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VS王麟学院 2 牽制

「初めに聞きたいのは、定義の……海外の人に紹介する、ってところです。この部分、海外の人っていうのは具体的に、どんな相手ですか? 外国の人みんなとか、それとも一人の友達か……」

「友人、あるいは何やかの知り合いに、自分が紹介する場合ですね。国の代表として外国の人みんなにアピールするとか、そんな大それた話ではないでがす」

「わかりました。じゃあ次に、和食の定義なんですけど、これはそちらの提示した、農林水産省の提示する特徴に多く当てはまるもの、ということでしょうか?」

「いえ。今回、あくまでボクらは、こういうものが和食だろうと。そう判断する材料にしたという話ですので。和食という言葉を改めてどう解釈するかは、そちらさんの自由でござんす」

「はい、それでは……最後です。今回、インスタントラーメンはそちらの主張だと、ラーメンには入らないんでしょうか?」

「いやあ、そこですね。ボクらもどうするか悩んだんですが。インスタントっちゅうのはあれです、年中いつでも同じ味、変わらず食べられるのが特徴の食品やと思いますんで。これを農林水産省の言う特徴に当てはめて考えると、和食とは程遠いものですから。ひとまず今回の主張においては和食と呼べるラーメンとは別物だと。そう考えとります」

「お店で食べるようなラーメンが和食、ってことですか」

「そうなります」

 どちらが動揺することも、慌てることもなく質疑が終わる。

 あまり今までの真勇らしくない質疑。だが、その内容は――

「完璧だ」

 俺がそう言うと、真勇は返事をする代わりに笑顔を見せた。


 得られた情報は、どれも俺たちの主張を作るのに都合のいいものばかりだ。

 これなら立論、それに続く第一反駁で、一気にペースを握ることができる。

「天王寺、大丈夫そうか?」

「てめぇはてめぇの心配してな」

 ニヤリと笑ってみせる天王寺。決して虚勢ではない顔だった。


 そして、こちらの立論の時間。いつも通り、緊張とは無縁の様子で天王寺が壇上に立つ。

 軽くマイクを叩くと、俺たち、そして夕那先輩と小夜に軽く微笑みかけて、立論を開始した。



「定義はラーメン側に従って、『海外の人に"和食"として紹介するなら、カレーとラーメン、どちらが適切か』という論題において、カレーの方が適切だって、我々は主張します。

 理由は一つ、カレーの方がラーメンよりも明らかに、日本の生活と家庭に根付いてるからです。


 まず考えるべきは、海外の知り合いに自分が紹介するなら、どんな料理が適切かってことです。

 高級料亭で出てくる懐石料理みたいな、アタシたち学生じゃ手の届かないような料理を紹介したって、口で言って終わりです。そうじゃない。

 どうせ紹介するなら、紹介したついでに一緒に食う、あるいは一緒に作ってみる、そうやって直接その料理に触れられる、そして仲を深められる。そうした料理こそ相応しいはずです。


 この点で、カレーはラーメンよりも大幅に優位です。

 まず外せないのが、給食。徳人新聞において過去4回行われた「好きだった給食」の調査において、上位5位以内に必ず入っているのが揚げパン、ソフト麺、そしてカレーの3点です。

 そして、このうち世代を問わず上位3位以内から一度も外れていないのはカレーのみ。つまり、総合的に見て最も人気のある給食がカレーであると判断できます。

 さらに、カレーは食べるだけでなく、作る料理としても私たちとは切っても切れない関係です。ここで資料。


 料理研究家 剣持 2016

【こと、カレーほど良い料理はない。これをひどく嫌う子供を見たことがないし、洗う、切る、焼く、煮込む、と料理の基礎を一通り学ぶことができる。家庭のみならず学校という場で愛されていることも、この料理が優秀であることの証左であろう】引用終了。


 実際、林間学校や家庭科の調理実習でカレーを作った経験のある人は多いでしょう。

 ちなみに、アタシたち東龍のディベート部員も、全員カレーを作った経験があります。

 それから注目してほしいのが、テレビCMの内容です。雑誌『魔法のテーブル』では、このように分析されています。


【1974年から2019年まで、カレールウおよびレトルトカレーのCMは189種存在し、このうち家族、親子あるいは夫婦という設定で役者が登場するのは181種、全体の95.8%にも上ります。つまりカレーを販売するメーカーが『カレーは家庭、家族で食べる料理である』と認識しており、実際の家庭にもその認識が根付いているということでしょう】引用終了。


 つまり日本の家庭とカレーは、切っても切れない縁があるってワケです。

 給食でカレーを食って、調理実習とか林間学校でカレーを作って、家に帰れば親の作ったカレーを食う。

 あたしたちの家庭、生活は、カレーとは切っても切れない関係にあります。こうした料理こそが、海外の知人に紹介するにあたって、ふさわしい料理のはずです。

 ラーメンも確かに、日本で人気があり、親しまれている料理ではあります。

 ですが、家庭や生活に根付いているかという点で見ると、カレーには遠く及びません。調理実習や林間学校でラーメン作った人がいますか?」


 そんなわけないだろ、というふうに冗談めかして言うと、会場に笑いが起こる。

 家庭で毎週手打ちラーメン食ってた天王寺にとっては、複雑な気持ちだろう。


「――知り合いにメシの紹介するってのは、堅苦しい定義に則った情報を伝えることですか? 違うはずです。

 日本の生活や家庭に根付いた料理を、一緒に食ったり作ったりして、楽しく温かい時間を過ごす。そういうのができてこそ、胸張って日本の食卓、料理だって言えるものです。

 だから、カレーの方がラーメンよりもずっと、和食として紹介するのには適してるってワケです!」



 会場の反応は、まばらだった。

 悪くはないが良くもない。だが何より王麟と比較すると、今一つ見劣りする。そんな反応だ。

「これでいいんだろ?」

「ああ」

 俺が答えると、天王寺はニヤリと笑った。


 今回の肝は、俺の第一反駁でインパクトを与えることにある。

 なら、立論は地味でいい。むしろ中途半端に目立たない方が、後の衝撃が増すはずだ。

「第一反駁、問題ないですよ」

 俺は渚先輩にそう伝えておく。先輩は何も言わず、頷いた。

 ここまでは全て、理想的に進んでいる。


 質疑の時間に入り、天王寺と泉水が並ぶ。

 相変わらず、試合の時のあいつには普段の挑発的な様子はない。

 落ち着いた態度と、絶対的な自信を秘めた鋭い目。俺が対峙しているわけでもないのに、息苦しさを感じそうになる。

「CMの分析、という点についてですが。この『家族』という判断は、どんな基準で行われたものですか?」

 天王寺が眉をひそめた。

「……厳密な基準までは、記載されていません」

「つまり筆者の主観に過ぎない、というわけですね」

「それは……まあ、そうなりますけど。普通に見てりゃあ、家族っぽいかどうかって分かるだろうし、参考にならないデータじゃないはずです」

 焦りを隠しながら天王寺は答える。

 この点は、俺たちも気付いていた問題だった。だが、家庭への結びつきを示すにあたっては、これが一番"マシ"な資料だったのだ。

 できればスルーしてほしかった所だが、そんな甘い考えの通用する相手ではなかった。

「次です。そちらの和食の定義としては、食材や調理法などは一切関係なく、ただ家庭に根付けば和食だ、ってことですか?」

「古い文化としての和食と、今回のように『海外の知人に和食として紹介する料理』ってのは、別だと思ってます。今回の場合で言えば、材料とか調理法より……日本の食卓に根付いてて、楽しく温かい時間を過ごせるもの、です」

「それは一般的にイメージされる『和食』とはかなり異なるものだと思いますが、例えばその知人が海外で『カレーは和食だ』と言って回ったとしても、問題ないと思いますか?」

「……はい。それくらい胸張って言えるくらい、カレーは日本の家庭の食べ物として根付いてるってことです」

「そうですか、ありがとうございました」


 少々険しい顔をして、天王寺が席へと戻ってくる。

「大丈夫だ。完全に崩されたわけじゃないし、反駁でなんとかなる」

「……本当に大丈夫なんだろうな?」

「小夜たちを信じろ」

「そこは『俺を信じろ』って言うとこじゃねーのかよ」

 呆れたように言いながらも、天王寺は満更でもない顔をしていた。

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