毒親の先には何があるだろう
二
朝の食卓に並ぶ目玉焼きに焼き鮭、ご飯。それに加えて市販のモズク酢や漬物なども食卓を彩ります。父は一年中、三百六十五日、モズク酢も食べ続けますので、食品メーカーが作ったモズク酢の変化に非常に敏感です。
「この(プラスチックパックに入った)モズク酢、モズクの量が減って、お酢の量を増やしたんとちゃうか?詐欺やろ?」
「モズクは食物繊維が豊富やから、食べたらウンコがよく出る」
父は、食べ物に箸をつける順をおそらく無意識に決めていて、まずモズク酢を口に吸いこんだと思うと、次はご飯を食べて、その次は目玉焼きを食べるというふうに、一定のパターンを持っています。年老いてボケるとは、ロボットみたいになることなのでしょうか。
身内の恥をさらすようなものですが、この父は食事をするときに絶対にテレビをつけます。行儀が悪くて申し訳ありません。しかしながら、食事中にテレビをつけるのは、父と母との暗黙の了解であり、普段、ウンコ以外にほとんど話すネタがない老夫婦にとって、食事中の沈黙はつきものですが、どうやら二人は、その沈黙に耐えられないようなのです。沈黙の救世主はテレビというわけです。
コロナウィルスの感染拡大やら、三十万円の現金給付やら、テレビからいろいろな情報を得ることができます。
父はモズクを口に吸いこみながら、
「コロナウィルス、ワシに移すなよ。ウンコ、出るかな」ときて
「ウンコ、出るかな。コロナウィルス、ワシに移すなよ」とくる。
父は耳が遠いので、母がニュースを見て「コロナウィルス・・・」云々と話を切り出した時に、父が「トヨタのコロナに乗って、ドライバーがマスクを付けても、現金三十万円はもらえへんで!」とモズクを一気に口に吸いこみながら、目をギラギラさせている様子には、正直なところ、私も母も閉口してしまいました。