第116死 テンションスリー
黒い空間にライムグリーンの火花が荒々しく咲き乱れる。幾重もの金属音と乾いた衝撃音が混ざり響いていく。
テンションを2に上げたオーバー未惇と、接近戦を仕掛けて来たそのテンションを冷静に対処していく栄子。
「にゃははなんかグネッと重くなったァ? やっぱり隠してたね丘梨この天才おばみんちゃんに追いついてくるカァーー」
「私は天才ではありませんが、井の中の勘違いでは」
「にゃははは言うねぇでも勘違いじゃないよリアルでグリ下でドッツのトップ探索者で私って最強ううおおおお」
栄子はスキルチンキスの出力を上げてブラック包丁に纏わせている。栄子の斬撃が重くなったというよりは一瞬止めて刃をグイッと押し込む。どこかおかしな感覚を貰いながら戦うオーバー未惇を栄子が押し込む。オーバー未惇の荒々しい格闘術はチンキスのチカラを少し理解しアレンジした栄子に攻略されつつあった。
斬り結ぶ──
パワーでは負けていないはずが、おかしな感覚にペースを乱されてしまった。
このままではいずれ斬られる、崩れながら苦し紛れに繰り出したのか、両手を着き地からまっすぐ槍のようにななめうえ、伸びた健脚に。
対して踏み潰すようにキック。
黄色と黒のスニーカー底は合わさり押し退ける。
もう既にきつい一発もらい脚癖が悪いのは見越していた、おばみんの射程より寸前で身体は半歩下がり、すらりと長い白ジャージの脚は奇襲に対して準備反応攻撃が可能であった。
おばみんが両手を着き背を見せ器用に土手っ腹に刺した左脚も、反応され合わされれば体勢は大きく崩れる。
脚のチカラで勝った栄子はすぐさま吹き飛ばし寝転がったままの相手に追撃を仕掛けていく。疾る、長身。
だが、黒い包丁よりもさきに──
突然、左から横腹を殴られた。横からの殺気は感じられなかった、不意に鉄球でもぶつけられたようなまったく予期せぬ攻撃が栄子を吹き飛ばしていった。
親元を離れ自立浮遊した右腕はミントグリーン、栄子を殴りつけたのだ。
倒れてすぐ立ち直った栄子、痛めた左腹をさすりながら相手をよく見れば。
左腕にはあるが右腕にはハメていない。右のミントグリーンはおばみんの近くを浮遊しまた右腕へとハマり戻った。
おばみんはニヤリと笑いぼさっと視界をおおった前髪を整えた。触覚はライムグリーンからシバフグリーンへと色濃く変化。栄子とのバトルの最中にまたテンションを進化させ上げていたのであった。
「テンションスッリー!」
「にゃはは裏切ってごめんねオーバー未惇もただ殴る蹴るだけじゃないんだよこれが私の中の絶対的強さで鉄拳正義だよ丘梨! 止めろなんて言わないでよねにゃははは」
「ンン?」
「こんぺ!?」
「────」
足元からカラフルに爆発。足元に散らばっていた【SR】金平糖手榴弾は爆発した。ポーカーフェイスを保つことに失敗した栄子の置き土産。
丘梨を欺き殴り飛ばしたはずが演説中に予期せぬ爆炎ダメージを受けてしまったおばみんは慌てて、移動。
カラフルを裂き現れた途端に──
緑のレーザーがおばみんを襲った。
悪手を打ってしまったと気付いたが既に遅い。
光速のレーザーはおばみんを捉えて撃ち抜く──両手を前に間に合わせた防御体勢で迎え撃つ。
「うににィィ!! ちょとちょとじぶんだけカードなんてありなのおおおおにゃはははは」
収束した5本の指レーザーをおばみんオリジナルカラーの緑が防ぎ、絵の具は派手に飛び散っていく。
流れ続ける大出力のビームを片手で堪えて、右手を溜めた。
そして殴り放つ、視界に広がる栄子の色を打ち抜き、引き裂く右の拳。
爆発させた荒々しいおばみんの緑は彼方まで引き裂き。
明けた視界の先には巨大な右手、グリッドの粘土で作られた右手はひび割れ崩壊していく。
そして右手に丘梨栄枯。
殴った右手の大きなフォロースルーの最中に星色の瞳と紅い瞳が──
栄子、蹴る。
「たしかに、ただ殴る蹴るだけじゃ倒せそうもありません、ねッ!」
片脚は立ち折り畳み溜めた右は伸びた。鋭く長い脚が右腹に突き刺さった。
「──っぅーーーッもしかして城の仕返し!?」
「ええ、私は蹴られるより蹴る方が好きですチンキス!」
右腹に刺さっていた果物ナイフからチンキスを浴びせた。
「しまッ! うぎご!?」
痛みに鈍い身体の違和感に気づいたときには遅く、媒介にして発動したスキルチンキスは言いつけても止まらなかったオーバー未惇の動きを止めた。
鋭い蹴りのインパクトの一瞬に、スニーカーの裏から刃をにゅっと召喚し美少女の横腹にブッ刺していたのだ。
「んぎ! ふぎぎごぎィィごれちきィィ!!!!」
踏ん張り気合いを入れる美少女をクールなお姉さんはじっと眺めて抵抗する可愛い姿をハナで笑い──
長身は緑グリッドの地面に溶けていく、底なしの沼にゆっくりと飲み込まれていくように。
「ぎごごぐが、おっ!! チョええ!? 丘梨ィ!?」
抗い続けて数秒で強力なチンキスを解いたが、おばみんの視界にはもう丘梨栄枯は居なかった。溶けて消えていったのだ。
驚き困惑した、取り残された美少女に静寂がただただ流れて。
「おーいおっかなしィィ!! バトルしようぜぇえ? おばみんちゃんまだ全然ホンキじゃないのさねェェ! こんなにこんなに楽しいのに打ち切りエタりなんてエンターテイんメント失格だよおお? てかここどこなのさねぇ? 言っとくけど全然負けてないんだからねぇ、いや本当! 本当に楽しませて上げるからさぁこの天才おばみんちゃんがにゃはははは──おーい31!! ぬわえっ!?」
グリッドな地が盛り上がる。
隆起し次々と──
もごもご形作られていく人形、豚人間、狼に、どこかで見たことのある宙を浮くボックス。
おばみんの眼前周囲に広がるのは、モンスターの群れと認識するしかない。
照明の色味が変わったと──見上げる天にはマス目がドットの文字を成している、デスⅠとおおきく書かれたふざけたオレンジ色。
「ええええ丘梨栄枯黒幕説!? にゃはははは…………このおばみんちゃん舐めてんの? 丘梨ィィィィ」
両手をぎりりと握りしめて、元気に叫び動き出した。ピンと浮き立ついきり勃つシバフグリーンはピカピカと煌めき光り用意された敵を蹴散らしていく。