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遭遇

「おえぇぇえ」

「綾音、大丈夫?」


 千佳が私の背中を撫でてくれる。いきなり見苦しい場面からで、申し訳ありません。さっきの果実が腐っていたのか、他に原因があるのか、とりあえずさっき食べた果実をすべて吐いた気がする。胃の中が空になった感覚がある。


「ふぅ、やっと落ち着いた……」

「水、飲む?」

「ううん、いい……」


 落ち着いたところで、なぜ吐いたのか考える。今思うと、気持ち悪いというよりも、胃から先に食べ物が行かなかった結果、戻すしかなかったという様な気がする。マジで自分の体がおかしい。さっきもお腹が空いたから食べたというより、どんなものか気になったから口に入れただけなんだし、食べられないものを食べたからこうなったのだろう。だから多分、水をもらっても飲めないと思う。


「本当にいいの?」

「ありがとう、もう大丈夫だから」


 自分の吐いた物を見ても、胃液は混じっていない。果実と果汁だけで、私が吐いたと知らなければ、単に果物を潰しただけに見えるかもしれないと言えるほどには吐しゃ物に見えない。


「私は大丈夫っぽいんだけど……」

「私の体がおかしいだけみたい。全部吐いたと思うけど、喉も乾かないしお腹も空かないよ」

「それならよかった……のかな? あっ、ちょっと行ってくる」


 千佳はそう言って、そそくさと木の陰に向かう。あえてどこ行くの? とは聞かない、恐らくトイレだから。さっきの果物、結構水分が多かったからね。それともまさか、私が吐いたからつられたのかな? それなら、悪い事をしちゃったかな。それはそうと、冒険者とかってトイレはどうしているんだろうね? ゲームなら外ではトイレも食事もしないから、全く関係がないのに、現実では必ずつきまとう問題だと思う。どこかで、簡易トイレでも手に入らないかな?


「おまたせ」

「おかえり」


 私はそれだけ言うと、何をしてきたのかは聞かない。どうしたのかは聞いてみたかったけれど、言うべきじゃ無い事は分かっているので……。改めて、さらに西に向かって歩く。高い崖が無くなってきたので、少し南の方へ方向を変えた。すると、森のように背の高い木が多くなってきた。そして、木の奥から、さっき会ったアブラムシの蟲人と同じ見た目の蟲人が出てきた。私は、きっとさっきの人の仲間か家族だと思い、気軽に話しかける。


「あなたも村へ向かっているんですか? 良ければ地図を見せますよ」


 私はそう話しかけたが、そのアブラムシは蟲人ではなく、ただの虫だったようで、急に襲ってきた。アブラムシが口から水玉の様なものを吐き出す。さっきの蟲人と同じく、そんなに早くない速度だったので、私でもなんとか回避できる。


「綾音、下がって!」


 千佳がアブラムシの前に出ると、口から複数個の水玉を発射してきた。だけど、千佳は体が虫に近くなったからなのか、人間の頃よりも動きが軽くなっていて、簡単に水玉を回避する。水玉は木の幹にぶつかると、15cmくらいの木がメキメキと折れる。さっきの蟲人は、手加減して攻撃していたのだろう。絶対にこんな威力じゃ無かった。


「言葉も通じないみたいだし、やっちゃって!」

「分かった! 空輪くうりん


 千佳は、ハクの家でやった方の技を使う。胸の前に集めた空気を薄く延ばして回転させ、弾くようにアブラムシに飛ばす。とっさにアブラムシは回避しようとしたけれど、完全には回避できずに体の一部を切り裂かれ、水の様な体液をまき散らしながら、のたうち回る。しばらくして、完全に動かなくなった。そして、すぐに乾燥するように縮み、抜け殻の様なものになった。


「……千佳、行こう」

「……うん」


 恐らく、ただの虫だったと思うんだけど、気分はよくない。私達は、少し速足でこの場所を離れた。

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