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第102死 尼崎アスレチックパーク→

 尼崎アスレチックパークJIGOKU(夜)、栄子たちは赤く光る地獄の門をくぐり遊びに来ていた。


 昼の顔とは違い夜は27歳以上の大人たち限定の遊び場となっている。批判されかねない変わった試みに実験的に取り組んでいる尼崎アスレチックパーク。AIと経営陣による長年の客層データ分析によりまだまだ肉体的に元気でありかつ足を運びづらい30、40代の男女をターゲットにし一般開放、その効果の程を試している。


 そしてはじまった、べらぼぅなJIGOKUステージが──




❶地獄の雲梯→


「雲梯なんていつぶりでしょうかふふ」


『すべてはここから……あのときの甲賀流の試験、得意』


「手汗注意でしょうか」


『湿っているぐらいがグリップ……!』




❷地獄脱出のトランポリン→


「金ポデさんみたいに、練習しておく価値はありますね盗賊ですし」


『大丈夫……わたしも忍者ならッ』


「思ったより跳ねますよ」


『うわっ!?』




❸地獄のミュージカルダンス→


「安心しろぼっちのニンゲン、かっこいいレンガ壁に投影された地獄のヒカリの餓鬼共が一緒におどってくれるよ! ですか……」


「何事も挑戦、なのでしょうか? もしかして私……暇なだけでは?」


『はず……かしさの克服! しのぶ! いやしのばない!? どっち……!』


「ええ、きっとしのぶ必要はありません! (にん)、ココロのヤイバは!」


『忍、ココロのヤイバ……しのばずに忍者ガだんす!? あ、これっ! 甲賀流ッ──』




▼▼▼

▽▽▽




❹地獄の隠れんぼエリア→




『十回も殺しておいて覚えてないとはひどいぜ!』


「何のことでしょうか? それにしては鋭いようですが寝ている間に枕にマッドな改造でも施されたのですか」


『はははは、やっぱり本物は違うな』


 闇の中、緑と赤はぶつかり合う。栄子に向けられた赤い殺気は鋭く鮮明。緑のレーザーはその企みを射抜き、また気配をピタリと消しているが、彼女は狙われているものと仮定し分かっている。


「このようなしつこいやり取りの意味はなんでしょうか、ええ!」


『素人オンナに負けっぱなしは性に合わねぇ、俺は戦闘のプロだ。お前と戦う為に先に生まれてやったんだからな』


「やはりアレは男のプライドでしたか、あまりにしつこいのでそうではないかと思いました、ふふ」


『はははは悪いな、昔っから男ってのは負けて惚れたオンナに格好付けたいんだからよ』


 地獄の隠れんぼエリア、大自然とゲームの融合したエリアは1人で来てもヌルくない隠れんぼを楽しめる。もう既にリアルを大木を地を走る赤、青、緑、黄のヒカリである鬼AIに見つかり栄子は捕まっていたが、隠れ続ける別の……厄介な鬼の視線に襲われて暗闇の中ゲームは続いていた。


 両者の殺気と殺気は幾度も素速い展開が起こりぶつかり合う。


 互いの攻撃のイメージをぶつけ合い、相殺回避または栄子が何者かの身体を緑に貫き上回る。見知らぬ男に殺すと挨拶されれば彼女はそれをパパッと殺しに行き応えていく。


「お馬鹿ですね、ただただ」


『馬鹿なのはお前だ丘梨栄枯、いつその棒立ちの正気を狂わせて仕掛けてくる』


「私はあなたを知りません、知らない人を顔も見せずに攻撃してはいけませんので、本当にしつこいので相手をしてあげているだけですが」


『じゃあ』


「相手になってくれやァァ丘梨栄枯」


 暗闇になじませ光らせる黒い刃、それよりも前にぶつかった視線で斬られていた。


 ブラック包丁と忍者ブレードがかち合った。高速で忍びはしり近くなった、顔合わせの、鍔合わせ。


 受け止めた鍔はない黒い包丁と斬り込んだソレよりも長い忍の刀が火花を散らしながら滑り合わさっている。


 ずり下がった黄色いスポーツシューズで踏ん張りを効かせた、白ジャージの長身女は確かに斬りかかってきた黒装束の男の真意を見極める。


「ダンジョンではありませんが!」


「ハハハハ、ダンジョンじゃないのにナイフを抜くのか! どっから出しやがった!」


「あなたが殺しに来たら私は死にますので!」


「そうかいそうかいあの感覚を喰ってバケモノに届くぐらいにはなったか。じゃあその前に殺せよ? お前のせいでまた俺は強くなったぜ丘梨ィィィ! 馬鹿か丘梨栄枯ぉ?」


「ええ、あなたが勝手に強くなり私は邪魔なあなたに応えただけです! 馬鹿もクソもない!」


 鍔迫り問答は三度刀身を斬りつけて、彼方へと飛んでいき終わった。


 ジャブのように速いキツイ三発を一瞬に貰った忍者は土煙を巻き上げながらどこかへと失せ──


「もう帰ってくれますね、顔はなかなかイケてますがべらぼぅに鬱陶しいのでサインだけポストに入れておいてください」


「ははは50にもなって顔を褒められたのははじめてだぜ。サイン考えている間にもっと見てけよ、そしてもっと見せれるだろ?」


「しつこいあなたに見せれば何かが解決するというのでしょうか、これでも」



 男の視線は、微笑まない栄枯の黒い眼から──


 彼女の後ろにいた、女忍者あやかへと。


 甲賀流忍者トシはぎょっとした表情で、変わらず苦い顔のまま見つめ返す愛弟子を見つめた。


 冷たく吹き抜けた予感がさっと肝を冷やしていく。


「おいおいお前は、死神か?」


「ええ、ただの舞台役者ですが。盗賊と忍者はべらぼぅに……似ていますよね? 石川五右衛門とか」


 すっとぼけるようなノーマルからやがて微笑んだ栄子に、冷静を完璧によそおい真剣に苦笑うトシ。男はながい息を吐くこともなく、そのまま飲み込み。


「帰るぞあやか」


「え?」


「可愛い弟子を守るのは師匠としてのつとめだ」


「ひとつ、丘梨栄枯。お前は忍者にはなれない、一般人にもなれやしない残念だったな! 殺せなくてもその調子で腕を磨いておけ弱ければ今を後悔することになる、強くてもな! だが強い方がいい! 俺が50年そうだったようにな。こいつは経験則だが……ニンゲンってのは中途半端が一番弱い。はははは、また殺しに来るぜ」


「え、かえる……じゃじゃあまた……」


 忍者は栄子の横を通り過ぎていき、女忍者は数秒の手を振り闇の外へと帰っていった。


 手を振りかえし見送った栄子。ぐしゃりと内側が張り付く程汗ばんでいた、白ジャージ。


「……50のツンデレほど珍しいものはありませんね、ふふふふ」


 用済みになったブラックな包丁は光の粒のようになり右手のひらから消え去っていった。

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