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双子勇者  作者: 大石次郎
4/23

硝子の魔女

七色に発光、炸裂する矢を合図として、上空に巨大魔方陣が発生し、そこから200体以上の魚の特徴を持つ水の身体の馬の姿をした幻獣『ケルピー』が飛び出してきた。


「津波じゃんっ」


「凄ぇ・・」


ムツコとツヨコが唖然とする中、ケルピー達はガラスの館の閉ざされた正面扉の突撃し、打ち砕いて中へと侵入していった。

それに遅れて一行が突破してきたガラスの森の向こうから爆発音が響き始めた。


「郷の者達も始めてくれたようです」


「ウッドゴーレムの『怪光線かいこうせん』だなぁ」


それに続いて上空から輝く鱗粉のような光を撒きながら、族長を先頭に武装したピクシー達数十人が舞い降りてきた。


「まだ突入するなよ? ケルピーでルートを取り、内部の様子を見る。エルフ達のゴーレムがどこまで有効かも見極める必要があるからな」


「凄い戦力だから、皆だけでもいけそうですね?」


「あの水の馬、数多いじゃん?」


「いや、硝子の魔女が強過ぎる。それにあの女の眷属はお前達が思っている以上に規模がある。仕事はしてもらうぞ?」


「あ、はい・・」


「まぁやるけどさ」


「どれっ」


チャッホーが身体をニュっと伸ばし、目も大きくして爆発音が響く硝子の森の向こうを見詰めだした。


「ん~、召喚されたゴーレムの数は40体程度。進行はすっトロいが、結構いい仕上がりだ。ガラスの森の眷属どもも上手いこと集まってる。後になって後ろから増援まみれ、って事態は避けられそうだなぁ。よっと」


目と身体を元に戻すチャッホー。それから、


「・・・」


「・・なんか、嫌な時間」


5分程、争いの音と震動が響くガラスの館の前でピクシー達と共に待っていたが、目を閉じていた族長が両目を開いた。


「一階はほぼ制圧した。この館は外部から見た通りの3階建てだ。地下室も幾つかあるが、魔女討伐には関係無さそうだ。お前達は無視していい」


「2階のルート取りは?」


チャッホーは油断無く聞いた。


「問題無さそうだ。一応陽動として数本取っておく。力を感じる、魔女は3階だな。これ以上時間を掛けると、眷属の再召喚か広域攻撃を仕掛けてくるだろう、限度だ! 」


族長はムツコとツヨコの方に向き直った。


「 案内にケルピーを1体、待機させた。我々も一階には入る。・・行くぞっ、勇者達っ!」


「よ~しっ! やるぜっ、ちゃーーほぉーーーっ!!!」


「気を付けて向かいましょう」


「緊張する~」


「ドカンっ、とカマしてやんぞっ?」


一行はピクシー達と共にガラスの館はと突入していった。




内部は全てがガラスでできた広大な洋館であったが、既に激しい戦闘で破損が大きかった。

各所にある灯火台とうかだいには緑色の負の炎『陰火いんか』が灯っていた。


「ヒヒンっ!」


入り口付近にいたケルピーが1体浮遊して寄ってきた。


「この子が案内ねっ」


「おお、川みたいな匂いする」


「3階まで到達したら先行させた個体以外は別ルートから陽動するっ! あまり時間を掛けるなよっ」


「任せろっ、ちゃっほぉっ!」


「ゆきましょうっ!」


一行は入り口付近で族長達と別れ、ケルピーの先導で館の奥へと駆けだしていった。

道中、あちこちが水浸しで、ガラスの魔物達の死骸であるガラス片が散乱していたが、合わせて、魔女の眷属となっていたらしい怪木の宮の魔物達の死骸も少なからずあった。


「うわぁっ、フレッシュなのもやっぱいるんだねっっ」


「あっ!『ゴブリン』じゃないかっ? あの辺っ」


死骸の中には角と牙の生えた、背丈は子供程度だが顔付きは憤怒や憎悪が張り付いた大人のような小人族の死骸もあった。ゴブリン族である。


「兄貴のヤツっ! あたし、あそこまでモンスターじゃないっ」


「人型の魔物はちょっとキツいなぁ・・」


「この世界じゃゴブリンは堕落した『フェザーフット族』で完全に魔物だっ。浄化は相当難しいし、世界中にいる! これから人間の悪人とも戦うこともあるだろうし、吹っ切るしかないぜっ?! ムツコっ!」


「ううっ・・わかってるよ」


「勇者殿、私も冒険者時代、始めて野盗を働く人間を手に掛けた時は吐き気を感じました。違和感を抱く方が自然なことです」


「ありがとう、ゼリット」


「あたしはガンガンいくぞっ?!」


「つよ子・・」


ツヨコの適応力に若干引くムツコであった。



2階へ上がると先行のケルピー達が駆逐した後で、別のエリアから侵入してきた魔物といくらか戦闘するようになった。

グラスナイトやカーススタンプに加え、擬人化した大型のキノコの魔物『キラーファンガス』、足と目を持つ大型の植物の芽のような魔物『リーフウォーカー』、実体の不確かな黒い犬の魔物『ブラックドッグ』、大型の九官鳥のような魔物『マージヒルマイナ』、毒を持つ緑色の『グリーンスライム』、負の炎の化身『ウィルオーウィスプ』、そして小型の盾と小剣や手槍や手斧の二刀流やボウガンで武装したゴブリン族、等であった。


「ちゃっほぉっ! ムツコとツヨコはゴブリンをやれっ」


「ええっ?!」


「よっしゃあっ!」


「ボウガン持ちに気を付けて下さいっ」


ムツコとツヨコはゴブリン達と対峙した。ケルピーは先行だけでなく『勇者を護る』ことも条件付けられているらしく、2人に付き従った。


「むつ子っ! 異能いのうブッパでも倒せるけど、近接で倒そうっ!」


「・・うん」


「ケルピーはむつ子を守れっ!」


「ヒヒンっ!」


最初にツヨコが突進した。ボウガンの矢を軽々と避け、一瞬(むつ子とは違う、自分は帰れない)と考えてしまいながら、


「どぉりゃぁああっ!!」


ボウガン持ちを優先してミスリルグレートアクスでゴブリン達を斬り伏せていった。

黒ずんだ血が飛び散る。


「私だってっ、行くよっ?」


「ブルルっ」


ケルピーと共に、遅れて突進するムツコ。ボウガンの矢はミスリルレイピアで払い、あるいは角度を付けたミスリルカイトシールドで弾いていった。

水の身体を持ち、ボウガンの矢の効かないケルピーは『水の弾丸』をボウガン持ちのゴブリン達に放って倒していった。


「せぇああーーーっ!!!」


盾で手槍を払い、冷や汗をかきながらレイピアで喉等の急所を突き、リーチの短い小剣は範囲外から相手の小型盾を避けて肩等を突いて怯ませてから二の太刀でムツコは仕止めていった。


「ほっほーっ、一通り片付いたなぁ?」


ゼリットと共にゴブリン以外の魔物を一掃したチャッホーはムツコとツヨコを振り返った。

2人ともゴブリンの殲滅には成功していた。ツヨコは少し青い顔をしている程度であったが、ムツコは屈み込んで吐いていた。

ケルピーが困惑した様子でその側を浮遊していた。


「勇者殿っ!」


ゼリットは駆け寄ってムツコの背をさすった。


「・・大丈夫。次は、ちゃんとするから・・」


「ムツコ殿・・」


「ムツコっ! うだうだしてると魔物どものおかわりが来ちまうぞぉ?!」


檄を飛ばすチャッホー。もう顔色も戻したツヨコはじっとムツコを見ていた。


「ふーふー・・・よしっ」


ムツコは立ち上がった。


「大丈夫か?」


ムツコに声を掛けるツヨコ。


「うんっ、行こうっ!」


「おうっ」


一行は再びケルピーの先導で3階を目指し、駆けだしていった。



3階へ到着すると、先行したケルピー達が一方向ではなく方々へと突進していったのが水の跡と魔物達死骸でわかった。


「陽動してくれたんだ・・」


「ケルピーは依り代を使って召喚されています。本体は精霊界にありますから、心配することはありませんよ? ムツコ殿」


「そっかぁ」


「どっちにしろこっからはケルピー達のルート取りはできてないぜ? まず探知だっ! ツヨコっ。一番強くで悪いガラスの気配を探ってみろっ」


「探知かぁ・・苦手」


と言いつつ、床に手を当てて集中するツヨコ。金属に対する親和性の応用で、ガラスの気配を探る。


「ん~~・・たぶんこれだと思う。真ん中の奥の方。嫌な感じっ! 凄い細くて強い武器も持ってるぜっ!」


「グラスレイピアでしょうね」


「あっちだっ! この廊下を真ん中の奥目指して行けばいけるっ」


「よっしっ! こっからはトラップも残ってるだろうから気を付けろよっ?! 行くぜっ」


チャッホーは忠告もそこそこに、駆けだした。

これまで目につくトラップは全てケルピー達が水を使って作動させて解除してくれていた。

案内の役目を終え純粋に護衛になったケルピーと共に、チャッホーの後を追いながら、ムツコはゼリットに話し掛けた。


「ゼリットさん。硝子の魔女って何者なんですか? 単に『悪の魔王の手下』って感じですか?」


「端的に言えば魔王の手下です。しかし、かつては善き魔女でした。エルフ郷出身で、冒険者として一緒に旅をしたこともあります」


「わ~・・そうなんだぁ。ゼリットさん、その、大丈夫ですか?」


「昔のことです。我々は人間の6倍も永く生きるので、本当に、遠い昔の話ですから・・」


ゼリットはかつての記憶に想いを馳せたようだったが、フロアを踏んだり柱に近付くとガラスの槍や矢やギロチンが飛び出すトラップゾーンに入った為、それも中断となった。

トラップゾーンを切り抜け、勢力を増した魔物達も退けた一行は角を曲がれば魔女のいるはずの部屋の入り口へゆける所まで来ていた。

途中、ゴブリン等の人型の生身の魔物もそれなりにいたが、ツヨコは少なくとも外面上はもう平然としており、ムツコも青い顔はしても吐いたりすることはなくなっていた。


「ちゃっほっ! ちょおっとヤバいなっ」


通路の角の物陰に他のメンバーと共に隠れながら、魔女の間の入り口を見て警戒するチャッホー。

入り口のある部屋は広間になっており、グラスドラゴンが5体、扉側に横一列に並べて配置されていた。


「魔力を最大に溜めれば1体の『口』完全に破壊できますっ」


「両手に力を溜めとけば、2体、口を吹っ飛ばすくらいはできると思う」


「俺もドリル化すれば1体はいけるっ。問題はこっから扉の前まで遠いってことだな。まず強く力を溜めたらバレるだろうしよぉ」


思案顔のチャッホー。


「私が植物創造の力でつよ子とチャッホーとケルピーを守りながら近くに運ぶよ! その間に皆、準備したらいいんじゃない?」


「そういうことならムツコっ! 俺に炸裂する琥珀をあるだけ渡してくれっ。俺は別に力は溜めなくていいし、相手も1体だけで余裕ある。残り1体を妨害してやるぜぇ!」


「だいぶ使ったからあと3個しかないけど」


ムツコは炸裂する琥珀を3個、チャッホーに渡した。


「ちゃっほうっ! 爆弾ゲットっ」


「よっしっ、むつ子次第だっ! 頼んだぜ?」


「任せてっ! ゼリットさんとケルピーもよらしくっ」


「はい」


「ブルルっ」


ムツコは魔力のみ回復させる『魔石の欠片(ませきのかけら)』で魔力を回復させてから、素早く集中した。

すぐにグラスドラゴンは気付いたが、ムツコの方が早かった。


「行ってらっしゃいっ!」


ムツコは植物創造と植物支配の力で無数の巨大な蔓を生成し、ツヨコとチャッホーを捲き込んでと、扉のある広間に蔓の奔流ほんりゅうと化して突入させた。

ゼリットの物陰で魔力を溜め始める。

グラスドラゴン5体は一斉にガラス片の波動グラスブレスを蔓の奔流に放ったが、表層をズタズタ切り裂きガラスに変質させても、蔓の奔流は止まらなかった。


「フルゥウウッ?!!!」


笛のような鳴き声を上げて蔓の奔流をその身に受けて絡まれてゆくグラスドラゴン達。

ここでゼリットは物陰から蔓に飛び乗り、姿を晒して弓を構えた。


「チャッホーっ!!」


「おりゃあっ!!」


「ヒヒンっ!」


蔓から飛び出すチャッホーとケルピーと両手に魔力を溜めたツヨコ。

まずケルピーが水の弾丸を至近距離から5体のグラスドラゴンに放って牽制した。

間を置かず、最大に溜めた魔力を込めた矢を超高速で放って中央のグラスドラゴンの頭部を吹き飛ばすゼリット。

ツヨコは手近な1体の首に右手の掌底突きを当て、分解する力を首を伝って頭部に使え粉砕。

チャッホーはまず手近な1体の顔面に炸裂する琥珀を全て投げ付けて怯ませた。

ケルピーは離れた位置にいるグラスドラゴン2体に集中して水の弾丸を放って再度牽制した。


「危なっ」


頭部を破壊した先にいる個体が水の弾丸を物ともせず、蔓を引き千切る勢いで噛み付いてきたが躱し、逆に飛び付いて左の掌底突きを頭部に直に打ち込み粉砕するツヨコ。


「隙だらけじゃーっ!!」


チャッホーは炸裂する琥珀の爆発と水の弾丸に気を取られていたその奥の個体に飛び掛かり、下半身をドリル化して頭部を粉砕した。

頭部がヒビ割れたした状態になって1体は、全身を『水の槍頭』に変えたケルピーに部に頭部を貫かれて砕かれた。

頭部を失った5体のグラスドラゴン達は少しの間、巨大な蛇のように蔓に絡められてまま蠢いて苦しんでいたが、やがて蔓で絞り上げられ砕け散って滅びていった。


「粘るかと思って最後ちょっと焦ったっ」


「眷属を増やし過ぎて作り込みが粗っかたな。ちゃほほっ」


「ブルルっ」


ツヨコとチャッホーとケルピーが一息ついていると、


「お~い」


通路の角からムツコがややフラついて出てきた。すぐにゼリットが支えた。

4人は合流し、ムツコは体力と魔力を回復するエリクサー。ツヨコとゼリットは魔力を回復する魔石の欠片。チャッホーは体力を回復する『ポーション』を飲んで体勢を立て直した。


「後はボスだけだなっ!」


「ゼリットさん、いいんだよね?」


「はい、ケリをつけます」


「よ~し、じゃあ景気付けに『決戦の舞い』を踊っとくかっ? ちゃほほっ」


チャッホーが踊りだすと、ムツコとツヨコも続き、ゼリットも苦笑しながらももう心得たといった様子で踊りだした。ケルピーも楽し気に踊りだした。

踊りはチャッホーが満足するまで数分続いた。



・・ガラスの大扉を開け、中へ入ると、壁面をステンドグラスで飾り立てられた広間の奥の玉座にエルフ族の少女が座っていた。

美しいが病的に白い肌をしており、額に第3の瞳を持っていた。服装はガラスのような奇妙な露出の多いドレスを着て、靴先の尖ったピンヒールを履いている。

その手には禍々しい力を放つ抜き身のガラス製のレイピアがあった。

背後で扉は閉ざされた。


「ボクのグラスレイピアを盗りに来たなっ?! 盗っ人どもめっ」


「よく言うぜっ」


「でも可愛いっ。ホントに戦うの?」


「美人でもブスでも普通でもっ、倒すぞっ?! ちゃーーほぉーーーっ!!!」


「硝子の魔女っ! 決着をつけようっ」


「ぬけぬけとっ! いつまで対等のつもりでいるっ?!」


硝子の魔女は激昂し、ステンドグラスな仮面を被りつつ浮き上がり、グラスレイピアを振るって自分の周囲の強力な魔力を帯びたガラス片の渦を纏いだした。

ムツコは『炎上する琥珀』を数個投げ付けたが、ガラス片の渦の外周を少し溶かしただけだった。


「ちゃっほっ、来るぞっ!!」


ガラスの渦を多重の『ガラスの刃の波』に変えて放ってくる硝子の魔女。

ムツコ、ツヨコ、チャッホー、ケルピーは凌いだが、ゼリットは左腕を切断された。


「くっ?!」


「っ! ムツコっ!!」


「わかったっ!」


ツヨコは指示を出して素早くゼリットの切断された左腕と持っていたエルフィンボウを拾った。

ムツコはゼリットの前面に半球状の巨大な蔓で壁を作って守った。

チャッホーとケルピーは硝子の魔女に突進して気を引き付けた。


「ゼリットっ!」


「すいません・・」


「復元するからっ」


ツヨコは切断された左腕とその付け根を近付け、元の形を読み取って物質を補いながら再構成して繋げた。


「・・凄いっ」


「だいぶ削られたから違和感はあると思う。ポーションも飲んどいた方がいいぜ?」


「ありがとうございます、ツヨコ殿」


「相手の攻撃がめちゃ速くて範囲だから、後ろからいけるタイミングで威嚇に専念してくれよ? それだけでも前衛はやり易くなっから」


「わかりました。これ以上足手まといにはなりませんっ」


「いや、まぁ別に。じゃ、な」


ツヨコは蔓の壁から飛び出して、既にチャッホー達と合流していたムツコに続いた。

ゼリットもタイミングを見て飛び出し、後方に下がりつつ、ガラスの刃の波を避けながら、必死で威嚇射撃に専念しだした。


「ああっ! バカバカしいバカバカしいっ。くだらない世界だっ。誰かが創り変えないとっ!!!」


刃の波に加え、レイピアを振り払った時に生ずる剃刀のような斬撃の近距離範囲攻撃がかなり厄介であった。


「まずこのガラスの渦をどうにかしないとっ! 近付けねーよっ」


「少し溜める時間が欲しいっ!」


「ちゃっほっ! 俺に任せろっ。ケルピーも協力しろっ」


「ヒヒンっ」


ケルピーは身体を霧に変えて渦を包むように硝子の魔女を覆った。


「鬱陶しいっ!」


硝子の魔女はガラス片の渦をより鋭く回転させてケルピーの霧を吹っ飛ばした。

宙で再集合したが削られて消耗させられたケルピー。


「そこじゃーいっ!!!」


「っ?!」


身体を液体金属化させて宙にいる硝子の魔女の真下に滑り込んでいたチャッホーは両腕か、無数の針を撃ち出した。

渦を下方に集約させて防ぐ硝子の魔女。

そこへゼリットの矢が投げた飛来した。グラスレイピアで切り払う硝子の魔女。その直後にフロアから一気に跳び付いてきたツヨコが斧で切り掛かった。

硝子の魔女はグラスレイピアを輝くガラス片化して盾としてツヨコの斬撃の軌道をズラして防いだ。

しかしツヨコは魔女と交錯した空中でミスリルダガーを投げ付けた。


ギィーンッッ!!!


仮面を砕かれる硝子の魔女。


「溜まったっ!!」


魔力を溜めたムツコはフロアから真っ赤な巨大花を咲かせ、その花粉を硝子の渦に吸い込ませた。


「なっ?!」


吸い込まれた花粉は1拍置いて渦全体を爆発炎上させ、融解させた。


「ちゃっほっ?! 危ねーっ!!!」


真下にいたチャッホーは身体の中から取り出したエリクサーの瓶を飲み干しながら高速で遁走した。


「ああっ! もうっ!! 嫌なヤツらっ!!!」


硝子の魔女は剃刀のような近距離範囲攻撃を連発しながら天井近くまで上昇した。


「ボクの絶望をわからせてやるっ!!!」


硝子の魔女はグラスレイピアで自らの薄い胸を貫いた。


「ああぁーーーーーっっ!!!!」


仰け反って強力な魔力を帯びたガラスに覆われてゆく硝子の魔女。

硝子の魔女は巨体を持つ、『硝子の魔人』に変化した。


「デカくなったぞっ?!」


「ちゃっほぉっ! ムツコっ! ケルピーを回復っ!!」


「えっ? うんっ!」


ムツコは離れた位置で水溜まりの中に消えそうになっていたケルピーに駆け寄った。


「触媒いるよね?」


ポーションを一瓶出し、それをケルピーに注ぎながら獲得している治癒の力を施すムツコ。ツヨコのように『形』の再構成に特化はしていないが、生命を回復させる力は上回っていた。

水溜まりの周囲に小さな花畑を発生させながら、ケルピーを回復させた。


「ブルルっ」


頬擦りされるムツコ。


「おほっ、ゼリー感っ。スライムのトラウマが癒される・・って言ってる場合じゃなかったっ! どうしよっかな?」


状況を確認するムツコ。

前衛でチャッホーとツヨコが硝子の魔人に対応しているが、身体が大き過ぎて攻撃が通らないようだった。ツヨコの分解技も、すぐに再生されて内部まで効果が通らない。

後方からのゼリットの矢の溜め撃ちもいまいち通っていない。

硝子の魔人の攻撃は大振りだが、触れた物をガラス化して打ち砕く力があるらしくチャッホーとツヨコはかなり苦労していた。


「うーん・・ケルピーはゼリットさんの弓に力を貸してあげて? 私は『いい感じの琥珀』を生成してみる」


「ヒヒンっ」


ケルピーはゼリットの元に向かい、液体化してエルフィンボウと1体となった。

これによってゼリットは溜め撃ちで『激流の矢』を撃てるようになり、多少は硝子の魔人を怯ませることがでぎるようになった。


「よしっ! 私も集中集中っ!!」


ムツコは『2つ』の琥珀の生成に専念し始めた。


「ムツコがなんかやってるぜっ?! ちゃっほっ! もう一息だっ」


「コイツ硬過ぎて、腕もげそうっ! ホントにガラスっ?!」


チャッホーとツヨコは鼠のように硝子の魔人の足元を走り周りながら、時間を稼いだ。


「・・・・できたぁっ!!! 私っ、天才っ!!」


ムツコは『岩喰いの木の琥珀(いわくいのきのこはく)』『滋養満点の琥珀じようまんてんのこはく』の生成に成功した。

ムツコは2つの付与琥珀を持って硝子の魔人の挙動にに注意しつつ前衛近くまで駆け寄り、おもむろにチャッホーに岩喰いの木の琥珀を、ツヨコに滋養満点の琥珀を投げ渡した。


「これを埋めてっ!! いい感じにっ!」


「いい感じにっ?!」


「ちゃっほっ! 丸投げかよっ」


戸惑う2人。


「隙を作るっ」


ゼリットが魔石の欠片を使いながら、後方からかなり前衛近くまで駆け寄ってきて、激流の矢を連射し始めた。


「私もっ!」


ムツコも魔石の欠片を使って魔力を回復させてから巨大蔓を生成して硝子の魔人の動きを押さえ込みに掛かった。

激流の矢の連射を上半身に、巨大蔓で下半身を攻められて動きが鈍る硝子の魔人。


「チャーンスっ!! ちゃーーほぉーーーっ!!!」


チャッホーは跳び付いて硝子の魔人の胸にドリル化した両腕で穴を空けて岩喰いの木の琥珀を埋め込み、飛び退いた。


「どぉりゃあっ!!!」


間髪入れず、ツヨコは硝子の魔人の右腕を斧で払った反動で一回転して胸まで跳び、チャッホーが岩喰いの木の琥珀を埋めた穴に滋養満点の琥珀を埋め込み、飛び退いた。


ドクンッッッ!!!!


一度の胎動の後、硝子の魔人の胸から凄まじい勢いで巨木が発生し、硝子の魔人を内部から崩壊させて打ち砕き、滅ぼした。


「やったなっ!」


「ちゃっほっ!!」


ツヨコとチャッホーはハイタッチをした後、申し合わせたように勝利のダンスを踊り始めた。

ムツコは苦笑してそれを見ていたが、


「っ?! 見てっ!!」


硝子の魔人を滅ぼした岩喰いの木の根元から硝子の台座が立ち上がり、その頂点に磔にされたようにしてグラスレイピアで胸を貫かれた硝子の魔女がこの状態でも死なず、昏倒して痙攣していた。


「ちゃほ・・とどめを刺さないとな」


「この状態だとさすがに気が進まないな」


踊りはやめる2人。


「私がやります。私の妹なので・・」


ゼリットは左の腰に差した雷属性の『スタンショートソード』を抜いた。ケルピーはゼリットの弓から離れ、様子を見る構えをみせた。


「妹だったんだ・・」


手出しできないムツコ。


「一際強い闇の魔力を持って産まれてしまった子です。結局救えなかった」


ゼリットは硝子の魔女に近付き、逆手に持ったスタンショートソードを構えた。


「ミリット、次に産まれる時は平凡な姉妹になろう」


ムツコが顔を背けたその時、


「シャアアァーーーーッッッ!!!!」


ミリットと呼ばれた硝子の魔女の額から第3の額が飛び出し、蝙蝠のような魔物となってゼリットに襲い掛かった。


「っ?!」


驚愕しながらも蝙蝠の魔物をスタンショートソードで両断するゼリット。

二つにされた魔物は影となって崩れ滅びていった。


「一体・・?? っ!」


硝子の魔女が激しく痙攣しだし、身体中から闇の力が吹き出し、その力は掻き消えていった。

額に傷は残ったが、穏やかな表情になる硝子の魔女。

チャッホーは真顔で近付き、エルフ郷の門の見張りが使っていた物と似ているがより豪華な装飾の宝珠を身体から取り出し、その光を硝子の魔女と魔女を貫すグラスレイピアに当てた。


「ちゃっほっ、グラスレイピアと魔女から邪気が消えてっぞ?」


「そんなっ?! これまでどうやっても妹の呪いは祓えなかったのにっ??」


初めて取り乱すゼリット。


「ふーん・・仮説だが、グラスレイピアでその身を貫いたのが良かったのかも知れない。コイツには先代勇者の光の力がおそらく残っていた。加えて、当代の勇者達の力をまともにブチ込まれたから、相乗効果で強制的に浄化されたんだろう。もう魔物じゃねーぞ? ちゃほほっ」


「なんとっっ、ミリットっ!!」


硝子の魔女ことミリットに駆け寄るゼリット。だが、ミリットには深々とグラスレイピアが刺さり、額の傷も深そうであった。


「ムツコ殿っ! ツヨコ殿っ! お二人の癒しの力で妹をお助け下さいっ!!」


「あっ、はいはいっ!!」


「おうおうっ、どうすりゃ??」


大慌てする2人。


「落ち着けっ! まず、俺がマッハでグラスレイピアを抜いて速攻エリクサーをぶっかける。すかさず2人が治癒と復元で追い打ちで回復させるっ。馬もなんか回復手段あんだろっ? 手伝えっ!」


「ブルルっ?」


「私は?」


ゼリットは必死の表情だった。


「姉ちゃんは手を握って呼び掛けてやんな」


「はいっ」


ゼリットはしっかりとわずかに痙攣し続けるミリットの手を握った。

ムツコ、ツヨコ、チャッホー、ケルピーは姉妹を取り囲む形となった。


「・・これ、助けた後、エルフ郷とピクシー達になんて言やいいんだ?」


「助けてから考えたらいいよ」


「ああ・・それな」


「いくぞっ?!」


「ヒヒンっ」


チャッホーは素早く綺麗にグラスレイピアをミリットから抜き去り、エリクサーを振り掛けた。

ムツコは治癒を、ツヨコは復元をミリットに掛け、ケルピーは癒し効果の液体を発生させる『スプリングウォーター』の能力を使った。

水と、強い光がミリットを覆った。


「ミリットっ! 起きてっ!!!」


光が収まると・・


「・・?? お姉ちゃん?」


傷を癒したミリットは長い夢から覚めた顔で目を開けた。



・・・知恵の塔内の転送門の前で、グルモン、ムゲン、ソイヤ、ヨイサが待っていた。

ソイヤとピーナツを殻ごと食べてカスをそこらに溢し、ヨイサは焼き魚を頭ごと噛っており、グルモンとムゲンは居心地悪そうな顔をしていた。

と、転送門が光り、4つの人影がその円形の台座に姿を現した。


「ちゃっほーっ! 兄弟達っ、超イージーなクエストだったぜっ?!」


「あ~~っ、疲れた・・」


「お風呂入りたい・・」


「ボクはまず食事だなっ! 誰か牛肉を焼けっ!! ボクの為にっ!」


どやどやと、当然といった顔で転送門から降りてくる4人。ムツコはグラスレイピアを持っていた。


「チャッホーっ! 大活躍だったかっ?」


「当然だよなっ?」


「あたぼうよっ!」


全く動じないソイヤとヨイサ。


「・・・」


「・・・」


どっちがツッコむか消極的な鍔迫り合いになるグルモンとムゲン。


「ムゲン、グルモン! たっだいま~。クエスト完了したよぉ? ほら、グラスレイピアっ。これ鞘無いみたい。後で何とかしてね?」


「ほらムゲンっ! エルフ郷土産っ。 円盤型のパンっ!! めっちゃ硬いヤツっ。こういうの好きだろ? 爺ちゃんなのに歯、頑丈だよなぁ? ひっひっひっ」


「牛肉っ!! 牛肉はどこだっ?!」


ムツコ、ツヨコ、ミスリルワーヒョウタン達、ミリットは、そのまま通り過ぎようとした。咳払いをしてグルモンを肘でつつくムゲン。グルモンは溜め息を吐いて通り過ぎた一行を振り返った。


「ちょい待てぇいっ!!! なんで硝子の魔女連れて帰ってきてんだよぉっ?! 討伐しに行ったんだろっ?!」


「いやっ、浄化したっぽいしっ!!」


「現地で話しつけんの大変だったんだよ?! 置いてけなかったしっ」


「ちゃっほぅっ!」


「ボクに牛肉を食べさせろっ!!」


「コイツ、牛肉としか言わねーじゃねーかぁっ?!」


この後、グルモンとムゲンを説得するのに小一時間掛かったムツコとツヨコなのであった。

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