四分の奇跡
冬休みに父の実家に帰省するため、カーフェリーに乗った女の子。
夜の海で不思議な光景に出会いました。
冬の童話祭2022「お題:流れ星」参加作品。
武 頼庵(藤谷 K介)様の24冬企画 冬の星座 (と)の物語企画にも参加しています。
ボォォォォォ……
夜の海に長い汽笛が響きわたりました。
一人の女の子が船室から甲板にでてきました。
あたりは潮のにおいと油のにおいがしています。
その子はコートの前をギュッととじて、白いいきをハァ……とはきました。
きょろきょろと甲板を見回した後、手すりのところまで歩きました。
女の子は、手すりからまっくろな海面をのぞいてみました。
船の下で、ウミホタルの青くぽわぽわとした光が見えました。
黒い海面に白いなみ、青い光がゆれてふしぎな絵になっています。
船の後ろの方を見てみると、遠くの町の色とりどりの明かりがきらめいています。
それは女の子がすんでいる町の明かりですが、夜にこんなに遠くから見たのははじめてでした。
黒い山々を背景にして、まるで宝石箱のように見えました。
女の子の家族は毎年おばあちゃんのところでお正月をすごします。
今夜はおばあちゃんのお家に向かっているところです。
お父さんの車ごと、この大きな船にのっています。
さむいせいか、甲板には他の人はだれも出ていません。
星空の下、女の子はひとりだけでした。
いっしょにきた妹は気分がわるくなって、おとうさんとおかあさんが船室でつきそっています。
女の子はじゃまにならないように出てきたのです。
女の子をのせた大きな船は、まっ黒な海のなかを力強くすすんでいきます。
さむいし、そろそろ船室にもどろうかな。少女が考えたときでした。
ツィーっと、夜空で何か光る点が、うごいてきえました。
「あれれ?」
女の子はびっくりしました。ながれ星を見たのははじめてです。
プラネタリウムではこないだ見たばかりでしたが、ほんものははじめてなんです。
ながれ星って、ほんとうにあったんですね。
「びっくりした。あれ? あ、また……」
ツィー……
ツィー……
ツィー……
つづけてながれ星が見えました。
プラネタリウムのおじさんは『ながれ星がきえる前に、おねがいごとを3回となえましょう』って言ってました。
でも、おねがいっていってもすぐに思いつきません。
そもそも、ながれ星はすぐにきえてしまいます。
まぁいいや。この夜空を楽しもう。女の子はそう思いました。
たぶん、話してもしんじてもらえないよ。
でも、イトコのお兄ちゃんには話してみようかな。
それから何分かたって、もうながれなくなりました。
みじかい間の奇跡だったみたいです。
しあわせな気分のままで、女の子は甲板を後にして船内に入りました。
船室にもどると、船よいでぐあいがわるかった妹は、すっかりよくなっているようです。
元気にお正月のかえ歌を歌っていました。
にがわらいをしながら、女の子は妹にさっき見た奇跡を教えてあげました。
ながれ星のことをきいた妹は、ぜんぜんおどろかずに言いました。
「お姉ちゃん、それは四分儀座の流星群だよ。ながれ星がたくさん見えるから、お年玉たくさんほしいっておねがいするんだよ」
「ねぇ。もしかして、まだながれ星見えるの? いっしょに見に行く?」
「さむいしねむいから、やめとくんだよ」
あとでイトコのお兄ちゃんにながれ星の話をきいてみました。
妹の言った通り、流星群というものらしいです。日本ではお正月の夜に見えることがあるみたいですね。
あなたも冬の星空を見上げてみませんか?