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双子勇者  作者: 大石次郎


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守護機神と滅神砲 前編

あたしはヂーミンと一緒に、サハギノニア国の王城の『水晶通信の間すいしょうつうしんのま』に来ていた。

名前通りに通信用の水晶が置かれてる。めちゃデカいヤツ。

あたしとヂーミンは鎧の代わりにサハギノニアの式典用サーコートを着てて、これがかさ張るヤツでさ、鎧より動き難い。

ヂーミンは似合ってるけど、あたしはトランプのジャックみたい。

王女のマコトの付き添いだった。

まず王が過労で倒れちまって、第一王子と第一王女がどちらが王の代理を務めるかで揉めた。

それからなんだかんだで、結局王位継承権を放棄しているマコトがこの場に引っ張り出されたって感じ。この子、ほんとツイてない・・。


「わたくしで、大丈夫でしょうか?」


少し震えているマコト。萌える。


「大丈夫っ! あたしらも付いてるっ」


「どんな機会も貴女次第です。マコト様。これまでだってそうだったでしょう?」


「・・はい」


マコトは腹を括ったみたいだった。


「通信を繋いで下さいっ!!」


水晶通信の間には、ノージンの他に数名の魔法師団の人達と近衛騎士団の人達がいた。通信管理は魔法師団の仕事。

水晶が光って、ブゥンッ、と音がして部屋の中空に6つの画面が映し出された。

サハギノニア以外で秘宝『機神の心臓(きしんのしんぞう)』を所有する6カ国の代表の王族達だ。

全員これまたトランプのクィーンやキングみたいな格好してる。でもこれは、リモートでやるコスプレイベントじゃないんだよね・・。


「御時間、取りました。わたくし」


「前置きはいいっ!」


「貴女はサハギノニアの継承権も無いんでしょう?」


「機神の心臓は我らの国々の魔力障壁(まりょくしょうへき)の要になっているっ! それを急に寄越せとはっ」


「通常動力では費用がどれだけ嵩むことかっ?!」


「勇者方も段取りが唐突では?! 記録では先代の勇者達はもっと要領が良かったようですが?」


「我々が断りきれないよう、こんな間際まで控えていたのではっ?!」


め~~っちゃっ! 不満言ってくる6カ国の王族達っ。ええっ? なんかあたしらにも突っ掛かってくるし。

マコトもタジタジになってるしっ。


「皆さん落ち着いて下さい。ドワーフ達とワードッグ達に協力してもらい、先日ようやく『守護機神』を掘り起こし再起動の下準備が整ったのです」


ヂーミンが取り成しに入った。こういうの得意そうだけど、意外と言い方キツいからあたしも話に入っとかないとっ!


「こっちに合わせて、魔王のシンパのヤツらがいきなり『古代戦艦(こだいせんかん)』持ち出してきたんだからっ。しょーがないだろっ?!」


敬語の使い方はこっちの世界に来てかなり早い段階で諦めてるっ。口、回らなくなるからっ!

それに『わかり易いポンコツ』の方がシリアスになり難いと思う。たぶん・・


「くっ、なんという口の利き方っ!」


「これだから来訪者(らいほうしゃ)はっ」


「まだ子供なんじゃないかっ?」


「その戦艦は勇者とサハギノニアでなんとかならないのか?」


「神の祝福を受けているのだろう?」


「損失の保証をしてほしい。4所の賢者の塔の後ろ楯もあるのでしょう?!」


こっから、6カ国の王族とあたしとヂーミンで口論気味に条件交渉になった。

ヂーミンが理詰めで行く分、あたしは『プッパ』で吹っ掛けて話が堂々巡りしないように煽る。

マコトは話に入れなくて、アウアウしていたけど、あたしとヂーミンとノージン、あとよく見たら今回もいた地下神殿の時、付き添ってた爺ちゃん騎士が目配せして、落ち着かせた。

そう、マコトは『話の最後』だけでいい。それにここまで話てなんとなくわかった。

6カ国の連中も、そもそも先代勇者達から預けられた機神の心臓を返さないワケにはゆかないとわかってる。

コイツら、『自分達は渋々、譲歩して、でもしっかり保証を得て引き渡す』って、形に持ってきたいだけだ。

魔王軍が地上に来るまであと2週間はある。

けど、サハギノニアが古代戦艦にその前に落とされたら、その後、速攻で機神の心臓を持ってる6カ国が狙われる。

なんなら今すぐ機神の心臓なんてどっか捨てて『部外者ポジ』になりたいくらいなはずなんだよ。

・・小1時間はたっぷり議論して、話の方向が大体纏まり、鍛えてない王族達が疲れた顔をし始めると、察したマコトが改めて進み出て、口を開いた。


「治めるべき国も、世界があればこそです。先代勇者の皆様との約定(やくじょう)を守り、機神の心臓を、あるべき所に返しましょう」


完璧だっ、完璧だぜマコト。これが生徒会長選挙なら5票は入れたいぜっ! というかマコト、日高睦代(あたしと、むつ子だよ)の通ってた高校の制服似合いそ。

ま、それはともかく、実際、王族達ももう異論は無かったみたいで、話は纏まる方向になっていった。だけど、


「ふふふふっ、やっと纏まった。ふふっ」


突然、近衛騎士の1人が笑いだした。レザーフィッシュの件があるから、その場の全員が身構えたっ。

6カ国の王族達も通信越しに何事かと身を乗り出した。


「っ?! なんだ? 人間の、反応??」


笑う騎士に探知魔法を掛けたけど反応が無いことに困惑するノージン。


「ふふっ・・まぁ、一応種族は『人間』なんだ」


着ていた鎧兜やギャンベゾンを一瞬で(かさ)法衣(ローブ)に切り替え、背が折れる用に曲がった右目が小さく左目が飛び出す程大きな男の姿になった。


「そう扱われたことは一度も無いがなっ!」


「『ツィスト』っ!! この野郎っ!」


あたしは即、床を強く踏み、生成の力を笠の男、ツィストの足元まで伝えて、金属の槍を多数噴出させた。

ツィストはその場から消え、すぐ近くの安全圏に出現した。『テレポート』だ。


「ふっ!」


嗤うにツィストにヂーミンかわ星影の槍の熱線を撃ったけど、これは空間を歪めて軌道を反らして避けた。

ヤツは指をパチンっ! と鳴らしす。

それを合図に部屋の床や壁や天井の魔方陣が発生して、そこから次々と竜人(ワードラゴン)の兵達が出現してきたっ!


「ヂーミンっ! ツィストはあたしが殺るっ。マコトをっ!!」


「わかったっ。アビシェク達とも連携するっ! 皆様方、一旦通信は切りますっ」


ヂーミンはドン引きしてる6カ国の王族達との通信を切らせ、マコトをノージン達と共に避難させ始めた。

竜人兵の9割はそっちを追っていった。ヂーミンじゃツィストと相性悪いしなっ。


「・・インパクトを考えて話を纏まるまでは待ったが、俺はアメシストのように加減はしないぞっ?! ツヨコっ!」


全ての竜人兵をけし掛けてくるツィストっ。


「気安く名前で呼ぶんじゃねぇっ!!」


あたしは変化の布で作ってた動き難いサーコートをいつものギャンベゾンに変えて、海魔戦斧とヴァンプアクスをうわばみの腕輪から引き抜きながら吠えた。

続けて床から噴出する金属の槍で4割の竜人兵を仕止め、残り6割りは2本の斧を台風みたいに振り回して竜人兵を纏めて引き裂いて、命を吸い尽くして全滅させた。


「異常に強くなってるなっ!! これだから勇者はっっ。自分達が『兵器』として段階を踏んで『製造』されてる自覚っ、あるかっ?!」


ツィストは『空間の歪み』を放ち、それを収束させてあたしを挟み込みに掛かった。コイツの異能(いのう)だっ! 空間な干渉してくる。


「ぐぅぅっ、今さらっ!!」


あたしは全方位から押し潰そうとする囲まれると回避不可の空間の歪みを魔力だけで受けて押し返しに掛かる。

これまで同じ手で、2回っ! 痛い目に遭わされたっ。


「『なんか人として許せない気がするようなこと』くらいのことでなっっ」


歪みを受け止めながら、あたしはバラバラの状態の戦乙女の鎧を魔力で引っ張り出して身に付けた。

『戦意に応じて力を高める』特性を持つ、鎧の力で、魔力の出力を上げるっ。


「この、『つよ子』様が狼狽(うろた)えるかよっ!!!」


ビキィイイッッ!!!


歪みを弾き飛ばしと、弾かれた歪みが部屋中に散って、周囲の景色が歪み、ひび割れ、めちゃくちゃになったけど気にしないっ!

あたしは突進したっ。突進したけど空間が歪んでるから真っ直ぐ進み難いっ! この対処法も学習してる。正解は『どーってことないっ!』 だっ。

あたしはあくまで直進した。


「バカなのか従順なのかっ?」


「うっせっ!」


あたしは2本の斧をうわばみの腕輪に一旦しまって、代わりトゲ棍棒をズンドコ抜き出してツィストに投げまくった。

空間を曲げるから当たりゃしないけど、ガードに歪みのリソースを使うと、本体の移動と攻撃に手が回らなくなるっ。

ほぼ回避不可で、ほぼガード無敵で近距離テレポートもできるっ! そんなチート野郎でも、異能使いが同じ相手と何度も戦うなんて間抜けだぜっ?!

あたしは強引に間合いを詰めたっ。

遠い内に、棍棒の最初の一撃をうっかり歪みガードしたのが失敗だったぜっ?


「どぉりゃああぁーーーっっ!!!!」


ヴァンプアクス1本を引き抜いて魔力を込めて振り下ろし、空間の歪みごとツィストを肩口から両断した。


「・・ふふっ。まぁいい。魔王等、別に遭いたくもない。『気にいらない今の世界に散々報復する』。いい気分だった。ふふふっ」


両断されてもなお、歪みの中に浮き上がりながら、ヴァンプアクスの呪いで枯れて滅びてゆくツィスト。


「・・お前も、人間扱いされたことないとかなんとか言ってたな」


「それが? 見ればわかるだろう? ふふっ」


「1人でスッキリして、全部世の中見切ったみたいに消えてくのはムカつくっ! つーわけで」


あたしはヴァンプアクスを捨てて、滅びてくツィストの上半身を掴んで笠を除けて、その額にキスしてやった。


「ママのキスだと思っとけよ? この野郎」


「・・随分な、報復だ」


ツィストは砕け散って滅びてった。



追ってった竜人兵以外にも同時に、王城や王都に、負の竜族や他の魔物達が出現してたみたいだった、

それでもあたしが水晶通信の間から出る頃には、ヂーミンとアビシェクとサハギノニアの兵達と冒険者達なんかが、粗方片付けていた。

レザーフィッシュ騒動からそんな経ってないし、古代戦艦も迫ってる状況だったから、臨戦態勢できてた感じ。

異能が厄介なツィスト以外も侵入していたのは、どうもレザーフィッシュ騒動のどさくさで紛れ込んでた魔王シンパの連中が色々仕込んでたらしかった。

サハギノニアの人達はレザーフィッシュの成り済ましの残党対策に躍起になり過ぎて『既に他の襲撃が仕込まれてる』と気付けなかった。

まぁ少数のスパイと念入りに隠された召喚用の魔方陣なんて、いかにも対処が難しいってのもあんだろうけど・・

なんだかんだで一段落ついて、6カ国とも連絡を取り直し、ジンゴロや瓢箪トリオ達に転送門を使って機神の心臓を回収してもらうことになった。



で、大体20時間後。

あたし、ヂーミン、アビシェク、マコト達サハギノニアの人達、それから珍しく現場に来てるムゲンは、サハギノニア王都から100キロくらい離れた一山挟んだ荒野に来てた。

ムゲンの転移魔法でテレポートされた守護機神がちんまりと、最近学校でもあんまりやらなくなった体育座りで座らされてた。

これがデカい。めちゃデカいっ! サハギノニアの王城よりデカいっ!!

コイツがニウルの秘宝の最後のお宝だったんだよ。回収大変だったー・・。

先々代の勇者達がその時の魔王と戦う為に開発したモンらしい。

機神の心臓を入れ直しても、今はもう当時程のパワーは出せないみたいだけど(その頃の勇者の中に機械を操る異能持ちがいたっぽい)、魔王の軍と戦う戦力にはなるっ!


「こんな大きなゴーレムが・・」


唖然とするマコト。まぁね。デカ過ぎてムゲン呼ぶしか運ぶ手段無かったかんね。

今は巨人兄弟のクエストで知り合ったドワーフ族の技術者達が、機神に蟻みたいに張り付いて最終調整してる。

機神の周りには調整済みのドワーフ製の『魔工戦車まこうせんしゃ』にワードッグ族達が乗り込んでる。数百機はいるね。

魔王シンパ達がサハギノニアに向かわせてる古代戦艦を負の竜族の地上部隊が支援してるらしいから、機神の援護をするのと、ここで実戦データを取って魔王軍戦に備えたいんだって。

あんまり軍事技術発達し過ぎるのもどうかと思うけどさ・・


「戦艦の方に行ったムツコ達も気になるが、操縦は俺達しかできねーみたいだしな」


さすがに酒は控えて、林檎を齧ってるアビシェク。ガタイ大きいけど口寂しくなるタイプかもな。


「きっと上手くやってくれるよ」


ヂーミンは荒野の向こうの空を見上げていた。

むつ子達は別動隊を率いてとして古代戦艦の強襲作戦に取り掛かってた。

『古代戦艦の主砲を潰す』それが、むつ子達の役割。

記録じゃ先代勇者が機神を再利用した際は、古代戦艦の主砲『滅神砲(めっしんほう)』で機神は大破させられてる。ヤバっ。


「むつ子、任せたぜっ!」


あたしも空の向こうを見据えてそう呟いた。

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