着ぐるみっっ!!
8割勢い。2割……………実験???
(もー、やっとれんっ!こんなクソ暑い中っ、なんで俺はこんな事しとらないかんのだっ!!!)
俺は、ラブリーなニャンコの着ぐるみの中で、猛然と声に出せない怒りに燃えていた。
つうか!死ぬ程あちいっ!!
なんでバイト開始早々に梅雨が明けんだ!コノヤローーっ!!
くっそぉおおっ! 太陽っ!くっそっ!お前、ぜってー俺の事殺す気満々だろ!
本日の最高気温38度だとっ!軽ーく病人の体温じゃねーかっ!!
あーーっ!頭クラクラするぅーっ…マジ脳みそ煮えとんじゃないのか…。
死ぬね…、ああ、このままだと俺…死んじゃうよね……うん、絶対ニュースになる。
『着ぐるみバイト熱中症で死亡』みたいなね。
「わーい♪ねこちゃーんっ♪ふうせんちょーだぁいっ♪」
はいは〜い♪ふうせんねぇ〜♪どーぞっ♪
…くっ!!くっそぉーっ!ちびっ子っ、めちゃかわいいなあっ!!
…ああ、そうだよ…ちびっ子にゃー罪はねえっ!このえんじぇるちゃん達は純粋にこの遊園地をエンジョイしてんだからよーっ!!
俺は、足元をフラフラ〜っとさせながら、ちびっ子に風船を配っていくのであった。。。
☆ ☆ ☆
遡る事3日前……。
「なあ、守孝、日給9000円、日払いのバイト、あるけどやらないか?」
大学の連れの西野が昼休みに俺に話を振ってきた。
「日給9000えんっ!?どんな仕事だ?」
「遊園地の着ぐるみのバイトなんだけどさぁ、俺の従兄弟が元々やってたんだけど、実はフットサルやって、太腿の靭帯やっちゃったんだよ…。臨時バイト探してるってメール来てさぁ。」
「んん、仕事の内容によりけりだな……。着ぐるみって、あちいじゃん。」
「ああ、その辺は大丈夫みたいだぞ。ほら、まだ梅雨明けそうもないだろ?雨降れば、遊園地の中の、クーラー効いたアミューズメントパーク内での仕事だって。」
「へえ〜……。」
「1時間に1回10分、水分補給の為に休憩があって、実働時間は5時間。」
うーん、5時間で9000円かぁ…中々おいしい仕事だなぁ♪
「よしっ♪俺やるわ♪」
と、易々と引き受けたのが運のつきだった……
□ □ □
(話が全然違うじゃねぇかっ!!!)
俺は、誰も見ていないか辺りをキョロキョロと見渡し、南国チックなソテツの木をげしげしと蹴飛ばした。
あー詐欺だわ、詐欺!
何が1時間に1回10分、水分補給の為の休憩があるだっ!!
もうかれこれこの着ぐるみに身を包んで3時間は経っとるぞっ!!
もうじき昼だぞっ!
なのに、なんで交代の奴が来ねーんだよっ!!
(くそーっっ!このままだとマジ死んじまうぞ!あの野郎…!顔みたらぶっ飛ばす!)
暑さとだるさでイライラは募るばかりで……
ソテツを蹴飛ばす足に、どんどん力が入る。
「ママぁ〜ねこちゃんがきをいじめてるよぉー」
ふんがっっ!しまったっ!
ちびっ子に見られたじゃねーかっ!
「・・・・・」
俺はソテツを抱きしめてなでなでして、小首を可愛いく傾けて、スキップしながらちびっ子に近寄き、ピンクの風船を差し出した。
若干警戒していたちびっ子(女の子可愛いなぁ♪)は、俺の愛らしい動きを見て、目をキラキラと輝かして、
「ありがとぉう♪ねこちゃん♪」
俺にぎゅーっとしがみついてきた。
可愛いい…ちびっ子、超可愛いいぞ…♪(うっとり)
…あ、勘違いしないでくれたまえ。
俺ロリコンじゃありませんからっ!!
実は、保育士を目指してるのだよ。だからちびっ子全般を愛してるの。
ちびっ子はね、天使だよ、うん。純粋で生き生きとして、心が洗われるよ。
「ばいばーい♪ねこちゃん♪」
笑顔で手を振るちびっ子に俺もキュートなアクションをつけて、手を振った……………。
その時である。
「猫っちぃー、おつでーす…。」
交代のウサギの着ぐるみがやっと登場。。。
「…貴様ぁ……、今まで一体どこで油売っとったんだ…くるぁああっ!」
俺はウサギのむなぐらをつかんで揺する。
「スマン、もっさん(守孝のあだ名)昨日ちょっとやぼ用で寝てなくてさー…♪涼しーい控室でついつい爆睡しとった♪」
あっけらかんと言い放つこのクソチャライ男は、俺の幼なじみで腐れ縁の隆太だ。 シフトは違うが、偶然にも同じバイトをやっとると言う。まさに最低の展開だわ………。
「なんだとゴラァアッ!おめー、そのルーズさっ!いい加減直せやっ!」
俺は右拳を振り上げる。
「いかんてっ!もっさん!ちびっ子が見とるぞっ!!」
隆太は声を潜めつつ叫ぶ。
はっ!!いかんっ!! 俺はサッと拳をしまい、何事まなかったように、おすましのポーズをとる。
「ぶぁははっ♪うっそピョーーンっ♪」
隆太はバンザイして笑いながら逃げ去った…………。
くぬぬぬぅ〜〜っ……
後で覚えとれよ……クソ野郎……マジ殺すかんな……。
俺は、いろんな意味で煮え繰り返る身体を引きずり、休憩場所である控室へと向かった………。
時刻は、11時をゆうに超えていた・・・・。
◇ ◇ ◇
アミューズメントパークの裏に人目を避けるように、ひっそりとバラック小屋が立っている。
バラック小屋の更に裏手には、アミューズメントパーク裏手の小さな特設ステージへと続く短い連絡通路がある。
そう、このバラック小屋の控室は、ちびっ子のアイドル、ヒーロー戦隊ショーの人も利用する、言わば、ちびっ子には絶対ばれてはいけない禁断の部屋なのだ。
俺は、ほぼ脱水症状手前の悲惨な状態で備えつけの古い冷蔵庫からキンキンに冷えたスポドリを取り出し、控室のくたびれたソファーにドサッと座り、かぶりものをスボッと外して、ごくごくーっとスポドリを身体に流し込む。
「くぅううう〜っっ…♪
生き返るーっっ♪」
スポドリ一本で泣きそうな俺。。。
そんな俺を見つめる視線にふと気付く……。
部屋の向かいの隅、パイプ椅子に胡座をかいて座る女子……。
テッカテカのショッキングピンクのピッタリとした服装に、白い手袋、白いブーツ。
パイプ椅子の後ろの白いテーブルにはピンクのヘルメット。
そう。彼女は今ちびっ子に人気の、
「激ヤセ戦隊☆ガリレンジャー」のガリピンクの中身である。
ピンクの女性は、一言も声を発する事なく俺をじーっと見つめる……。
「…お、お疲れ様です…」
なんとなーく挨拶をして小さく頭を下げてみた俺。
彼女は、
ピョンと結構身軽な感じで椅子から降りると、味気ない緑色の鉄製の棚の上に積み上げてある、白いタオルを俺にポイッと投げる。
「…あ、ありがとうございます……。」
タオルを受け取り、汗でびしょ濡れの髪と顔を洗う為に、着ぐるみの身体を脱いで、冷蔵庫の横に据え付けられたボロイ流しへ歩き、水道の蛇口を捻り、頭を突っ込む。
ふーーっ♪超気持ちええーなぁ……♪
バシャバシャと頭から水を浴びてると、後ろで何やら シュッ シュッと音が………。
さっぱりしてタオルで頭と顔を拭くと、俺の後ろでピンクが鼻をつまんで、ファ○リーズを尋常じゃないくらい振り撒いてる………。
すいませんねぇ…。
つーか、そんなにかっ?
若干へこんだぞ…くそっ………。
「………。」
ピンク、さっきから全然しゃべらねーし……。
気まずい…。
「あ、あのー、…もうすぐショーの時間ですよねぇ。今日はすげー暑いから大変ですよね…。」
俺は気まずい空気を少しでも変える為に頑張ってピンクに話しかけが、
「………。」
俺の投げた会話をスルーして、携帯をカチカチといじりだした……。
なんか……なぁ…?
…まあ、いいや……。
ああ…、マジ昼飯…食えないなぁ。
食ったら吐きそうだ…。
俺はため息をついて、ペットボトルに残ったスポドリを一気に飲み干した。
「ヤベーよ!マジヤベーっス (ノ~O~)ノ 」
な、何っ!絵文字っ?
ステージへ続く煤けたアルミ製のドアを勢いよく開け放ち、絵文字混じりに入ってきたのは……
赤いテッカテカ…。
レッドだ。レッド……
(うっわー…何?この人……超ガリガリじゃん…ガリレンジャーなだけに…か?)
レッドはひょろ長い小枝みたいな人。
「………。」
相変わらず無言のままで携帯から視線をレッドに向けるだけのピンク。
「悪役が逃げたっ!
三三(ノ`O`)ノ 」
マジか…つうか何故絵文字なんだっ!!
「……中止?」
うおっ!ピンクしゃべった!でも一言だけっ!
「今更中止は無理だ!もうちびっ子は集まっとるんだで!(´Д`)=3」
だから!なんで絵文字なんだよっ!!
「………あれ。」
ピンクは俺を指さす。
「………え …?」
ちょ、ちょっとぉ…、なんか流れ的にいやーな感じになってきたぞ…。
レッドはつかつかっと俺に歩み寄る。
「やあ♪(^O^)ノ よいお天気だねっ♪」
は? 何? だから!絵文字使って話しかけてくるのヤメロよ!
俺はあからさまに視線をレッドから外した。
「君、中々良い体格してるよねぇ(^_^)♪何かスポーツやってるっしょ?」
だから、絵文字ヤメロって!!
「……ええ…、まあ、…一応サッカーなんかを……はい…。」
あくまで視線は合わせない俺。
「へええー♪そりゃすごい♪(>_<)! 僕は元よりインドア派なんで。
スポーツマンをみるとそんけーするっていうかケッてなるってゆーかなんてゆーか。。。(-_-)」
もしもし、後半セリフ棒読みなんスけど・・・
しかも、さりげなーく、
「ケッ」とか言ってるし・・・。
「………………。」
とりあえず沈黙して回避を試みる。
「あのね、あのねっ、………(*^.^*)ノ 」
レッドは裏声で身体をくねらせて、俺の両手を握ってきやがる……。
きもっ!!
「ピンクの貧弱な乳揉ませてやるから、怪人やってちょっ♪\^o^/」
ガキィッッッ……!!
どわああっ!ピンクがっ!ピンクが無言でパイプ椅子をレッドの背中に振り下ろしたあっっ!!
「グハッッ…( Д)°°」
パタリ・・・・・
れ、レッドさん?
パイプ椅子を背中にしょったまま、動かねぇぞ・・・。
ゲシッ… ゲシッ……
「!!!」
あわわわわ……!
ぴ、ピンクさん!やめてっ!半笑いでレッドさんを蹴らないでっ!!
もーやだあああっ!!
こんな夢のない控室っ!!
ガチャッ……!
誰だっ?
俺は開くドアに視線をやる。
「んふーっ!あづいーぉーっ!」
・・・・黄色だ。
ガリレンジャーの黄色だ。
「んふーっ!」
どすどす・・・・。
ど、どこがガリレンジャーなんだよっ??
変身スーツぱっつんぱっつんじゃねーかっ!!
黄色だからかっ!?
黄色は特別扱いなのかっ!?
いろんな意味でテレビ放送観てみたいぞガリレンジャー!!
「レッドお〜、僕ちん、暑いからもう帰るぉ☆」
何ぃっ!!!
職場放棄だとっ!!
「…給料ドロ。(殺)」
ピンク、イエローに後ろ回し蹴りっっ!!
「おぼぉおおーーっ!」
黄色、一蹴で撃沈。
ピンクは、ニヤニヤしながら、KOして倒れている黄色に、ひたすらファ○リーズを振りかけている…………。
ひ、ひでえぞ…ピンク……。
「せ、背骨、折れ た、……き、きゅう、きゅう…しゃ ∠(_ _;)¬ ………………ガクッ…」
レッドも虫の息…。
ヤベーよっ!もー訳わかんねーよ!
完全パニックの俺!
ガチャッ!
「!!!」
今度は誰だよっ!
「あぢーよぉーっ!!
もーマジ無理っ!やっとれんっ!」
ウサギっ!じゃねー…
「隆太あああーっ!」
俺は、藁をも掴む勢いで隆太に駆け寄る。
「な、なんだ???
何がどうなってんだ?」
隆太は殺人現場にでも迷い込んだかのような勢いで、じりじりと後ずさる……。
「……レッド。(ぽっ♪)」
ピンクは隆太を指さす。
ォオイっ! ぽってなんなんだよっ!
「…黄色。」
失笑して俺を指さすピンク……。
ェ? 何この扱いの差は・・・・。
「ちょっ、ちょっと待って下さいよ!無理ですって!悪役いないし!」
俺は両手をブンブン振る。
つーか!絶対やだし!
黄色っ!だって!なんかコスチューム微妙に変色してるし!(どんだけファブってんだ!)
ピンクは、殺気を放ちパイプ椅子を振り上げる。。。
「あ゛ー!はいはいっ!やりますっ!!やらせて戴きますっ!」
もー、最悪だわ…。
もーっ!知らんっ!どーにでもなりやがれっっ!
・・・・・・・・・
その日のガリレンジャーショーは、最低のショーだった。。。
怪人が不在の為、ガリレンジャーのプライベートと設定され、ラブラブなレッドとピンクは舞台の上でいちゃつき、エスカレートしたピンク、レッドが、ヘルメットを脱ぎだして−−−−−−−−(自主規制)
…俺、黄色は、ピンクにフラれて激ヤセしたと言う設定になっていて……コスチュームだるんだるん・・・・。
愛しきちびっ子達はパニックで泣きだし、
親はかんかんに怒りまくって手に持っていたペットボトルを次々にステージに投げこんだ。。。
もー、絶対、着ぐるみバイトなんて二度とやらんぞ………。
俺はヘルメットの中、汗と涙でぐしゃぐしゃになりながら、固く心に誓ったのであった………。
おしまい。
この暑い中、特撮ヒーローショーとか、着ぐるみ被って働く人って、ほーんと尊敬しますね。ヒーローショーの人達は、将来そういう仕事に就きたい人がやっているらしいですね。すごいよね、ちびっ子に夢を与える仕事って。(そんな事言いつつ、ライダーにがっつりハマってるじゃん、うさぎさんよー)………あれ、室内でも相当暑いんだろうなぁ……。。。