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双子勇者  作者: 大石次郎


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20/23

新世界

魔族の軍勢を凍り付けにすると(想像してたより規模が50倍くらいあって腰抜けるかと思ったっ!)、即座にムゲン達4大賢者が地下世界への入り口に簡易封印を施した。

それからまともに近接で相手する必要が無くなった地上の制御不能状態のレザーフィッシュまみれの残党は、全軍の遠距離攻撃なんかでサクッと処理。

怪我人や、遺体もできる限り回収し(今は機械的に考えてる)、主に『私達が敗れて別の勇者を再召喚するハメになった場合』に備え、機神整備班を除く多種族連合軍は4つの賢者の塔内の転送門で叛逆(ほんぎゃく)(抗い逆らうこと)砂漠から離脱していった。


「心残りですが・・」


マコトもノージンと共に離脱してもらった。

もうこっから先は機神での高度な戦闘は無いと想定されていたし、『今回の魔王』がいきなり単騎で突貫してくるタイプだった場合(暴走タイプの魔王で、過去に数体いたらしい)遭遇した途端、即死するだけだった。


『アマラディアに属する全ての命に死を与えることができる』


これが全ての魔王共通の特性で、私達が異界(地球ね)から喚ばれた理由でもあったから。

力を使い果たして深い眠りに落ちたミリットと、お姉さんのゼリットも離脱。

賢者とその協力者は『知恵の塔』の者のみ叛逆砂漠に残った。ムゲンとグルモンと瓢箪達だけ。

簡易封印から約8時間後、応急措置だけど真・機神の整備が終わって整備班が離脱し、ミリット同様ダウンしていたヂーミンがどうにか回復すると、


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!


地響きと共に凍り付いた魔族達が崩れ落ち、その遺骸の氷が組合わさり、凝縮し、1つの奇怪な城となったっ!

まだ賢者達の結界は消えていないけど『下』から押し上げられて錬成され、城自体から結界が張ってきて『結界の内側に結界を張られた』感じっ!! 強引っ。


「・・ふむ、『伏魔殿(ふくまでん)(魔物達の住み処)』か。機神はアメシストにほぼ壊された。『世界の破壊』以外頭にない暴走型でなくて、一先ずは助かったな」


知恵の塔内の、宙に大きな画像を出し易い『物見の間(ものみのま)』に伏魔殿の様子を移しながらムゲンが呟いた。

私達は一先ず鎧は脱いで清潔にした(元が変化の布なので小さくして洗って水気と分離させたらすぐ渇く。下着も)ギャンベゾン姿だった。全員(ひと)っ風呂浴びて食事と仮眠を取っているので、小ざっぱりとはしている。

ヂーミンもさっきまで回復薬を満たした水槽に浸けられていたから(薄い短袖のウェットスーツみたいのを着せられたから裸じゃないよ?)スッキリ顔だ。


「どうするぅムゲン? 今回は勇者を待ち構える気満々だ!」


『臨戦態勢』のつもりなのかな? 変な兜を被ってるグルモン。UFOキャッチャーの景品だったら絶対狙いたい。


定石(じょうせき)(効果的とされる方法)通り機神で相手の結界に穴を空け、ゴーレム軍を送ってルートを取る。それだけのこと」


「ムゲンさん、僕の水の蛇は初手(しょて)(最初の手段)では使いませんか?」


「最終的にはゴーレム達がかなり多く残った。水の蛇は魔王との戦いに取っておくといい」


「そうですか・・」


「まぁここまで来たらあとはアドリブだねっ!」


「ちゃっほっ!」


「いよいよ魔王かっ! 腕が鳴るなっ」


「もう後戻りできねーぞっ、むつ子っ!」


「うん。・・でも、つよ子。そもそも一体なんなんだろうね、『魔王』って」


私はポツリと呟いた。



・・・

・・・・・・5月、風が気持ちいい。


「荷物はこんなもんか?」


「うん、まぁ取り敢えずね」


マンションの駐車場に停めた私の中古の軽自動車から、アビシェクに段ボールを大きな台車に乗せてもらっていた。

私も最初は手伝っていたけど、プロレスラーみたいな体格のアビシェクの間に入ると返って邪魔になりそうだったから、軍手をした手で軽い観葉植物の鉢を1つだけ持って空を見上げていた。

下位飛竜(ワイアーム)が数匹空を飛んでいる。

最近、近くの里山に巣を作ってるみたいだから、近々市役所の『冒険課(ぼうけんか)』で対応することになるかも? 私、課長なんだよね。勇者とっくに辞めてるのにっ!

専門学校も福祉系だったし、福祉課志望だったんだけどなぁ。

最初「元勇者ならコレでしょ?」って私の身長より長い極太のバスタードソード支給されたけど、無理無理っ! 今はもう、凄い頑張っても小振りなロングソード両手を使うのが精一杯っ!

というか殆んどのモンスター、銃で遠くから撃った方が簡単で安全だしっ。


「まぁ、籍はまだアレだけど、お互い時間も取れないし、・・よろしく」


「おうっ! 俺は官舎で(かんしゃ)でもよかったんだけどな」


「えー、気を遣うじゃんか?」


「おお、壁薄いしな」


「スケベっ!」


「ハッハッハッ!!」


帰化したアビシェクは警視庁捜査3課『退魔課(たいまか)』に勤めてる。正直、普通の仕事に就いてほしいけど、そこはお互い様。


「こんにちは」


「コンニチハ」


「コンニハ~」


「こんちはっ」


薔薇みたいな『ワープラント族』の親子とマンションの廊下ですれ違う。

私達の願いで世界が『改変』されてもう6年が過ぎていた。

地球とアマラディアの世界は繋がって、地球にも『魔法』と『魔物』が存在するようになり、アマラディアの文明制限は無くなって、ちょっと対価用の費用は掛かるけど地球と行き来できるようになった。

歴史その物が改変されたから特に混乱はなかったけど、元々地球にあった社会問題や国際問題は『魔法のある世界』に置き換わっても形を変えて、そのままだった。

アマラディアに200年ごとに魔王が現れる摂理(せつり)(世界の決まり)も変わってない。


「テレビとBDの配線これで合ってるかなぁ? ゲームのヤツはここだよね?」


「魔法式なら簡単なんだけどな」


「公務員のお給金じゃ中々買えないよ~」


テレビが点いた。

画面に『イケメン過ぎる民間冒険者会社社長華麗なる経歴っ!!』という煽りで高級ブランドスーツを着て、なぜか浅草で、無駄にスライムと戦ってみせるユーゴが映される。

やる気無さそうに近くに付いて補助魔法使ったりしてるセクシー秘書は、キューレ。チャンネル変えよっ。

秋葉原でアイドルコスのピスカとミレットとゼリットが路上ライブをやってるのが映された。ピスカがセンター。

何やってんだか、チャンネルを変える。女優をやってるマコトが『美容ポーション』のコマーシャルに出てた。う~ん。


「・・なんで皆、地球の日本でメディア活動しようとすんだろね?」


「お前がいるからだろ?」


「そんな大層なっ。冷蔵庫もう冷えてたっけ?」


私は照れてしまって、テレビを消して、キッチンに一先ず逃げた。と、ポケットに入れてたスマホが振動した。

出ると相手は、つよ子だった。


「つよ子っ!」


「うおっ、声、大きいな」


「2週間ぶりくらいじゃないの? もっと掛けなさいよっ。こっちから掛けても留守録ばっかりっ!」


「悪い悪いっ、こっちは文明が発達したせいで、またまた金持ってる国がムチャしだしたり、機械系モンスターがめ~~~っちゃ強くなったりしてさぁ。瓢箪達とかジンゴロに手伝ってもらってんだけど」


「『現役勇者』は大変ね~」


アマラディアに残った、つよ子は勇者の力を返却せずにバリバリ現役で勇者活動に専念していた。


「つよ子か?」


「うんっ、後で代わるっ! グルモンとムゲンは?」


「ふたりとも地球とアマラディアのゲート管理で忙しいみたいだぜ。ムゲンはそろそろ引退したいみたいだけど、ミリットが地球に行ったまま戻ってこないからさぁ。あの子、今、何してんの?」


「インディーズアイドルっ! マコトも女優続けてるっ」


「まだやってたか・・マコトもよくやるぜ。まぁいいや。こっちは皆、元気だから」


「うんっ。あ、待って待ってっ、アビシェクに代わるってばっ! アビシェ~クっ」


「はいよ」


荷物を置いてのしのし歩いてきて代わるアビシェク。職業柄、酒は減らしたとかなんとか話しだした。

私はマンションに来る途中で買ったエンドウ豆ビールなんかを冷蔵庫にしまって、ちょっと汗もかいたし、一回、手と顔を洗おうと、洗面所に向かった。


「・・・」


洗ってさっぱりすると、鏡を見て、なんだか私は笑ってしまう。私達の我が儘(わがまま)で世界を変えてしまった。

だって元々の成功報酬、厳し過ぎたよね? そんな多くは望まなかったけど、ずっと皆仲良くしたかったし、それに本音を言うと勇者を辞めてもちょっとだけ特別なままでいたかった。

今のこの『ほんのり不思議な』世界なら、私だって・・


ゴポゴポゴポゴポゴポゴポッッッ!!!!


排水口から異様な水音がするっ! 魔物っ?!

私は左手の中指に嵌めた、支給品の『ア型 14式 ウワバミ収納輪(しゅうのうりん)』から拳銃とナイフが一体化した『レ型 7式 ガンナイフ』を取り出して構えた。

ザパンっ!! 排水口から数十匹の水の蛇が溢れ出し、私を取り囲んだ。


「これって・・っ!」


ヂーミン、ヂーミンだっ!! 忘れてたっ。


「ヂーミンなのっ?! どうして?? あれ?? 今、あんた、どうしてたっけ??」


「ムツコっ!! 思い出してっ! アマラディアの魔法はここまで自由じゃないっ」


声だけ聴こえる。


「・・嘘。でも、私、今日からアビシェクと一緒に、仕事もっ」


「他の皆もそうだっ! それぞれっ、凍結海の時と逆のベクトルだけどっ、攻撃されてるっ!! これは攻撃なんだっ!」


「嘘、嘘だよっ。皆、上手くやってるじゃんっ?! 私、ここで、何年もいたよっ?」


私は膝を突いてしまった。


「本当の僕は身体が弱かったから、よく空想していた。もし健康だったら、もし裕福だったら、もし不思議な力が使えたら・・慣れっこなんだ、こんなこと」


ヂーミンの声色は悲し気だった。


「もう僕は地球に帰れないっ! それは仕方のないこと。でも、ムツコ。君は帰れる! 地球の現実で、その手足で確かに戦えるんだっ。アビシェクとだってまた逢えるさ」


「・・つよ子は、きっと一緒には帰ってくれないよ。あの子がいないと、私はきっと勇気が無い。アビシェクとだって・・上手くゆかないよ。私、平凡だったし。それどころか生き返った側から、上手くやれなくてっ、すぐ殺されちゃうかも?」


「・・・」


水の蛇の1体が私の右手の方に身体を伸ばしてカプっと噛み付いてきたっ!


「痛タタタっ! ヂーミンっ?!」


「話、聴いてた? 君はまた地球で挑戦できて羨ましいな! って言ってるんだっ。それにアビシェクだって、まず、僕らは仲間だろう? 実際、交際できるかどうかなんて、そんなに重要かな?」


返す、言葉が無い。


「ツヨコがいなくたって、君は1人でやってゆけるよ? というか、僕らはムツコとツヨコが別々でいるところしか知らないから、何が心配なのか? そっちの方がわからない。もし、辛いことをツヨコにパスしたいとしか考えていないなら、それはきっと本来の君でもないし、本来の『君達』でもないよ。ムツコ、僕は君よりも君を信用しているっ。戦えるさ君は、だって、勇者なんだからっ!!」


「う~~~っっっ、言ってほしいことばっかり言うのっ、ズルいっ!!!」


私はガンナイフを置いて、手からずっと噛んでる水の蛇を(ちょっと出血してるし)を取って、立ち上がった。

そう、私達は伏魔殿を攻略して、『魔王の玉座(ぎょくざ)の間』に入った。そこまでは思い出せた。


「ヂーミンっ、私、どうしたらいいっ?!」


「僕を信じてっ! それだけさっ」


「わかったっ! 信じるっ!!」


水の蛇達は私を巻き込むように旋回しだしたっ。


「ムツコっ?」


洗面所にアビシェクが来た。ああ、アビシェクっ! あんたと暮らしたかったっ。


「ごめん、ちょっと行ってくるから」


私はどうにか笑って、逆巻く水の蛇と1つになって、排水口の中へ飛び込んでいった。


・・

・・・・・・っ!!


「どーなったっ?!」


私は水浸しになって跳ね起きた。すぐ近くに、つよ子、アビシェク、ユーゴもいて、同じように水浸しになって起きたところのようだった。

右手の軽い出血はそのままだった。


「ヂーミ・・ええーーーっっ?!!!」


ヂーミンは、水龍に変化させた海皇の槍で補強した球形魔力障壁で自分と私達を包み込んで守ってくれていたっ。今、私達は・・


「喰い付かれてるじゃんかよっ?!」


つよ子が慌てて水でできた足場に立ち上がって、海魔戦斧とヴァンプアクスを構えると私達も続くっ。

ヂーミンの球形魔力障壁にっ! 影の身体に骨の外骨格を持つ巨龍(きょりゅう)が喰らい付いていたっ!!

ヒビの入った雷鳴棍と星影の槍を交差して構え、それに耐えているヂーミン。

周囲に浮遊させた魔法石とウォータージェムを10個程度が次々砕け散ってゆくっ!

障壁の外は臓物の天井と床を持つ異様な空間で、果てが見えない程広かった。

空間には薄く発光する幾何学的(きかがくてき)(点、線、面が強調された)な巨大な物体が無数に浮遊している。


「・・どうもこの『巨龍』が魔王らしいね。今のところコミュニケーションは全く取れてないけど、ただ」


ヂーミンは汗だくの、青ざめた顔で振り返った。細い目。鎧もボロボロだった。


「僕らを『噛む』という強い意思は見て取れるっ!」


そう言って、ヂーミンは苦笑して見せた。

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