敦美
私は今、洞窟の中に閉じ込められている。そして、私の目の前には、しゃべる蜂としゃべるダンゴムシが居る。
「いい拾いもんしたな」
「全くだ。森の中を一人で走ってるなんて、不用心だったよなぁ、おい」
私は、大きなトンボが窓を割って部屋に入ってきたときに、真っ先に逃げた。建物の中は私が居た部屋以外は無人で、誰かを呼ぶこともできなかった。クラスメイトの中には、仲の良かった子も居たけれど、その時は自分が逃げる事で精いっぱいで、とりあえず建物の外へと飛び出した。
見慣れない風景で一瞬戸惑ったけれど、恐怖にかられていたので、できるだけ目立たないように建物から離れようと思い、木々の中に向かって走っていった。私は、建物が見えなくなるまで走り、体力も限界に近かったので、木に寄り掛かって休憩した。その時、新たな羽音が聞こえた。
すでに体力も尽き、せめて声を殺して隠れようと、木の陰に隠れたけれど無駄だった。あっさりと大きな蜂に見つかり、すぐに毒針で刺され、体がマヒし、声すらも出せなくなった。意識はあるけど、ピクピクと地面に倒れて痙攣している私を、ダンゴムシが抱えるようにして持ち上げた。
そして、長い時間移動し、ついた場所は崖の前で、今度は蜂に空中に持ち上げられ、崖に開いた穴まで運ばれた。この高さでは、マヒが解けても逃げ出すことは出来ないだろう。ロッククライミングの経験でもあれば別だろうけど、私にはそんなスキルは無かった。
「私をどうするつもり!」
「威勢がいいな、俺はそういう性格の方が好きだぜ」
蜂に好かれてもしょうがない。ただ、会話が通じるだけで、会ったことは無いけど、野生の熊とかライオンなんかよりは、すぐに食われないだけマシかもしれない。
「お前、名前はなんて言うんだ、おい」
「北村敦美……です」
ダンゴムシに名前を聞かれ、とっさに答えてしまった。思ったよりも、蜂とダンゴムシが怖く感じないからかもしれない。言葉が通じると知らない時は、すぐに殺されるかもしれないという恐怖でいっぱいだったけれど。
「ほうほう、敦美ちゃんね、これからよろしくな」
「それで、どっちの子を産みたいんだ? おい」
「え? 子……ですか? え?」
私は、虫の子供なんて産みたくない。そして、この言葉が冗談かどうか判断が付かずに、愛想笑いでごまかす。
「そうだ。どっちも嫌だ、は通じないぞ? おい」
すると、さっきまでの軽い雰囲気が一気に変わり、まるでカツアゲする不良の様な雰囲気になった。私はとっさに、この洞窟の様な場所から明るい方向へ走る。
「元気がいいな、でも逃がすわけにゃいかんな」
しかし、蜂が飛ぶ速度の方が私の逃げ足よりも速く、あっさりと追いつかれる。私の背中に覆いかぶさった蜂は、またさっきのマヒする毒を背中に注入してきた。
「あっ、ぐっ、なっ、んでっ?」
最初にマヒした時と違い、口が動かせるし、全身もまったく動かせないほどではない。それに、刺された場所がズキズキと痛む。さっきは痛みなんて無かったのに。これは、長時間正座して痺れた足のような、中途半端なマヒだった。
「毒は弱めに打っておいたぞ。これで、逃げられるほど体は動かせないが、痛みは感じるし、話すことも一応できるだろ」
「それはいい。痛みが無けりゃ、恐怖も半減するだろうからな、おい」
「なっ、にをっ、するっんっ」
私が、マヒした口で一生懸命に話している最中にも関わらず、ダンゴムシが近づいてきて、私の制服の上着を破いた。
「きっ、やぁ」
叫びたいのに、口がうまく動かないせいで声が出ない。体もうまく動かないせいで、ダンゴムシは手を止めることなく私の服を脱がしていく。
「結構な巨乳だな、おい」
「俺は、あんまり巨乳が好きじゃないから、お前に先を譲ってやるよ」
そう言って蜂は少し離れて行ったが、ダンゴムシは逆に私に密着するほど近づく。感覚が鈍くなったとはいえ、触角が体を触っているのは気持ち悪いし、くすぐったい。
「女は恐怖を感じると、従順になるからな、おい」
そう言うと、急に私の左手を、尖った口で噛みついてきた。
「い、いたっ、い」
しかし、毒のせいなのか、傷口の割には、血がほとんど出ない。私は、なんとか押しのけようと、動きの鈍い手足でダンゴムシを攻撃する。
「この程度じゃダメか。じゃあ、次は足でも折るか、おい」
ダンゴムシは、地面から2mくらいの高さに、1mくらいの岩を作り出すと、座り込んでいる私の足に、そのまま落とした。
「ひぎゃっ! あああぁあぁぁぁ!」
その痛みは、さっき噛まれた手どころの痛さではなく、グシャリと潰れた足はひどく痛む。あまりの痛みに耐えられず、私の股間が濡れる。
「こいつ、漏らしやがったぞ、おい」
「やりすぎだっつーの。死んだら死んだで、死肉に産み付ける事もできるが、生きてた方が再利用できるからな。ほら、口を開けろ」
蜂は私に命令するが、痛みで叫んでいるのでそれどころではなく、口は元から勝手に開いている。蜂は両手で私の頭を上に向けて固定すると、唾液を垂らしてくる。私はそんなもの飲み込みたくなかったが、飲み込まないと離してくれなさそうなので、仕方なく飲み込んでしまった。すると、傷口が熱くなり、あれだけグシャグシャだった足と、噛まれた手が治る。マヒは治っていないけど。
「な、おっ、た?」
「こう見えて、俺は支援系なんだよ。これ以上痛めつけるのも逆効果っぽいし、さっさと産み付けろよ」
「ちっ、仕方ないな、おい」
ダンゴムシは、私をうつぶせにひっくり返すと、残っていた私の下着を引きちぎった。
「ひっ、なに、をっす、るのっ?」
「さっきの話を聞いてなかったのか? おい。俺の卵を産み付けるんだよ」
その話し方からして、オスなのに? とか言う前に、ダンゴムシが背中にのしかかってくる。肺が潰れてうまく呼吸が出来ない。そして、私のお尻に何かが入り込もうとしてくる。
「いっ、やっ!」
「大人しくしろ、おい」
私は動かせる範囲で、手足をバタバタと動かして抵抗したが、お構いなくお尻に異物が入り込んできた。
「あ、あっ」
そして、丸い何かが入り込んでくる。さっきの話の通りなら、これがダンゴムシの卵なのだろう。
「体の中身が少し食われるけど、死ぬ前に俺が回復してやるし、痛みは和らげてやるから、生まれるまでがんばれ、なっ?」
「ひぐぅぅっ。いやあぁぁ!」
私は、涙が溢れてきた。私が何をしたって言うのよ! 他の人より、少しだけ早く逃げただけなのに!
マヒと肺に空気が入り込ま無いため、大声で叫ぶことができない。代わりに心の中で思いっきり叫ぶ。お尻から、段々とお腹の方に動く何かを感じる。それから痛みを感じたのは、直ぐだった。