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識別の門

「よし、皆の者集まれ、これより帰還する!」


女性騎士が、周りの騎士に号令をかける。ゾロゾロと騎士たちが集まる中、未希が女性に対して発言する。


「まだ敦美が見つかっていません! きっと、どこかに隠れているんだと思います。もう少し、探してもらえませんか?」


 未希の言葉に、女性騎士は少し考えた後、最低限の護衛を残して捜索してくれる事になった。しかし、それでも敦美が建物内で見つかることは無かった。


「これ以上時間をかけるわけには行かない。もうそろそろ時空が乱れ始める頃だぞ」


 女性騎士がそう言っているうちに、建物がジジジッとノイズが走ったようにブレる。そんな現実味の無い出来事も、女性騎士にとってはこれが初めてという訳でもなさそうだ。私達があっけにとられている間に、建物はジジジジジッとノイズがひどくなって消えた。


「え……建物内に居たら、もしかして元の場所に帰れた?」


 未希がポツリとこぼした言葉に、近くに居たクラスメイトの何人かが反応した。


「まさか、俺達を帰さないためにここに集められたのか!?」

「いやっ! 元の場所に帰して!」


 もしかしたら帰る事が出来たかもしれないという希望が消えたことで、クラスメイト全員に動揺が広がり、騒がしくなった。


「静まれ!」


 女性騎士は、鞘に入ったままの剣で地面をドスンと叩く。その際、殺気と呼べるようなものが周囲を威圧した。


「言い忘れていた。私は、プロシェンという国の副騎士団長を任されている、ニーナ・フリッチュと言う者だ。この件については、全て私が指揮をとる事になっている。今、あの建物に残った場合、帰れたのではないか? と発言があったが、それはあり得ない。なぜなら、あれはもともと存在しないモノだからだ。たまたま、お前たちが居た世界の建物を模倣して存在しただけの、エネルギーの固まりに過ぎん。消滅した建物内に居た場合、建物と一緒に消滅するだけだ」

「そんな……」


 建物内に居たとしても帰れないということは、仮に私たちが来たときの様な場面に遭遇しても、その時一緒に帰ると言うのも不可能だという事だ。私たちには情報が全然足りない、ここは大人しくニーナさんの指示に従うべきだと思う。


「皆、とりあえず落ち着こうよ。騒がしくしていると、またさっきの化物が襲ってくるかもしれないし。今なら、騎士団の皆さんと一緒だから安全だと思うよ」


 クラスの中では比較的信頼されている篠原しのはら君が皆をまとめる発言をする。また化物に襲われるかもしれないと聞いて、クラスメイトは静かになる。口を押さえる者、辺りを見回す者、騎士の近くによる者など様々だ。落ち着いたのを見計らって、ニーナさんが再び発言した。


「それでは、これより転移を行う。この転移石は、半径10m以内の生物を、マーキングした場所に瞬間移動させる物だ。効果が効果だけに、使用に注意が必要なうえ、再使用には多大な労力がかかるため、できれば1度の使用で帰還したい。私を中心に、全員集まってくれないか?」


 ニーナさんの周りにクラスメイトが集まり、さらに範囲をきちんと10m以内に入れようと、慣れた動きで他の騎士団員が円を縮める。クラスメイトと騎士団員で、円の中はギュウギュウ詰めだ。それでも、ここに置いて行かれるわけにはいかないと、誰も文句を言う人は居なかった。


「では、行くぞ。転移石、発動」


 ニーナさんは掛け声とともに転移石を頭上に掲げると、私達は光に包まれた。光が治まり、つぶっていた目を開けると、床に魔方陣が描かれた部屋だった。その大きさは、教室より少し狭いくらいだろうか。そして、魔法陣の周りには、護衛なのか騎士が立っていた。


「お疲れ様です!」


 待機していた騎士団員らしき男性が、ニーナさんに敬礼しながら声を掛ける。


「うむ、お前たちこそご苦労。全員ではないが、目的の転移者たちを連れ帰ることに成功した。これより識別の門をくぐらせる。用意しておけ」


「はっ!」


 騎士は再び敬礼をすると、どこかへ走り去っていった。ニーナさんの話の内容から推測すると、おそらく識別の門という場所へ向かったのだと思う。何を識別するんだろう……?

 クラスの皆も、ヒソヒソと会話をしているが、とりあえず安全な場所なのだろうと緊張が緩んでいるのが分かる。それから、十分ほど待っただろうか、さっき走り去っていった騎士が戻ってきた。


「ニーナ副団長、識別の門の準備ができました!」

「ご苦労、それでは皆の者、着いて来てくれ」


 座って待機していた皆は、一人、また一人と立ち上がり、ニーナさんの後ろに着いて行く。場所的には、私と千佳が一番後ろの方になった。ただ、最後尾には、さっきの騎士の男性がついてきている。

 部屋の外に出ると、すぐに城壁が見える。この部屋は、城壁の外に建てられているのを見ると、敵か何かが転移してきても大丈夫な様にしてあるのだろう。城壁の向こうに見える一番高い建物は、恐らくお城だろう。これで、ここが日本のどこかという可能性は無くなった。ニーナさんたちの会話がすべて日本語なので、外国という可能性も無い。

 ニーナさんが立ち止まり、私たちは城門の前に集められた。そして、城門の前には鳥居の様な物が用意されていた。


「この門をくぐった後で街へ入ってくれ」


 みんなどうしようかと顔を見合わせていたが、誰も行動しないと埒が明かないので、篠原君が率先して門をくぐる。光るでもなく、音が鳴るわけでもなく、特に何も起こらなかったので、篠原君に続いてぞろぞろと門をくぐる。くぐり終わったクラスメイトは、そのまま城門へと入っていった。最後に、私と千佳が門をくぐろうとする。


「痛っ」

「あうっ」


 私と千佳は、何もないはずの空間で頭を打ち付けて弾かれ、尻もちをつく。そして、すぐに周りの騎士団員が槍と剣を私達に向けた。


「お前たち、蟲人か!」

「え?」

「残念だ。助けが間に合っていなかったのか……。仕方ない。構え! やれ!」


 ニーナさんの掛け声とともに、騎士団員が武器を構えた。

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