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第103死 セカイハイ→ハイサカイ→DODO

「って、肉食ってる場合じゃない!!」


 肉はもういらない、少し……高かった焼き肉デート代を男は手のひら認証決済で支払いドッツへと向かうためにパパッと店を出た。


 向かった24箇所あるポールエレベーターの空いていた一つに乗り込み降りて行く。


 駆け込み0S階へと。


 夜であり人は少ない、まだまだ発展途上でありこのサカイ通天ポールタワーが未来何年後かに完成する予定で推し進められているのが青年になんとなくこのポールの様子から伝わってきていた。


 ずーん、と青年を乗せた四角い静寂がおりさがっていく。


「悪と善どちらが好きですか」


 急に左斜め、背後から聞こえてきた落ち着いたトーンの声に茶パーカーの青年は振り向く。


「え、悪と善……?」


「はい、迷いが見えます」


 紫と金のフェイスベールは鼻と口元を隠している。黒髪と全身を覆う青いローブと合わせてミステリアスな雰囲気を成し、姿勢良く隅に両手を前に。


 占い師……か? たしかに3Sのマップには占い小屋があったよな。気にはなっていたけど鉢合わせた? 何か運がフツウより高まるのかな。……高い場所ほど。


 お金取られないよね?


 青年はそのすらっとしたシルエットの占い師と向かい合い。


「漠然として分からないけど……フィクションなら悪だれかの抱えている何かに、それに巻き込まれるのが善の役割なのかなぁって」


「フィクション?」


「そっちの方が単純で自由なんで……あ、だからおれって結局悩んだ末にさ! 善でも悪でもなく善と悪どっちも持ってたら最強なんてのを大学の共同研究で……あ! 何言ってんだろオレ!」


「なるほど。悩んで末にそのような答えをこの世界に導き出したのですね。──ではここには男と女2人がいますね。私は悪で善、あなたは善で悪、こういうのはいかがでしょうか」


「……あははそれって結局おな」


「あれ? いない?」


 顎に手をやり少し下を向いて、一瞬目を離したら、そこには誰もいなかった。


 ミステリアスな人物との出会いは密室のミステリーへと消えた。


 そんな幽霊とのたしかな会話を忘れるにはまだ早いが、エレベーターは止まり体に負荷をかんじなくなった青年は切り替えて。


 ドアが開くと見えてきた。


 ポールの下に広がる0S、戻ってこれた地表、ハイサカイ。用のなくなったエレベーターを速歩きで飛び出した青年は──


 とりあえず進み、やがて立ち止まった。そしてポッケから取り出したスパホで目的地であるDODOの場所を検索していく。


「──てドッツは、このポール下の煌びやかな街の中じゃないんだな……おばみんさんは……俺にあの景色をわざわざ見せてくれたのか。あの死のダンジョンからすごい……経験ばかりだな」


 青年は茶パーカーで風をきりスパホを片手に街を歩いていく。紫や黄の並ぶ店々の看板ネオン光が我先へとうっとうしいぐらいに煌びやかである。


「こんなに大阪がうるさく発展するなんて、日本だよねここ?」


 AIによるガイドを頼りに、とりあえず待機しているらしいタクシー乗り場まで道のりを進んでいくと──


 急に。


 茶パーカーの袖をぐっと掴まれた。



「ん、あなたここは初めてね?」


「え!? あぁそすけど何か?」


 道路のない広い街道ですれ違った背の高い女性にぐっと掴まれて立ち止まってしまった。突然の通行人に引き止め話しかけられてしまい、青年は驚きつつも反射的に答えた。


「田舎臭さが滲み出てるじゃない」


「い、いな……いや俺コー」


「とにかくセンスがないわよ」


「えぇ……センスっていってもこれただのぉ……パーカースタイルってやつでこれ以上はどうしようも?」


 茶パーカー、ジッパーは1番上まで首下まであげている。何の変哲もない青のジーパンを履けば、それが青年のパーカースタイル。


 対して白と紺のストライプシャツ、星空のような柄ロングスカート。青毛の少し混じった長い黒髪に和風なヘアバンダナの帯を巻きヘアアレンジ、とにかくエレガントかつ目立っている。


 そんな青年と比べてゴテゴテとした長身の女は、一瞬で足元から全てを見て、再度右の袖をぐっとつかんだ。


「そんなスタイルないわよどうしようもないぱっぱらくんね、行くわよ」


「えちょ!?」


「このギラギラうるさいハイサカイに憧れて来たんでしょうに、その格好じゃ背中に指刺されてゴミじゃないのさ」


「ちょ用事なんで今からちょっとドッツに!」


「……ドッツ? なぁぜ?」


「えと……職員になりたくて!」


「はぁ、そんなアポなしのへろへろでなりたくてなれるもんじゃないわよ、あなた死のダンジョンの経験は」


「一度だけ……」


「それでも生きてるなら大したもんね、いいわ案内したげる、だからどの道来なさい」


「えとじゃあ……おねがいします!」


 なんとも強引であり押しが強く自信に満ち溢れている。そんな人物の好意を断るのは、きっとおそろしい。そう思った青年はついそう言ってしまったのだ。




▼▼▼

▽▽▽




 合意のもとに、袖を引っ張る手は離され青年は見知らぬ女についていった。女の止めていた白い電気自動車の元へと。


「なにかないの」


「え?」


「これホワイトネモ、エストの電気自動車の中でも世界で500台しか作られていないのよ」


「な、なんか……すごいですね。俺って無免許で詳しくないんで言われなければ分かりませんでしたすみません!」


「若くても男ならそれとなく気付くものよ、まぁ素直なのはいいことね。さぁ、パラっとドライブよ」


 乗り込んだホワイトネモは青年の目的地であるドッツへ向けて発車する。




▼▼▼

▽▽▽




 そのまえに寄り道をしていた、させられていた。


「いいんですかこんな服?」


「もつものの責任当然よ、そんなダセンスで歩いていると心までずんとダセンスになるわ、気をつけなさい」


 車の前に立つ2人。


 女は青年の服装を強制アップデート。より良いものへと、とにかくダサい茶パーカーはカーキ色のミリタリー風ジャケットへと、中は質の良いシンプルな白いシャツ、青いジーンズは単純に高価なものへとグレードアップ。


 ファッションのことは分からない青年であったが、一新された男らしいスタイルを気に入り、笑顔で女に感謝の意を述べた。


「ありがとうございました!」


「何を言ってるの、靴がまだでしょうに」


 青年は視線を下に、足元の青い靴は汚れている。余裕の笑みを見せる歳上の女は徹底的に、ハイサカイに見合うハイセンスに強制アップデートするつもりだ。

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