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A woman calling himself "S"

 資料を全て処分し、私は夜の街を徘徊する為に黒い服装へと着替えていた。昼間のレストランや情報屋の前で着ていた服は、貴族令嬢を装った服装で窮屈さを感じていたのだ。だがしかし、今の私は真っ黒なスーツに身を包んでいる。

 遠目で見れば、ライダースーツに見えるような服装だ。この服装であれば動きやすいし、街中を素早く動いて徘徊する事が可能だ。暗闇に紛れ込むという一点においては、これ程に適した服装は他には無いだろうと思う。


 「……綺麗な月」


 ワイヤーで建物の上へと移動し、少し高い建物の屋上へと跳び移って空を見つめる。満月とはここまで大きく見えるのかと思える程、目の前に見える月は私の視界を覆っている。それはまるで、大きいスポットライトが私を照らしているかのように。


 「……」


 いや、今のはくだらない事を言ったかもしれない。私は暗殺者であり、この世界から除外された人間だ。スポットライトを浴びる事が出来るのは、夢へと目指し、理想を目指して努力を惜しまない者達こそに相応しいだろう。

 私は努力はした事があっても、それが決して誰かの為になるような事はしていない。私は私の出来る事しかせず、私は私の為に行動している。身勝手に、我儘に、ただ己のするべき事を見えぬままに生きているのが私という存在だ。


 「マリアにこの夜空を見せてあげたかった、かな」


 脳内で私の事を呼ぶ彼女の声が聞こえたが、私はすぐに口角を上げて妄想を終える。空を眺めるのを止め、オークションが行われるという会場へと向かう。

 西地区の中央広場には噴水があり、それを十字に建物街が造られている。その場所から東側へと進んだ場所には明かりが輝き、一際目立っている場所が存在している。その場所が今回、暗殺対象であるボウマンが主催するオークションが行われる会場だ。

 ライブ会場のように壮大にライトアップされている事から、ボウマンという政治家は目立ちたがり屋なのだろうと予想をしてしまう。


 「……」


 私はそう思いつつ、建物へと潜入した。屋上から屋上へと移り、会場の屋上から屋内へと潜入する事に成功した。ここまで見てきた事だが、外の警備は厳重と思ったが中身がそうでもないのだろうか。

 このまま何事も起きず、暗殺対象を排除して帰りたいものだ。そんな事を考えながら、通気口や屋根裏を通って移動をし続ける。会場と言っても広さがかなりあるようで、オークションが主催される場所が見当たらない。

 書庫、美術館、音楽アリーナ、スタッフルーム、更衣室、VIPルームという具合に見つからず、私は一度屋上へと戻って外の空気を吸いに向かう。そして自作した会場内の見取り図を広げ、私は目を細めて見取り図を睨み付ける。


 「(何処?……非公式なのだから、何処かの部屋をカモフラージュにしてると思うのだけど……ん、非公式??)」


 私はその非公式という言葉が引っ掛かり、すぐに行動を開始して会場内へと戻った。同じく通気口を潜り抜け、誰にも見つからないように移動し続けた結果……私はついにその場所らしき部屋を見つけた。

 

 ――シュタッ。


 通気口から降り、私はその部屋の看板へと視線を向ける。そこには親切に「オークション会場」という文字が刻まれていた。私はニヤリと思わず口角を上げると、通路の奥から誰かが近付く足音が耳に入った。

 私は素早く身を隠し、扉が見える場所へと移動して様子を伺った。すると通路の奥から姿を現したのは、今回の暗殺対象であるボウマン本人が登場したのを目視した。数人の取り巻きが居て、今すぐに手を出す事は難しい。


 「……(四人……何も武装してなければ、すぐに勝てるけど)」


 そんな事を考えていると、点検の為なのだろう。オークション会場の鍵を開けて、警備の者と共に部屋へと入って行った。扉が閉まった後、鍵を閉める様子が無いので外から隙間を作って覗き込む。

 どうやら最終点検らしく、ボウマン達は奥へと既に進んでいた。私はすぐに室内へと入り込み、周囲にあるカーテンへと身を隠した。


 「……」


 オークション会場という割りには、広さがかなりある。公式で行うのならまだしも、秘密裏に行う催しとも言えど自重はすべきだろうと思う程に広い。席の数や室内の広さを考えれば、大貴族が主催のコンサートでも出来てしまうだろう。

 この広さで行うオークションとは、一体何を売り捌いているというのだろうか。そんな事を考えながら、私は壇上へと登って話しているボウマンを監視しつつ奥へと進んだ。


 ――ガチャリ。


 そう進んでいた私だったが、オークション会場の扉の方から金属音が聞こえて動きを止めた。思わず反応してしまったが、冷静に扉の方を見た私は目を見開く結果を生んだ。


 『だ、誰だ!!』

 「御免あそばせ。怪しい者ではないと言っても、信用はして貰えないかしら?」

 『き、君は何者だ!!見るからに怪しい奴め!名を名乗れ』

 「そうですわね。私はエスとでも名乗っておきましょう。貴方はボウマン・ベルフール様とお見受け致しますが、如何かしら?」

 『た、確かに私がボウマン・ベルフールだが……私に何か用か』

 「大した用ではありませんの。ただ一つだけ忠告しに来ただけですわ」

 『忠告だと?』

 「このオークション会場が催される際、貴方は命を狙われて殺されますわ。これは決定事項なので、信じなければあの世に逝く事になりますわ」

 『何だと!?それはどういう意味だ!』

 「言葉通りの意味ですの。そこで私から一つ、提案をしたくて貴方に遭遇したのですわ」

 『提案だって?君は私に何を提案するというのだね?』

 「まずは込み入った話となりますので、場所を変えましょう。ここは少し埃っぽいですわ。心配なさらずとも、私は貴方をお守りする為に来た護衛ですの。それに下手な詮索は殿方の品格を下げますわよ」

 『……あい分かった。君達はしっかりと戸締りをして来たまえ。客室へ案内しよう、エス』

 「ふふふ、ご理解頂けて何よりですわ」


 ――ガチャリ、ガチャリ。


 歩く度に金属音が聞こえる彼女「エス」と名乗っていたけれど、私は何者か分からずにその場で大人しくしていた。この場所に仕掛けを作るには、ここに留まる必要があるからだ。しかし、私は何故かエスと名乗る彼女から視線を外す事が出来なかった。

 やがて室内を出て行き、誰も居なくなった事で身を隠すのを止めた。そんな時に私は彼女と同じ声の誰かを思い出せそうで思い出せない、という曖昧な感覚に襲われながら仕掛けを作った。


 「エス……貴女は何者――?」

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