第105死 靴屋→DODO→電境技術開発部
靴屋から出て家壁に立てかけられていたキックダッシュ電磁ボードを借りた。
青年はハンドルを握りしめて──トバす──
「これ歩道車道空中どの道を走れば正解!? ……ま、いいやァァァ!!」
赤い細板に両脚をノセて、歩道を車道を人の家の石垣のウエを、ホバリング走行。
無免のキックダッシュ電磁ボードは見えない車輪を回して走り抜けていく。
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全てをすり抜け追い越して、DODOへとたどり着いた午後10時42分。
赤い板をその辺に立てかけた青年はメインである黒い大きな施設のそのまた囲いになっている、外殻壁の前へと立ち。
辺りに警備員はいない、だが監視カメラを通してAIによる監視は既にされている。
「まだ起きてるよね? だれかしら……おばみんさんも先に入ってるのかな? ……いこう……」
これから向かう大きな相手に見合う、大きな深呼吸をし明かりの方へと一歩、踏み出していった。
サッカー場跡地を改修再利用した入場口から受付AIによるチェックを何故かすんなり通ることに成功し、鉄色のゲートをくぐり招き入れられた青年はしばらく黒い建物に向かい硬いグレーの地を歩き続けて──
黒色の、ヤクトドローンに囲まれていた。
皿を重ねたような円いフォルムの下腹に装着した、銃口らしき突起がこちら青年に向いている。
「え……ヤクトドローン!? え、」
『歓迎だ、撃たないからついてきたまえ』
黒い皿に囲まれて向けられたスマートな銃口にしずかにハンズアップをした青年は、ヤクトドローンのスピーカーから聞こえる女性の声と誘導におそるおそる従い黒い施設の中へと入っていった。
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電境技術開発部。
一機のドローンに黒い大きな施設内を案内されてたどり着いたのは、そう古い商店街にありそうな小さな電光掲示板に書かれていた部屋であった。
カーキのミリタリージャケットは中に誘われて入っていく。
客のガイドを終えた羽の無いドローンは外付けの銃を外して黒い引き出しへと仕舞い、充電ユニットの中へと身体がすっぽりと収まっていった。
同じような円い穴ぼこが8つ空いている四角く大きな黒い箱がヤクトドローンの充電ユニットであり、自動メンテナンス機能、細かな武装パーツを引き出しに収納している様々な機能を併せ持つ、お得なセットのような物である。
しばしその賢いドローンの行動を感心して見届けた青年は、この広い機器だらけのメカメカしい部屋に居る1人の人物に目を向けた。
近づいて来るのはナゾの鉄の仮面を被っている、白衣。青年と同じぐらいの背丈の、おそらく女性。
青年は奇妙なそれを訝しみつつもここに案内されたということは、どういう事なのかを問いかけようとしたが。先にナゾの鉄の仮面が見えない口を開いた。
「驚かせて悪かったな、ヤクトドローンは初めてだろう? それも私が考案したハッピーなセットでね、かわいいだろう?」
聞こえてきたのはドローンのスピーカーから流れていた音声と同じ女性のものだった。加工をしているかは不明だが、落ち着いた大人な感じであった。
「えっと、はい……まだ心臓がバクバクです、これも……すすごいスマートですごいです」
「ははははそんなにうれしかったかサプライズした甲斐があったよ」
「いや……そういう」
「俺ってあのぉ、なんでここに……呼ばれたんすか? 何かの実験室……ヤクトドローン?」
「実験室ふふまぁお金持ちのご好意というやつだよ。ヤクトドローンもいいが……シミュレーションというものに私は無限の可能性を感じていてね」
「シミュレーションですか? スパコンのワールドシミュレーター的な?」
「それの延長上であり人の脳内のようにもっとパーソナルな規模でもある、そういうところに妄想が行き着いて考えてみたことはあるか?」
「ないっすけど…………あ夢で味わったことはあるかもしれないです」
「味わった?」
「短くてとても長い時間、みたいな?」
「なるほど、それこそ私とおなじ正解だ狩野くん。私も味わってみたいよその夢を」
「え」
背中に、黒い充電ユニットを撫でていた鉄の仮面は、おもむろにソレを脱ぎ脇に抱えて、青年へと向き直った。
「──久しぶり、大学はサボりか? ENのまりじ様だ。生徒ならもちろん覚えているよなホトプレくん」
溢れ重力に引かれた毛量が垂れ下がっていく。緑のセーターに白衣を着た金髪のロング、青い目をしている。
「先生!? え……なんで!? え……ええええええ────」
懐かし久しぶりの見覚えのある金髪の歳上の女性、そのサプライズ登場に、青年はおおきな口の大きな声で分かりやすいほどに驚いている。