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VS鳳南高校 3

 大林さんも、天王寺も。感情を込めた演説で、聴衆を引き込むような立論を行った。

 今回は、お堅い公式の大会じゃない。それに今の、この盛り上がっている空気を俺が冷ますわけにもいかない。

「よし、明るく楽しく元気よくだ」

 自分に言い聞かせるように口に出すと、俺は反駁へと向かった。


 壇上に立ち、ジャッジを、聴衆を見渡す。

 夕那先輩と小夜が、ちょっと不格好な字で「がんばれ」と書かれた横断幕……もとい、タオルを持っているのが見えた。

 ……今日は緊張とは無縁の試合になりそうだ。

 俺は二人に、ほんのちょっとだけ笑顔を向けて、反駁を開始した。



「一つ、ハッキリ言えるのは、あいつら……じゃない、彼らご飯派の主張は、現代の実情を全く見てないってことです。

 日本にとって米は縁が深く、文化として根付いている。自給率が高い、田植えの体験ができる。それは正しいかもしれません。

 けどそれが、現代の人が朝食に米を食べるべきであること、そして米が日本人の朝食としてふさわしいということについて、全く繋がっていません。


 昔から続いていたことだから、今後も続けるべきだ。こんなことは、ただの思考停止です。

 日本人は現代も、行灯を明かりにしたり、人力車で移動するべきですか?

 そんなわけはないでしょう。今は蛍光灯と、自動車や電車があります」


 会場から、思わず吹き出す声が聞こえた。

 少々極端な例だったが、印象に残れば勝ちだ。


「より優れた文化への進化、あるいは環境に合わせた適応は、あらゆる文明を築く上で不可欠なことです。

 要するに、古くからの文化であることを理由にしたご飯派の主張は、まるっきり時代遅れで非生産的な主張だって言えます。


 俺たちパン派は、現代の人が自らの意志でパンを選んでいる、ということを強調しています。

 単純にパンが好き、洋食派だという理由もあれば、食事に時間をかけたくないという消極的な理由でパンを選ぶ人もいます。

 ですが、それぞれの人がみんな、『パンを食べよう』と思って選んでるわけです。


 逆にご飯派は、ちゃんとした自分の意志でご飯を選んでいるわけではありません。

 選択するということは、明確に、どちらかを選ぼうと考えて行うことのはずです。

 昔からの風習だから、特に意味はないけど何となく続けている。それは『選んでいる』うちには入らないはずです。


 確かに、パンは米と比べて日本での歴史は浅い食べ物です。でもそれは、むしろこう考えられるはずです。

 歴史が浅いのに、今では日本の半数が、明確な意志を持って米よりパンを選んでいる。

 それは既に、米以上にパンが日本人から愛されている証明だと。


 ごはん派は文化、歴史の点から米を選ぶべきだと言いました。そして、俺たちの集めた資料は、健康の面からごはんを選ぶべきだと結論付けていました。

 ……でも! 重要なのは『どうあるべきか』じゃなく、『どうしたいか』です。

 文化だから、健康だからと押し付けられたものを食べても、楽しい朝食の時間は過ごせません。

 自分の意志でパンを食べたいと思う、そしてパンを食べる。それが幸せです。

 だから俺はパンを食べる。俺たちは、パンを食べるべきなんです!」



 ちょっと無理をして声を張り上げ、天王寺の真似をしてガッツポーズをしてみせる。

 聴衆たちは笑いながらも俺へ納得の目を向けていて、俺は胸を張った。夕那先輩と小夜に見られているのは、少し恥ずかしかったが。

「どうだ」

「へっ、やるじゃねえか」

 席へ戻り、満足そうな目を向ける天王寺とハイタッチを交わす。

「見事だ、猿渡君。これは私も、半端な気持ちではいられないな」

「後は任せましたよ」

「うむ、任せてくれ」

 渚先輩は頷き、フローシートにメモ書きを続ける。

 今まで以上に、その姿は頼もしい。


 程なくして相手の第一反駁の時間となる。

 俺に不安はなかった。今の状況から見て、どう出てこられても十分に潰せるだろう。

 どっしりと構えて待つ。川上が壇上に立ち、反駁を開始した。



「――はい! パン派の皆様方は、素晴らしい立論と反駁をしてくださいました。

 ですが! それがワタシたちの論を崩し、パン派の主張こそが正しいと証明するには、ザンネンながら至っていません。


 お集まりの皆様、まずは今回の論題をご確認ください!

 ――そう、『日本人の朝食にふさわしいのはごはんとパン、どちらか?』という内容となっております!

 ここで見るべき所は、『日本人の朝食にふさわしい』という部分です。

 『自分がご飯とパン、どちらが好きか』という内容ではござりませぬ……あれ? 内容では、ないのです!


 朝食として、ふさわしい。それは、ただ自分が好きかどうかで決めるようなものでしょうか? いえ、まったく、そんなことではありません!

 ふ・さ・わ・し・い と言うからには、それだけの理由……ヒンカクが求められるのです!

 そのためには、歴史の古さ……深さ? や、文化としての結びつきというものは、とても、とても! 重要なものなのです!


 それに、それにです! パン派もご飯の方が健康に良いということを、自分たちで認めています!

 パンにはイーストフードという危険な物体が入っている、ご飯の方がよく噛んで食べられる、それはご飯の長所!

 彼らは、それでもパンを選ぶ人がいると言っていましたが、むしろご飯の良さをアピールしてしまっているのです!

 健康に良くてもパンを食べたい人がいる、そう言うために挙げたことのようですが、そのせいでワタシたちの主張を増やしてしまうとは、なんとヒニクなのでしょう!


 それに……そう! パンは半分、半分なのです!

 明確な意志で選んでいるとかなんとか言っていましたが、それでも半分です! ご飯を食べたい人が、半分もいます!

 ならばそれは、パンの良さをアピールできているとは言えません! しょせんは、半分に過ぎないんです!

 同じ半分ずつなら、健康にいいご飯の方が、あ、あと加えて歴史が深くて日本人と結び付きが強いご飯の方が、ずっと優れてます!


 そういうわけでその、あれ、どういうわけ? ああ、あの、つまりですね、ご飯の歴史の深さ、文化としての結びつきの強さは重要なものであり、決して時代遅れなんてことではないのです!

 文化として深くて、健康にもいいご飯の方が、日本人の朝食にはふさわしい。ふ・さ・わ・し・い のです。

 ――というわけで! ワタシたちごはん派の方が正しく、ご飯こそ、日本の朝食にふさわしいのです!」



 わざとらしい動作で一礼し、川上は反駁を終えた。

「ふむ。まあ、こんなものだろうな」

 至って冷静な様子で、渚先輩が言った。俺たちも頷いてみせる。


 相変わらず川上は、大仰な言葉と言い回しでいかにもそれっぽく言ってはいるが、さほど核心を突いてはいない。

「正しそうに見せる」ことは確かに大切だが、それだけでは勝てないのだ。

 渚先輩なら、必ず俺たちを勝ちに導いてくれるだろう。

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