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双子勇者  作者: 大石次郎
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恐怖っ! マッハ瓢箪トリオっ!!

変化の布でパジャマ等を確保したムツコとツヨコはグルモンと共に、勇者召喚が行われた広間から、隣のムゲンのいる部屋に来ていた。

部屋には白い布の帯できた球体が2つ浮かび、その手前にそれぞれ書籍が山積みされている。


「浮いているアレも変化の布だ。特にお前達に合わせてもいないから操り難くはある。これからお前達はこれを」


「いやちょっと待てーいっ!」


「なし崩しにはさせねーぞっ?」


ムゲンの話を遮る2人。


「なんだ?」


「なんだ、って! 私達、何をどーしたら言い訳? あの変わる布、云々じゃなくてっ」


「そーだ。もうちょっと説明しろ! 訳わかんねっ」


面倒そうにため息を吐くムゲンは、チラリとグルモンを見たが肩を竦められただけだった。


「そう複雑な話ではない。我々の世界では200年周期で地下世界から魔王が現れて危機が訪れる。それに合わせて召喚された勇者が鍛えた後、これを倒す。魔王を倒した勇者は報酬として願いを1つ叶える。それだけのことだ」


「それだけのことって!」


「つーか、あたし達、最初に死んでるから『生き返る』一択じゃん? なんかズルくない? 断れないし」


「強制はしていない。断る者も稀にいる。それに元の世界での復活を選らばない者は案外多い」


「えー??」


「マジかよ・・」


唖然とする2人。


「実際多いぜ?」


グルモンが話に入ってきた。


「身体が生きてるとこの世界に『運ぶ』のが難しいってのもあって、大体ちょうどいいタイミングで死んだヤツの中から探すんだけど、使命を果たした後、元通り生き返って地球に帰って普通に暮らすヤツの方が珍しいくらいだぜ」


「地球・・人気無いんだ・・」


「まぁ窮屈だから、あたしも一回『消された』ワケだしな」


「ん? ・・思春期終わった、みたいな?? というかあんた私の中坊時代の化身なの??」


「たぶんそうだ。そんな感じする。とにかく、あたしは消された。完全に抹殺されたっ! 中3終わった春休みに」


「そんなハッキリしたタイミングあったっ??」


「その頃の仲良かった友達全員に彼氏できて、ダンスチームやろうぜって話がいつの間にか無くなって」


「ああ、なんかあったね。そんなことも」


お年玉貯金から奮発して買った有名メーカーのダンスシューズは、殆んど使われることなく、睦代の部屋の押し入れで眠っている。


「楽だからって髪すんごい短くして、サイズ以外は小学生の頃とあんまり変わんない簡単な格好してるのをモールのトイレの大きな鏡でたまたまガッツリ見て、(あ、カッコ悪い)て気付いた瞬間、あたしはお前に消されたんだ」


「そんな、こと、私に言われても・・」


ムツコはツヨコの思わぬ発言に困惑した。そんなことは忘れていたが、その瞬間を明確に覚えている自分にも気付かされていた。


「思春期の話はもういいか? 訓練に戻りたいのだが? いかに神器の力を得ていようとも、鍛えねば、死ぬぞ?」


ムゲンは容赦が無かった。そもそも少年少女の思春期云々、といった話に全く関心の無いタイプであった。


「う~、納得いかないけど、わかったよ!」


「鍛えたらいいんだろっ? スライムでもなんでもやっつけてやんよっ!」


2人は若干ヤケクソ気味に了解した。


「浮いている変化の布を使って、山積みされた服飾カタログに乗った全ての衣料品を再現してみせろ。出来が悪い物ほ不可とする」


2人は一瞬、山積みにされたカタログだった書籍を見た。


「えーーーっ?」


「多過ぎるっ! スライムは?」


「直に捲って読まずとも、神器を依り代としたお前達なら意識を集中すれば書籍の中身は全て理解できる。服飾を介しこの世界のあらましも知ることもできる。これは魔法に限らず力の使い方全般に役立つ基礎中の基礎の訓練だ。・・グルモン、後は任せたぞ?」


「はいよー」


ムゲンはさっさと退室してしまった。


「というワケで最初のレッスンだ! これは合理的なんだぜ? 歴代勇者がやってきた伝統の基礎鍛練だっ! さぁ始めた始めたっ」


「意識を集中すれば、の件、ハードル高いっ」


「さっきのエピ話した後で服作りまくるとかっ」


2人は大いに戸惑いながらも、言われた通り意識を集中して様々なアマラディアの言語で書かれた服飾カタログの内容を読み込みに掛かった。


「あ、言語自体はわかるね?」


「服も地球の服と変わんないのも結構ある」


「転生の時点で言語適応はサービスだ。文化も、比較的近い世界ではあるしよ。まぁ歴代勇者や他の来訪者達の影響もあんだけど」


「わかったようなわかんないような」


「そんなんばっか」


2人は戸惑いながらも大量のカタログの読み込みを終え、宙に浮かぶ玉に集中した。

即、暴走してめちゃくちゃになってしまう変化の布の玉。


「ああっ、やっぱりーっ?!」


「さっきよりムズいっ!」


「こりゃしばらく掛かるな。まぁ今日中にはなんとかしろよ? オイラは小腹空いたからちょっくらなんか食べてくるわ~。また後でな~」


グルモンもふわふわ浮いて退室してしまった。


「ちょっと、グルモンっ?!」


「放置かよっ」


焦りまくるムツコとツヨコであった。

・・それから3時間後、間食を食べ、軽く昼寝も済ませてグルモンが、


「あ~、毎度毎度かったるいな。もう4000年も担当したし、そろそろオイラ、引退しよっかな~」


等とボヤきながら様子を見にゆくと、


「おおーっ?!」


部屋にはカタログ書の山を遥かに越える量の服の山が築かれていた。

ムツコとツヨコは2人とも崩れたカタログ書に埋もれるようにしてダウンしていた。


「・・一応、全部、再現したから」


「・・仕上がりチェック、よろしくだ、コノヤロウっ」


「どれどれ~。ほほう」


2つの服の山をチェックするグルモン。


「ふむふむ、全部几帳面に『自分達サイズ』にしてるのは御愛嬌ごあいきょうだが、悪くない仕上がりだ。歴代でも早い方だぞ? 苦手なヤツはこのレッスンほっぽり出してたからなぁ」


「ほっぽり出していいんだ・・」


「それ、先に言えよ・・」


「よしっ、これ飲めっ!」


グルモンは空間歪めてそこへ手を突っ込んで取り出した小瓶を2つ、ムツコとツヨコに投げ渡した。


「何これ?」


「栄養ドリンク?」


「『エリクサー』だっ! 買ったら高いんだぞ?」


「ああ、ゲームでよくあるヤツだ」


「大事に取っといて最後余るヤツだっけ?」


2人は蓋を開け、疑り深く匂いを嗅いでから一口飲んでみた。


「・・??」


「味、薄っ。あ、でもなんか」


腹を中心に淡く発光が拡がり、疲労と布を操ったりするのに失った力が少し戻った。


「体力と『魔力』が戻る。あ、魔力は布使ったり本読み込む時に使った力な」


「なるほどー」


「体力と別に『もう1個有る』って変な感じ」


2人は残りのエリクサーも全て飲み干し、すっかり回復した。


「回復したな? ちょっと待てよ、ムゲンに『テレパシー』で伝える。次のレッスンに行くからな」


グルモンは目を閉じてこめかみに指を当てて集中し始めた。思念を遠くに飛ばしているらしい。


「まだやんの?! 今日はもう休もうよっ?」


「体力とかは戻ったけど、メンタル的に疲れたぜ?」


本来なら倒れているはずなのに『回復』されてしまい、認識が追い付かない2人。


「時間が無いんだよ。あと3ヶ月でお前らを一人前の勇者に仕立てないと間に合わないっ」


「何、3ヶ月って?」


「期限あんのか?」


「だからぁっ」


次、勇者を育成する時はいちいち解説しなくていいように『すぐわかるっ!! 勇者業務ガイドブック』を前以て作っておこうと心に誓うグルモン。


「魔王の軍勢は地下世界、まぁ『魔界』にいるんだが、それが出てこないよう、今はなんだかんだで押し留めている状態なんだ。これ、毎回やってんだけどな?」


「蓋してる、みたいな?」


「地下って、マグマとかあんじゃないの?」


「概念的な『地下』なんだよっ。とにかく! これが持つのがせいぜい3ヶ月っ! それまでは比較的イージーだけど、3ヶ月後からは一気にカオスっ!! お前ら弱っちいまんまだとなんにもできずに終わっちまうぞ?」


「うわぁ、期限付きかぁ」


「つーか、基準がよくわかんね。バスケとかダンスで3ヶ月特訓、とかならまだわかるけど」


「いいから次次っ! 張り切って行こうぜっ?」


「ああ~、ちょっとは休ませてよぉ」


「なんかあんま勇者っぽい修行じゃないよな?」


グルモンはぐだぐだする2人をまた別の部屋へと誘導した。



2人がいる施設は塔であったが、途方の無く広く、高さも相当あるようだった。

上下移動は電動ではなく魔力で動いているらしいエレベーターを使わせてくれたが、それ以外はふわふわ浮いて飛行するグルモンを走って追い掛けるのみである。


「グルモン、この塔? なんなの?」


「広過ぎ」


「ここはムゲンの住み処で、『知恵の塔』だよ。ムゲンが勇者召喚を担当するようになってからは毎回ここで召喚してる」


「あのお爺さん結構厳しいよね」


「トレーナー向いてないと思うわ」


「別にトレーナーじゃないしな。あいつは召喚以外は場所とかを貸してくれてるだけだ。元々、塔の『外』の世界と関わるのはあまり好きじゃないんだよ」


「っぽいね~」


「そんな感じだ。あの爺さん!」


グルモンは飛行しながら振り返ってきた。


「2人とも、次のレッスンは結構激しいからパジャマじゃなくて動ける格好に変えた方がいいぞ?」


「お? そう言えば」


「どうする?」


ムツコとツヨコはしばし話し合い、パジャマとスリッポンにしていた変化の布を、溶けるように変えた。

2人とも上半身は鎧の下にも着れる綿入りの上着ギャンベゾンを着、下半身は厚手のタイツのようなパンツのショースを穿き、布製だが穴空き靴のブローグを履いた。

さらにムツコは首にチョーカーをしてシュシュで髪を纏め、ツヨコは額にバンダナを巻いて左側の前髪を一房細いリボンで纏めた。


「まぁ、無難だな。アマラディア世界は大体近世くらいがベースだけど、中世や近代くらいも混ざってる。武装前提ならそんなもんだ」


「兵士とか冒険者以外はもうちょっと普通の格好してるみたいだけど?」


「トランプのジョーカーみたいだしな、コレ」


「レッスンするにはこれくらいでいいよ。よし、こっちだ」


着替えた2人はグルモンに続いた。

案内された部屋は勇者召喚が行われた部屋よりかなり広かった。

部屋の奥には多数の円形紋様陣が描かれている。


「遅い」


浮遊する台座のような物に乗っているムゲンはやや不機嫌顔だった。


「急いで来たよ?」


「あたしらにもそういう乗り物貸してくれよ?」


「ふん」


ムゲンは一息吐いて、取り合わず、話を続けた。


「2人には神器によって獲得した基本的な4つの力の鍛練をしてもらう。変化の布を使いこなせたのなら問題はあるまい」


「力、ってコレ?」


ムツコは手から蔓を出し、ツヨコは金属結晶を出した。


「そんな程度ではない。ムツコよ、世界樹の力を得たお前には『植物支配』『植物創造』『治癒』『概念琥珀生成がいねんこはくせいせい』の4つの力がある」


「概念琥珀??」


「ツヨコよ、アダマンタイトの力を得たお前には『金属支配』『金属創造』『復元』『劣化』の4つの力がある」


「劣化??」


「概念琥珀生成は、特定の概念を付与した琥珀を創る力だ。癒しの力を持つ琥珀や、毒の力を持つ琥珀。そういった物を自由に創ることができる。試しに光る琥珀を作ってみろ」


「え? ・・こうかな??」


ムツコは戸惑いながらも光り輝く琥珀を掌の上に生成した。


「お~、できたぁっ」


「劣化は物質を劣化させる力だ。有機物にも有効だが、やはり無機物に対して真価を発揮する。これを錆び付かせ、砕いてみろ」


ムゲンが杖を振るうとツヨコの前の床から鉄の板が突き出して生えてきた。


「錆びって・・こうか?」


ツヨコが鉄の板に手を差し延べると板は錆び付き、ひび割れ崩壊した。


「おおっ? できたーっ」


「他の能力はその名の通りだ。後は実戦で身に付けたらいい」


「実戦?!」


「バトルのかっ?!」


ムゲンは部屋の奥に向かって杖を振るった。反応して発光した円形紋様陣から次々と車のタイヤ程度の大きさの透明な餅のようなモンスター。『スライム』が出現した。


「これから魔方陣からスライムが合わせて『1万体』出現するっ! 異能を用い、全て倒してみせよっ!!」


ムゲンは浮遊する台座で上昇していった。


「1万っ?!」


「数、おかしいだろっ?!」


「御待ちかねのスライムだ! RPGでも最初は倒すだろ? へへっ」


面白がるグルモン。


「古典的なヤツはね?!」


「桁が2つくらい間違ってるぞっ?!」


慌てふためく2人に、魔方陣から溢れたスライムの大群が迫り出した。


「思ったより可愛くないっ!」


「やるしかねーかっ! えーと・・金属創造だぁっ!!」


ツヨコは床から大量の金属の槍を発生させてスライム群を串刺しにした。


「うわっ、つよ子っ? エグいっ!」


「言ってる場合かよっ! お前もなんとかしっ、むつ子っ!!」


ツヨコは槍から無数の針を生成させてそれを炸裂させてさらにスライム群を減らしに掛かりながら叫んだ。


「え~?! どーしよ・・あ、これいけるかも?」


ムツコは大量のやや擬人化した花を創造し、その花から『眠気を誘う花粉』を一斉にスライム群に放った。

為す術なく眠って動きを止めるスライム達。


「これで、この子達は無力化し」


「チャーンスっ!」


ツヨコは飛ばした針操り、引き抜いて集め多数の杭に変え、眠ったスライム達の頭上から高速で降らせ、ズタズタにして倒していった。


「だからエグいってぇっ! つよ子ぉ~っ!!」


半泣きになるムツコ。


「どんどん出てくんだぞっ?! 根性決めろよっ? というか、むつ子っ。あたしそんなフニャフニャした反応したっけ??」


「あんたこそっ、私はそんな野蛮じゃないよっ?!」


「1つの人格を2つに分けたんだ。時間が経って欠けた部分を補いだすとそりゃ違ってくるよ? 今はレッスンに集中しとけ。スライムでも、殺られる時は殺られるぜ?」


グルモンは冷静に言った。


「もぉ~っっ」


「殺ってやんぜっ!!」


ムツコとツヨコは、それから時間にしては1時間程度であったが、無限に涌いてくるようなスライム1万体を異能を駆使して倒し尽くした。


「はぁはぁ・・なんとかなったな。7割方あたしが倒してるじゃんか? ムツコっ」


「あんたの力の方が戦闘向きじゃん? というか当分ゼリーとかプリン、食べるの無理だわ・・うっぷっ」


スライムの死骸まみれの部屋に吐きそうになるムツコ。スライムの体液はカエルや胡瓜や薄荷のような臭いがして、当分ミントと胡瓜も食べれそうにないムツコだった。


「・・タイムは悪くないが、ムツコは概念琥珀生成の力、ツヨコは復元の力を使いこなせていないようだな」


ずっと高所で見ていた無限がフロア近くまで降りてきた。


「付与とか、咄嗟によくわかんないよ」


「復元も何をどう戻していいかよくわかんねっ。回復に使って大丈夫なのか??」


「ムツコは『錬成術れんせいじゅつ』を学ぶ必要があるな。ツヨコは医学書を読め。服飾カタログの中身を纏めて読み込んだ要領でやればいい」


「錬成、って何よ?」


「医学書?? あたしが?」


「まぁ、取り敢えず回復回復っ! ほれっ」


グルモンがまたエリクサーの瓶を2人に投げ渡した。

2人は飲んで回復したが、すぐには立てそうになかった。

ムゲンとグルモンは顔を見合わせた。


「仕方あるまい。昼食にでもするか」


気の進まない様子でムゲンが言うとムツコとツヨコは飛び上がって復活した。

しかし・・・


「何これ?」


「こんだけ??」


ムゲンが食堂で、使役してる素焼きの人形のような物に運ばせた料理は、『固いパン』『干し葡萄』『固いソーセージを炙ってカットした物』『萎びた胡桃』『水』のみであった。


「これで十分であろう。食事などどうでもよい」


「よくなーいっ!」


「学習環境の改善を求めるぞっ?」


「まぁ諦めろ、ムゲンのメシはこんなもんだ」


と言いつつ、自分はグミとも飴ともつかない物をモリモリ食べるグルモン。


「何食べてんのそれ?」


「旨いのか?」


「これは『タイムジェム』だ。時の力を宿していて、俺の電池みたいなもん。お前らの食べ物じゃないよ?」


「なんだー・・」


「ハンバーグとポテトサラダ食べてぇ」


「ちょっと、つよ子っ。お子ちゃまチョイス過ぎないソレ? 私に対する風評被害っ!」


「じゃ、むつ子は何食べたいんだよ?」


「え? ほら、アレだよ」


「何?」


「・・キッシュとか」


「キッシュぅーっ!! あたし、キッシュなんて3回くらいしか食べたことねーじゃんっ?! あたしはお前なんだぞ?! バレバレだっつーのっ!」


「くぅ~~っっ、なんで双子になんてしたんだよっ?! ムゲンっ! グルモンっ!」


「その方が戦力になるからだ」


「依り代用神器が2つ手に入った、って言ったろ?」


「最初っから2人喚べばいいじゃんっ」


「今回の私の勇者召喚で喚べる限度が1人だった。それだけのこと」


「出たーっ!! それだけのことっ。くぅ~っっ。最悪だよっ」


「あたしは正直、ようやくお前の中から出られたから、ちょっとラッキーな感じもしてっけどなっ?」


「私の中から出られた、ってなんだよそれ~」


「ひっひっひっ」


「くっちゃべってないで、さっさとメシ食い終われよ? 今日中にもう1個レッスン片すからな? アイツら待たすとめんどくせーことになるんだよ・・」


「アイツら?」


「あ、でもこのソーセージ、うめぇっ」


食べてみると固いことは固いが意外な美味しさで、感動するツヨコなのだった。



食後、ロクに休みもなく、ムツコとツヨコはまた別の部屋の前に連れてこられた。部屋のゴテゴテしい扉には謎の瓢箪のシンボルが刻まれていた。


「食休みは~? お腹痛くなるよ?」


「さっき、本読め、とか言ってたじゃんか?」


「概念琥珀と復元は一先ずよい。それにこの部屋の鍛練は異能の使用は禁止だ。ここではお前達に武器の扱いと体術を覚えてもらう」


「先代と先々代の勇者のチュートリアルも担当したチュートリアルのプロ中のプロが中で待ってる。まさにチュートリアルの化身と言ってもいいヤツ『ら』だぜ?」


「チュートリアルって凄い言う」


「ちょいちょいゲームっぽくしてくるなぁ。さっきはふつ~うにっ、殺されかけたけど!」


「私はヤツらが苦手だから書斎で待っている。ではな」


ムゲンは浮遊する台座に乗ってさっさと立ち去ってしまった。


「ムゲン、基本放置だよね?」


「あの乗り物いいなー」


「さ、中に入るぞ? くれぐれも冷静にな?」


「ん?」


「なんだ冷静って??」


扉を開け、中に入ると部屋の中央に奇妙なオブジェがあった。それは擬人化した瓢箪の形をした金属の塊で、3体でシュールな組体操のような格好をしていた。大きさは3体とも小学校高学年程度。額にはそれぞれマル、バツ、三角のマークが付いていた。


「何これ?」


「昔、こういう『ユルキャラ』って流行ったよな?」


「ユルキャラではなーーーいっ!!!!」


「っ?!」


突然3体の中心の瓢箪がカッと両目を開け叫んだ。他の2体も目を開け、3体は独特の振り付けで踊り始め、歌い始めた。



哀しみ あるよね? よね よね

1人ぽっちの帰り道 トゥ~トゥ~


紅蓮の紅い 夕陽 涙 濡らして 歩け walker walker walker・・


鉄橋をぅ ゆけ~~ばぁ~~~っっっ

また鉄橋 その先も 鉄橋 鉄橋 鉄橋


鉄橋~ ループぅ~~っっ



ムツコは巨大食虫植物を生成し、ツヨコは多数の鉄柱を生成し、歌う擬人化金属瓢箪達をブチのめした。


「ギャースっ?!!!」


「クェーっ?!!」


「トォフーーっ?!!」


「・・なんだよ鉄橋ループって」


「イライラするっ」


グルモンは咳払いした。


「ヤツらは『ミスリルワーヒョウタン』希少種の植物系亜人種だ。めちゃくちゃ素早くて頑丈なヤツらだ」


「その通ぉりっ!!!」


ブチのめしたはずのミスリルワーヒョウタン達は凄まじい速さでムツコとツヨコの目の前に出現した。


「っ?!」


驚くムツコを抱えて飛び退くツヨコ。と、部屋の四方の壁が開いてそこから無数の、細身の剣『レイピア』と凧型の盾『カイトシールド』と両手持ちの戦斧『グレートアクス』が露出した。


「レイピアとグレートアクスの刃は一応付いてない。今からお前達はこれらの武器を使ってこの3人、『ソイヤ』『ヨイサ』『チャッホー』を昏倒させてみせろ。ツッコミに使ってたけど、異能の使用は禁止だかんなっ?」


「武器なんて使ったことないよ~」


「マジかぁ」


「フハハハッ!!『 我らマッハ瓢箪ひょうたんトリオ』に勝てるかなっ?!」


「ひよっ子勇者どもめっ」


「レベル一桁ですかぁ~~っ?!」


また奇妙な組体操ポーズで煽ってくるミスリルワーヒョウタン達。


「ぐっ」


「煽りスキル高ぇな・・」


「まぁ落ち着け、お前達は言語適応同様、武器の扱いや体術の心得も一通りボーナスで体得させてある。やってみりゃできる。それぞれ一番合う、むつ子はレイピアとカイトシールド。つよ子はグレートアクスを使え。身体や武器に魔力を乗せるといい感じに戦えるぞ?」


「いい感じ、って・・」


「斧振り回すのか? あたし・・」


「変化の布を操ったりするのと基本的におんなじだから。ちゃっちゃと武器取れって」


気軽に促すグルモンを恨めし気に見つつ、2人はムツコはレイピアとカイトシールド、ツヨコはグレートアクスを装備した。


「あれ? 重いはずなのに全然持てるね」


「やっぱ身体もパワーアップしてんな。そういや塔の中走るくらいじゃなんともなかったし」


「早くしろぉーっ?!」


「遅い遅い遅いぃっっ」


「先制しちまうぞっ?! 先制っ!!」


待ちきれない様子のマッハ瓢箪トリオ。


「・・刃、付いてないけどホントにこんな武器で攻撃して大丈夫? さっきのスライムはなんか、意志疎通できない感じだったけど・・」


「まぁなぁ」


「我らに手加減とは片腹痛いっ!!」


「どんと来いやぁっ!!」


「手加減するのはこっちじゃーいっ!!」


いちいち煽ってくるマッハ瓢箪トリオに少なからずイライラさせられるムツコとツヨコ。


「アイツら鉄より硬いし、バラバラになっても溶かされてもわりと簡単に復活できるから、そこは心配しなくていいや。ほれ、2人とも構えてっ!」


「剣道とか、やっときゃよかった」


「中学も高校も体育の武道、柔道だったもんなぁ。やっぱ公立は金無いから剣道は」


「話が長いんじゃワレぇーーっ?!!」


「行っくぞぉーーっ?!」


「ちゃーーーほぉーーーーっっ!!!!」


待ちきれなくなったマッハ瓢箪トリオは凄まじい速さでムツコとツヨコに襲い掛かった。


「いぃっ?!」


「うおっ?!」


あまりの速さにどうしていいかわからない2人。


「脛ぇっ!」


額にマル印、ソイヤは鋭いローキックをツヨコの右の脛に打ち込んだ。


「あ痛ぁっ?!」


「甘いわぁっ!」


額にバツ印、ヨイサは両掌で挟むようにビンタをムツコに喰らわした。


「わぁっ?! もうっ、最悪っ!」


「隙だらけじゃーーーっ!!!」


額に三角印、チャッホーは飛び付き回転内回し蹴り『旋風脚せんぷうきゃく』を怯んだムツコとツヨコに放ち、2人を吹き飛ばした。

武器は普通の鉄製であったが、魔力をしっかり乗せていなかった為、ムツコのレイピアは簡単に砕け、ツヨコのグレートアクスもひび割れてしまった。


「いったぁっ?!」


「くっそぉっ!!」


涙目の2人は自覚は無いが『素で鉄より頑丈』であった為、『痛い』くらいで済んでいた。

一方、離れた位置で小躍りして喜び煽るマッハ瓢箪トリオ。


「だから魔力乗せとけって言ったろ? 代えはたくさんあるからさっさと持ち替えとけ」


本格的に2人が泣いてしまう前に、行動を促すグルモン。『完全な一般人』をスカウトした場合、初期の戦闘で『暴力にビックリして泣かされたり、怯えきってしまう』件がしばしば発生しがちであった。


「こんなのやっつけられるの?」


「速過ぎるぞっ?」


「大丈夫だ。『勇者の身体』の適応力は異常だかんな」


「う~~っっ」


「マジかぁ」


2人はマッハ瓢箪トリオを警戒しながら武器を取り替えた。


「来いやぁっ!!」


「折ってやんよっ?! お前らのハートぉっ!!」


「ちゃーーーほぉーーーっ!!!」


再び超高速で襲い掛かってきたマッハ瓢箪トリオに今度はどうにか構えるムツコとツヨコ。

だが、しかし・・・

1時間経っても2人は全くマッハ瓢箪トリオに勝てず、部屋に用意された武器も6割以上を破壊され、2人は完全にへたり込んでしまっていた。


「うーん。ま、しょうがないな。よし、今日はこれくらいにして・・」


見かねたグルモンは、エリクサーの瓶を2人に投げ渡しつつ、レッスンの中断を提案しようとしたが、


「・・まだっ! やれるしっ!!」


「もう大体動きはわかったっ!」


エリクサーを飲んだ2人は立ち上がり、替えの武器を取って構えた。


「強がってやがるぜぇっ!!」


「負けを認めろやぁっ!!」


「ちゃーーーほぉーーーっ!!」


煽り倒してくるマッハ瓢箪トリオ。全く消耗した様子が無い。


「むつ子、1人引き受けて! 2人だけなら私、ヤれるっ!!」


「わかったっ!」


「上等だぁっ!!」


「殺ってみろYOーーッッ!!」


「ちゃーーーほぉーーーっ!!」


ムツコはチャッホーに突進した。ギリギリだが、相手の動きに付いてゆけていた。

ツヨコはソイヤとヨイサと対峙した。


「うらぁっ!」


ギリギリ動きを読んでグレートアクスでソイヤを斬り付けるが飛び退かれて躱されるツヨコ。

背後からヨイサが迫るのを気配で察したツヨコは変化の布製のギャンベゾンを『網』に変えてヨイサを捕獲した。


「んなっ?!」


「もらったぁっ!」


上半身はスポブラ一丁になったツヨコは、全力で魔力を乗せたグレートアクスで身動きできなくなったヨイサを叩き斬った。


「ごばぁっ?!!!」


ミスリルこうの額を叩き割られ、泡を吹いて昏倒するヨイサ。

衝撃でグレートアクスも砕けてしまった。


「ヤッたなぁっ?!」


素早く回り込んで、死角からツヨコの脛にローキックを放ってくるソイヤ。が、ツヨコはブローグを履いた足の裏でその蹴りを受け止めた。


「っ?!」


「脛狙い過ぎだお前ぇっ!!」


そのまま打撃格闘戦になった。打ち合う内に、ツヨコのパワーはどんどん増してゆく。


「くっ」


ソイヤは一旦、距離を取ろうとしたが、その蔓のような手をツヨコに掴まれた。


「おっ?」


抵抗したが、即、ツヨコに抱き抱えられるソイヤ。


「捕まえたぁっ!!」


「離せっ! コイツぅっっ」


「『つよ子ベアハッグ』じゃーーーっ!!!!」


バキバキバキバキバキッッッ!!!!


鋼の肉体と溢れる魔力を込め、ソイヤを締め上げ、金属の身体をひび割れさせるツヨコ。


「ギャーーースッ?!!!」


ソイヤは泡を吹いて昏倒した。


「むつ子っ!!」


ツヨコはソイヤをほっぽり出して、チャッホーと交戦するムツコを振り返った。


「大丈夫っ! ここでコイツに勝てないならっ、私はこれから先、やっていけないっ! 生き返るんだからっ!!」


必死でチャッホーの高速攻撃に食らい付くムツコ。


「・・そっか」


ツヨコはスポブラ一丁のまま、その場に胡座あぐらをかき、ヨイサを捕獲した網を布に戻して手元に引き寄せたが、魔力を込めて切断したせいか上手く元の形のギャンベゾンに戻らず、やや手間取りだした。


「覚悟も地力も無いクセに、運と適正だけでこっちの世界に来たワリにはお前っ、イキってるなぁっ?!」


「イキって悪いっ?! 私は・・帰りたいんだっ!!」


力を振り絞って攻勢を掛けるムツコ。


「変化の布のトラップはもう利かないぞっ?!」


「やらないよっ!」


チャッホーが細く脆いレイピアを狙ってるのはわかっていた。ツヨコはチャッホーはレイピアに攻撃する寸前、レイピアを宙に投げた。


「っ?!」


チャッホーがレイピアに気を取られた一瞬、ムツコはカイトシールドでチャッホーの顔面を打ち据えた。


「べふっ?!」


さらに、ぱっと見はツルツルに見えるチャッホーの股間を魔力を込めたブローグの足で蹴り上げるムツコ。股間の内部でなんらかの球体が2つ、弾ける感触が伝わった。


「ぽぽうぅっっ??!!!」


悶絶するチャッホー。ムツコは落ちてきたレイピアを取り、最速で構え、7連撃をフルパワーで打ち込んだ。


「せぇあああぁーーーっ!!!」


「あばばばばっ?!!」


レイピアも砕けたが、チャッホーは吹っ飛ばされ、内股になって泡を吹いて昏倒した。


「はぁはぁ・・倒せた」


「やったなっ!」


どうにか直せたギャンベゾンを着直したツヨコが合流し、ハイタッチして笑い合う2人。


「異能禁止って言ったのに変化の布使ったのはまぁ神器の力じゃないし、よしとしとくか」


喜び合うムツコとツヨコを部屋の隅の宙から見ているグルモン。


「初日でマッハ瓢箪トリオを倒しちまったのは大したもんだ。これは今回の勇者は当たりかもな。へへっ」


満足気に頷くグルモンなのであった。

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