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双子勇者  作者: 大石次郎


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19/23

氷の座

その名の通り強い氷のエレメントを帯びた氷の座は、空の上をジリジリ前進してる。もう賢者達の塔から結構離れた。


「・・日蝕まで、ギリだな」


呟くあたしがいるのは氷の座の前面から迫り出した屋根も壁も無い、台座のあるフロア。

遥か前方の中空でムツコ達が駆る真・機神が黒竜王と戦ってる。今は見守るしかない。

・・台座には海皇の槍を構えて周囲に『アナザーウォータジェム』を数十個浮遊させたヂーミンと、『永久凍結のオーブ』を抱えるようにして胸の前に浮遊させたミリットが並んで立ってた。

目を閉じた2人は台座の結界に包まれて、内部でとんでもないパワーの『水』と『氷』の力を溜め続けてる。

台座の周囲には4体の強力な中型ゴーレムが配置されていて、さらにその外側にあたし、ジンゴロ、ゼリット(ミリットの姉ちゃん)が護衛に付いてた。

と、


「っ!!!」


迫り出したフロアの祠内部に続く奥側の影から『骨の木』が生え出し、その幹が膨らんだ。

ゴーレム達が一斉に機銃を撃ち、ゼリットが弓の溜め撃ち体勢に入り、ジンゴロはミスリル製の小型ガンランスを構えた。

結界の中で深く集中しているヂーミンとミリットは気付いてない。

あたしは迷わずトゲ棍棒を連打で投げ付けだした!

棍棒は骨の木から噴出した数十本の巨大な骨のと衝突して相殺されるっ。


「や~~っと入れたのに、マジ好戦的だなぁ。文明覚えてる?」


骨の木が膨らんで開き中から例によって、『笠と法衣』を来たヤツが出てきた。かなり若い男の声、地球で言ったら中学生くらい、か? 初めて見るヤツだ。

そいつはあたしを見てニッと嗤うと、ゼリットの溜め撃ちの矢とジンゴロのガンランス連射を避け、骨で弾きながら素早く飛び退いて、祠の中の暗がりに消えた。

周囲の骨は独りでに砕けて半分は笠のヤツに付き従ってゆく。残り半分は『骨の獣の群れ』に組み変わって台座に突進しだしたっ。


「ゴーレム2体借りるっ! あたしが笠を始末するっ!!」


「ツヨコ殿っ?!」


躊躇(ちゅうちょ)(ためらうこと)禁物だ、にゃっ! と」


あたしはゴーレム2体を連れ手近な骨の獣をトゲ棍棒で蹴散らしながら、応戦する2人と残りのゴーレムを置いて、祠の中へと駆け込んでいった。

野郎っ! ヂーミン達を暗殺しに来たろうに、明らかにあたしを誘い込みやがってっ!!

氷でできた祠の燈台に霊火(れいか)を足して内部の視界をはっきりさせながら、笠野郎を追う。

内部にいた非戦闘員のフェザーフット族の神官や魔法使い達の惨殺体がそこら中に転がっている。クッソっ!


「っ!」


笠野郎は広間にいたが、骨の山の上に乗っていていた。


「アメシストはもう死んだようなもんだから、『闇の祝福を受けた者』は俺で最後だよ? ・・で、じゃじゃーんっ!」


笠野郎は笠と法衣を剥ぎ取った。


「っ?!」


その下には・・


「中坊っ?!」


学ランを着た男子中学生がいた。なんと言うか、特徴の薄い顔をしている。日本人だ。いつの時代かまではわからない。


「お前、来訪者かっ?! なんでこんな真似を」


骨の山から4本の骨の木が立ち上がり、その幹が割けて中から4人の女達が出てきたっ。種族も全員タイプは違うが美人だった。


「・・仲間か手下か知らねぇけど」


「俺の『妻達』さっ! この世界じゃ俺はチートっ!! うっかりヒールにされちゃったけどっ、次の世界じゃ俺が勇者やるんでっ!『ニセモノ』は消えてくれよっ?!」


スケコマシ中坊が『骨の触手』を多数放ち、合わせて妻達も襲い掛かってきたっ!


「お前達は首魁(しゅかい)(ボス)を抑えろっ!!」


乱戦になる中、あたしはゴーレム2体に一先ず中坊を任せて、妻達の方を片付けることにした。

この女達、全員速くてそれぞれ技量がある。強力でも単純なゴーレムじゃ2人ずつ付かれてすぐ各個撃破されるのがオチだった。


「お前ら状況わかってんのか?! 手加減できねーぞっ?!」


「お前は『私達の勇者』じゃないっ!」


小柄なフェザーフット族の短剣二刀流の女が斬り掛かってきた。コイツが一番速い、短剣の特性は風っ! 見た目より攻撃範囲は広いっ。

あたしは瞬間的に蜘蛛の巣状に周囲の床に張った『ミスリルの網』を踏ませ、オートでミスリルの針を網から何十本も噴き出させて串刺しにして短剣使いの女を仕止めた。

同時に黒い肌の弓使いのエルフ族が放ってきた旋回して貫通特性があるらしい矢3本の矢尻を、側面からトゲ棍棒を打ち付けて相殺した。


「私達の愛と命の全ては『マサヒコ』の為にっ!」


「中坊男子に入れ上げんなよっ!!」


踊るような身のこなしで、矢の追い撃ちを避けながら、残り2人の妻達に持ってる全てのトゲ棍棒を投げ付けて牽制し、弓使いに詰めるっ。

弓使いの女はあっさり弓矢を捨てて火炎特性の(なた)を抜いて捨て身で打ち掛かってきたっ!

あたしは、海魔戦斧を抜いて燃える鉈ごとエルフの女を叩き斬った。


「犬死にってやつだろっ?!」


「違うねっ! 溺れて破滅する快感っさっ!!」


伸縮する手槍と衝撃波を放つ盾を持った、ベースはわからないけど『半獣人(はんじゅうじん)』の豊満な体型の女が突進してきた。『もう1人』はあたしの背後を取りに掛かってるっ。

そこらに散らばったトゲ棍棒やその破片を使って『金属片』を四方八方から放ってもう1人を牽制し、半獣人の女が伸ばした手槍を避けて柄を海魔戦斧で切断した。

半獣人は止まらずさらに詰めてきて、ガード不可の勢いで至近距離で盾から衝撃波を放ってきたが、あたしはこれを大きく飛び上がって避け、空中から海魔戦斧と既に抜いていたヴァンプアクスを連続で投げ付けたっ。

最初の海魔戦斧が衝撃波を出したばかりで連射できなかった盾を砕き、続くヴァンプアクスは穂先を失った手槍の柄で受けられが、弾いた刃で深く半獣人の女の肩口を切り裂いて命を吸い尽くして仕止めた。

最後の1人、角を持つオーガ族の女はあたしが着地する前に『振動する刀』で斬り付けてきた。またガード不可系っ!

籠手型格闘武器のアイアンブレイカーだけになったあたしは身を捩って連撃を避け、胴を蹴っ飛ばして距離を取った。


「美人だよなっ! ドスが利いた目をしてるっ!!『正妻』って感じっ! お前達の『物語』の中じゃ、あたしがラスボスなんかよ?!」


「もらうべき『モノ』はもうもらった。世界は、終わっていい」


全然わかんねぇけど、少なくとも『コイツらは』本気だな。

あたしは正面から突進するっ! オーガ族の女は、この女の最速で連続攻撃を打ち込んできた。


「っ!」


さっき空中で太刀筋は見切ってる、同じ技じゃなくても真面目な鍛練に基づく攻撃は特有のクセがあって読めた。

あたしは最初は躱し、続けて刀の腹に同質のアイアンブレイカーの振動を打ち込んで刀身全てを粉砕した。

オーガ族の女は特性の無さそうなミスリル製の小太刀で即座に『居合い抜き』を打とうしたが、あたしをこれを柄頭(つかがしら)(柄の底)を左足で踏んで止めた。

一瞬目が合う、次の攻撃で相討ちを狙うと告げていた。あたしは柄頭を踏んだまま右の回し蹴りを放ってオーガの女の頭部を吹き飛ばした。

あたしは振り返らない。魔力で操って海魔戦斧とヴァンプアクスを回収した。ちょうど中坊、マサヒコがゴーレム2体を骨で引き裂いて倒したところだった。


「酷いことするじゃん? 過剰防衛だ。慣れ切ってるんじゃないの?『殺し』っ!」


「・・中坊、調子乗んなよっ!!」


戦乙女の鎧(ヴァルキリーメイル)は戦意の呼応するっ! あたしは背に光輪を背負って骨の山に突進したっ。

マサヒコは骨の山から『骨の巨人』を出現させた。骨の巨人は『瘴気(しょうき)(毒ガス)』を吐いてきたっ。あたしは全身を魔力障壁で覆って骨の巨人の口の中に飛び込み、2つの斧をブン回して頭部も背骨も真っ二つして滅ぼし、そのままマサヒコに迫った。

『骨の槍』を次々出しながら距離を置こうとするマサヒコ。


「あははっ! 強過ぎっ。ゲームバランス、マジぶっ壊れてるわコレっ」


「誰かに似てると思ったら、あたしの仲間にもお前みたいなこと言ってるヤツいたわっ」


ユーゴな。あたしと、むつ子も最初の頃はそんなことよく言ってたけどっ!


「へぇっ! 気が合いそうじゃんっ」


デカい『骨のギロチン』を造って撃ち込みだすマサヒコ。


「お前みたいにゲスムーヴしてこないけどなぁっ!!」


重いギロチンは受けずに避けて、マサヒコに突進するっ!

マサヒコもギロチン連打をやめて、『骨の大剣』を造ってそれを手に突進してきた。速いっ!

二刀流の斧と大剣で打ち合う。この中坊っ、たぶん剣道かなんかやってた感じっ! シンプルな『面』『胴』『小手』『突き』だけ異様に鋭いっ。ヴァンプアクスの方の耐久値が持たねーなっ。


「・・ギャグもご都合展開も無いのに『異世界召喚されたら悪の幹部でした』ってなったら、その人も俺と同じになるよ」


骨の大剣の刀身が2つに割れて砲身になって、電磁砲を撃ってきたっ。避けたけど、氷の座の壁に穴を空けられたっ! コイツっ。

氷の座の動力とかコントロール室を貫かれるとヤバいっ!

もう一撃躱し、あたしは斧を捨ててめちゃくちゃ熱くなってる骨の電磁砲の砲身を両手でジュウッ! と掴んで『金属化』の力を注ぎ込んだっ。

瞬く間に骨の電磁砲は金属に侵食され、マサヒコの両腕も金属化した。


「っ!」


マサヒコは舌打ちして、両肩口から骨の突起を露出させて両腕を切り離して飛び退いたが、あたしは既にマサヒコの懐に飛び込んでいた。

焼けた掌を握り固めて、アイアンブレイカーの振動にあたしの『分解』の力を上乗せした『正拳突(せいけんづ)き』でマサヒコの学ランの腹を打ち抜いた。


「がはっ」


吐血するマサヒコ。


「こっちは、運が良かった方だとは思ってるぜ」


「・・ホント、クソゲーだ」


マサヒコは砕け散っていった。


「お前は(ほそ)過ぎたのかもな」


そう言ってやるのが精一杯だった。



・・マサヒコ達の撃退後、あたし、ジンゴロ、ゼリットはそれぞれ『飛竜硬貨ひりゅうこうか』で出した小型飛竜に乗って、氷の座の魔力障壁の外に出ていた。

作戦が実行されると氷の座はエレメントも盛り盛りな超低温に晒される。

結界に保護されるヂーミンとミリット以外の生き残りの制御担当者は、もうコントロール室の数名以外は内部の転送門で賢者の塔に待避してる。


「・・・」


あたし達はそろそろ決着がつきそうな真・機神と黒竜王の戦いを見守っていた。

決着が・・・ついたっ!!


「よしっ!」


台座の結界のヂーミンとミリットが、コントロール室から知らされたらしく目を開けた。宙で止まっていた氷の座が前進を始めるっ!

主を失い、地上の魔王シンパの軍勢が苦しみだした。寄生させたレザーフィッシュを支配できなくなってんなっ! いけるっ。

叛逆砂漠の石の大蓋までもあと少しだっ。

その時、


「っ!!」


空が暗くなり始めた。


「ニャッハっ、日蝕だっ! 来るっ!!」


「ミリットっ! 頑張れっ!!」


「お、おお・・っ!!」


ビシィイイッッッ!!!


石の大蓋にヒビが入り、地鳴りが響き始めるっ! 魔王シンパ軍だけじゃなく、アマラディアの多種族連合軍も体勢を崩してるから、地震も起きてるっぽいっ。

異変の中、ボロボロになった真・機神があたしらが待機してる氷の座の後方上空に取って返してきた。

氷の座も魔力障壁が下方以外は消えて宙に固定された。残りの非戦闘員が離脱した合図でもある。


「つよ子っ!」


外部に音量上げた音声をそのまま出して、むつ子が呼び掛けてきた。


「むつ子っ! そっちはっ?!」


「マコト達が疲れてるけど、それくらいっ」


「こっちは」


非戦闘員に被害が出たことを言おうとしたら、


バゴォオオオォォーーーンンッッッ!!!!!


石の大蓋が弾け飛び、内部から無数の魔族の群れが飛び出してきた。何億といんぞっ?!

けどっ! あたしらはコレを待ってたっ!!!


コォオオオオォォーーーッッッ!!!!


祠が振動して奇妙な音を立てる。ヂーミンとミリットの立つ、台座の結界を中心にとんでもないパワーの水と氷のエレメントが高まる。

周囲にダイアモンドダストが発生し、飛竜達が怯んだ。


「離れんぞっ?!」


あたし達と真・機神が氷の座から離れだすと同時にっ! 氷の座の正面に巨大魔方陣が発生し、そこから『凍気の波動(とうきのはどう)』が、逆巻く闇の津波のような無数の魔族軍に放たれたっ!!!

為す術無く凍り付いてゆく魔族軍っ!!


「やっばっ」


無数の魔族軍は叛逆砂漠に咲いた巨大な花のようにして凍り付き、地下世界への大穴を閉じていた。

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