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次は、どの国を食べようか?  作者: 落川翔太
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韓国料理編

第七章 韓国料理編


「韓国料理はどうですか?」

 水曜日のお昼休みに、小坂さんからそんなメールが届いた。晴斗は次に食べる国の料理で小坂さんとメールのやり取りをしていた。

 晴斗が小坂さんに食べたい国の料理を聞くと、そう返事があった。

 韓国料理。晴斗はまだそれを食べていなかった。それでもいいだろうと思い、「いいですよ」とすぐに返信した。

 韓国料理と言えば、キムチや唐辛子などを使った辛い料理のイメージがあった。

 最近では、サッカーワールドカップの影響で、日本に韓流ブームというものが入ってきているのだと、晴斗は何かの記事で読んだことがあった。確かに最近、日本で韓流ドラマや韓流アイドルが流行っているのも韓流ブームのおかげらしい。

 また、東京で言えば新大久保、大阪で言えば鶴橋といった所は韓国のコスメやキムチ、それから、お土産屋のようなショップが連なり、そこはコリアンタウンと呼ばれるようになった。

 それくらい、昨今、日本に韓国の文化が流入してきているのだという。

 それからしばらくして、メールが届いた。彼女からだった。

「分かりました。今週の土日はどうですか?」

 土曜日は予定があったので、日曜日なら平気であった。それから、晴斗は「日曜日なら大丈夫です」と、メールを送る。

 また少しして、彼女から返信が来た。

「了解です! その日、お時間は夕方ごろでも平気ですか?」

 今回はランチではなくディナーらしいことが分かった。晴斗は夕方からでも平気なので、「はい。大丈夫です」と返信した。

 そして、日曜日。晴斗は五時になる十分前に、代官山駅に到着した。五時に小坂さんとそこで待ち合わせていた。

「お待たせしました」

 五時きっかりに小坂さんがやって来た。

「どうも」

「今回は、韓国料理を堪能しましょう!」と、小坂さんが言った。

「はい」と、晴斗は返事をした。

 それから、二人で韓国料理のお店に向かう。駅から十分ほど歩いた所に、そのお店はあった。

 そのお店に入って、すぐに晴斗たちは席に案内された。店内は女性たちや若いカップルなどがいた。

 晴斗たちは席に着くなり、メニューを開いて見ていた。

「小坂さん、ここのお店のオススメって何ですか?」

 早速、晴斗がそう訊くと、彼女が口を開いた。

「個々のお店は、キムチとチョンゴルです」

「やっぱりキムチなんだ」

「はい」

「チョンゴルって何ですか?」

 聞きなれない料理名に晴斗が小坂さんに訊いてみた。

「チョンゴルっていうのは、韓国の寄せ鍋みたいなものなんです」

「へー、寄せ鍋」

 メニューを見ると、写真があった。そこにチョンゴルの写真があった。見ると確かにそれは寄せ鍋であった。その鍋は、牛肉とたくさんの野菜が入っていて、スープが赤みがかっている。それは辛そうに見えた。

「辛そうですね」

 晴斗がそう言うと、「少し辛いですけど、そこまで辛くないですよ」と、小坂さんが言った。

「そうなんですか?」

「はい。辛いのは平気ですか?」

「辛すぎるのはダメだけど、少し辛いくらいなら平気です」

「そうですか。ぜひ、食べてみて下さい」

「はい」

 それから、晴斗たちはキムチの盛り合わせと牛肉のチョンゴルを注文した。それと、ビールを二つ注文した。

「そう言えば、山崎さんって、今、おいくつですか?」

 料理を待っている間、ふと、小坂さんがそう訊いた。

「僕ですか? 二十八です」

 晴斗がそう答えると、「そうでしたか」と、彼女が言った。

「お仕事って何されてるんですか?」

 再び彼女が晴斗にそう訊いた。

「営業の仕事をしています」

「そうなんですね。営業って、お仕事大変なんじゃないですか?」

「まあ、大変だけど、やりがいは感じていますよ」

 晴斗はそう言った。

「すごいです!」

「そうかな? 因みに、小坂さんは何のお仕事されているんですか?」

 それから今度、晴斗が彼女にそう訊いた。

「私は……事務です」

「事務か。事務員も大変そうですね」

 晴斗がそう言うと、「そんなことはないですよ」と、彼女が言った。「でも時々忙しいです」

「まあ、どこもそうですよね……。」

 それから、ビールとキムチの盛り合わせがやって来た。

 早速、二人はビールで乾杯をする。

晴斗はビールを一気に飲んだ。ビールは冷たくてうまかった。

「失礼ですけど、小坂さんって今おいくつなんですか?」

 晴斗はキムチをつまみながらそう訊いた。

「二十五です」

 小坂さんもキムチをつまみながらそう言った。

「二十五か、じゃあ、僕より若いんだね」

「ええ。まあ」

「いや、小坂さん、まだ若いですよ」

 晴斗がそう言うと、「いやいや。二十五ってそんな若くないですよ」と、彼女は手を振って言う。

「山崎さんから見て、三つ若いだけですから」

「まあ、そっか」

 それから少しして、メインディッシュである「牛肉のチョンゴル」がやって来た。

 ぐつぐつと煮立ったその鍋は、とてもおいしそうである。湯気が立ち昇り、いい匂いがしている。

「うわー。写真で見るよりおいしそう!」

 彼女はその鍋を見るなり、声を上げてそう言った。

「うん。うまそうだね」

「早速、いただきましょ!」

 彼女はそう言うなり、すぐに二つあるお椀の一つに晴斗の文をよそった。

「ありがとう」

 それから、彼女はもう一つのお椀に自分の分も盛る。

「じゃあ、いただきます」と、彼女が手を合わせて、食べ始めた。晴斗も「いただきます」と、彼女と同じようにして、牛肉のチョンゴルを食べた。

 晴斗は牛肉を箸でつかみ、それを口に入れた。

「熱っ!」

 その肉は熱かった。晴斗は急いでビールを流し込む。

「大丈夫ですか?」

 彼女は心配そうに言った。それから、晴斗のそれが面白かったようで、笑った。

「ちょっとやけどした。けど、大丈夫だと思う」

 晴斗がそう言うと、「ちゃんとふうふうしてから食べて下さいね」と、彼女は母親が子供に言うかのように、晴斗にそう言った。

「はい。そうします」

 晴斗はそう言って、今度は箸で野菜をつかみ、それをふうふうする。それから、それを口へ運んだ。

 うん。うまい。

 今度は大丈夫だった。

 その後、彼女が牛肉を箸でつかみ、それをふうふうしてから食べた。

「うん、おいしい」

 そのお肉のおいしさに彼女の顔は綻んでいた。

「幸せです」

 それから、彼女がそう言った。

「本当だね。てか、思ったより辛くないんだね。この鍋」

「そうですね。辛さちょうどいいですよね」

「うん。これならいくらでも食べられる」

「そうかもしれませんね」

 その後、晴斗はメニューに書いてあった牛肉のチョンゴルの値段を思い出す。

「いや、この鍋一つで四千五百円でしょ? さすがに、何杯も頼めないな……。」

 晴斗がそう言うと、「ですね」と言って、彼女は笑った。

 その後も、晴斗たちはキムチと牛肉のチョンゴルを食べながら話をしていた。

「山崎さんって彼女さんっていないんですか?」

 彼女がそう訊いた。

 晴斗には今付き合っている彼女はいなかった。

「いないよ」

「そうなんですね」

「小坂さんは? 彼氏いないの?」

 晴斗がそう訊くと、「私もいません」と彼女が答えた。

「でも、良かった……。」

 それから、彼女がそう言った。

「え? 良かったって何が?」

 晴斗がそう訊くと、彼女はおもむろに口を開いた。

「だって、もし山崎さんに彼女がいたら、私たち、こうして普通に会えないじゃないですか。そうなると、山崎さんのプライベートに私が勝手に入り込んでいる感じがして嫌じゃないですか。そうすれば、彼女さんに怒られちゃうじゃないですか!」

「確かに……。」

「それに、もし私に彼氏がいたら、山崎さんだっていい気分はしないじゃないですか」

「そうだね……」

 確かにそれは彼女の言う通りだった。

 仮に自分や小坂さんのどちらかに付き合っている人がいれば、こうして二人で会うことも簡単にできなくなる。

 つまり、こうして二人で世界の料理を食べるという同じ趣味を続けられるのは、晴斗にも小坂さんにも付き合っている人がいないからであるのだなとそこで改めて晴斗は気付かされた。

「それって、友達だからじゃないかな?」

 それから、晴斗がそう言うと、「はい。その通りです」と、彼女が笑顔で言った。

 小坂さんがビールをちょうど飲み終えたので、晴斗もビールを飲み干す。

 その後すぐに「今度、チャミスルでも飲みませんか?」と、彼女が言った。

「チャミスル?」

 またまた聞きなれないワードに晴斗がそう訊くと、「韓国の焼酎です」と、彼女が教えてくれた。

「焼酎か。いいね」

 晴斗がそう言ったので、彼女は「すみません」と店員を呼んだ。それから、チャミスルとキンパを注文した。

「キンパって?」

 晴斗が再び聞くと、「あー、キンパって言うのは、韓国ののり巻きです」と、彼女が答えた。

「へー、のり巻きか。って、まだ食べるの?」

「ご飯ものがちょっと食べたいなって思って、頼んじゃいました!」

 彼女がそう言うので、「頼んじゃったじゃないよ!」と、晴斗が突っ込むと、「えへへ」と笑い出した。

「まあ、自分もちょうどご飯が食べたかったから、いいけど」

 晴斗がそう言うと、「なら良かった」と彼女はにこにこしながら言って、キムチを一つ箸でつかんで食べた。

 その後、すぐにチャミスルとキンパがやって来た。

 チャミスルを飲むと、少し辛口だったが、すっきりしていて飲みやすかった。それと、キンパは意外とおいしかった。

 チャミスルと頼んだ全ての料理を食べ終えた頃には、午後七時半を過ぎていた。晴斗たちはそろそろ帰ることにして、会計をする。会計は九千八百円だった。二人で割り勘をすることにした。

 会計を済ませて、晴斗たちは店を出た。店を出て、そのまま帰ることになり、二人で駅まで歩いた。

「韓国料理はどうでした?」

 歩きながら小坂さんがそう訊いた。

 今日食べた韓国料理はどれも美味しかったなと晴斗は思った。

「どれもこれも美味しかったよ。韓国料理って、キムチとかキムチとかキムチみたいな辛い物ばかりだと思っていたから、そればかりじゃないんだななんて」

「キムチしか言ってないじゃないですか」

 彼女はそう言って、笑った。

「あれ? そうだったかな?」

「そうですよ」

「そっか。悪い悪い」

「でも、まあ、今日は食べていないですけど、韓国料理ってあれだけじゃなくて他にも辛い料理、辛くない料理っていっぱいありますから」

 彼女がそう言った。

「そうなんだ。そいつは気になるな……。」

「気になったら、また別の機会に食べてみて下さい」

「うん。そうするよ」

 そうして、二人で話しながら歩いていると、すぐに代官山の駅に着いた。

 改札の前で二人は立ち止まった。

「次はどこの国を食べようか?」

 晴斗が彼女にそう訊くと、「お任せします」と、彼女が言った。

「僕も小坂さんにお任せします」

 晴斗がそう言うと、「分かりました。じゃあ、考えておきます」と、彼女が言った。

「山崎さん、またメールしますね」

 小坂さんがそう言った。

「はい。お願いします」

「じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ」

「では、また」

「また」

晴斗がそう言って手を振った後、彼女は自分とは反対側のホームの階段を降りて行った。


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