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My greatest respect and gratitude

 ――ボウマン・ベルフール主催のオークション会場。


 その会場の壇上のさらに上。屋根裏から会場の様子を眺め、暗殺対象が壇上に立つのを待つ。チャンスは一度しか無い以上、失敗すれば直接的に始末するしか無くなってしまう。そして殺せたか殺せないという結果は、客席に居るであろう依頼主クライアントが確認しているはずだ。

 私自身に逃げ場が無い以上、何が何でも成功するしか無い。「エス」と名乗っていたシルヴィア・エルフォーレの邪魔が入ったとしても、私は必ずやり遂げなくてはならないのだ。

 

 ――私が私自身の為、そして……この腐った世界の為にも。


 『それではこれより、オークションを開始致します。主催であるボウマン・ベルフール様が、オークションの為に様々な品物をご用意して頂きました。まずは……――』


 オークションが始まり、次々と落札していく品々が壇上に上がっていく。客席からは跳ね上がって行く金額を聞く度、ここに居る者達の頭が可笑しいのではないかと勘繰ってしまう。それ程に国を揺るがす程の金額が動く中、私は標的であるボウマンが壇上に上がった事を確認した。


 「皆様、この度は私が主催したオークションに参加して頂き、感謝の意を表します。さて、次が最後の品では御座いますが、兼ねてより温めておりました品で御座います。どうぞ、ご堪能下さいませ!」

 

 ――プシュゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!


 「っ(煙っ?これでは視界がっ)」


 巨大な品物を覆っていたシーツを剥がした瞬間、会場を包み込む程の煙が私の視界を阻んだ。念の為に口を塞ぎ、目を凝らして暗殺対象であるボウマンを探し出そうとした瞬間だった。


 「やはり、ここに居ましたわね」

 「っ!?」

 「キリカ・レイフォード。……いえ、霧華と呼んだ方が良いかしら?」

 「シルヴィア・エルフォーレ!」

 「ククク、嬉しいわ。私の事を覚えていて下さって!!!」


 シルヴィアがドレスを脱ぎ捨てた瞬間、それが視界を阻んだと思ったら眼前にナイフが迫った。それを回避した瞬間、彼女自身が振るったナイフが天井を支えていた縄を切り裂いた。

 支えを失った照明が壇上へと雪崩落ち、下に居たボウマンの断末魔が会場に響き渡って轟音となった。騒ぎに反応が遅れた観客達は悲鳴を上げ、焦った様子で会場から出口へと殺到する。煙に包まれた壇上へと着地した私の前には、依然としてナイフを逆手に構える彼女の姿があった。


 「貴女は、私が殺したはず」

 「そうですわ。私は貴女に殺されましたが、今ここでその恨みを晴らす!地獄の底を思い知った私の報いを受けて頂きますわ!!キリカ・レイフォード!!」

 「私は命令に従っただけ。それに貴女の父親の方が非道な行いをしていたのは事実。殺されて当然」

 「この世で最も非道な行いをしている貴女に言われたくありませんわ!!」


 私の代わりに暗殺対象を殺した事に気付いていないのか、それとも元々私にしか眼中に無いのか。あるいはそんな事はどうでも良いと思えてしまう程、彼女の言動には理性を失っているように見える。

 私の事を恨んでいるのは理解出来るが、それでももっとスマートなやり方があったはずなのだ。毒殺や銃殺、それこそ自分の手を汚さずに殺す事なんてこの世には山ほどある。なのに自分で手を下したかったという願望が、彼女をここまで駆り立てたのだろう。


 「復讐でしか強く生きられないなんて、可哀想ね。貴女」

 「っっ!?お前に、何が分かるというのですか!!!私を殺したお前に、私の人生を狂わせたお前に、一体何が分かるというのですかっ!!!!」

 「憎悪は憎悪しか生まない。もし私を殺せたとしても、そこには何も残らない。生きる望みを、目的を果たした貴女は死ぬ。結果は変わらない。だから……可哀想」

 「――死ね。私に殺されなさい。大人しく、無残に、惨めに、死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 ナイフ同士が衝突する火花を散らせながら、彼女シルヴィアはそう叫んでいた。執念すら感じる憎悪を感じた私は、目の前に居る彼女の姿が大きな闇を抱えているように見えた。

 振られたナイフが私のナイフを弾いた瞬間、ニヤリと笑みを浮かべた彼女が好機と言わんばかりにナイフを私に突き刺そうとする。その瞬間がスローモーションに見える中、私は目を細めながら口を開いた。


 「――さようなら、私の初めての友達」


 ――ダン!!


 「……うっ……」


 私は弾かれたナイフではなく、一緒に持っていた銃を放った。会場に響いた銃声に気付き、自分の体が熱い事に気付いた彼女。そんな彼女は自分の熱い場所に触れ、真っ赤に染まった手を見て震えて目を見開く。

 その熱さを自覚した瞬間、血反吐を吐いてギロリと視線が私へと向く。そして揺らめいた体で一歩、また一歩と赤く滴る血を垂らしながら私に近付く。そして震えた手でナイフを振り上げ、消え入りそうな声で言った。


 「わ、私の為に、し、死んでっ……!」


 ――ダンッ!


 そう言って振り下げる直前、私はもう一度引き鉄を引いた。再び響いた銃声から数秒後、血反吐を吐いた彼女は前のめりに倒れた。倒れる寸前にナイフは手元から離れ、重い金属音と共に床に転がった。 

 足元で転がる彼女を見つめ、私はお別れの言葉を告げるのである。もう一度、銃口を彼女に向けながら……


 「さようなら。そして……仲良くしようとしてくれて、ありがとう」


 オークション会場から、三発目の銃声が鳴り響いた。

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