The girl waits for the time
ご拝読感謝致します。今回は少々文字数が少なめとなっております。
予めご了承下さいませ。では、本編へどうぞ
エスと名乗っていた少女に見覚えがあり、それが過去の任務で遭遇したシルヴィア・エルフォーレだという事を思い出した私。そんな私が取る行動だが、現在進行形で任務がある以上、寄り道をするにはリスクが生じる。
だがしかし、恐らく彼女は私を逃がそうとはしないだろう。というか、十中八九で私を標的にしているはずだ。そして私という固体情報は、既に暗殺対象であるボウマンに伝えられているはずだ。だが、どんな行動をするのかという点においては掴んでいないはずだ。
「……(けど、油断は禁物)」
そう自分に言い聞かせつつ、私は会場の天井裏で食事をしていた。西地区の街には店も多く、今回の会場内にも飲食店は指の数以上に存在している。腹が減ってはなんとやら、という日本のことわざがあったと記憶の隅から浮上する。
「日本、か……」
そう呟いた時、私は微かなに残っている記憶を思い出した。確か彼女と出会ったのも、日本に任務で出向いた時だった。だけどその時は他の事に気を取られ、私は彼女とあれから会って居ない。
彼女は今、何処で何をしているのだろうか?あの何の変哲の無い日常を過ごして、元気にやっているだろうか?あの屈託の無い、何も疑わない笑みを浮かべながら……生きているのだろうか。
「……」
考えが脱線してしまったようだ。私が今やるべき事は二つ。一つは、本来の目的である暗殺対象ボウマン・ベルフールを始末する事。そしてもう一つは、現在最大な壁であろう彼女の存在。シルヴィア・エルフォーレの対処をどうするか。
ボウマンと共に始末してしまうかどうか、それとも先にシルヴィアを始末してしまうかどうか。それとも両方一緒に始末してしまうかどうか。複数の選択肢がある以上、無理に一つに絞る必要は無い。
それに本来の目的であるボウマンを暗殺してしまえば、私はこの西地区には用は無くなる。その際、私自身の力でシルヴィアから逃げ切れば良いだけの事だ。問題は無い。
「……(そうと決まれば、ボウマン優先。これは決定事項)」
私はそう決心しながら、食べ物の残りを食べ尽くして飲み物を一気に飲み干した。天井裏にゴミを溜めるのは得策ではないが、パンくずぐらいは撒いておこう。ネズミがそれに集まれば、多少の牽制には成り得る可能性もあるのだ。
オークション会場の天井裏で待つ事数分、いよいよオークションが開催されるようだ。参加している集団の中には、あのシルヴィアの姿もある。他にも西地区だけではなく、資料にあった有力な政治家の存在も確認した。
この中の誰かが国のトップにでもなろう物なら、私のような人間が増える一方でしかない。そんな未来はあってはならないと思いつつ、私は息を潜めてオークションの様子を天井から観察し続ける。
「(チャンスは一度。恐らくこの会場の中には、私のクライアントも座っているはず)」
殺した事を確認するには、言葉ではなく目で確認するのが必須条件だ。もし裏切りという行為があれば、即刻排除対象となる危険性だってあるのだ。下手な真似をすれば、その場で処分出来るようにという事だろう。
クライアントの姿は私も知らないし、知る必要も無いし興味も無い。報酬さえ問題無く支払われれば、それで私からは文句も何も無い。やる事成す事全ての対価に報酬が相応しい状態であれば、私にはどうでも良い事だ。
彼女達の分まで生き続ける為にも、殺した人間の数だけ生き続ける為にも、私にとって報酬である金は必要不可欠な物だ。そんな事を考えながら、私は眠くなりそうなオークション会場を眺め続けた。
――暗殺対象を始末出来る、その瞬間まで……。