Girl makes a decision and smiles
「それでは、本題の契約の話に入りますね」
彼女――柊美久から持ち掛けられた話。契約という言葉に引っ掛かった私は、彼女にその話の本題へ入るように促していた。彼女は仕事モードというのだろうか?そんな空気を漂わせ、一枚の書類を私の前へ出した。
「まずは、霧華さんの現在に受け取っている報酬の予想金額です。こちらで間違いないですか?」
「……」
報酬金額が記載された書類。その書類の内容には、私が今までにしてきた仕事が洗い出されている。そこには当然、日本で行った物も含まれている。だが私が何をしたのかという内容は記載されていないが、それでも何をしようとしていたかまでは把握されているらしい。
ここまで良く調べた物だと素直に感心すると同じく、彼女の背後に居る何かを警戒せざるを得ないと判断した。もし敵になった場合、容赦する事なく消し去った方が良いと思ってしまう。
「良くここまで調べたね。素質あると思うよ(主にストーカーの、だけど)」
「えへへ、そう?」
「……」
褒めた訳ではないのだが、それでも喜んでいるならそのままにしておこう。
「霧華さんが貰っているこの報酬、この報酬の倍を私は出します。それが条件の契約です」
「どんな契約を交わすのかを聞きたいんだけど?……というか、私にさせたい仕事って何?」
「……単刀直入に言います。霧華さん、私の護衛をしてくれませんか?」
「護衛?」
「はい。霧華さんの実力を知っているのは、私を含めて父だけです。ですが、契約上の書類や条件を揃えてしまえば、周囲の者に何かを言われたりする心配はありません。しかも私の護衛という事で、特別手当も出ますし……色々とお得ですよ♪どうですか?」
彼女は身を乗り出してそう言い、私の顔に自分の顔を近付けてきた。私を護衛として雇う、というのが契約の本題だったようだ。だがしかし、私がして来た仕事には「護衛」というカテゴリはした事が無い。
誰かを消す仕事ばかりで、誰かを護るという仕事はした事が無い。成り行き上で誰かを助ける結果を生んだ事があったとしても、自己的に誰かを助けた事は一度も無いのだ。そんな私に「護衛」という仕事を頼むなんてどうかしているとしか思えない。
「何も可笑しな事は言ってませんよ、霧華さん」
「っ……」
「私はこれでも、真面目に霧華さんを雇おうとしてます。それに今の状況で雇えば、完全に私達が後ろ盾となって霧華さんを匿う事が出来ます。もし追っ手が来た時、一人で対処出来る程に海外のエージェントは甘くはありません」
「……」
確かに海外からやって来る刺客は、手強い人間しか居ない。一人で対処するには、かなりの時間を費やさなくてはいけなくなってしまう。それがもし多対一であるならば、一人ずつよりも体力の消耗があるだろう。
「どうですか?悪く無い話だと思うんですけど?」
「確かに良い話だけど……分かってるの?」
「??」
「私が人道から踏み外れた存在だって事、それを理解して言ってるのかって聞いてるの?」
私は少し怒ったような口調となり、彼女の表情が微かに強張っている。だがすぐに冷静さを取り戻し、彼女は笑みを浮かべて言うのであった。にこやかに、そして何も躊躇する事なく……
「――私は、霧華さんと離れ離れになりたくないの。また、あんな寂しい思いはしたくない。これは私の自分勝手な我儘。でも私が今言ってる事は、私の正直の気持ちなの。これだけは信じて欲しい。契約は、建前だから」
「……はぁ、一日考えさせて」
「うん、分かった。これ、私の連絡先だから……決まったら連絡して」
「分かった」
彼女はそう言って立ち上がり、私の家を後にした。彼女が居た所為なのか、少し広々としているなと錯覚してしまう。そんな家の中を眺めながら、私は写真立てを見つめて口角を上げて呟いた。
「……うん。私が正しいと思う行動をしてみるよ、マリア」




