表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子勇者  作者: 大石次郎
3/23

エルフ郷へ

ムツコとツヨコはミスリルワーヒョウタンのチャッホーの案内で、巨大な樹木が生い茂る森。『怪木の宮(かいぼくのみや)』に来ていた。

2人ともゲートルを巻き、頑丈な皮のブーツを履き、ギャンベゾンの上から鉄より硬く軽いミスリル製の薄手の鎧を着込み、布グローブを嵌め、魔除けのポンチョも着ていた。

左腕に蛇をモチーフとした装飾の腕輪も装備している。

武器はポーチも付いたベルトの腰の左にミスリル製の両刃もろばの短剣『ダガー』を1本差しているのみであった。

チャッホーは丸い兜を被り魔除けのマントを羽織っただけの姿であったが、巨大植物だらけの森を風のように2人を先導して走ってゆく。

ムツコとツヨコも走り、それに平然と付いてゆけていた。

2人がアマラディアに来てから既に4日目となっており、昨日まで知恵の塔で修行していた2人は少し精悍な顔付きになっている。

怪木の宮には野生の魔物達も少なからずいたが、魔除けのマントやポンチョを身に付け、気配を絶って素早く走り去る3人に魔物達はほぼ気付けず、稀に気付いた個体がいても追うには速過ぎて、気配を追うのが難し過ぎて、追跡は叶わない様子だった。


「本当ならこのまま『エルフ郷』に直行すりゃいいし、なんならわざわざクソ危ねぇこの怪木の宮なんて通らず空から行きゃいいんだけど、お前らの初めての実戦クエストだからなっ! 嫌々渋々だぜっ?!」


「恩着せがましいねっ、チャッホーっ!」


「お前も『つよ子ベアハッグ』喰らわすぞっ?」


「嫌だっ! とにかくっ、途中の『祓い所(はらいしょ)』3ヵ所と『転送門てんそうもん』1つをサクッと解放してくからなっ!」


「了解っ!!」


寄り道その物に異論は無い2人は声を揃えて返事をした。

祓い所は浄められた安全地帯で、旅人や冒険者と呼ばれる報酬と引き替えに様々なトラブルシュートをすることを生業とする者達が休憩をする為の場所である。

転送門はその名の通り、転送門から転送門へとテレポートする為のワープポイントであった。

いずれも通常は地元の冒険者のギルドと呼ばれる互助会や、近くの集落、街、あるいは国等が管理する物であったが、現在この怪木の宮にあるエルフ族の郷付近は管理不能となっていた。


「おーし・・そろそろ最初の祓い所だぞっ?! 見えたっ! 行くぜっ、ちゃーーほぉーーーっ!!!」


「やってやるっ」


「ぶっ飛ばすっ!」


チャッホーは両手を一瞬液体金属化させた後、両拳にトゲ付きの護拳ごけんを生成し、武器として構えた。

ムツコは左腕に付けた蛇の装飾の腕輪『ウワバミの腕輪』からミスリル製カイトシールドとミスリル製レイピアを取り出し、装備した。

ツヨコは同じく左腕のウワバミの腕輪からミスリル製グレートアクスを取り出し装備した。

ウワバミの腕輪は一定量の物体を自由に出し入れできる魔法の道具であった。

巨木の林を抜けた先に見えた祓い所は、紋様を刻まれた霊石で囲まれた形状をしていたが、そこを毒々しい瘴気しょうきで満たし、汚し、魔物が3体蠢いていた。

切り株型の魔物『カーススタンプ』であった。

主にチャッホーの奇声に気付いてカーススタンプ達は身構えていたが、魔物達の想定を越える速度で加速してチャッホーが先頭にいた1体に飛び掛かった。


「遅いわぁっ!!!」


猛烈なラッシュパンチで先頭のカーススタンプを粉砕するチャッホー。

これに手近な1体が側面から枝の腕を伸ばして攻撃に掛かった。が、


「どこ見てんだぁっ?!」


遅れて飛び込んできたツヨコが斧でこの個体を真っ二つにして仕止めた。

残る1体は『呪詛じゅそ』の能力をチャッホーとツヨコに掛けようとしたが、最後に飛び込んできたムツコに『浄めの琥珀(きよめのこはく)』を投げ付けられて呪詛を打ち消された。


「残念だったねっ!」


ここでチャッホーとツヨコが最後のカーススタンプに攻勢を掛けて枝の両腕と胴体の左右側面に大きな損傷を与え、怯ませた。


「せぇあぁーーっ!!」


とどめに、ムツコは魔力を込めたレイピアの7連撃を打ち込み、最後のカーススタンプは滅ぼされた。


「よ~しっ、解放解放っ! ちゃっほぉうっ!!」


取り敢えず勝利の踊りを踊り出すチャッホー。


「お前らも踊れっ! 実戦は初陣だったんだぜぇっ?! そらそらぁっ」


「ええっ?」


「恥ずいなっ」


チャッホーが踊りながら絡んできたので仕方無く、最初はやや赤面して、その内ノリノリで踊り出すムツコとツヨコ。元々ダンスは嫌いではなかった。


「よしっ、踊り止めっ! いつまでもやってんだっ。この浮かれポンチがっ!」


急に止めて説教し出すチャッホー。


「なんだよっ?」


「お前が誘ったんだろっ」


「いいからっ、取り敢えず聖水撒いて魔除けの簡易陣かんいじん組んで浄めっぞっ?!」


カーススタンプの残骸を容赦無く蹴り出して、聖水を雑に巻き出すチャッホー。


「雑っ! ちゃんとやりなよー、チャッホー」


「あたしらにまで聖水掛けんなっ! わざとだろっ?」


「浄めるぜっ! ちゃーーほぉーーーっ!!! 合わせろっ」


「もうっ」


「やり難いっ」


ムツコとツヨコは不満顔であったが、3人は協力して、聖水を触媒とした簡易な魔除けの魔法陣を発動させて、機能不全になっている祓い所を保護した。

祓い所を囲む霊石の紋様が僅かに発光しだした。


「これで暫くは持つぜぇっ! あとは地元の穀潰し冒険者ギルドのヤツらにでも連絡しときゃ上手くすんだろっ? 次だっ、次っ!」


チャッホーは即、高速で走り出し、ムツコとツヨコを慌てさせた。


「速っ」


「落ち着き無さ過ぎるアイツっ!」


2人は急いで追い掛けていった。



それから3人は残る2ヶ所の祓い所と転送門を手早く解放し、目指していた怪木の宮のエルフ郷の門の前までたどり着いた。

郷を覆っている壁と一体化した門は、木製だが念入りに魔除けが施されていた。

屋根付きの見張り台には2人の弓を持ち武装した長い尖った耳を持つ端正な容姿のエルフ族がいた。

やってきた3人に少なからず慌てている様子だった。


「モブっぽい人までイケメンっ!」


「あたしらより耳長いなぁ」


「お~い、勇者連れてきたぞ? とっとと調べろーい」


「チャッホー殿っ、少々お待ちをっ!」


1人が小さな水晶玉のような物を取り出した。玉は淡い光を放ち、それは3人を照らした。


「・・はいっ、確かにっ! 門を開けますっ」


玉は鑑定の効果を持つ魔法道具であるらしかった。程無く門は開かれ、3人はエルフ郷へと入っていった。


「ほぉ~、映画のセット感あんねぇ」


「ポッターじゃなくて指輪の方だな」


エルフ郷は柱で補強された円柱状の土壁の建物が目立つ、中世風の外観をしていたが、小綺麗に片付いている為に確かに映画のワンシーンのようでもあった。

郷全体にハーブティーのような香の匂いも漂っている。

老若男女の郷のエルフ族達は見張り同様、長く尖った耳を持ち端正な顔立ちとスタイルをしていた。

服装は男女共に上半身は長袖の丈が腿くらいまであるチュニックを着た上から皮のベストを着ており、下半身は男は緩めのパンツのブレーかタイツのようなパンツであるショース。

女はいずれも簡素なチノパンかスカンツを穿いていた。靴は男女共にショートブーツかブローグを履いている。

大人は腰のベルトに男は小剣、女は短剣を差してもいた。

郷のエルフ達は3人の登場にやや戸惑った様子だった。


「エルフは寿命が長いっていうけど普通に歳は取るみたいだから、こうして見ると普通に『全員映画スターみたいなファンタジー村』って感じだね」


「それはそれでおかしいけどな」


「おいっ、観光じゃねーぞっ? とっとと長老んとこ行くぞっ?!」


と言いつつ、既にチャッホーは走り出していた。


「あっ? またっ」


「せっかちなんだよっ」


2人も慌てて走り出した。


「よくお越し下さいました。近場の祓い所と転送門まで解放して頂いて。ありがとうございました」


鳩尾の辺りに左手を当ててエルフ式の礼をする長老。女性であった。

長老の家は魔除けが施されている以外は他のエルフ達の家とさほど変わらない小ぢんまりとした物であった。

室内では郷全体に漂う物と同じ香が焚かれていた。これも魔除けの効果があった。


「南のまだ使える転送門からここまでの途中のヤツだけなっ! コイツらの修行だからよっ! よっ! よっ!」


よっ、言いつつ蔓のような腕を伸ばしてムツコとツヨコの肩をバシバシ叩いてくるチャッホー。


「痛いっ」


「やめろよ」


「勇者殿御二人も、初めての使命なのですね」


目を細める長老。


「あ、はい」


「ども、こんなんですいませんっ」


エルフの長老とはいえ、アマラディアの一般住人側の者に『勇者』として初めて接されて緊張してしまう2人。


「で? 状況と護衛は?」


「はい。・・ゼリット」


長老が呼び掛けると、長老の後方に控えていたエルフがフードを取って進み出てきた。

着ている服は郷の男達と変わらないが、その上から厚革の鎧を着込み、小手と脛当も付けていた。腰の左に雷の属性を帯びた小剣を差し、右手の中指に蛇の装飾の指輪を嵌め、額には眉間を飾るサーリットを付け、フード付きの魔除けのポンチョを羽織っていた。

人間でいえば二十歳前後に見え、エルフ達の中でも抜きん出て容姿が整っていた。


「はぁ~、凄い・・・・美人っっ。くぅ~っ、惜しいっ!」


「いや男装だし、ヅカ的に・・有りだ!」


「つよ子?!」


「ひっひっひっ」


「・・・」


わちゃわちゃしだすムツコとツヨコに名乗るタイミングを逸したらしいゼリット。


「勇者の力は持ってるけどよ、気分的にはこっちに来たばかりのそこら辺の来訪者と変わんないから、観光気分が抜けてねーんだ」


一応フォローするチャッホー。ゼリットは軽く咳払いした。


「ゼリットです。『硝子の魔女』討伐まで、護衛させて頂きます」


ゼリットは、静かにエルフ式で一礼した。



約20分後、一行はエルフ郷から北西に進んだ先へ来ていたが、そこは、


「すんごい、これっ」


「魔物と動物もエルフもお構い無し、か・・」


「ちゃほっ! 手強そうだぜぇっ!」


巨大植物の森は、一行の前方から全て『ガラス』に変質していた。ツヨコの言う通り、ガラス化に捲き込まれたと見られる魔物や野生動物やエルフ達もガラスと化していた。

正常な森とガラスの森の境には紋様の彫られた細長い石柱が幾つも打ち込まれており、それらの石柱は淡く発光していた。


「ガラスの魔女の呪いです。どうにかここで食い止めていますが、長くは持ちそうにありません」


「ヤバいヤツなんだね・・」


「この先のガラスの廟に納められていた『グラスレイピア』を取り込んでこの有り様だっ。このまま育つと間違いなく魔王軍の幹部級になっちまう! 今の内に叩いとくぜ?」


「魔女討伐の暁には霊剣れいけんグラスレイピアを持ってゆかれるとよいでしょう。歴代勇者の方々も使われたといいます」


「おうっ、使ってた使ってたっ! 今回はムツコが使え。まぁ鉱物系だからツヨコもいけるだろうけどよっ」


「レイピアは細過ぎて苦手だよ」


「私かぁ」


ウワバミの腕輪からミスリルレイピアを取り出してみるムツコ。


「このままガラスの魔女討伐に直行するのはリスクが高いので、まずはこの森のピクシー達の力を借りましょう」


ゼリットはガラスの森には分け入らず、怪木の宮の西部へと3人を案内した。

森を駆ける一行の移動速度が速いこともあって、5分も経たない内に、


「もう少し行った所から脇に逸れれば、ガラスの魔女の眷属に直接占拠された転送門があります。ピクシー郷にも近いので、解放しておけば交渉材料になるかと・・」


ゼリットが提案してきた。


「ちゃほほぅっ、やっちまおうぜっ?! どれくらいか戦力わかるか?」


「郷の方で、見張りの使い魔は放っています。『グラスドラゴン』が1体、『グラスナイト』が3体ですね」


「ふーん。・・お前ら作戦立ててみろYOっ!」


「えーっ?」


「おおっ?」


「慣れだ慣れ」


ムツコとツヨコは顔を見合わせた。


「えーと・・ゼリットさんは弓を使うんですよね?」


「はい。溜め撃ちならグラスドラゴンにも通る攻撃を撃てます」


ゼリットは右手の中指にした『ウワバミの指輪』から霊木れいぼくでできた弓『エルフィンボウ』とベルト付きの矢筒を取り出した。

ウワバミの指輪はウワバミの腕輪程の収納スペースはないが、物を出し入れできた。


「それならゼリットさんは森から援護射撃してくれよ? 最初は・・そのグラスドラゴン? てのの注意を引いてほしい」


「わかりました」


「チャッホーは私とつよ子とタイミングを合わせてグラスナイトに攻撃しよう」


「いいぜぇっ」


「突入前に使い魔達をグラスナイトにけしかけて隙を作りましょう」


「お願いします」


「緊張してきたっ!」


作戦は決まり、一行は占拠された転送門へと進路を変えていった。

・・・瘴気で満たされた、怪木の宮のピクシー郷に一番近い転送門にはガラス片でできた小山から首のみを出したガラスでできた竜グラスドラゴン1体と、全身ガラスでだきた鎧の騎士グラスナイト3体が凍り付いたように静止して、占拠した転送門を守護していた。と、


「っ!」


最初にグラスドラゴンが気配を察し、それにグラスナイト達が反応した。その次の瞬間、森から超高速で飛来した魔力を帯びた矢がグラスドラゴンの首の中心に撃ち込まれた。


「フルゥウウウッッ?!!」


笛が鳴るような鳴き声を上げて仰け反るグラスドラゴン。

グラスナイト達がガラスの武器を構え、そちらに突進しようとすると、突然の転送門の周囲から白いミミズク達が素早くグラスナイト達に襲い掛かり、一撃脚の爪でガラスの兜等を切り付けて飛び去っていった。

出鼻を挫かれたグラスナイト達が体勢を立て直す前に、ムツコ、ツヨコ、チャッホーが周囲の森から飛び込んできた。


「ちゃーーほぉーーーっ!!!」


「もらったぁっ!!」


「弾けてっ!」


3人はそれぞれグラスナイトを1体ずつ担当していた。チャッホーは最初にガラスの槍を護拳で砕きに掛かり、ツヨコはガラスの盾をミスリルグレートアクスで切断し、ムツコは『炸裂する琥珀』を投げ付けて爆発させて相手を怯ませた。

いち早く体勢を立て直したグラスドラゴンが口からガラス欠片の波動を放つ『グラスブレス』を3人に吐く構えを見せたが、すぐにゼリットの魔力を乗せた矢がグラスドラゴンの口に撃ち込まれて阻止された。


「ちゃーーほほほほほぅっっ!!!」


武器を失ったグラスナイトを盾を構える隙さえ与えずにラッシュパンチで一方的に粉砕するチャッホー。


「どぉりゃーーーっ!!!」


盾を失ったグラスナイトが受けようと構えたガラスの槍の柄ごと叩き切って胴体を真っ二つにして倒すツヨコ。


「よいしょっ」


まず爆破でヒビ割れていたガラスの盾をミスリルカイトシールドを打ち付けて砕いて怯ませるムツコ。


「せぇああぁーーっ!!!」


ムツコは怯んだ相手に得意の7連突きを放って風穴を幾つも空け打ち倒した。


「ブレス対策するぜぇっ! ちゃーーほぉーーーっ!!!」


チャッホーは身体を液体金属化してグラスドラゴン口に巻き付いて口を閉ざしてしまった。

これに巨体大暴れするグラスドラゴン。


「危ねっ、・・むつ子っ!」


「わかってるっ」


ムツコは地面に手を当て集中した。


「生い茂り、捕えろっ!!!」


植物創造と植物支配の力で巨大な蔓を生やして暴れるグラスドラゴンを捕え、絞め上げた。

動きを止めた隙を突いて、ゼリットの魔力を込めた矢がグラスドラゴンの眉間の辺りに命中し、吹き飛ばした。

それでもまだ身を震わし、蔓とチャッホーを振り払おうとするグラスドラゴン。


「溜まったっ!!」


魔力を溜めていたツヨコを蔓を駆け昇るようにしてグラスドラゴンに迫り素手の掌底突しょうていづきをグラスドラゴンの首に打ち込んだ。


「っ!!!」


衝撃を受けたグラスは粉々に砕け散った。くるりっと宙返りをして飛び退いて降ってくるガラス片とチャッホーから退避するツヨコ。


「見たかっ! 私の新技『バラバラになれっ、突っ張り』っ!! 劣化と金属支配の合わせ技だぞっ?! にひっ」


「やるじゃん、つよ子」


「いえーいっ」


ハイタッチするムツコとツヨコ。


「さすがですね御二人とも」


森からゼリットも出てきた。周囲には使い魔の白いミミズク達を伴っていた。


「いやぁ、ゼリットさんこそナイスショットでしたよぉっ」


「ひっひっひっ」


「よしっ! お前らっ、転送門を清める前に、このパーティーでの初勝利を祝って勝利の舞いを舞おうぞっ?!」


「勝利の舞い??」


「またぁ?」


「どうせ止めるタイミング、お前の気分次第なんだろぉ?」


「ちゃーーほぉーーーっ!!!」


困惑するゼリットに構わず、チャッホーは奇妙なダンスを踊り始め、慣れた様子でムツコとツヨコも続いた。


「ええ? ええっ??」


大いに困り果てながら、ぎこちなく踊りに付き合つゼリット。

これには使い魔達を介して様子を見ているエルフ郷の者達も反応に困るのであった。



この後、立ち寄ったピクシー郷に一番近い祓い所は魔物に占拠されていなかった為、一旦休憩を取ることになった。

エルフ郷でもロクに休んでいなかったのと、直接、知恵の塔と連絡を取っていたエルフ郷と違い、ピクシー郷での状況がはっきりしない、ということもあった。

休憩と言っても、傷んではいた祓い所を軽く補修した後で火も起こさず、座って水筒のハーブ水を飲みながら、エルフ郷でもらった。ハーブとナッツとドライフルーツの入った固い円盤型のパンを噛るだけのことであったが。

ゼリットはこれを食事用のナイフで器用にカットして食べていたが、ムツコ達は直接噛り付いて食べていた。


「ゼリットさんはずっとエルフ郷を守ってたんですか?」


「いや、私は郷を出て冒険者をやっていました。200年ごと地下から災いが来るのはわかっているワケですから、少しでも鍛えようと」


「真面目だなぁ」


「修行にかこつけて、郷の外の世界に出たかっただけじゃねーかぁ? ちゃほほっ」


「・・そうかもしれませんね」


ゼリットは苦笑した。


「御二人は召喚される前は何をなさっていたんですか?」


「学生ですよ」


「あたしはそのオマケみたいなもん」


「オマケ?? ・・そうですか。やむを得ないとはいえ、いきなり勇者の使命を背負われて、大変でしたね」


「いやまぁ・・」


「そもそもなんであたしらだっけ? 光の適正があって、神器? に適応できたらこの世界の人らでもいいんじゃないかと思うだけど? チャッホーとかも本気になったらめっちゃ強いじゃん?」


「ダメだ」


チャッホーは円盤型のパンの残りを全て口に放り込み、噛んで飲み下してから続けた。


「魔法が殆んど無い世界から来たヤツらには『魂の余白』があるんだよ。それがないと神器を取り込むのはちょっとキツい。それにどの時代も、『魔王』は」


真顔になるチャッホー。


「この『世界の全ての命を殺せる力』を持ってんだ。それを持つ者が魔王になるから。だから『別の世界の命』を持つ者が必要なんだよ」


「魔王・・そんな感じ?? 怖っ」


「でも倒しても200年後にはまた別の魔王が出てくんだろ? キリ無いじゃん」


「そういう摂理で回ってる世界だからなぁ。とにかくその都度、勇者達に来てもらうしかないってワケさっ! ま、色んなヤツが来るからそこは面白ぇけどなっ! ちゃほほっ!!」


「・・・」


「・・・」


なんともコメントを返し辛くなるムツコとツヨコだった。



ピクシー族とは掌に乗れる程小さな小人で、背に虫の羽のような羽根を4枚持っていて、自由に飛び回ることができた。

その郷は全てが小さく、ミニチュアの世界に来たようだった。

飛行する種族である為、余り高く育たない木の枝にツリーハウスを作って暮らしていた。

ムツコとツヨコには小人は、童話のピーターパンやティンカーベルのような格好をしているイメージがあったが、訪れた郷のピクシー達はほぼ全員、男女ともに貫頭衣の上からインドのサリーを簡素にしたような布を纏う格好をしていた。

この衣服の背の部分には切り込みがあり、そこから羽根を出しているようであった。

ピクシー達は羽根を出したり消したり自在らしく、肉体労働等で邪魔になる様子の者達は羽根を消して働いている。


「小っちゃいなぁ~~~カワぁっ」


ときめいた様子のムツコ。


「踏んじまいそう」


身も蓋も無いことを言うツヨコ。


「実際危ないんで慎重に進みましょう。通常、ピクシー達は郷の中までは入れてくれませんしね」


エルフ郷では異邦人への戸惑いを感じたが、ピクシー郷ではもっと物理的な警戒心を感じさせる物があった。


「ここの郷は俺も初めてだ。族長? 長老? どっちでもいいが、どこで誰と交渉すりゃいいんだ?」


「こっちです。族長ですね」


ゼリットは周囲のピクシー達や小さな建物達に注意しながら先導していった。

ムツコとツヨコも巨人のなった気分でそれに続いていった。

・・族長は1つの背の低い木全体に造られた砦のようなツリーハウスの最上階の部屋のバルコニーから姿を表した。

若く見える男のピクシーで、最初は羽根を出さない姿で現れたが、一行を前にするとわずかに発光する羽根を出現させた。


「この忌まわしい森の祓い所や転送門を次々解放しているらしいな」


「ほんの挨拶代わりだっ! 話はエルフ郷から伝わっているだろ? 俺達に手を貸してくれ。硝子の魔女をぶっちめるっ!!」


「エルフ郷としても頼みます。神聖な勇者の力があれば十分可能だと、ここまで短い道行きでも確信できました」


「勇者か・・」


探るようにムツコとツヨコを見る族長。


「ども、勇者ですっ」


「新米だけど!」


「・・子供じゃないか」


少々呆れる族長。


「うっ」


「それを言われると・・」


返す言葉がないムツコとツヨコ。


「硝子の魔女を放置すると、お前らピクシーもエルフ郷の連中と一緒にガラスのオブジェにされるだけだぜ?」


「先代の勇者にも世話になったのですよね? 協力して下さいっ」


「・・・」


「お願いしまーす!」


「お、おお」


ムツコが頭を下げたのでツヨコも合わせて頭を下げた。

族長は溜め息を吐いた。


「・・わかった。協力しよう」


「ホントですかっ?!」


「マジでっ?!」


「ただ、勇者が簡単に頭を下げるんじゃない。場合にもよるであろうし、地域や種族によっては妙な印象を持たれることもあるんだぞ?」


「はい・・」


「気を付けるよ・・」


いまいちアマラディアの作法等を把握しきれていない2人。


「ありがとうございます族長!」


「早速作戦会議だっ! チャッホーっ!!」


「ここでか? まぁ、お前達は大き過ぎるからな・・」


バルコニーで巨人達と協議するハメになりそうで、族長は少々面食らっているようでもあった。



約40分後、チャッホー以外はガラスの破片対策としてエルフ郷で借りていた、全て魔力を帯びたゴーグルと耳当て帽子と鼻から下を覆うスカーフをした一行は、ガラスの森を疾走していた。

ここではガラスの身体を持つ大蜘蛛『グラススパイダー』と、ガラスの身体を身体を持つ大きな蜂『グラスワスプ』が明確に森への侵入者を排除する為に多数配置されていた。

一行はそれらを蹴散らしていった。先頭をチャッホー、その左右の後ろにムツコとツヨコ、殿を弓を持つゼリットが務めていた。

ゼリットは主に取りこぼしや、遅れて側面から襲ってきた相手の始末を担当していた。


「ちゃーーほぉーーーっ!!! ピクシー達とも話は纏まったし、後は攻め落とすだけだぜぇええっ?!」


「私、蜘蛛とか蜂苦手っ!!」


「あたしも好きじゃねーけど、こんだけ犬みたいに大きいと、逆になんともないなぁ」


「移動手段も確保しておけばよかったですねっ!!」


一行はそのまま強引にガラスの森を一直線に抜け、ガラスの廟を目指したが、


「っ?!」


「あれ?」


「デカっ!」


「なんと・・」


ガラスの廟があるはずの場所には城のようなガラスの館が建っていた。


「廟ってこんなおっきい所だったの?」


「時間掛かりそ・・」


「廟をベースに拡張しやがったなっ! めんどくせっ!! 苛立ちの舞いっ」


気に入らない気持ちをダンスで表現しだすチャッホー。


「やはりピクシー達とも連携していてよかったですね? 合図しましょうっ!」


ゼリットは頭上に魔方陣を発生させ、真上に向けて矢を放った。魔方陣を潜った矢は色とりどりに光りながら空高く上昇し、そこで七色の激しく発光しながら弾け飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ