死にゆく父への手紙
二十八
死にゆく父への手紙。
あなたという人は、本当によく分からない人間だった。この男は、何のために生きているのか。最後の最後まで、傍から見て理解できなかった。
人間の根本問題(何のために生きるのか)を考えるきっかけは、毒親のあなただった。私はあなたを反面教師として、学生の時から、あらゆる学問を手当たり次第勉強してきた。
そうして今、一人の「毒子」としてある意味、超越的な境地に達して、精神的な安らぎを得ている。
あなたの孤独と私の孤独は根本的に違う。
あなたの長らく直面している孤独はあなたを根こそぎ不幸にし、長い思索の果てに到達された私の孤独は、私に心身の安らぎを与えてくれた。そして幸福になった。
毒親の血を否応なく受け継いだ私にとって、唯一克服できない問題がある。結婚し子供をつくることである。
まともな人間ではないと自覚する私は、全うに子供を育て上げる自信がない。つまり、結婚し子供を授かった瞬間、私の胸のうちに隠れ住んでいる鬼が目を覚まし、善良な私を毒親へと変貌させるのではないか、という強い疑念である。
破滅への階段は、取り壊さなければならない。鬼が死んでも、その子供が鬼になるような負の連鎖は絶対に避けなければならない。
私は、私の心のうちに貫徹する強い正義感に従い、生涯、孤独を貫き、もって私たちのうちに住みつく邪悪な者どもを私たちの中だけに封じ込めて、窒息死させる。
それにしても私は幸福である。自助努力の果てに心身の安らぎを得た。
毒親を持つのも悪くはない。