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双子勇者  作者: 大石次郎


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23/23

違う空

伏魔殿からピックアップしてもらってから約2時間後、あたし達は知恵の塔の転送門から、初めてアマラディアの神の住まう異界『光の園(ひかりのその)』へ来ていた。

全員、むつ子が琥珀で造った精神耐性を上げる『心の護り(こころのまもり)』をネックレスにして首に掛けてる。

防具は修復したギャンベゾンだけ。

アビシェク、ヂーミン、ユーゴはそれぞれヒヒイロカネ製の大剣、長剣、小剣2本をそれぞれ鞘に入れて携帯していた。

あたしと、むつ子はそれぞれ『光』を持っていた。魔王を倒した神槍は(しんそう)まだあたし達と共にある。


「なんだコレ??」


「お墓?」


「槍だね。強い力を持った」


羽根の形を持った光が降り注ぎ続ける空間の、透明の地面には無数の『槍』が突き立てられていた。


「でもなんか透けてない?」


「『槍の幽霊』か?」


あたし達は少し戸惑ったけど、遥か先により強い光が見えたから、そちらへ歩きだした。

近付くと、それが結晶化したどちらが頭でどちらが尾かわからない双頭の龍だとわかった。龍は眠っている。

その結晶に囲まれるようにして置かれた、生きた木でできた玉座に、『神』が座っていた。

目隠しをした人間の若い女性に見えた。簡素な法衣ともドレスともつかない服をきていて、右手に細い、杖にも見える水晶の槍を持っている。


「よく来ました。この時代の魔王を、倒してくれましたね」


あたしと、むつ子は目配せし合い、持っていた光を合わせてコンパクトなサイズになって植物化も装飾程度に収まった神槍を実体化させて、2人で持って構えた。

男子3人も剣を抜いて構える。

神は表情を変えない。


「いつの時代も、形を変え、『寄り合う星々の光』は必ず勇者達に力を貸すのですね。懐かしい、もう決して、私には扱えない、唯一の槍」


愛おしく、哀しそうにする、神。


「魔王の話は本当なの?」


「答えろっ! 神っ!!」


「本当です。今回の魔王は、とても優しい子でしたね。心苦しく思います」


あたし達は神槍の光を閃かせて神の片頬を切り裂いた。

血の代わりに光の粒子がほんの少し零れ出し、それが様々な生き物達になって駆け回り、飛び回り、泳ぎ回り、いずこかへ消えていった。


「抵抗はしません。私は罰を受けるべきでしょう」


「他に方法は無いのですか?」


「下水処理場みたいな」


「直接地下世界に乗り込んで処理できないのか?」


男子達3人も身を乗り出す。


「今の穢れの濃度であれば、多少の改善策もあるでしょう。しかし、根本的には・・穢れには明確な害意があるので、犠牲無くは滅することはできません」


「あんたは直に動けねーのか?」


「私はアマラディアの創造に力の大半を使い果たしました。私では穢れを滅ぼしきれません」


「繰り返すしかないの・・」


「これ以上の摂理を、私は創れなかったのです」


・・あたし達は、神槍を2つの光に戻した。すると、光から『戦いを終えた』と判断されたか? 2つの光は輝きながら消えちまった。

神はいたたまれない顔で小さく溜め息を吐いてた。

たぶんこの人、元は人間なんだろうな、って。


「ま、そうとなったらしょうがないよねっ! オレら『居残り組』は次の代がもうちょいマシに立ち回れるように仕事しよう」


「しかし、勇者の力は返すのでは?」


「アマラディアにある限り、神器(しんき)を持って産まれたことは有効ですし、知識や技は地球に戻っても残ります」


「上手くすりゃ、儲けられそうだなっ!」


「アビシェク」


「ハッハッハッ!!」


むつ子が注意したけど、仕事でガチのスポーツ選手とかをするのはやっぱルール違反だろな。

つっても、むつ子も『知識は持ち帰れる』ってムゲンやグルモンからも聞いてたから、英語、仏語、台湾、インド方面の言語は知恵の塔の書庫から引っ張り出した地球の資料をひっくり返してガーっ、と勇者パワーで覚えてたけどなっ!


「・・よろしいのですね? それぞれの塔で別れが済めば、高めた勇者の力を対価にそれぞれの願いを叶えましょう。賢者と時の精霊達にもそのように報せます」


「神っ! しょーがねーから、見逃しただけだかんなっ」


「はい。気持ち好く世界を救わせてあげられなくて、ごめんなさいね。ツヨコ」


「・・ふんっ」


優しく語り掛けられてちょっと赤面しちまう。我ながらチョロいっ。

神は少し、微笑んだ。その微笑みに合わせて光の園の明るさも増してきた。いちいち神だぜ。


「では・・」


あたし達は光に包まれた。むつ子が、不意に思い付いた、って顔で話し出した。


「ねぇっ! 魔王の魂は消えてしまったの?」


神はスッと光の先を指差した。

そこには童話みたいな、丘に立つ可愛らしい家があって、その軒先で、人間なら幼児くらいに見える魔族の子供達が笑い合って遊び合ったり、ケンカしたり、おやつを食べたり、昼寝をしたり、本を読んだり、ハーモニカを吹いたり、お絵描きしたりしていた。

その中には見覚えのある単眼の女の子もいた。


「せめてもの・・」


「ああ」


むつ子も、誰も、それ以上何も言えなかった。



う~~~っっっっ、、、改めて帰ってみると、


「アスファルトの臭いが臭いっ!!」


私、ムツコ・ヒダカ、改め、『日高睦子(ひだかむつこ)』は懐かしの家の自転車に股がった状態で地球に戻ってきてた。

場所は件の別れ道。腕時計を見ると(ウワバミの腕輪でも黄金羅針盤でもなくSEIKO)、私が死んだ日の到着時間よりたぶん5分くらい早かった。


「グルモン、ちょっとサービスしてくれたんだ。よ~し、この後、アレがこう、で、そこで、こうっ!」


イメトレしてみるけど、


「いや待ってっ、私1人だよっ! つよ子置いてきたわっ」


つよ子は普通にアマラディアに残っちゃったんだよね・・。


「はぁ、緊張するっ! でも、アビシェクも戻ってるだろうしっ、私も頑張んないとっ!!」


「ホントだよねぇ」


「っ?!」


背後から聴き覚えのある声がして振り返るとっ!


「・・ピスカぁっ?!」


角は無く、なんとなく日本人っぽく少しモッサリしたけど、褐色の肌はそのままに、私も通ってた中学の制服を着て、スパッツを穿いて、ヘルメットを被ってキックボードに乗り、ヌンチャクまで持ったピスカが居たっ!!


「よっ、ムツコ。ピスカ的には2年ぶりっ!」


「2年?? はぁ???」


「塔でアビシェクを見送ってから、2年掛けて地球に転移する対価を溜めたんだよぉ」


えっ? 2年は結構掛かってるけど、来れることは来れるの??


基点(きてん)(目印になる場所)がムツコとアビシェクしかなかったけど、アビシェクの方はピスカまで死んじゃいそうだったし。それにぃ」


ピスカはここで挑発的な顔で私を見てきた。


「なんか抜け駆けみたいになったらカッコ悪いでしょ?」


「・・っっ、望むところだよっ?! というか、あんた地球での設定どうなってんの? ここの学区の中学に入ってんの??」


「ピスカは日高家の遠縁の日系ミャンマー人だよ? 両親は元々事故で亡くなってた人から適当に改変しといた」


ケロっと言うピスカ。


「日高家? 何、ピスカ、あんたっ」


「ピスカは2ヶ月前に日高家に養女に入った『日高ピスカ』だよ? よろしくぅ、お義姉ちゃんっ!!」


「お義姉っっっ???」


いやいやいやっ! 急に情報多いっ!! 私が混乱してると、


ピーっ! ピーっ! ピーっ! ピーっ!


防犯ブザーの音が向かって右の細道の方から聴こえたっ!! 続けて、


「助けてぇーっ!!!」


「ああっ、もうっ! この件っ、始まっちゃったじゃんかっ」


私はスマホの使い方に一瞬、手こずってしまいながら警察に通報するっ。


「任せてっ! 魔法も異能無しで、身体が弱くなってもっ、ピスカはヌンチャクの技は覚えてきたっ!! アチョーっ!!!」


キックボードの上でヌンチャクを振り回すピスカっ。なんでヌンチャクだよっ?! 普通に催涙スプレーとか持って地球に来いよっ!!


「ああっ、とにかく行くよっ?! ナイフ持ってるヤツいるからねっ?!」


「アチョーっ!!!」


「あんたそれ言いたいだけでしょっ?!」


とにかくっ! 私達は自転車とキックボードを爆走させて、女の子を助けに行ったっ。もうなんかヤケクソだっ!!


あたしはユーゴ、ヂーミン、ミリットと一緒に、飛竜に乗って地下世界への大穴から飛び出してきた。

地上では拠点造りがもう2年、続いてる。むつ子とアビシェクを見送ってから、賢者達や各種族や国の代表と話し合って、叛逆砂漠の大穴は閉じないことになった。

穢れは少しずつ削って、200年後の魔王の災いを少しでも和らげる。戦いの構図を地下世界の住人と地上世界の住人の全面戦争にしない。

そういう主旨で今、地下世界の魔族の生き残りの代表達と交渉してるけど、まぁ難しいね。まず穢れの実体が掴み難いし・・


「ムツコさーん!!」


『魔工アーマー』っていう作業用人型ロボットに乗ったマコトが、コクピットを開けて魔工アーマーの手で手を振ってきた。

マコトのお腹はちょっと大きい。今は王族の身分を捨てて、ノージンと結婚していた。そのノージンも隣で魔工アーマーに乗ってる。


「もう作業はいいってマコトっ!!」


というか、叛逆砂漠もこの大穴周辺も普通に危険だしなっ。


「動ける内は働きたいんですっ!」


「ああ、そ。先、塔に戻ってるっ! ノージンもフォローしろよっ」


「了解ですっ!」


知恵の塔はこの計画の専任になって、今は大穴のすぐ近くに固定されてる。あたしらの拠点だ。


「幸せそうだね」


「いや、こんなとこで働くことはないでしょ?」


この2年でヂーミンとユーゴのイケメン度合いは増した気がするけど、性格は変わってない。

あたしが『あたし、ヂーミン、ユーゴで勇者の力を当分する』と願って、力を残したこともあって、今でもあたし達は結構戦える。

あれから経験も積んだしなっ!


「マコトは真面目なのに、ピスカのヤツ、この2年、自分の目的の為だけに対価を集め続けて、呆れたヤツだぞ?」


ミリットは純血のエルフなので見た目が全く変わってない。性格も。ただ魔力だけは強まって、将来的にムゲンの後を継いで、知恵の塔の主になると見られていた。

姉ちゃんのゼリットにはアマラディアの政情の変化を偵察してもらってる。


「まぁそういうヤツもいないと、世の中つまんないぜ? むつ子のフォローになるし。向こうで今頃上手くやってるだろ?」


「ムツコか、ちょっと懐かしいね。アビシェクもっ!」


「地球っ! 羨ましいなぁっ!! パリのエクレアっ、食べたいよぉーーっ!!!」


あたしが、ユーゴに笑ってしまっていると、塔の屋上が見えてきた。

最近、ムゲンがゴーレムに命じて菜園を造り出したから、ここだけ見ると完全に農地だ。

グルモンとキューレと瓢箪達が農作業していた。

まぁ、キューレは当然、って顔でサボってるけど。東屋もあって、そこに珍しくジンゴロが来ていたから、ムゲンがチェスかなんかの相手をしてた。


「おーいっ!! 昼飯にしようぜぇーっ?!」


「牛肉ランチだぞっ?!」


相変わらずのオーダー。野菜も食えよ? たっぷり育ててんだからさっ。



私はどうにか中古の軽自動車を停めた。ここはいつか魔王に見せられたまぼろしと同じだから時々ヒヤッする。

というか、空港の駐車場とか初めて来たっ。広っ、高っ! 遠いわっ!!

私は空港へ急いだ。最初は早歩き、駆け足っ、ダッシュっ!

3年ぶりっ! 3年ぶりにアビシェクに逢えるっ!! あいつ、インドからの出国と『まともな国籍』を取るのに手間取りに手間取っちゃってっ!

私なんて死ぬ程バイトしてヂーミンとユーゴのお墓参りまで済ませちゃったよっ。

ピスカは「いや向こうで生きてるし」って余裕でスルーしてたけどっ! ドライかっ。


「アビシェク、アビシェクっ! アビシェクっ!! って、パンプス走り辛いわっ!」


なんで私はっ、運転してる時はスニーカーだったのに降りたらカッコ付けて履き替えたんだかっ! 脱いで、手に持って走りだすっ。

擦れ違う人達に何事かっ? と振り返られるっ。

空港の入口まで来て、警備員にギョっとされてると、中からアビシェクが使い込んだ鞄1つ持って出てきた。

改めてプロレスラー体型で、半袖だったから腕のタトゥー全開だから『来日した殺し屋』みたいになってる。


「ムツコっ!!」


「アビシェクっ!!」


私達は駆け寄り合って、抱き合い、アビシェクは笑いながら私をクルクル回転して振り回したけど、勢いが凄過ぎるし回転が長過ぎるっ!!『必殺技』みたいになってるっ。

仰け反る警備員っ!!


「いい加減にしてっ!!」


「おおっ? 悪い悪いっ」


どうにか降ろしてもらえた。元勇者じゃなかったら三半規管をヤラれてるところだよっ! 取り敢えずパンプスを履くっ。


「久し振りだな、『言葉』、これでいいよな?」


「うんっ!」


そう私達はさっきから『アマラディアの共通語』で話していた。電話やメールや手紙で色々な言語で話してきたけど、結局これが一番しっくりきた。

アマラディアで、あの異世界で、私達はいつか言語ボーナス無しでも共通語で話せるようになってたから。


「・・ん? ピスカは?」


「何? 逢いたいの?」


「いやそういうことじゃなくてよ、わざわざこっちに来たならいるもんだってな」


「なんか『ダンスの大会で忙しいし、最初は譲ってあげる』だってさ」


「なんだそりゃ? ははっ、ダンスやってるのか?」


「うん、つよ子のシューズ履いてるっ!!」


「そっか」


目を細めるアビシェク。3年経って、エルフの血ももう入ってないから雰囲気は違う。でも、私の知ってるアビシェクだった。


「ヂーミンとユーゴの墓参り、俺も行かねぇとな」


「ユーゴのお墓はちょっと寂しかったけど、ヂーミンはちゃんとしてたよ。・・ユーゴも、パリで私が2人分エクレア食べてきたからっ!」


ユーゴの生い立ちは思ったよりちょっと複雑だったみたい。


「わかった。またパリも行こう。皆で」


「・・・うん。絶対ね」


「おう」


アビシェクは私の髪に触れた。私は大きなアビシェクを見上げる。


「ムツコ、『いい顔』になった」


「そこは『綺麗になった』でいいよ」


「おおそうか」


私達は笑い合って、それから、ありったけの勇気と冒険を込めて、長いキスをした。

読んでくれてありがとうございました。

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