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次は、どの国を食べようか?  作者: 落川翔太
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ロシア料理編

第十章 ロシア料理編


 その夜、晴斗は次にどこの国の料理を食べるかを考えていた。

 この趣味を始めてから晴斗は色々な国の料理を食べてきた。

 アメリカ、中国、イタリア、フランス、スペイン、韓国、ギリシャ、トルコの八か国である。どの国の料理もそれぞれの個性があり、どれも新鮮でおいしかった。

しかし、まだ食べていない国はたくさんあった。

 晴斗が自宅でテレビを観ていた時、ちょうど世界の料理特集の番組がやっていた。その番組を観ていると、そこにはロシア料理が映し出されていた。ビーフストロガノフにボルシチ、それから、ピロシキといった料理たちが並んでいた。

 どれもロシアの料理として聞いたことはあった。しかし、晴斗はそれらを食べたことはなかった。

「あ!」

 それから、晴斗はふと思いつく。次はロシア料理を食べに行こう。晴斗はそう思った後、すぐに小坂さんにメールを送ろうと携帯を取る。それからすぐに晴斗は「次、ロシア料理に行きませんか?」と、小坂さんにメールを送った。

 小坂さんから返信が来たのは、その五日後だった。

 彼女から来たメールにはこう書いてあった。

「返信遅れてすみません。ロシア料理、いいですね。申し訳ないのですが、今ちょっと仕事とかでバタバタしていて……。今週の土日は都合が付きそうにないです……。ゴメンナサイ。来週なら平気だと思います」

 彼女のメールを読んだ後、晴斗は「分かりました。来週以降に行きましょう」と、返信した。

 それから翌週の水曜日、晴斗の携帯に一通のメールが届いた。見るとそれは小坂さんからだった。すぐに晴斗はそのメールを読んだ。メールの本文はこう書いてあった。

「お久しぶりです。今週の土曜日、空いています。山崎さんのご都合はいかがですか?」

 そのメールを読んだ晴斗は、すぐに今度の土曜日の予定を確認する。その日は、一日休みだった。特にその日に予定はなかったので、平気であった。

 それからすぐに、晴斗は「休みなので、大丈夫ですよ」と、メールを送った。

 その後、晴斗は小坂さんと何通かやり取りをした。その日は、お昼の十二時に銀座で待ち合わせることになった。

 それから三日後の土曜日。正午に晴斗が銀座駅の改札前で待っていると、すぐに小坂さんがそこへやって来た。

「山崎さん、お久しぶりです」

 小坂さんが言った。

「久しぶりだね」

 晴斗がそう言うと、「ロシア料理でしたよね?」と、すぐに彼女が言った。

「そう」

「早速、行きましょう」

 彼女はそう言って、にこりと笑った。

 それから、晴斗たちはそのロシア料理のお店へと歩いた。三分ほど歩いた所に、そのお店はあった。お店へ着くと、数組ほど待っていた。晴斗たちは呼ばれるまで待つことにした。

 しばらくして、女性の店員に呼ばれ、晴斗たちは案内された。席に着くなり、メニューを見て、どれを食べるかを考える。メニューにはいくつかのコースメニューが書かれていた。

 晴斗はどれにするかを決めていなかった。

「どれも美味しそうですね」

 それから、小坂さんがそう言った。「コースにするとお得みたいですね」

「そうだね」

「コースにしましょうか?」

「うん」

「どれにします?」

 彼女にそう訊かれて、晴斗はどれにしようかと悩む。そこへ来る前に決めておけばよかったなと晴斗は少し自分を恥じた。その後、晴斗はふと、先日観たロシア料理の番組を思い出した。その時観たのは、確かビーフストロガノフとピロシキ、それから、ボルシチだった。

 それを思い出した後、晴斗は再びメニューを見た。見るとちょうどそこにビーフストロガノフランチというのがあった。そのセットには、ピロシキやボルシチも付いてくるというものだった。値段は二千四百円で割と安いなと晴斗は思った。

「これなんかどうですか?」

 それから、晴斗がそのメニューを指して、彼女にそう訊いた。

「いいですよ」と、彼女がオーケーしてくれたので、それを頼むことにした。

「何か飲みます?」

 その後、小坂さんにそう訊かれ、「えーっと」と、晴斗が悩むと、「ウオッカでも飲みません?」と、彼女がにやりと笑って言った。

 ウオッカか。それもアリだろうと晴斗は思った。

「ウオッカ、いいですね」

 晴斗がそう言うと、「じゃあ、そうしましょう」と彼女が言った。

 それから、晴斗は店員を呼び、ビーフストロガノフのセットとウオッカを二つ注文する。

その後、その店員に「ウオッカの割り方はどうされますか?」と聞かれ、小坂さんがソーダ割と言ったので、晴斗もそれにすることにした。

「どうして、ロシア料理だったんですか?」

 注文を終えた後、彼女がそう訊いた。

「えーっと、二週間くらい前に、たまたまテレビでロシア料理の特集がやっていて」

 晴斗がそう話すと、「もしかして、それって世界の料理を特集してるあの番組ですか?」と、彼女が訊いた。

「あ、そうです」

「私もそれいつも観てます」

「本当に?」

「はい。二週間前のロシアのやつも観ました。私もそれ観ていて、ロシア料理が食べたくなっていたんですよ」

 それから、彼女がそう言って笑った。

「そうだったんだ。食べたかったのなら、良かった」

 晴斗もそう言って、笑った。

 その後、ウオッカのソーダ割が到着した。晴斗たちは乾杯をする。それから、二人でウオッカのソーダ割を飲んだ。ウオッカを飲むと、サッパリとしたウオッカとシュワッとした炭酸が鼻に抜けて爽快であった。

 しばらくして、ビーフストロガノフのランチセットが届いた。ビーフストロガノフにウクライナボルシチ、ピロシキとサラダの盛り合わせである。

「おいしそう!」

 料理を見た小坂さんが嬉しそうにそう言った。

「そうですね」

 晴斗もそう言った。本当に美味しそうである。

「いただきます」と、彼女が手を合わせて言った。晴斗も手を合わせて、「いただきます」と言って、サラダから食べ始めた。

 そのサラダは二種類のサラダとライムギパンが乗っていた。サラダはみずみずしくておいしかった。

 それから、晴斗はボルシチをスプーンですくって、一口啜った。そのボルシチは、トマトが入っているようで、酸味や甘みが絶妙に美味かった。

 それから今度、晴斗はピロシキに手を伸ばした。それを半分に割ってみると、中には春雨が入っていた。早速それを食べてみると、パンはカリッとした食感だが、中はフワフワとしていた。噛むと、春雨や他の具材たちの味と食感がとてもマッチしていて、とても美味しかった。

 そして、晴斗はいよいよビーフストロガノフを食べてみる。食べると、牛肉がホロホロと口の中でほぐれた。玉ねぎやマッシュルームが入っていて、それらの甘みと食感がとてもよかった。それから、スープや掛かっているサワークリームの味がまろやかで上品な味わいがした。

 ついでに、添えられていたマッシュポテトも一口頬張ると、なめらかな味わいで、口に良く合っていた。

「どれもこれも美味しいね」

 晴斗がそう言うと、「本当ですね」と、小坂さんもそう言った。

 今回、初めてロシア料理を食べたが、どれもこれも美味しかった。

 その後も、晴斗たちはそれらの料理を食べながら、話をしていた。

「もう二週間なんですよね……。」

 ふいに、小坂さんがボルシチを食べながらそう言った。

「フランスに行くまで?」

 晴斗がそう訊くと、「そうなんです」と、彼女が言った。

「そっか。二週間後か。早いね」

「はい」

「準備とかは進んでいるの?」

 それから、晴斗がそう訊くと、「大体はできています」と、彼女が言った。

「そうなんだ。ところで、フランスに留学するのはどのくらいの期間なの?」

 その後、晴斗がそう訊くと、「一年です」と、彼女は答えた。

「一年か……。長いね」

「長いかもしれませんが、あっという間だと思います」

 小坂さんはそう言うと、笑顔を見せた。

「そっか」

 晴斗もそう言って、微笑んだ。

 料理を食べ終えた後、セットに付くロシア紅茶かコーヒーが飲めるらしかったので、二人とも紅茶を選んだ。

 少しして、ロシア紅茶が届いた。紅茶と一緒にジャムの小鉢が置かれ、店員に「良ければジャムを入れて、飲んでみて下さい」と言われた。晴斗は店員に言われた通り、ジャムを少し入れて飲んでみることにした。

 最初にストレートで一口飲んだ後、今度はジャムを入れて飲んでみる。すると、ジャムの香りが漂い、紅茶により甘みが増したように感じた。

 うん、おいしい。その紅茶はフルーティーで、それはそれで美味しかった。

「小坂さん」

 晴斗は口を開いた。

「はい?」

「留学前に、もう一度、二人でどこかのお店に食べに行けないかな?」

 晴斗がそう訊くと、「どうでしょう」と、彼女が言った。

「行ければいいですが、留学前でまた少しバタバタするかもしれないんですよね」

 それから、彼女がそう言った。

「そっか。無理だったら全然いいんだけど」

「落ち着いていれば、お休みの日には行けると思うんですけど、まだちょっと予定が分からないので。またご連絡する感じでいいですか?」

「もちろん」

「分かりました。次が多分、最後になるかもしれません」

 それから、晴斗たちは紅茶を飲み終えて、その日はそこでお開きすることになった。

 それから、一週間後の土日になった。

 結局、小坂さんは留学の準備等で忙しかったようで、その土日に晴斗は彼女と会えなかった。

 彼女とロシア料理を食べた日の十日後に、晴斗の携帯にメールが届いた。誰からだろうと思い見ると、それは小坂さんからだった。

「山崎さん、連絡遅くなってしまいすみません。実は、今度の土曜日の朝にフランスへ行くことになりました。ですから、次の土日も山崎さんと一緒に食事が出来なくなってしまいました。本当にゴメンナサイ。

 一年後、私は日本に戻る予定です。その時、また山崎さんにお会いできたら嬉しく思っています。では、また」

 晴斗はそのメールを読んで驚愕した。

 小坂さんは今度の土曜日の朝、東京を立つという。急ではないかと晴斗は思った。

 それからもう小坂さんとは一緒に世界の料理を食べ歩くこともできなくなってしまうようだった。そう思った晴斗はショックであった。

 最後に小坂さんに会って話だけでもしたい。晴斗はそう思った。その後すぐに、晴斗は彼女のそのメールを読み返す。土曜日の朝、彼女はフランスに行くということは、彼女が空港を発つ前に会えるのではないか。彼女に別れの挨拶くらいはしたいと晴斗は思った。

 空港で彼女を見送ろう。晴斗はそうしようと決めると、すぐに彼女に電話を掛けた。

『もしもし? 山崎さん?』

 しばらくして、彼女が電話に出た。

「小坂さん、今、お時間大丈夫ですか?」

『はい、大丈夫ですけど……。』

「急にお電話をしてゴメン。さっきメールを読んだ。土曜日の朝、こっちを立つんだよね?」

『ええ、そうです。山崎さん、どうかしたんですか?』

「あの……。小坂さんが良ければ、その日、最後にお見送りだけさせて欲しいなと思って」

『見送りなんて、いいんです』

「そこを何とか」

『…………。』

 彼女は押し黙っていた。

「空港は羽田? それとも、成田かな?」

 その後、晴斗がそう訊くと、彼女が口を開いた。

『……羽田です』

「羽田か。何時の便で出発するの?」

 それから今度、晴斗がそう訊くと、『七時十分です』と、彼女が答えた。

「七時十分ね。分かった。土曜日、その時間の前にそこへ行くよ。だから、待っていてほしい。じゃあ、また」

 晴斗はそう言って、電話を切った。

 目覚まし時計のアラームが鳴った。

 晴斗はそのアラームを止め、起き上がる。時計を見ると、五時半であった。土曜日である。その日、晴斗はフランスへ行く小坂さんを見送りに行く予定があった。彼女は七時十分の飛行機で出発するのだという。晴斗はそれを思い出すと、急いで支度を済ませて家を出た。

 晴斗が羽田空港に着いたのは、午前六時四十五分だった。出発まで後、二十五分である。それから、晴斗は「空港に着きました」と、メールを送った。ややあって、彼女から電話がかかって来た。

「もしもし?」

『あ、もしもし、山崎さん、おはようございます。今どちらにいますか?』

「おはよう。今さっき駅に着いたところで。小坂さんは?」

『そうですか。私は三階の出発ロビーにいますよ』

「分かった。今、そちらに向かうよ」

 晴斗はそう言って、電話を切り、すぐにそこから国際線の出発口のある三階まで向かった。

「あ、いた!」

晴斗はそこへ着いて少し歩くと、小坂さんの姿を見つけた。

「山崎さん、本当に来てくれたんですね」

 それから、彼女がそう言った。

「うん。もちろん」

「ありがとうございます。来てくれて、嬉しいです」

 彼女がそう言って、笑顔を見せる。

「僕も小坂さんに会えてよかった。もう会えないかと思っていたよ」

 晴斗はそう言って、笑う。「しばらく会えなくなるんだよね」それから、晴斗がポツリと言った。

「そうですね……。」

 小坂さんも残念そうに言った。

「こっちに戻ってくるのは、一年後になるんだっけ?」

「はい。そうです」

「うん。分かった。僕は帰ってくるの待ってるよ」

 それから、晴斗がそう言うと、「お願いしますね」と、彼女が言って微笑んだ。

「あーあ、二人でやっていた趣味が、しばらくできなくなるな……。」

 その後、晴斗がそう言った。

「私もできないのは寂しいです」と、彼女も言った。「あ、でも」それからすぐに彼女が口を開いた。

「山崎さん、私がフランスに行っても、その趣味は続けて下さいね」

「え? 続ける? どうやって? それって一人でってこと?」

「そうです。せっかく見つけた趣味じゃないですか。それに……。まだ、食べていない国いっぱいあるじゃないですか。カナダとか、ブラジルとか、ドイツとか、それから、アフリカの方とか……。」

「ああ、そっか。そうだよね」

 晴斗はまだ食べていない国がいっぱいあることを思い出した。

「だから、まだ行っていない国の料理を制覇してください」

 彼女がそう言って、にやりと笑った。

「うん。分かった」

 晴斗もそう言って、にやりと笑った。

「あ」

 その後、彼女が腕時計をちらりと見て、そう言った。晴斗も時計を見ると、時刻は七時ちょうどであった。

「そろそろ時間なので、私、もう行きますね」

 小坂さんがそう言った。

「うん。じゃあ、向こう行ったら頑張ってね」

 晴斗は彼女を応援するように言った。

「はい。頑張ります。山崎さんも趣味、頑張ってください」

「うん」

「戻ってくるとき、またメールしますね」

「分かった」

「じゃあ、行ってきます」

 彼女は手のひらを晴斗に見せて、スーツケースを引き、搭乗口へと歩いて行った。

「行ってらっしゃい」

 晴斗はそう言って、彼女のその姿をまじまじと見ていた。

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