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毒子回想録

十五

 大学生のころの話です。

 相変わらず、勉強が好きで大学の授業はほぼ皆勤賞でした。大学三年生から始まった経済学部のゼミでは、京都の観光政策について研究し、卒業論文としてまとめました。その卒業論文が大学の先生の間で好評だったのか、経済学部が発行している論文集に私の卒業論文が掲載されました。大学卒業時には、大学の成績優秀者に贈られる賞状と賞金もいただきました。

 大学の教室の教壇に先生が立ち、授業が始まると、私は大きな講義室の最前列の席に座り、先生の板書をひたすら書き写すような輩です。大学の同級生からは、勉強ばかりやっている変人と思われたかもしれません。

 大学生になり、アルバイトも始めました。週に何回か、映画館でアルバイトをしました。映画館の映写室に閉じこもり、映写機を回し、映画館にある大きな画面に映画を映すのです。映画館には大勢の客が集まりますが、映画上映中は黒一色の世界です。孤独の愛する者は、すべての人を覆い隠す暗黒の世界に居場所を求めます。

 大学生のころの家庭環境の大きな変化は、父が急速に衰えていき、今日のウンコとパソコンばかりやっている「生きる屍」の原型が確立されたことです。つまり、家庭で暴言と暴力だけを振るってきた父は、職を失ってから、すべての人生を失ったかのように、暴言と暴力は鳴りを潜めて、大人しくなりました。そして太り始めました。痴呆症へのステップを踏み始めたとも言えるかもしれません。

 高校生以来、私は孤独を愛していますが、父が私の孤独を追従するようになりました。いや、毒親と毒子の間柄なので、たまたま私が先に病的なレベルの孤独になっただけで、私と同じ遺伝子を持った父も遅れて孤独に愛情を注ぎ始めたのでしょう。

 この頃から今日に至るまでの父は、これまでの毒親像から離れて、生きる屍、いや変人とでもいいましょうか、ひどく社会から孤立した孤独な人間となっています。父は勉強しません。学びません。友達はいません。人と会いません。毎日、同じものばかり食べます。一日中、ウンコとパソコンばかりやっています。著しく変な人間です。しかし、幸いなことに人様には迷惑をかけていません。なので、そのまま放っておきましょう。

 毒親たる父の行く手にあったものは、恐ろしいほどの孤独な余生でした。私は孤独を愛していますが、父の毎日実践する「孤独」には恐怖の念があります。本当に恐ろしい。人生百年時代と言われます。父はあと十年、いや二十年近くもこのような孤独な生活を続けるのでしょうか。私は父のこれからの余生と孤独を想像するとき、一種の戦慄と慄き、そして絶望を感じます。

 父から否応なく孤独な遺伝子を受け継ぎましたが、その孤独の性質が腫瘍のような悪と破滅の道に進まず、善良な孤独の道に思いとどまったことは、私の人生における幸福の果実でした。

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