! ……はぁ……もういや」


「ふふ」


「フフ」


 赤が青と黄に突っ込んだ。雑談は謎の微笑いを浮かべて完結し──この緑と土の、自然の中にある不自然、ソレの前へと集まる。


 ひとり10投手裏剣チャレンジ30投中29投が標的にヒットし成功。ゲームセンターにあるような筐体の画面に出力された文字が点数を表示する──11900甲。



「点数イカれてるでしょ」


「ハイスコアらしいぞ!」


「最後の脱出道具がもらえるようですね」


「会話をしなさい!!」


 筐体の下からべろりと舌を出し、排出された──


 【きみつぶんしょ】をゲットした。


「きみつぶんしょ? なによこの四角? 最高級エステはどこなのよ……」


「なにかひじょうに古そうだな」


「昭和のお宝でしょうか」


 【きみつぶんしょ】という字が書かれた白いシールがぺたりと貼られ四角く薄い形状をしている。


「なんでもいいわ、いきましょう……もういや!! 栄子帰ったら私の部屋に来なさいよ!!」


「添い寝でしょうか?」


「寝首がしんぱいか?」


「ちがうッッ!! 説教よ説教!!」


「歳下に叱られるのは私の趣味じゃないです、ええ」


「せんぱいだって言ってるでしょう!!」


「それはダメだな栄子、ちゃんと叱られて来いフフ」


「はぁその前にシャワー、浴びたいです」


「勝手に浴びなさいよ!!」


「あ、やっぱり説教のあとでさっぱりの方がいいでしょうか? どれぐらいの声量で怒られるのでしょうか」


「こいつは気の強いお嬢様だ。それはもうべらぼぅに、だろうな」


「ふふ、そうで」

「なに説教ごと水に流そうとしてんのよ!! このセカイのせんぱいのッ、私をッ、舐めてる?」


「なめてません先を急ぎましょう、ええ!」


「ナ!? こらァァァ栄子ォォ待てェェ────」




 3つの鍵とナゾのフロッピーを手に入れた舞台現代版石川五右衛門パーティーの3人は標識看板にしたがい次へと進んだ。




▼▼▼

▽▽▽




『わたしたちのだぁいじなきみつぶんしょをぬすむなんてとんでもない!』


『甲賀流おにごっこのけい! おしのびらんどにしんにゅうしたきたなぁいねずみどもをひっとらえろーー』


 唐突なアナウンス、聞いたこともないアップテンポの音楽がステージに鳴り響いていく。


「ちょっとなんなのよこれ!!」


「大掛かりすぎるようだな」


「大歓迎です、ええ!」


 後方、しずかに林の中から。前方、高い門と壁を飛び越えて。赤い忍び装束を来た軍団が栄子たちを挟むように続々と現れてきた。


「よしここはエイコ、しっちー、散開だ! あぁ、ひじょうに!」


「ええ、ひじょうに!」


「なんなのよそれ……って誰がしっちーよ!! あぁもうッこれが最後だからね!!」


 七月(しちつき)月無(つきなし)と栄子は、その場から三方に散開し走り出した。


 黒い3人を追う赤い軍団、20人以上はいるその多過ぎる数の本格的な大人の女性たちオンリーでの鬼ごっこ。


 きみつぶんしょとは失恋話、不倫話、密会や先輩忍者への陰口、その他諸々。甲賀流の女忍者たちの恥ずかしい黒歴史を詰め込んだものであった。


 追われている、主にフロッピーを持った月無先輩が背後と前方から迫る女忍者の集団に追われているようだ。


 忍者であっても恥は恥。恥を守るのも修行である。己の恥すら守れない者は甲賀流忍者失格である。


「なんだこれは、フフ、ここまでの動員冗談にも程があるだろ──」


「しっちー受け取れ! エンターァァァテイんメント!」


 鬼気迫るものを感じたそしてまさに迫られており、保たない。


 月無はフロッピーを中央をひた走る七月こうはいへと投げた。


 宙を回転するフロッピーを両手で挟みなんとかキャッチ。女忍者たちの視線が犬のようにその四角を追い、そちらへと移った。


「しっちーじゃない!! ってこんなものわたしに渡してどうすんのよッ!! 栄子ッこんなイカれたサイコな田舎パークに連れて来た責任を取りなさァァァい!! おもいっきり投げるからノッコンするなァァァ」


 おもいっきり投げられたソレを──


 長身はたかくジャンプして受け左手に取った。ダイナミックに着地するや否や低いタックルを仕掛けて来た2、3の赤をぬるりと流水のように回避。ゴールである門を目指してまた走り出す。


「ふふ、ええ最高です! 田舎パーク!」

『ちがァァァう────』



 仲間たちがつないだパス【きみつぶんしょ】を持った栄子は急ぐ。背後を置いてけぼりにし立ち塞がり敷かれた赤のラインの間を、突破。


「は、はやい!」

「馬鹿ナ!?」

「タックルが当たらない!」

「はやいのにそよ風!?」

「気品……」



 ぶっち切り、目的の前へとたどり着いた。鍵を3つある鍵穴に1つ挿し込み──ガンガンと押して開けようとするが開かない門を──スタイルの良い長い脚でスタイリッシュに蹴破りパパッと抜けていった。




 ミドリに映える砂色の小道をゆく。


 抜けた先は小さな古い寺のようだ。



 その掃除されていない境内に入り、足を止めた。



 そろりとあらわれた。赤装束、妖しい赤黒髪。


「あららお客様ぁ♡ このままじゃ田舎くさい甲賀流女忍者の面子が丸潰れでしてね。黒歴史のフロッピーを持ち出されちゃ困るのよ。ちょっときつくいくけど恨まないでくださいねぇ!」


 そう言い切るや否やいきなり仕掛けた。挨拶がわりの三の手裏剣が栄子を襲う──すれすれで身を半身に捻りワイドに撒かれた三点の内の一つを半歩だけ動き回避。


「やはりあなたでしたか先程から私を狙っていたそのちいさな針のような殺気は」


「あらあらちいさいだなんて、お客様ぁちょっと背が高くて綺麗だからって甲賀流を舐めたらお仕置きですよ」


 なおもまだ仕掛ける──様々な技、様々な軌道の手裏剣が栄子を襲う。境内や寺の木や壁に突き刺していた手裏剣を補給しながら怒涛の連続手裏剣シューティング。


「遠路はるばる来た一般客相手にこのようなエンターテイんメント、甲賀流とはお馬鹿なのですか」


「ふつうに馬鹿にすんな♡ どこが一般客よばけもの♡」


 ありったけを投げた後に仕掛けたインファイト──苦無で襲いかかった赤黒髪の女忍者は、ギリリ、とターゲットの左手に挟まれ抜けなくなった苦無に驚きつつも、にやり。


 ポロリと足元には、本命の煙玉。導火線はじかんを数え──爆発。


 ぴんくのモヤが長身を呑み込み辺り一帯に広がっていく。



 強者に対して練っていたバトルプランは成功。手ごたえありの女忍者はマキビシを撒きつつぴんくに煙るエリアから抜け出し────


「甲賀流……自然由来のしびれ成分つきよ、うふふ害はないから♡ しらないけど♡ うふふふふクレームは甲賀流房中術をくぅししたえっちな拷問のあ」

「チンキス」

「ぶがっ!?」


「はしゃぎすぎですけど、ええ」


「どこにクレームを出すべきでしょうか? あのギラついたアツいおじ様忍者はなんという方でしたっけ──連絡先しっています?」


 石のように身体がうごかない……女の背後にいる長い影。つーっと尖ったナイフのようなものが背を撫で上げていく。


 忍べない未体験の恐怖に──おでこから生え際から流れ伝う汗は、すーーっと──顎先に溜まっていく。


「……えんたーていんめんとを希望……するわ」


「ええ、生のプロの手裏剣ワザはもう十分たのしめました。ふふ。ここをゴールしたあとにあるのはアマアスのような天国でしょうか?」


 べたつく赤い背中をゆっくりとナニかが掻いていく。


「うふふ……甲賀流ソースカツ丼971円」


「いいえ」


「甲賀流おしのびそば」


「お馬鹿な観光客ではないので」


「……(うな)&ステーキ重、白焼きセット【甲】」


「ええ、ふふ」


「うふふふ……」




 背の高い歳下の女性。背後から覆う影に、よしよしながながと赤黒髪をなでられた甲賀流の女忍者はただただ──わらう。

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