第115死 栄子VSオーバー未惇
黒い空間に緑の線がはしる。
未完成なゲームのようないたってシンプルなこのグリッド空間に──
黒い包丁を持ち突っ立つ栄子と、いきなり見知らぬ場所にワープした……キョロキョロと辺りを確認し訝しむ目で驚くオーバー未惇。
「うおっと!? な、ななななにここおお!?」
「知る必要もありません」
「ちょとちょと栄枯さん! 包丁なんてどっから!? 物騒じゃぁん」
「物騒はもうべらぼぅにはじまっているので、お客さんがいなければ物騒とは言いません、ええ!」
先に構えて仕掛けたのは栄子。状況の変化にたじろぐ目の前の少女に突っ込んでいき斬りつける。
長身女の鋭い斬撃を、バックステップ、素速い身のこなしで慌てて回避。
「ちょ、どうやって出したのぉおおそれぇ!!」
「子供には出来ませんので!」
素手対包丁。
わめく声を無視して構わず追撃。黒い包丁は少女を追いかけ連続で斬りつけようと、圧倒し12度目の剣線でついに捉えた。ガードした細腕を深く刻み。
「イッタァァァッ!!」
鋭い一閃のダメージを受けてノックバックした。
斬られた線は鮮明に、黒い傷跡のエフェクトが残ったままである。黒いパーカーの袖は不思議と破れていない、おばみんが心配そうにさする腕はくっついている。
「美少女おばみんちゃんの腕吹っ飛んだかと思ったあはははははここ死のダンジョン? 丘梨ん家?」
栄子の目に映る──笑いながら怯んだ様子はなく、むしろ楽しんでいる。
「どうしたら止まりますかあなたは」
「私を呼んでおいてナニ言ってんのさ丘梨。ちゃぷるぺ──ふぅふぅーーーーっ」
黒い傷跡をべろりと舐め上げ、ふぅふぅと息で冷ましていく。なんとも粗暴で動物的な。
「呼んだ?」
「おばみんちゃんはね知ってるんだよ乗り越えた者どうしはね、死の予感ってね、惹かれ合うってね! 丘梨が私を招待したってのさね」
「死の予感そのようなオカルト、あなたの気のせいでは?」
「こんなところに招待してぇ全開オカルト使って言ってもねぇええ、おりゃっ、そりゃっ、んんんんーー!! おっ!」
ぐーぱー、と、気張ったり拳を握りしめたり、感覚を試していた。そしてひらめき見つけた。
いつの間にやら両手はミントグリーンを纏い。細腕にぶかっとした料理用のミトンが装備されていた。
「にゃはははおばみんちゃん天才! 丘梨まだまだ帰らないからね」
「成人していましたか、なら犯罪者になる前に帰ってください」
「美少女(21)だからね栄子(31)! この若さだれも裁けないよおおおってねえええいやァァァ!」
両者加速した。伸びた右の拳と右の包丁の込めたイチゲキがかち合った。
【ヴァリアブルミントカラーミトン】緑のミトンはオーバー未惇の真の得意武器。
受け止めて弾き返したのは栄子。勝ったパワーでブラック包丁を振り払った。宙をくるりバック回転して着地、するや否や猫のような低い姿勢でスニーカーは地を蹴り再び。
「つよいねぇたのしいねええええ」
「ふふあなたは強いのですか」
「つよいに決まってんでしょ! グリ下の伝説のおばみんちゃんは!」
「なら斬ります」
「弱かったら斬らないの? あはははへんなのヘンだよ丘梨! てかもう既に斬ってるでしょうがァァァ」
「刻まないとなかなか帰っていただけないようなので!」
「丘梨栄枯! 私の方がこのセカイ先輩なんだからってね! ホンキ出さなきゃ死んじゃうかもよおおおお」
長身に纏わりつく高速の攻防、一進一退の攻防の最中突如。
火花を咲かせつづける黒とミントグリーンはぶつかり荒々しい緑が視界に流れ込んで来た。
メインウェポンごと弾かれ圧されたのは栄子の利き腕であった。
ぶつかったのはそれまでのただのパンチではない、荒々しい爆発効果付き威力の上がったミトンパンチ。
ミトン。料理用というよりはバトル用、威力だけではなくそのフォルムさえも五本指を通せるスリムでスタイリッシュなモノに変わっていた。
合わさった武器と武器のパワーで負け体勢が崩れた──その生じた隙を見逃すハズもなく、ねじ込まれた6の拳が長身女の腹を腕を──飛び散り彩るミントグリーンの閃光。
バケツからチカラ任せに浴びせたように絵の具が汚していく。
しゅーしゅーと白煙の上がる栄子の身体。白ジャージには緑に染み付いた殴りたくられた痕がある。
「テンショントゥー。おばみんちゃんはつよいよぉ丘梨! そのでっけぇキャンパス、おばみんちゃん作になっちゃうよぉ? にゃははは────」
黒髪に一筋光るミドリの触覚。アイスグリーンからライムグリーンへと鮮やかに変化し、その戦いのテンションを2へと上げた。
どこか乗り気じゃない丘梨栄枯を全身おばみん色に染め上げようという暴力、暴挙。要らない緑の痕を貰ってしまった栄子も戦いのテンションを上げていかなければ現代アートにされてしまう、油断の出来ないパワーとスピードを誇る相手に、栄子の後はないのか。