第104死 それが新しい一歩
電気自動車ホワイトネモで向かった靴屋と呼ばれる場所、だが車体がたどり着いた先は靴屋のわりには店ではなくただの豪華な一軒家であった。
青年は少し不審に思いつつも、自分の今の着心地の良い服装をすこし確認。そして車を降り短くハナで笑った女に招かれるままに白くシンプルな屋敷の中へと入っていった。
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靴を脱ぎ上がった広い玄関にあるそれは靴棚。透明ショーケースに入っている何やら凡人には価値の分からない靴の数々。合計13足が丁寧に飾られていた。
女が青年に説明するには、これはいずれも思い出のメンズものらしい。丁寧に飾ってあるにしては少しだけ汚れていた。何かのスポーツ選手や有名人のものなのか、と青年は少し謎だが納得させた。
そしてその横には長方形の箱がずらり、色とりどりの箱が積まれ、それらはいずれもどこかで見たことのあるメーカー全く知らない洒落たブランドの新品の靴が入ったものである。
「メンズもファッションの一部よ、私のコレクションね。ま、靴なんて性別はないけどね」
「へぇーすごい……すね」
「何か飲み物を淹れてくるわ、そこで気に入ったものを選んでおきなさい」
「え、いいんですか?」
「もつものの、よ。いちいち聞き直さなくても貰えるチャンスに貰えばいいのよ、あんなぼろ靴を履いて街に出るなんて1000歩あるいても1歩にもならないわ、わかっていて? パラっと直感で決めておきなさいね靴ぐらいは合わせる微センスがあるでしょうに」
「えっと……じゃあいただきます! 直感でがんばります!」
くすりと一瞬笑った女は長い廊下からリビングの方へと歩いていった。
「直感……この色に合うのは…………茶色か! やっぱりあの焦げた茶色がないと落ち着かないなぁ……茶色茶色チャ──」
靴を箱から取り出して物色していく、探すは焦げた茶色。カーキ色では締まりがなく落ち着かない、探し求めていると──突然青年の意識が飛んだ。
『信じられないくらいのダセンスぱっぱらのぱーね。まったくすべてを殺す茶パーカーはあとで燃やしておくわね』
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ゆらめく光が差し込む藤色レースそのベッドの中で。
何も覚えていない、何が起こったというのだろうか。
乱れていた服装を正し、
藤色天幕のカーテンレースは開いていた。目覚めた青年は、部屋を出て廊下を渡り玄関へと向かった。
箱の上に置かれていたのは手紙。ではなく名刺。キュプロ、と書かれた名刺に紅いベニがついている。
同じく置かれていた自分の白いスパホを確認、送信前の編集中のメッセージが開かれたままであった。
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ドッツが嫌になったら来なさい。受かるともおもわないけど。
失敗したら私のオリにしてあげるわ。
若い男でも足元ぐらいは常に気をつけなさいね。
アト全てを殺す茶パーカーは燃やしたわ、ダセンスは脱ぎ捨ててパラっとアップデートに履き替えておきなさい。
どの道それが新しい一歩よ。ふふふふふふ
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靴とはこれの事なのだろう。
青年は箱を開けおそらくプレゼントされたのであろうブツを取り出した。
黄色い靴であった。スポーティーな。
「これを? ……栄枯さんのような色……これ履かないと……だよね?」
「なんだったんだろうあの人……はぁ……栄枯さんの親戚? ってなわけなくて……っだよね……おそらくこれ……」
天幕での出来事をぼやっと思い返していく────。短いため息を何度か吐いたが、
答えなど出るはずもなく青年は考えるのをやめた。そしてまたその女の好意を受け入れて、この場を出て行くことにした。
他にも干からびないように置いてあったスポーツドリンクを飲み干し、塩分と甘さが身体を潤していく。
空になったボトルを置き。
新品のイエローを装着して、新しくなった足元にすこし微笑んで──青年は靴屋を出て行った。