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島国探索

 私と千佳は、ハクが作ってくれたシチューの様なものを食べ、しばらくすると睡魔が襲ってきた。たぶん、緊張の糸が切れたんだと思う。この世界に来てから、気が休まる時なんて無かったから。だけど、まだ眠りに落ちるわけにはいかない。お世話になりっぱなしで先に寝るなんて、ハクに悪い気がする。


「片付けとか、私がやらないといけないのに。ハクごめん、すごく眠い……」


 家にいるときは、私が片付け役だった。母親が料理を作ってくれるんだから、片づけはお願いねって言うのが口癖だった。うぅ、そんなこと思い出してたら会いたくなってきちゃった。


「いろいろあって、体力も精神も削られてるんだからしょうがないよ。ベッドは一つしかないけど、二人で使っていいよ」


 ハクのベッドは、大きさで言えばシングルタイプの大きさしかない。つまり、私たち2人が横になって寝るスペースは、満足には無い。行儀よく寝る分には、なんとか寝れそうだけど。


「ベッドは綾音が使って。私は、床に何か敷いて寝るから」

「そんな、悪いよ。千佳だって大変な目に遭ったのは同じなのに」

「それに、なんか背中に違和感があって、上を向いて寝られそうにないし」


 千佳がそう言ってすぐに、制服の上を脱いで床に敷く。すると、制服の下に着ていた長袖シャツが、盛り上がっているのに気が付いた。千佳は、違和感を取り除くためなのか、そのシャツも脱いで下着一枚になる。露わになったその背中には、小さいながらもトンボの様な、透明な小さな羽が生えていた。


「ちょっと、背中をつけて寝れなさそうだから、うつぶせで寝ることにするよ」

「わかった。ありがとう。それで、ハクはどうするの?」

「私? 私は、実は夜行性なんだよね。と言うか、睡眠時間が短くて済むというか。3時間も寝れば十分だから、今日ぐらい起きてても大丈夫だよ」

「ごめん、じゃあ、ありがたくベッドを借りるね」


 私は、もはや遠慮する気力もなく、ベッドに寝転がるとすぐに寝入ってしまった。



 知らない天井だ……というお約束のセリフを心の中だけにとどめ、起き上がる。千佳はまだ眠っているようだが、目が複眼になったせいか、目を開けて寝ている。ちょっと怖い。


「おはよう。幸い、あなたたちが寝ている間には、何も起きなかったよ」


 ハクは、何かを作りつつこちらに声を掛ける。ガスも電気も無いこの村でどうやって炊事を? と思ったら、ハクは普通に手から火を出して焼いていた。火が使えるのは便利そう……。


「そろそろできるけど、食べる?」

「いつもなら、起きたらお腹がペコペコなんだけど、今は何故か、全くお腹が空いてないみたい」

「そう。じゃあ、千佳ちゃんは食べるかな?」

「おはようございます。私は、お腹が空いたので、いただいていいですか?」


 千佳がスッと床から起き上がる。ずっと目を開けたままだったから、起きてるのか寝てるのか分かりにくい。そして、気のせいか、寝る前よりも羽が大きくなっている気がする。


「コレがおいしいんだ。冷めないうちにどうぞ召し上がれ」


 そう言って千佳の前に出てきたのは、ウィンナーだった。いかにも自家製ですっていうような、着色の無い青白いウィンナーだった。それを千佳は、パクリと美味しそうに食べる。それを見て、ハクもポリッとウィンナーを一つかじる。白米もパンも無いようで、食生活は、ほぼ肉だけっぽい。そういえば、昨日のシチューも肉だけだった気がする。


「ハクは、野菜を食べないの?」

「食べない事は無いけど、手に入れるのが難しいんだ。誰も野菜なんて作ってないからね」

「そうなんだ。野菜を食べたい人はどうしてるの?」

「野菜の代わりに、適当にその辺の葉っぱを食べてるよ。地球みたいな野菜は、全くないからね」


 雑談しつつ、2人がご飯を食べ終えるのを待つ。私の体が、本格的におかしい気がしてきた。お腹がすかないどころか、水分も欲しくないし、食べてないからトイレにも行かなくていい感じだ。千佳は、見た目がさらに虫に近づいた割に、普通に食事をとるしトイレにも入る。家の中にトイレがあるところを見ると、ハクもトイレはするのだろうか。まあ、ご飯を食べてるから、多分トイレくらいするよね。


「それで、あなたたちは、これからどうする予定? 特に決まっていないなら、手伝ってほしい事があるんだけど」

「特に決まってないよ。というか、どうするべきか何も分からないんだけど」

「そうね。じゃあ、それを知るためにも、この島を調べてみる気はない? 昨日話した通り、今この島は虫に侵略されつつある。でも、虫の王さえ殺せれば、これ以上、数自体は増えないはずだ。だから、虫の王を探すのを手伝ってほしい」

「そんなの……危険なんじゃないの?」

「当然そうだよ。でも、この村にずっととどまってても、大して変わらなくなる時が必ず来る。虫が増えすぎれば、ここも無視されなくなると思うからね。今はまだ、何とか均衡を保っている感じだよ。そうそう、調査ついでに、蟲人を見かけたらこの村に誘ってほしいって言うのもある。場所は、この地図を見せれば分かるよ」


 そう言ってハクが渡してくれたのは、タグの様なものに彫られている地図だった。それを見ると、この島の地図の丁度中心あたりにこの村があるみたいだ。


「見ての通り、この場所は、ほぼ島の中心にある。だから、東西南北のどこからでも調査してくれていいよ。ああ、北は最後の方がいいかな、そっちは人間の国があるから」

「分かりました。とりあえず、この環境に慣れるために、近くの森から調べてみます」

「それがいいと思うよ。とりあえず、準備が出来たら声をかけてね。そうそう、1日に1回、配給があるから、食料はそこで受け取って。場所は、私の家の裏手の家。君たちにも渡すように伝えてあるから。あと、調査に向かうときは、まとまった食料が要るだろうから、その時は多めに渡すように言っておくよ」

「ありがとうございます。それじゃあ、配給を受け取りに行ってくるね」

「いってらっしゃい」


 私達は、ハクにお礼を言うと、配給の場所へ行く。といっても、ハクの家のすぐ後ろの家なので移動時間は無いに等しいが。配給をしていたのは、アリっぽい蟲人だった。近づくと、無言で一人につき肉を3つくれる。私は相変わらず食欲は無いけれど、あとでお腹が減っても困るので受け取っておく。受け取った肉は、まるで人間の太ももを焼いたような大きな肉だった。……うん、何を焼いたのかは聞かないでおこう。


「あ、ありがとう……ございます」


 肉を受け取り、ハクからもらった袋に入れる。私には、この肉を加工する知識も、保存する知識も無いから、そのまま入れるしかない。日本であれば、せめてラップで包むんだけど、ここにはそんなものはないし。


 

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