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双子勇者  作者: 大石次郎
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火の勇者

「ちゃっほっ! こっちだっ」


多重に張られた城壁の一角から見下ろす形でチャッホーが呼び掛けてきた。


「お、チャッホー」


「そっち、どう行くの? この砦、ちょっと入り組んでて」


しっかり武装したムツコとツヨコは、山岳地帯のドワーフ族の砦に来ていた。

砦と言っても城塞化したドワーフ達の郷である。

ドワーフ族は成人の平均身長が155センチメートル程度のやや小柄な種族。頑強で手先が器用な特性を持つ。


「回り込まなくていいだろ? 登っちゃえよ?」


「それな」


「なんか街の中に入ると、地球の感覚に戻っちゃうんだよね」


2人は軽く城壁を駆け登った。

チャッホーの乗っていた城壁は最も内側の壁であったので、登ると街が一望できた。


「おお~~っ!! すんごい発達してるじゃーんっ!」


「急に文明開化っ!!」


ドワーフ砦の内部の街にはガス灯が灯り、ポニーのような小型だが骨太な馬が引く乗り合い馬車が走っており、レンガ造りの低層ビルも目立った。商業区の向こうには工場エリアも見えた。

住人であるドワーフ達の服装も中世風ではない。

画一的ではない格好をしている者もいたが、兵員以外の成人の男はハンチング帽を被り、半袖シャツにループタイに布ベスト、スラックスに靴下にローファー。といった格好の者が多かった。他、ツナギ姿の者も少なくない。

女は半袖ブラウスにループタイにカーディガン、ロングスカートに靴下にローファー、という格好が多く、やはりツナギ姿の者も多少はいた。


「ドワーフ達は工学適正があっから、『神』から文明の制限をあんまし受けてねーんだ。耐えられないからさ」


「えっ、文明制限されてんだ?」


「道理で歴史長いっぽいのにファンタジーだと思ったよ」


「地球の文明にプラスアルファ『魔法』が加わったら、収拾がつかなくなるだろ? どうも『前の世界』で制限無くしたら魔王と関係無く、すぐパンクしちまったらしいぜ? ちゃほほっ!」


なぜかウケるチャッホー。若干引く2人。


「というかこの世界、1回は『やり直し済み』なのか・・」


「あんまり知りたくない情報・・」


「今が楽しけりゃそれでいいじゃねーか?」


「えー・・」


「なんか勇者の仲間らしくな~い」


ドン引く2人。


「ちゃほほっ、それより『火の勇者』にとっとと会おう。アイツ腕利きだが、しょうがないところがあってよ!」


「んだよ、それ」


「まぁ私達が選ばれてる時点でフワっとしてるんだろな、って感じはするけど」


「いいからいくぞっ? ちゃっほうっ!」


チャッホーは城壁の内側の壁を高速で駆け降りだしたので、2人は慌てて追い掛けていった。



夜勤開けのドワーフの工員達を目当てとしているらしい朝の酒場に、その男はいた。


「ハッハッハッ!! そこで俺は言ってやったんだよっ! 『オメェにゃ豚のケツで十分だ』ってよっ」


「よく言ったぁーっ!!」


「いいぞ火の勇者ぁーっ!」


「もっと言ってやれっ!!!」


「ハッハッハッ!! その後はもう、俺のゲンコツが火を吹いたぜ?」


「かぁーーっ!!」


「男だなっ」


「大したヤツだっ!」


「飲め飲め勇者っ!!」


「おうよっ、ハッハッハッ!!!」


酔っ払った工員達と一緒に愉しげに大酒を飲んでいる褐色の肌で身長180センチ台後半の筋骨隆々の恵まれた身体を持ち、赤茶けた髪を短く雑に刈った二十歳くらいの男であった。

顔を始め、身体中に傷痕が付いており、両腕に孔雀の羽根の刺青をしていた。

左腕にウワバミの腕輪をしていたが武装はしておらず、上半身は袖無しの貫頭衣を肌に直に着て、下半身は腰布を巻いた上でハーフパンツを穿き、素足に皮のサンダルを履いている。

風雨に耐え、力強く育った若木わかぎの根のような脚だった。


「アレが火の勇者だ。朝イチで北の転送門から来て、砦周辺の祓い所と他の転送門を片っ端から速攻で解放して、そっからずっと飲んじゃってんだ。この後、詰まってんだぜ?」


「・・急に違う世界観の人来たね」


「いやでも面白そうなヤツじゃん? それにイケメンはイケメンだろ?」


「『戦国武士の中ではイケメン』とか『イケメン過ぎるグリーンベレー』とか、そういうジャンルの人じゃんっっ」


「あ~、お前はヂーミンとかそっち系が好きかぁ」


等と話していると、ほろ酔いの火の勇者の方がムツコとツヨコに気付いた。


「おおっ?! なんだぁっ?! おおーーーっ?!!! 地の、勇者かぁっ!!!」


声がデカい。ムツコが早くも辟易し、ツヨコが面白がり、チャッホーがどうやって段取り良く勇者達にクエストを進行させるか思案しだしていると、


「双子って聞いたけど、女子かぁっ?! 歳若過ぎるんじゃねぇかっ?! 細ちっちぇなぁっ!! 大丈夫かよぉっ??!」


席から立ってのしのし3人に近付いてきた。身体が大きいので遠近感が取り難いのに加え、歩幅が広く、ゆったり歩いているようですぐに3人の目の前までやってきた。


「酒臭いっ!」


「お前! インドとかタイの人か? あたしは日本人で、日高つよ子っ! こっちはむつ子だっ」


「姉です・・」


「お前それ、毎回言う気だな?」


「私が妹の姉」


「俺はアビシェクだっ!! 個人名以外は捨てたっ! インド人だっ。火の勇者になっちまったぜっ。ハッハッハッ!!!」


間近だと空気が震えるような大笑いだった。仰け反るムツコとツヨコ。


「よ~し。地の勇者も来たことだし、巨人どもを仕止めに行くかっ!!」


「ちゃっほっ、待てーいっ!!」


「んん?」


酒場から出ようとしたほろ酔いのままの火の勇者、アビシェクの前に立ちはだかるチャッホー。


「なんだチャッホー? 巨人兄弟討伐のクエストだろ? ヒックっ」


「2つあるぞ? 1つ、ムツコっ。治癒で酔いを醒ましてやれ」


「んっ」


「おう? まぁこれくらいどってことないけどなぁ?」


「どってことあるでしょうにっ! ちょっとじっとしてて、熊みたいだね? あんた」


ムツコは呆れつつ、右手をアビシェクの岩のような胸に向けて掲げ、治癒の力を発動させた。瞬く間にアビシェクの体内の酒気は消し去られた。


「おーっ? なんだ、すげぇなお前。ムツコ! でもちょっともったいねぇな、酒っ」


「・・チャッホー、この人ホントに火の勇者なの?」


「そこは間違い無い」


「ハッハッ! チャッホーに御墨付きもらったぜっ! じゃあ今度こそ出発」


「2つ目があるぞ? アビシェクっ」


再び酒場を出ようとしたアビシェクを蔓のような手で押し留めるチャッホー。


「なんだよ? もう素面しらふだぜ?」


「店を出る時は酒代を払っとけ。ちゃっほっ!」


「おおっ? 悪いっ、払ってなかった! 店主っ! いくらだぁっ?!」


アビシェクは慌ててドタドタと店員が困惑している店内に戻っていった。


「ダメダメじゃんかっ」


「そうかぁ? 面白いヤツじゃね?」


「どこがっ!」


ツヨコは気に入った様子であったが、ムツコからは不評な火の勇者、アビシェクであった。



それから4人は転送門を使い、ドワーフ砦から一山越えた辺りに作られた『ドワーフ軍ワードッグ軍・合同野営地』に向かった。

野営地には武装したドワーフ達と『ワードッグ』達が多数詰めている。

兵員のドワーフ達の装備は近代軍服に防護ベスト、カップ型の兜、ゲートルにブーツ、ポーチにウェストバッグ。武器は手槍てやりとライフルが一体になった『ガンランス』と小振りのサーベル。

同じく兵員のワードッグは2足歩行をする擬人化した犬型の獣人族。普段はドワーフと程々に距離を置いて暮らしているが同じ山岳地帯の住人で、今回の討伐クエストではドワーフと共同戦線を張っていた。

ワードッグ達の装備は、上半身はスリットの入った厚手の長袖チュニックを着て、その上から直に軽量鎧を着込んでいた。兜は後ろのみネックカバーが付いている物だった。

下半身はこちらもスリットの入った厚手のブレーにゲートルを巻いてブーツを履いている。ポーチは身に付けていたが、ウェストバックまでは装備していない。

武器は各種竿状武器ポールウェポンまたはボウガンを持ち、予備武器として小振りな山刀を腰に差していた。


「ドワーフの兵隊は普通に軍隊だね」


「身体はワードッグの方が強そうだぞ?」


「ちゃっほっ。ドワーフ達は文明を発達させた分、戦士としては弱くなったからなぁ」


「前衛でカチ合うばかりが兵士の仕事じゃねぇぜ?」


「ムキムキなクセに真っ当なこと言うじゃない」


「殺し合いだからな」


武装したアビシェクはニッとムツコに笑ってみせた。


「・・・」


妙な間を空けた上で、ぷいっ、と顔を背けさっさと歩いていってしまうムツコ。


「あら? お~い、ムツコぉ」


アビシェクはのしのし追ってみたが、ムツコは相手にしなかった。顔を見合わせるツヨコとチャッホー。

アビシェクの装備は、上半身はギャンベゾンに重量ミスリルメイル、大柄な為に帳のように見える魔除けのマント。下半身はブレーにゲートル、ブーツ。他の勇者達と違い籠手こて脛当すねあても付けていた。

武器は左右の腰に差しているミスリル製の刺突小剣カタール以外は今は出しておらず、頭部武装も特には付けていなかった。他にはウワバミの腕輪とポーチくらいであった。


「よく来たっ!! 勇者とその仲間達よっ!」


「『達』、って俺だけだ。ちゃほほっ」


「いや、まぁ・・」


即、混ぜっ返してドワーフ軍の指揮官を戸惑わせるチャッホー。


「チャッホー」


肘で押して黙らせるツヨコ。

4人は野営地の指令部テントに来ていた。


「なんにせよ、勇者が3人揃ってよかったじゃないの? 散々、知恵の塔と『秩序の塔』に打診してよかったわ」


ワードッグ軍の女性指揮官が言った。随分崩した武装をしている。


「で、勇者達よっ! 例の物は持って来てくれたか?」


「おう、これだろ?」


アビシェクはウワバミの腕輪から『鬼火の玉(おにびのたま)』を取り出し、


「ムゲンがしまったままほったらかししてたから探すの大変だったよ?」


「あいつはなんにも興味無いよな」


ムツコもウワバミの腕輪から『烈震れっしんのワンド』を取り出した。


「おおっ?!! これさぇあればっ! 常勝不敗だっ。北部鉱脈の開拓も可能ではないか?」


「ホホッ! 圧倒的戦力よっ!! ワードッグ族の優越性を知らしめてやるわっ」


強力な魔法道具を手に色めきたつドワーフとワードッグの指揮官2人。


「・・ムツコ、クエストが済んだらとっとと回収するぞ?」


「そうね」


「賛成~」


「賢者達の塔で管理してるもんは大体ロクなもんじゃないからよ・・」


4人は小声で確認し合うのだった。



一行はワードッグ軍と共に野営地の先にある『愚兄愚弟の皿(ぐけいぐていのさら)』と呼ばれる集落を1つ収まる程度の大きさの盆地の縁に沿った、東側の岩場に来ていた。

岩場からはなんとも雑に岩等を組んだ城壁で囲われた粗末な砦が見えた。

城壁の周囲には引き抜いた木をそのまま削って造ったような棍棒を持った、体長6メートル前後の、岩と土と人の中間のような魔物『山の巨人マウンテンジャイアント』が200体以上配置されていた。

大半は時が止まったように佇んでいたが

、中には座っている者や寝転がってイビキをかいている者もいた。

砦の中に回転する台座の上に設置された巨大な投石器が3機設置されていた。

中央には岩を組んで作られた巨大な祠もあった。

今回、勇者達に課せられたクエストは『巨人兄弟カンピーとフルグーレイの討伐』。

巨人族カンピーとフルグーレイは闇雲に暴れるばかりの程度の低い魔物であったが、不死性が強く、過去に何度も倒されているが、切っ掛けさえあれば容易に復活する厄介な魔物でもあった。

今回も魔王の進軍の気配に呼応して前触れもなく簡単に復活。眷属を率いてこの地で暴れ出していた。


「結構近いな。緊張するわっ!」


「初手が自然任せだもんね。『風の勇者』が来てくれたらもうちょっとやりようあったと思うけど」


「来たのが俺で悪かったなぁ」


「別に」


「風の勇者は別のクエストに出ててスケジュール合わなかったぞ?」


風を受けながら岩場の陰で小声で話す4人。

時間は午後4時過ぎ、この季節、特に雨が降る等しなければこの位置には向かい風を吹く。敵に知られるリスクは比較的低かった。

と、岩場のやや奥まった位置に描かれた魔方陣の上で集中し詠唱していた、法衣ローブを着た数十名のワードッグの魔法使い達が一気に周囲の中空に魔法式を展開し始めた。

中心の魔法使いが烈震のワンドを掲げている。


「おおっ、カッコイイっ!」


「ファンタジーっぽいねっ」


「結構派手だなー」


「ちゃっほっ、式を組むのが遅いぞっ?! 気付かれてるっ」


マウンテンジャイアント達が一行やワードッグ達が潜む東側の岩場に気付き、砦の中の投石器もマウンテンジャイアント達の手動で、ゆっくりと引き絞られながら東側の岩場に向けられ始めた。


「めっちゃバレてるぅっ!」


「あんな感じなのに反応早っ」


「ヤバいかもなー」


「急げっ! ワードッグ達っ」


ワードッグの中心の魔法使いは指揮棒のように短い烈震のワンドを振るった。

範囲を『巨人の砦』に絞った猛烈な地震が発生した。

粗末な城壁は半壊し、巨大な城門はヒビ割れ、祠は傾き、3機の投石器の内2機は角度が大きくズレ、1機は横倒しになって途中で暴発し、放たれた巨石が祠に直撃して倒壊させた。

城壁の外のマウンテンジャイアント達は戸惑い、砦内にいたマウンテンジャイアントはほぼ全員派手に転倒した。


「よっしゃーーっ!!」


「次々っ!」


「おお~」


「冷や冷やしたっ」


続けて一行よりも遠い位置にある砦の南側の臭いの強いドクダミの類が繁った岩場から砲撃があり、ヒビ割れた城門と倒れる寸前の残る2機の投石器に砲撃が行われた。

的が大きく、ほぼ正面にある城門は問題なく破壊したが、砦内の投石器には中々上手く当たらず、向かって手前に設置された1機のみどうにか破壊できた。

ドワーフ達は砲撃を続けながら、さらに自軍の魔法使い達に鬼火の玉を使って無数のウィルオーウィスプを召喚して空けられ城門へ向けて突進させた。

残った投石器は目標をドワーフ達に改め角度修正して引き絞られ始めた。破損部位はマウンテンジャイアント達が『流動する岩と土』に形態変化して取り付いて補っている。

投石器に対する砲撃も口から礫弾れきだんを打つ『ラブルブレス』で迎撃しだした。


「取り溢しがヤバそうだな。溜め撃ちするっ!」


「えっ?」


「どーする気だよっ」


「ちゃほっ?」


アビシェクはウワバミの指輪から火炎を纏った大鎌『ハボリム』を取り出し、大鎌で炎を逆巻かせながら岩場を駆け上がっていった。


「アビシェクっ! もう見付かってるんだよっ?!」


「ムツコっ! 任せたっ」


そう言って、岩場の天辺でハボリムに火の力を溜め始めた。

アビシェクに気付いた比較的近い位置にいるマウンテンジャイアント達はウィルオーウィスプ達に襲われながらも、次々とアビシェクにラブルブレスを吐く構えをみせた。


「アビシェクっ、的だってっ!」


「もうっ最悪っ!!」


「妨害するぞっ?」


ツヨコは岩場から鉄柱を露出させてラブルブレスを弾き、ムツコは蔓で網を使って受け、チャッホーは液体金属化させた右手を自動装填するボウガンに変えて、ブレスを撃とうとするマウンテンジャイアント達の顔面を狙撃しだした。


「・・っっ!!」


アビシェクは今にも南の岩場のドワーフ軍の陣地に巨石を放とうとする投石器を見据えながら、ハボリムに火の力を溜め終えた。


「焼け落ちろっ!!!」


燃え盛るハボリムを振り抜くアビシェク。炎の刃が猛烈な速度で放たれ、投石器を直撃した。両断され、爆炎が炸裂する。装填された巨石も投石器と一体化した者も、周囲のマウンテンジャイアント達も一撃で吹き飛ばされ、溶解し、焼き尽くされていった。


「え~~~っ?! もうお前だけでいいんじゃないかっ? 勇者っ!!」


「ちゃっほーっ!!! 毎回火の勇者は火力抜群だあっ!!」


「いいから早く降りてきてっ! まだ狙われてるっ」


「おお、はいはい。わかったぜっ」


アビシェクは狙われ易い岩場の天辺から大きな身体で身軽に降りてきた。


「鬼火達も砦内に入ったようだし、そろそろ行けんじゃないか?」


ウワバミの腕輪からミスリル製のフェイスガード付きの兜を取り出しながらアビシェクが言った。


「さっきは助かったから、切り込む時は俺に壁役任せろよ?」


「アビシェク」


「ん?」


「あんた強いから、自分が不死身かなんかだと思ってんじゃないの?」


アビシェクは薄く、大きな身体に不釣り合いな、自嘲気味の笑みを浮かべた。


「思ってないさ。地球じゃぶっ殺されてこっちに来たからな」


「マジか? あたし達もなんだよっ」


「そっか、お互いツイてな」


ムツコはアビシェクの重量ミスリルメイルの胸に拳を軽く当てた。


「私達、こっちで死んだらもう後無いと思う。ここがあの世なんだよ」


「・・ムツコ」


ここでワードッグ軍が号令の管楽器を吹き鳴らした。


「突貫せよぉっ!!!!」


指揮官の号令の下、岩場に身を潜めていたワードッグ軍は無数のウィルオーウィスプとドワーフ砲兵の支援砲撃に苦戦するマウントジャイアント達に進撃を始めた。


「先陣を切って被害を減らすっ! 行くぞっ!!」


アビシェクは兜をかぶってフェイスガードを下ろし、岩場から駆け出した。ムツコ達も続く。



一行は瞬く間に先行したワードッグ達を追い抜き、ウィルオーウィスプに集られたマウンテンジャイアント達に迫った。


「セェアッッ!!!」


ハボリムを振るい、火の刃の範囲攻撃で3体のマウンテンジャイアントの脚を吹っ飛ばして転倒させるアビシェク。

倒れた巨大にはウィルオーウィスプが殺到していった。


「仕止める必要は無いっ! なるべく多く、引き倒して砦に入るぜっ?!!」


「了解っ!!」


既に戦闘になったので切り替えて声を揃えて応えるムツコ、ツヨコ、チャッホー。

ムツコは蔓を発生させて巨人の脚を絡めて倒し、ツヨコは鉄の槍発生させて足を串刺しにして倒し、チャッホーは左手の形態変化で造った鎖鉄球くさりてっきゅうを用いて巨人の膝裏等を狙って倒していった。

一行が棍棒やブレスを避けながら倒していった後方からワードッグ達が続き、やや遅れて南の岩場からも砲兵以外のドワーフ兵達が突入を始めた。

ガンランスでマウンテンジャイアントに致命傷を与えるのは難しい為、顔面を撃ってブレスを封じる等して支援することに専念しているようだった。

そのような流れで、一行は破壊された城門から砦内に飛び込んだ。地震の影響で地割れや隆起や陥没が多く、足場は悪い。

同士撃ちを避ける為、砦への支援砲撃は突入ルート外に限定されるようになったが、内部のマウンテンジャイアント達は既に受けたこれまでの砲撃お、ウィルオーウィスプ達の波状攻撃で混乱した状態だった。


「ボスの巨人兄弟は?!」


「祠の下敷きで死んでてくんねーかなっ?」


「『岩』や『土』による圧殺ではたぶん殺せないぞっ?」


「行ってみりゃわかるっ!!」


一行は混乱しながらも群がる巨人達の足を攻めながら、砦中央の倒壊した祠へと駆け抜けていった。


「・・あんた、アビシェク! いつこっちの世界に来たの?」


「5日前だ!」


「ウソ? 私達よりちょっと遅いじゃんっ」


「荒っぽいことには慣れてんだっ!」


駆けながら、戦いながらムツコとアビシェクは話していた。


「あんた、地球で何やってたんだよ?」


「チンピラみたいなもんだっ。そっちは?」


「学生」


「学生かぁっ、俺は学校行ったことねーなぁっ!」


「行ったことないの?!」


「ハッハッハッ!!」


アビシェクが大笑いしたところで、倒壊した巨石の祠の前までたどり着いた。


「完全に崩れてるじゃん??」


「うーん・・ホントにここ?」


「ちゃっほっ、間違いないっ! まだ完全に復活してないから、祠の外だと消耗しちまうからなっ」


「よっし、しらばっくれてるなら・・」


アビシェクは魔法石の欠片で魔力を回復すると、再びハボリムを構え、火の力を溜め始めた。


「炙りだしてやるぜっ!!!」


ハボリムの切っ先を地に突き立て、倒壊した祠の入り口へと一直線に地を這う強力な炎を放つアビシェク。


ゴォオオオォッッッ!!!!


倒壊した祠の中心の下部から一気に全体へと炎が燃え拡がった。

すると、


「アチチチィイイーーーッッ!!!!」


「あちぃよ兄者あにじゃぁーーーっ?!!!」


倒壊した祠を吹き飛ばすようにして、炎上しながらも流動する、岩と土の濁流と化した2体の巨人が吹き出してきた。


「出てきたぜっ!」


「地属性攻撃は吸われるぞっ? 防御以外に使用禁止なっ!」


「了解っ!!」


宙を逆巻く2体は、細い濁流を触手のように何本も伸ばし、周囲にいたウィルオーウィスプに集られたマウンテンジャイアント達をウィルオーウィスプごと纏めて吸収した。

1度ドクンッ、と身を振るわせ、流動する身体を燃やしていた炎を消し飛ばした。


「つぅああぁーーーっっ! 可愛い子分達を喰わせやがってっっ!!!」


「満腹満腹ぅううーーーっ!!!」


2体の巨人は流動する身体から体長10メートルを越える人型の姿に変化し、着地した。

土煙が上がり、地響きが起こる。

巨人族カンピーとフルグーレイはマウンテンジャイアント達よりもより人に近い姿をしており、上半身は半裸であったが、下半身は東洋風の衣服をきていた。

武器はカンピーは戦鎚せんつい。フルグーレイは鉈を双手に持っていた。


「ま~~~たっ! 勇者どもかぁっ!!!」


「俺達が復活する度に殺しにきやがってぇ~~っ!! しつこいぞっ?!」


うんざり顔のカンピーとフルグーレイ。


「鉈持ちは俺とチャッホーでいくっ!」


「弟の方は任せたぜっ」


アビシェクとチャッホーは鉈を持つフルグーレイの方へ突進していった。


「弟なんだ」


「どっちがどっちだかねっ」


ムツコがグラスレイピアでカンピーの顔面にガラスの弾丸を放ち、ツヨコが足元から発生させた鉄柱の勢いでカンピーの上半身に迫った。

カンピーは左手でガラスの弾丸を受けながら、右手に持った1つの小屋を振り回すようなサイズの戦鎚で迫るツヨコを叩き潰そうとした。


「んがっ!」


ツヨコは鉄柱を砕かれながらも飛び上がって戦鎚を躱し、すれ違い様に右肘の辺りをヴァンプアクスで斬り付けた。

斬り口から生命力と魔力を吸われ、斬り口周辺の形を保てなくなり、乾いた土塊つちくれとなって砕け落ちていった。


「ふぉおおっ? なんだぁっ?? なんで勇者がヴァンプアクス持ってんだよっ?!」


「ひっひっひっ、努力の賜物だぁっ!!」


ツヨコは吸った力を斧の刃に乗せて、振り抜き、斬撃を放ってカンピーの肥った腹を打った。


「うっ!」


怯むカンピー。その顔面の側に、蔓に乗って迫っていたムツコがグラスレイピアを直接カンピーの額に打ち込んだ。


「やぁっ!!!」


突かれた眉間にガラスの柱が立って引き裂く。さらにムツコは炸裂する琥珀を投げ付け顔面で爆発させて仰け反らせ、蔓を操って後退した。


「痛ぇっ! 熱っ! このチビどもぉっ!!!」


苛立つカンピー。一方、


「ゼェアアッ!!!」


2本の巨大鉈による猛攻撃を避け、一撃掠ってミスリルヘルムを吹っ飛ばされながらも、アビシェクは炎の大鎌ハボリムをフルグーレイの右手の鉈の腹に打ち込み、ヒビを入れた。


「チャッホーっ!!」


「よしきたぁっ!!」


飛び退きながら叫んだアビシェクに呼応し、身体を完全に液体金属化して滑り込んできたチャッホーがフルグーレイのヒビ割れた右手の鉈にへばり付いた。


「おおっ?! 離れろよぉっ!」


フルグーレイは左手の鉈でアビシェクを牽制しながら右手の鉈を振ってチャッホーを引き剥がそうとした。


「ちゃっっっほぉおおおっ!!!!」


鉈のヒビ割れに染み込んだ液体の身体に力を込め、そのまま鉈を打ち砕くチャッホー。


「ああーーーっ?!!」


「ちゃっほほーーいっ」


チャッホーは素早くフルグーレイの右手から離れて着地し、勝利のダンスを踊り出した。


「チャッホーっ! 畳み掛けるぜっ?!」


「どんとこーいっ!!」


「ちっくしょーっ!!!」


アビシェクとチャッホーは悔しがるフルグーレイに改めて突進していった。


カンピーは右腕を砕かれていたが、左手に持ち替えた巨大戦鎚を振り回し、衰えた様子は見せていなかった。


「まだ今回はドワーフどもとワードッグどもをちょっととっ! 麓の人間の村1つしか喰えてねぇっ!! こんな早く殺されてたまるかぁ~~~っ!!!」


「つよ子っ! コイツっ、思ったより悪だっ!」


「そんな感じだけど・・ヴァンプアクスめっちゃ警戒されてるっっ」


明らかに、カンピーはヴァンプアクスを持つツヨコに注意を向けて接近を阻止する構えを見せていた。

対してムツコのグラスレイピアは鬱陶しがりはするものの大して効いていないらしく、ほぼ無視していた。


「くぅ~っっ、グラスレイピアあんま効かないっ。鉱物系だもんなぁ・・こうなったらっ! つよ子っ、ちょっと1人で頑張ってっ」


「ええっ?!」


ムツコは飛び退いて滋養になる琥珀を生成し、地面に置き、その上に両手を重ねた。


「育ってっ!!!」


地面から真っ赤な燃える巨大花が咲いた。


「つよ子っ!」


「それ得意だよなっ!」


ツヨコはまだ所持はしていたミスリルアクスをウワバミの腕輪から取り出して、カンピーの顔面に投げ付けて怯ませながら飛び退いた。

入れ替わりにムツコは巨大花から紅く輝く花粉をカンピーに放った。


「ぶぅあっ?! なんだ?? 鼻がムズムズ」


次の瞬間、紅い花粉は爆炎を上げて猛烈に炎上した。


「あちぃいいーーーーっ?!!!」


思わず片膝を突くカンピー。その隙に伸びる鉄柱に乗って迫ったツヨコがヴァンプアクスでカンピーの額の傷痕を思い切り打ち据えた。

後頭部と顎まで割られ、一気に生命力と魔力を奪われるカンピー。


「あ、ああ、兄者ぁああ~・・・」


カンピーの頭部は乾いた土塊と変わり果て、砕け散り、全身と戦鎚も崩壊した。


弟者おとじゃぁーーっ?!! お前らぁああ~~何回も弟者を殺しやがってぇええっ!!!!」


既に左の鉈も砕かれ全身に燃える傷痕を付けられていたフルグーレイは再び炎に焼かれた岩と土の流動体の身体に変化して宙を逆巻き出した。


「チャッホーっ!」


「よしっ」


「下がってろっ!」


「ええーっ?! まぁ、わかったよ・・」


チャッホーはドリル化した両手はそのままに宙を見上げて構えているムツコ達の方に飛び退いていった。

アビシェクは頭からエリクサーを被った。秘薬が湯気を立てて染み渡り、アビシェクの体力と魔力を回復した。

即座にハボリムだけでなく全身を発火させ、炎と一体化したアビシェクは宙のフルグーレイを見据えた。


「来いよっ! 弟が待ってるぜっ?!」


「バカにしたな? ぶっ潰してぇえええ、やんぞぉおおおーーーっっっ?!!!!」


焼かれた土と岩の濁流と化したフルグーレイはその全ての質量で宙からアビシェクに突進を始めた。


「アビシェクっ!!」


「ヤベェぞっ?!」


「ちゃっほっ」


アビシェクは炎を解放し、自分の周囲の地面を溶解させながら一回転し、大質量のフルグーレイをハボリムで打ち返すように叩き斬った。


「オオオオォォーーーーッッッ!!!!」


「ぶへはぁっっっ?!!! 弟・・者ぁああっっ!!!」


濁流のフルグーレイは両断され、宙に吹っ飛ばされて焼き尽くされた。


「はぁはぁ・・・」


炎と溶けた地面の中で、炎の身体のまま、屈み込むアビシェク。

そこへ、一欠片ひとかけらの輝く『炎熱を糧とする花の琥珀』が投げ込まれ、砕けた。


「っ?」


たちまちアビシェクの周囲とアビシェク本人は咲き狂う花まみれとなって焦熱状態は収められた。


「後先考えたら?」


ムツコが近くに歩み寄っていた。


「悪い。自分じゃ苦手でな、また近くにいたら代わりに頼んどくぜ?」


「デタラメなこと言ってるよ・・」


ムツコは溜め息を吐いた。



約3時間後、一行はあれこれ理由をつけてゴネるドワーフの指揮官とワードッグの指揮官から鬼火の玉と烈震のワンドも回収し、野営地から近い転送門に来ていた。

周囲の燈台とうだいに魔除けの火を灯した転送門は岩山の一角にあり、ちょうどドワーフとワードッグ達の野営地を見下ろす形になる。

野営地では戦勝を祝ってドワーフとワードッグ達が祝杯を上げ、簡易な花火まで打ち上げて大騒ぎしていた。

円形の転送門に乗っているのはムツコ、ツヨコ、チャッホーだけだった。チャッホーは2つ足元に置いた麻袋をイジっていた。


「俺はまだこの地域でクエストがあっからよ? またなっ!」


「無茶しないようにね?」


「じゃあな~。呑み過ぎんなよー」


「ちゃほほっ、見てくれよっ? このガイアジェムっ!」


チャッホーは麻袋の1つから、一杯に入れてある輝く地の属性の宝珠を一掬い取り出してみせた。


「兄の方はアビシェクが吹っ飛ばしちまったけど、弟の遺骸と祠跡でゴッソリ生成してやったぜぇっ!!!」


「生成したのあたし達な」


「それね」


「これで、当分地属性のジェムには困らねぇっ! また今回も完璧な仕事だったぜっ!! ちゃっほっ」


苦笑するムツコとツヨコ。ふと、ムツコはアビシェクと目が合った。


「ホント気を付けなよ?」


「お互いな」


「じゃっ、行くぜっ? 起動っ! ちゃほーーっ!!」


余韻も何も無く、チャッホーが転送門を起動させ、光に包まれた3人は知恵の塔に来ていた。

知恵の塔の転送門の前にはグルモン、ムゲン、ミリット、ソイヤ、ヨイサが来ていた。

ミリットはムゲンとよく似た地味な法衣ローブを着て、ムゲンの髭を結んでいるのと同じような大きなリボンで髪を纏めていた。


「おっ帰りぃ~っ」


「ジェムは?」


「どうだった兄弟っ?」


「余裕だったかあっ?」


「牛肉買ってきた?」


「余裕だったぜぇっ! ちゃあっほうっ!!」


「ジェムはどっさり手に入った感じ。牛肉もドワーフのとこで買ってきたぞ?」


「・・・」


他のメンバーがワイワイとする中、ムツコは何も話さず転送門の円形台座から降りた。


「どうだったムツコ? 火の勇者も水の勇者とおんなじくらいイケメンだったろ? 秩序の塔の担当精霊が面食いなんだよぉ」


グルモンが話し掛けてきた。


「・・別に、普通」


ムツコは取り合わず立ち去ろうとしたが、何か思い立って立ち止まり振り返った。


「魔王を倒した報酬って1つだけだよね?」


「え? うん。向こうの摂理にあんまり介入できないんだよ」


「私達の場合は先に起こることがわかっていればなんとかなりそうだけど、例えば・・」


「うん?」


「その、マフィアの抗争? とか、ちょっとハードな状況で死んだ場合って、どうなの?」


「むつ子」


意外そうな顔をするツヨコ。


「アビシェクのことだな。普通なら厳しいけど、アイツは地球でも強かったし、この世界での戦士としての経験や知識は向こうに持って帰れる。担当の精霊の話だと生存可能らしいよ?」


「そう、ならいいんだけど・・ちょっと疲れたから、お風呂入ってもう寝るから」


ムツコはそう言って転送門のある部屋から出ていった。


「そっかー、そっかそっかぁ。なんか意外だなぁ。思春期が終わるとあたしはそんな感じなんだ」


1人納得するツヨコ。


「それより早く牛肉を食べようっ!」


もはや牛肉のことしか頭にないミリットの強い要求により、1人で寝てしまったムツコ以外の知恵の塔の面々で、この後、牛肉パーティーが開かれたのであった。

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