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Girl exchanges words with an old friend

 「――私と、契約しませんか?」

 

 彼女……柊美久は問い掛けた。その表情は何処か真剣で、私はその表情を見た事が無かった。正直に言えば、彼女にもそういう表情かおが出来たのかと思ったぐらいである。

 

 「契約……?」

 「はい、そうです」

 「何の?」

 「霧華さんの今後に役立つ契約です」


 両手の拳を握り締め、キラキラした瞳を向けながら鼻を鳴らす。ドヤ顔、というのだろうか?そこまで誇らしげに言われると、無償に腹が立つのは何故だろうか?そんな事を考えながら、私は彼女の言葉について問い掛ける事にした。

 

 「私に役立つ?具体的な話をしてくれる?」

 「興味を持って頂いたんですか?」

 「話を聞くだけ」

 「分かりました。しっかりと説明させて頂きます」


 何か可笑しなスイッチが入っているのかと錯覚してしまう程、彼女のテンションはかなり高かった。そう感じつつ、私は彼女の言葉に耳を傾ける。

 何故なら、彼女の言った「契約」という言葉が引っ掛かったのだ。


 「――まずは現状の確認です。霧華さん……貴女は今、顔も名前も知らない依頼主さんの指示や依頼に従うのを日々繰り返している。という事で間違ってませんか?」

 「うん、間違ってない」

 「そして、その依頼の危険度に応じての報酬を受け取っていると」

 「うん」


 正確には危険度ではなく、暗殺対象に比例して報酬が決まると言った方が良いだろう。そしてそこから、危険度や期限を合わせて相応の報酬が支払われるという事になっている。

 そこまで調べが付いているのではないかと思ったが、彼女の現在の立場であれば可能かもしれない。彼女について詳しくは無いのだが、それでも良く調べていると素直に感心してしまった。


 「ここまでで、間違っている物は無いと思いますけど……大丈夫だよね?」

 「良く調べてる。痕跡を残してるつもりは無かったけど、何処からそんな情報を?」

 「権力とコネの力技です」


 再びドヤ顔を浮かべている彼女に対し、私は何かを言う事を諦める事にした。恐らくどう調べたかについて追求した所で、結果は何も変わる事は無いだろう。これは彼女が作り上げ、辿り着いた結果なのだから。

 誰にも否定したり、肯定ならまだしも……拒絶する事は許されないだろう。認めざるを得ないというのは、まさにこういう事を言うのだろう。しかし、情報が漏れているのであれば依頼主の事も信用が出来なくなる。

 さて、今後の依頼はどうしたものか……。


 「……」

 「まぁ、お父さんの力も少し借りちゃったけどね。けど、これで私にも力があるという証明は出来たかな?」

 「……出来てる。けど、それを私に教える必要は無かったと思う。情報は力だから、それを漏らすのは逆に厳しくなったりする」

 「大丈夫だよ。だって今は、味方との共有の時間だし」

 「味方……?」

 「うん!」

 「誰が?」

 「私が」

 「誰の?」

 「霧華さんの!み・か・た!」

 「……はぁ、はいはい。もう味方で良いよ」


 身を乗り出して接近してくる無防備さに呆れながら、私は溜息混じりに彼女にそう言った。成長したのは雰囲気だと思っていたが、そうでは無かったらしい。彼女自身の権力は成長したが、未だに彼女自体は無防備さが取れていない。

 これでもう少し警戒心が強ければ、かなりの情報屋になれたと思うのだが……それは高望みというものだろう。そんな事を考えていると、彼女は少し口角を上げて口を開いた。


 「なんか、懐かしいね。こういうの」

 「???」

 

 目を細め、思い出を振り返っている様子でそう呟く。


 「学校の時に戻ったみたいで」

 「あの頃とは状況が違う。それに、元には戻って無い」


 私はそう言いながら、自分の部屋にある写真立てへと視線を向けた。彼女もその視線に誘われると、やがてハッとした表情を浮かべて口を塞ごうとした。だが、既に発している言葉を訂正する事は難しいものだ。

 ましてや、既に存在しない者も居る思い出話をするというのは……辛くなり、悲しくなるだけである。


 「――マリア・スカーレットさん。霧華さんが幼い彼女を拾い、暗殺家業や護身術を習得させて育てた少女。そして、霧華さんが認めたたった一人の家族……でしたね」

 「……その情報は、少し違う」

 「何が違うのでしょう?」


 敬語へと戻ってしまっている彼女に対し、私は目を細めるように彼女を見据えながら言った。


 「マリアは元から戦う能力は持ってた。知らなかったのは、それを何処で消化したら良いのかってだけ。対処法さえ知って、鍛えてたりしたら、多分私よりも良い仕事をしてたと思う。ハッキリ言って天才だったと思う」

 「べた褒め、だね」

 「認めてるから……」


 そう。認めているのだ。私の大事な家族……妹として。私も彼女に感化されたのか、懐かしい思い出という物を振り返っていた。そう、それは懐かしい思い出であり、残しておくべき記憶だ。

 だがしかし、この場では既に意味の無い事だ。考えるのは、話が終わった後にゆっくりすれば良い。記憶の中でなら、マリアに遭う事も可能なのだから――。


 「続き」

 「え?」

 「契約について、教えて」

 「っ……はい!」

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