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双子勇者  作者: 大石次郎


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18/23

VS黒竜王

「往生しなっ!!!」


私は機神に急降下キックを打たせた。『黒竜王(こくりゅうおう)』は両手を交差して受けて弾いてくるっ!


「くっ」


硬いっ、常に薄く魔力障壁も纏っていて攻撃が通り難い。

機神も黒竜王も空中で戦っているけど、地上でも大軍同士が激突していた!

これまでのクエストで味方になってもらった様々な種族の連合軍と、魔王シンパやその眷属の魔物がレザーフィッシュを寄生させて強化した軍勢だっ。

味方の軍勢の背後にはここまでムゲン達がテレポートさせた『知恵』『勇気』『力』『秩序』の4つの賢者塔がそそり立っていて、塔から賢者達が味方の軍勢『全員に』補助魔法を掛けつつ、支援用のゴーレムを大量に投入してくれている。

そして塔の上空には浮遊する祠『氷の座(こおりのざ)』があって、これが私達の作戦の要。

戦いの舞台は、アマラディアの砂漠地帯の中でも最も魔物達の勢力が強く祓い所も転送門も1つも無い『叛逆砂漠(ほんぎゃくさばく)』だった。

魔王シンパ軍の背後には日蝕と共に地下世界の扉の開く、途方もなく大きな石の蓋がある。

ここから半端無い規模の魔王の軍勢が溢れてくるっ!

まずそれをどうにかしなくちゃいけない。私達はその為に絶好のポジションが欲しかった。

つまり敵と私達は『場所取り合戦』してるワケ。


「ムツコさんっ! このままじゃ日蝕に間に合わないですっ!!」


同じ機神の胴体部の『2号コクピット』に乗っている王女マコトが言った。マコトは生身だと負荷ですぐ死んでしまうから、パイロットスーツを着てノージンと共に乗り込んでいた。

古代戦艦との戦いの後、王位継承争いに巻き込まれそうになって出国して、そのままなんだかんだで機神のサポートパイロットになっちゃってる。


「わかってるけどっ、・・アビシェクっ! ユーゴっ! なんとかならないっ?」


私はモニター越しに機神の頭の中にある『1号コクピット』にサポートのピスカと乗り込んでるアビシェクと、機神の下腹の中にある『3号コクピット』にサポートのキューレと乗り込んでるユーゴに、呼び掛けた。

機神は改修を重ね、今は身体を3分割できる『真・機神(しん・きしん)』という名の機体に強化されている。


「・・一旦、分離するっ! 1号と3号で時間を稼ぐから、ギリギリまで2号はチャージしろっ!!」


「頼んだからねっ、ムツコっ!!」


「う~っ、了解っ!! じゃあ・・分離っ!」


私達は機神を胸から上、胴体、下半身の3つの部位に分割して離れて即、戦闘機形態に変形した。1号機と3号機は黒竜王に威嚇射撃を始めるっ!


「マコトっ! ノージンっ! 回避とガードよろしくっ」


「了解っ」


私は2号機の動力『エーテルエンジン』に意識を呼応させる。機神は勇者と同調することでアマラディア世界の根元的なエレメントを吸収して活性化できる。


「・・・っっ!!!」


2号機のエーテルエンジンに飛躍的に世界を構成するエレメントが集まり、発行し、倍加してゆくっ!! 私自身も『1つのエレメントとして』意識を持ってゆかれそうになるから、気をしっかり持たなくちゃいけないっ。

黒竜王が察して、全身の発光器官から『負の追尾熱線』を多重に放ってきたけど、マコトとノージンが必死で躱し、或いは魔力障壁で弾いた。

1号機と3号機も攻撃を妨害してくれるっ。機神の力は、


「・・・溜まったっ!!! アビシェクっ! ユーゴっ!『合体』だよっ!!」


「了解っ!!」


1号機は『灼熱球弾(しゃくねつきゅうだん)』3号機は『雷撃球弾(らいげききゅうだん)』をありったけ黒竜王に放って怯ませ、こっちに合流してきたっ。


「テストパイロットが合体で死んじまったこともあるっ! 気合い入れろっ」


「ピスカはアビシェクと一緒っ!」


「わたしは別にぃ、塔がおんなじだからセットで乗せられただけだし、大体ユーゴ香水付けてるからコクピットの中に臭いが籠っちゃって」


「うるさいなぁっ? 集中しとけよぉっ?!」


「わたくしは覚悟できてますっ」


「姫についてゆきますっ!」


「よ~しっ! じゃあ、・・合体っ!!!」


放電する魔力ビーコン(誘導光線だっ)に導かれ、戦闘機形態から巨人形態に再変形した1号機、2号機、3号機は合体したっ!!!


ギュイイィィーーーーンッッ!!!!


全てのエネルギーが漲るっ!!! 漲るエネルギーっ!!!!

真・機神の全身は激しく発光したっ!!


「・・いちいち仰々しいゴーレムだな」


黒竜王の頭部からニュルりっ、と紫の宝石を持つ怪人が上半身を出してテレパシーで語り掛けてきたっ。


「『アメシスト』っ?!」


「レザーフィッシュを使ったのですね・・」


「お前達はよく育ってくれた。だが1人を除いて戦闘性の低い勇者であったわりには妙に戦力を多く集めたな。弱さ故か? いずれにせよ『過ぎている』。修正しよう」


淡々とテレパシーを飛ばしてくるアメシストに私はムカムカしてきた。

今も地上ではどんどん犠牲が出ているし、敵の中にはコイツら、魔王シンパの『闇の祝福を受けた者達』がちょっかい出さなかったら敵になってない者達だって少なくない。


「偉そうにっ! 一定層以上は『命の勘定』にも入れてないんだろっ?! 興味が無いなら最初から私達の所にだけ来いっ!!」


私は真・機神の両手を手刀にして魔力の剣を展開して回転して斬り付ける攻撃を放った。

数発受けて左手を切断されるが、回転を見切って右の鉤爪で真・機神の左腕を切断して背を蹴り付けてくる黒竜王。

切られた黒竜王と真・機神の左腕は落下して敵味方双方に被害を与えたのち、そこから小型竜と小型機械化ゴーレム群をそれぞれ発生させて激しく殺し合い始めた。

真・機神と黒竜王は負の追尾熱線と『電磁カッター』で撃ち合いになったっ!


「そんな理屈は通らないさ。地球で、人間同士の争いがそんなことで済むか? 少年ギャングの抗争であってもそれなりに類焼(るいしょう)(燃え拡がること)する物さ。それに、世界の危機がなければ『勇者の力』は高まらない。我々の苦労も少しは汲んでもらいたいくらいだ」


「このっっ」


「ムツコっ! 挑発だ。乗せられるなっ」


「コイツは目的の為に動いてるだけで、虫が本能で巣を造ったりするのと同じだよっ」


アビシェクとユーゴ主体で、強引に近接戦に切り替えだした。せっかく溜めたエネルギーを効果の薄い相殺で浪費するのを嫌ったのかもしれない。


「随分な言い様だ。だが、確かに、私の『目』には、もはや『次の世界』しか見えていない」


アメシストは宝石の両目を妖しく輝かせた。

黒竜王は翼を拡げ、魔力障壁で真・機神を弾くと共に、牙だらけの口を開け、負のエネルギーを集約させ始めたっ!


「来るぞっ?!」


「コクピットだけは守るよっ!」


「見せ場だねっ!!」


「割に合わないわぁ・・」


「ムツコさんっ!」


「・・やるよっ! 皆っ」


真・機神は胸部装甲を開いて『双滅エーテル砲(そうめつえーてるほう)』を露出させ、エネルギーを充填させた。


「古き世界の思い出と共にっ!!!」


「一昨日()なっ!!!」


黒竜王は『ギガマイナスブレス』を放ち、真・機神は双滅エーテル砲を放った。


バチィィイイイーーーッッ!!!!


激しく衝突する両者のエネルギーっ!


「オオオォーーーッッ!!!!」


「アビシェーーークっっ!!!」


「セェアアァーーーッッ!!!」


「別に叫ばなくてよくない?」


「負ける訳にはゆきませんっ!!!」


「姫ぇーーーーっ!!!」


「わぁあああーーーっ!!!!」


真・機神の力が上回りっ! 双滅エーテル砲は黒竜王を吹き飛ばしたっ!!


なのにっ!


「えっ?」


翼と胴体をほぼ失った黒竜王は、残った部位を流動する肉塊と変えて、超高速で真・機神に飛び掛かってきた。

慌てて球形魔力障壁で機体を覆ったけど、フルパワーを使ったばかりで出力が足りないっ!

肉塊が、触手のようにして障壁内部へと侵食し始める。

肉塊の中から形を保ちきれなくなったアメシストが現れた。

テレパシーをする余裕はなくなったようだけど、目を光らせて嗤うアメシスト。


「ちょっとこの件っ! 主人公補正でなんとかなんないっ?!」


「あんたが『主人公』ならねぇ」


「ハメられたかっ!」


「ピスカも地球についてきたかったーっ!!!」


「えっと、他に範囲攻撃機能はっ」


「ムツコさんっ!」


「何っ?!」


マコトの声は冷静だった。


「右腕と両足を使いましょうっ! 分離操作も練習してきましたっ。できますっ!!」


「・・だねっ! いいっ? 皆っ!!」


「了解っ!!!」


私達は真・機神の右腕と両足を切り離し、さらにバラバラに分割して、マコト主体で器用に真・機神の周囲を球形に取り囲ませ、直後にそのさらに『外側』の球形障壁を切り離したパーツで造った球体の『内側』に切り替えて展開し直した。


「っ?!」


アメシストは肉の球体を形造りながら、一瞬、支え失った形になった。同時にバラバラになった全てのパーツが自爆させるっ!

消し飛ぶ肉塊とアメシストっ!!

真・機神も障壁が甘く、本体にそれなりにダメージが通ったけど、なんとか無事だった。


「・・やった、よね?」


「はいっ! やりましたっ!!」


「姫ぇっ!!」


「利いたちゃったようだね、主人公補正っ!!」


「うざぁっ!」


「アビシェク、贅沢は言わないよ? ピスカを『シブヤ』に連れてって!」


「シブヤ? ・・日本だな。ムツコに連れてってもらえ」


「えー?」


「つよ子がまた盛って色々聞かせたんでしょ?」


常習犯なんだよ。


()っ」


「それより空だっ! 日が陰りだしたぜっ?!」


モニター越しに、明度フィルターを入れて天を見上げると、日が欠け始め、フィルターも必要なくなってゆく。


「・・日蝕」


私は茫然と呟いた。

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