第121死 眠れない夜
自宅へと帰宅した栄子は疲れていたのか白いジャージを脱ぎ捨て、そのまま新しく購入したヴァリアブルフェザーベッドの上に寝転がった。
某有名スポーツ選手も愛用しているという、ソフトからハード、記憶している108つの形状、スパホの操作でその布団や枕の硬さを変えられるとか。
スパホを操作しパパッとがモットーの栄子は、おまかせモードにした。
遊び疲れた長くて細い彼女の身体をしずめてかためて、心地の良い眠りへと誘っていく。
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一般的な悪夢というものをしっていますか。なによりも大事な歯がぼろぼろと抜けてしまったり、壊れた街の中に取り残されたり、それを俯瞰している光景を見せられたり、何か正体の知れないものに追い回されたり。
たとえば虚空の中をただよいながら出会った仲間とともに月の欠片を集めるような、はじまりはそんな素敵な物語。荒々しい海や砂漠をこえて旅はまだまだ続きます。襲ってくる怪物を刻んでもそれが一体ナニなのかわからない。やがてひとりのこされた私は幻聴や仲間の死にかなしみ悩まされます、ですがやがてそれにも慣れて、それをおかしいとも思いません。私は何故それを集めていたのだろう、集めなければみんな幸せだったんじゃないかと。旅の途中の私はそんな風にも思いません。いつしか月の欠片よりも怪物を倒すために、また剣を握りどこかへとたどり着くために歩いていくのです、ボロボロになった身体で。涙さえ枯れているはずなのに────
────流れているのはまたこの夢か。
2時間ほどの浅い眠り。寝汗がべっしょりと服を張り付けている。
むくりと布団をのけ起き上がる、左の目尻をそっとぬぐい。
天から射す澄んだみずいろに目を向けた。
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「あなたは私といても何も感じないのですか」
「え、わたしは……べつに? 師匠みたいな意味ふ……甲賀流的な才能はないんで……まだ見習いだし」
栄子はそう言った彼女を無言で抱きよせている。紺色のふわもこを着た彼女を。なでなでとしたりその質感を味わい確かめながら。
「このふわもこパジャマはどこで?」
「え、さぁ? たしか滋賀の忍者合宿のときに買った……かな……どこだったかな……」
「私もほしいですふわもこ、良く寝れそう──」
背からぎゅっと。長い手に絡められて体温とおちついた鼓動が伝わってくる。
反面、甲賀流忍者見習いあやかの心はドキドキと高鳴っていく。
ドキドキが……やばい。なんで……こうなった? これって監視のうち? うごけないし……まぁ……悪く……ないけど。
「目がふたつ……これは何かのキャラですか」
「え、んー……なんか言ってたような、ダイダワラ、ダッチもっち? だむだむっち?」
「ふふ、かわいらしいです」
豆電球の明かりの下で、忍者を抱き枕にしながら、雑談をしながら、いつの間にか返す言葉が聞こえなくなり眠りについていた。