VS鳳南高校 4
今までの流れを見ても、分は俺たちにある。それは確信していた。
渚先輩が壇上に立つ。チラリと夕那先輩たちの方へ微笑んでから、反駁を開始した。
「ご飯派の主張に対し、まず第一に指摘すべきことは、『ご飯には品格がある』とするだけの根拠を示していない点です。
歴史が古い、文化としての結びつきが強い。仮にそれが品格であり、優先して選択すべき理由とするのであれば、こちらが第一反駁で申し上げたように、現代でも行灯や人力車を使い続けることが正しいと言えてしまいます。
それは単なる、変化や発展の否定です。そうした思想を持たせるものが品格であるとするならば、そのような品格はむしろ、なくすべきと言えるでしょう。
第二に指摘すべき点は、我々の挙げたご飯の長所について。
我々は一貫して健康面でのご飯の長所、及び日本における歴史の深さについては認めています。
重要なのは、誰もが『ご飯を食べるべき』と認識していながらも、実際には半数がパンを食べているという点。
これはつまり、ご飯のメリットが多ければ多いほど、それを蹴ってまでパンを食べようと選択している人の意志の強さが証明されるものです。
ご飯を食べている人は、漫然とご飯を選んでいる。対し、パンを食べている人は、明確な意志をもってパンを選択している。
これは最終的な数としては同程度であっても、まったく重みが違うことがご理解頂けるでしょう。
ゆえに、より人々から愛されているのはパンの方。パンこそが日本人の朝食としてふさわしい。それが我々の主張というわけです。
歴史、伝統を重んじる。それは決して、間違ったものではありません。
しかし、考えなしに過去の文化を継続させることは旧態依然と揶揄されるもの。
進歩や発展を否定し、ただ過去に囚われて『ご飯を食べるべき』と言うことに、如何ほどの価値があるでしょうか?
重要なことは『どうあるべきか』ではなく、『どうしたいか』。
あなたは過去に囚われ、漫然とご飯を食べ続けますか?
それとも、己の意志で進歩と発展を受け容れ、パンを食べますか?
どちらに投票すべきか、皆様には既に、ご理解頂けたはずです!」
芝居がかった話し方で、大きく腕を振りかざし、渚先輩は反駁を終えた。
「ふふ、君の言葉を使わせてもらったぞ」
「改めて他の人に言われると、ちょっと照れくさいですけど」
「いい言葉じゃないか。さすがは、我が部の新たな部長だ」
思わずニヤつきそうになるのを、俺は我慢した。
そして、最後の反駁。
菅さんは川上の第一反駁をベースに、渚先輩の第二反駁へ反論する、セオリー通りの第二反駁を行った。
決して悪い反駁ではなかったが、俺たちの論を崩すほどではない。俺はそう、自信を持って試合の終わりを見届けた。
鳳南高校はご飯の社会的、歴史的価値を示したことについては一定の説得力があったが、現代人の朝食としてご飯がふさわしいと示す繋がりが、少々弱かった。
対し、東龍学園は当初から一貫して「選ぶ者の意志」に焦点を当て、「どうあるべきか」よりも「どうしたいか」を重要とする論を展開した。両校の差は、そこに出た。
――それが、主審の講評だった。つまり……。
「全員一致でパン派、東龍学園の勝利とします」
「っし!」
俺たちは小さくガッツポーズをした。
はっきり言って負けるとは思っていなかったが、全員一致で勝てるかどうかは、やや不安があった。
しかし、言っちゃ悪いが鳳南に票を取られる程度の力だったら、王麟に勝つのは相当厳しいだろう。ここを全員一致で勝つのは、一つの関門のようなものだと思っていた。
ひとまず、ここはクリアだ。この調子なら、王麟に勝つことだって夢ではないかもしれない……いや、勝てるはずだ。
「どもッス! いやー、やっぱ東龍のヒト強いッスねー」
負けた悔しさなど微塵もなさそうな様子で、茶谷が声をかけてくる。
その後ろで泣きそうな顔になっている大林さんとは対称的だ。
「まあ、お前らも成長はしてた……んじゃないか。多分」
少なくとも、西女とは全く比較にならないくらいにまともだ。比較対象が低レベルすぎる気がするが。
「フ……それでこそ、ワタシのライバル。いずれあなたとはまた、戦いの時が来るでしょう。それまでせいぜい、ワタシたち以外には負けずにいることです!」
またクネクネしながら高らかに言う川上を、菅さんが小突いた。
「やっぱりな。こうなるだろうとは思ってたぜ。お前たちなら、今度こそ王麟にも勝てるんじゃないか?」
「絶対勝つとまでは、言えませんけど。一応、勝つつもりで来ました」
今度は俺がどつかれる。天王寺のパンチだ。
「おいコラ雄一郎、テメェこの期に及んで"一応"とか言ってんなタコ! こーいう時は普通に、絶対勝つって言っとくンだよ」
「俺はもっと地に足の着いた発言をする主義なんだ」
「なーにが地に足だ、木に登ってバナナ取ってろ臆病猿!」
菅さんが笑い出す。
「いい仲間、持ったじゃないか。その調子で俺たちの分まで勝ってきてくれ、部長さんよ。それから来年、またあいつらの相手してやってくれや」
そう言うと、俺の肩をポンと叩いて去っていった。
やはり少々無骨ながら、爽やかな人だ。
改めて部長と呼ばれることの重みを感じて、呟く。
「……部長って、プレッシャーかかるな」
「えへへ、わたしも期待してます、部長さんっ」
「プレッシャー上乗せすんな!」
真勇にデコピンを食らわせると、俺は渚先輩に向かって言った。
「絶対勝ちに行きます」
「うむ」
先輩は優しく微笑んだ。




