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きのこたけのこ戦争 3 蹂躙

 真勇が反駁を行うのは、俺が入部する前に天王寺と「勝負」をした時以来だ。

 観客の数はあの時と比べ物にならないほど増えているが、彼女の様子には不安も緊張もない。

 軽やかな足取りで演台に立ち、反駁を開始した。



「きのこ派は、形の完成度から2つの長所を主張をしました。

 手を汚さずに食べられることと、変わった食べ方ができる、ということです。

 ですが、この2つはどちらも、あえてきのこの山が優れているって言うほどの長所にはなっていません。


 質疑の時に言った通り、手が汚れたら拭けばいいだけです。

 お菓子を選ぶ時、味や食感よりも、手が汚れないことを優先的に考える人はいないと思います。

 そもそも、きのこの山だって、少しも手を汚さずに食べるのは簡単じゃありません。

 袋の中にはあっちこっち向いて入ってますから、普通に手を突っ込んで取り出そうとすれば、少しはチョコが付いちゃいます。

 すごく注意しながら、絶対にチョコが手に付かないように取り出せば大丈夫かもしれませんが、そんなことをするよりは普通に取り出して、後で手を拭いたほうがずっと楽です。

 なので、これは取り立てて長所と言えるほどの長所ではありません。


 次に、変わった食べ方ができる、って言ったことです。

 これも、きのこの山のほうがやりやすいだけで、変わった食べ方をしようと思えばたけのこの里でも可能です。

 むしろ、いかにも『ここで分解してください』と言っているようなきのこの山よりも、分解しにくいたけのこの里の方が、あえて挑戦してみる楽しさがあると言えます。

 だからこれも、きのこの山の長所にはなりません。


 それから最後に、きのこの山の形には一つ、大きな問題があります。

 箱を開けたとき、袋を開けたときから、折れている場合があることです。

 これは間違いなく形状の問題点で、こんな欠陥のあるきのこの山が、形状で勝っているとは言えません。


 以上のことから、形を見てもたけのこの里の方がむしろ勝っているのが分かると思います。

 それから立論で言った通り、たけのこの里はチョコとクッキーの調和という利点があります。

 ですから、たけのこの里の方が優れたお菓子だと言えます」



 少し早口ながらも、決して焦りのない口調で反駁を終え、ぺこりと頭を下げた。

 彼女の小さな背に、大きな拍手が送られる。観客の側も結構ノッてきたようだ。

「お疲れ。良かったぞ」

 ニコニコと席に戻ってきた真勇に声を掛ける。

 彼女は「えへへっ」と満足げに笑った。


 さて、次は相手の第一反駁で……出てくるのは天王寺だ。

 彼女に目をやると、焦りからか頭をガリガリと掻いている。

 今のところは計算通り、俺たちが優勢なはずだ。だが油断はできない。

 俺は第二反駁の準備をしながら、相手の反駁の開始を待った。

 程なくして天王寺が演台の前に立つ。大きく胸を張って、反駁を始めた。



「いいか、よく聞けお前ら!

 あいつらはきのこの山が調和してねえっつったけど、そいつは間違いだ。

 調和してねぇんじゃなくて、違った味が楽しめるんだよ。


 例えばな、たい焼きのシッポだ。あれには、アンコが入ってねぇのがある。

 ケチってんじゃねぇぜ。入ってねぇほうが旨いからって、わざと入れてねぇんだ。

 口直しっつって、アンコで甘くなった口を、シッポの生地食ってさっぱりさせンだよ。

 こいつは一緒に口ん中入れる調和とは違うけど、二つがいい感じにバランス取ってんだろ?


 きのこの山も一緒だ。

 調和してねぇんじゃなくて、別々の味と食感が楽しめてバランスが取れてるってこった。

 ただ甘いばっかのたけのこの里と違って、きのこの山は口直しまで考えてンだよ。


 ……んで、手が汚れたら拭けばいいっつったけど、いちいち拭くのもメンド臭ぇだろ。

 手が汚れないだけで選ぶこたねぇかも知れねえけど、利点なのは間違いないぜ。

 それから、きのこの山は折れるのがダメだって言ったけどな、たけのこの里だってクッキーが柔らかいせいで崩れて粉になってんだよ!

 そんでチョコの部分にまとわりついて見た目が悪い! だからたけのこも形に問題はあるからきのこの形が悪いとは言えねえ!


 ――つまりだ、きのこの方が味とか食い方とかメリハリ付いたのが楽しめるし、たけのこ派の調和がどうとか、そんなもんよりよっぽど菓子として完成されてんだよ。

 つーわけで、きのこの山の方が勝ってる! 以上!!」



 天王寺は聴衆を煽るように大仰に話した後、机をバンと叩いて反駁を終えた。

「……天王寺先輩、相変わらずですね」

「ああ。けど、今回は案外有効かもしれないぞ」

 俺はそう言って聴衆を見やる。そこそこ腑に落ちたような顔をしていた。


 ディベートとは「説得」を行う競技だ。

 もしも"本当に正しいこと"を言ったとしても、それが相手に通じていなければ何の意味もない。

 特に今回のように、不特定多数がジャッジを行う場合となると尚更である。

 重要なのは本当に正しいかどうかより「正しそうな印象を残す」ことなのだ。

 そう考えると「たい焼きの口直しと同じ」という例は、結構効いているはずだ。


「なら、こっちも乗ってやるか」

「え?」

「あっちがたい焼きなら……こっちはラーメンだ」

 あえて真勇には秘密にして、第二反駁を用意する。

 準備時間の終わり際、渚先輩が再び話す。

「さあ、いよいよ最終局面、第二反駁へと入る。互いが相手の反駁に対して、いかに返すか。どうか最後まで見届けて頂きたい。それでは、たけのこ派の第二反駁開始だ! 猿渡君、頼むぞ!」


 俺の名を呼んだ渚先輩が、「しまった」という顔をするが、もう遅い。

 思いっきりバラしちゃったよ、俺の正体。


 俺は開き直って大股で演台へと進み、勢いよく"キティ"のお面を外した。

「東龍学園2年、ディベート部期待の新部長、猿渡雄一郎です! ヨロシクッ!」

 無理をしてハイテンションを作った俺の声が、マイクを通って体育館中に響き渡る。

 困惑と共に顔を見合わせる聴衆。帰りてぇ。

 だが、もう後には退けない。俺は反駁を開始した。



「まず手が汚れないことについて。我々は、取り立てて利点と言えるほど大きな要素ではないと主張しました。

 きのこ派は利点であることには違いないと主張しましたが、大きな利点と言えるほどの価値を示せていません。

 また、きのこの山は破損するという問題に対し、あちらは『たけのこの里は粉を吹く』と主張しましたが、わずかに崩れて粉を吹く程度と、完全に破損するきのこの山では深刻さが違います。

 よって、きのこ派の主張は通りません。一方できのこの山が破損することへの反論は一切なかったので、こちらの主張はそのまま通っています。


 そして何より、きのこ派はきのこの山について『たい焼きの口直しと同じ』と表現しましたが、これは間違っています。

 まず第一に、あちらは『シッポにあんこが入っていないものがある』と言いました。

 その通り、たい焼きは全て尻尾にあんこが入っていないわけではなく、尻尾までぎっしりとあんこが入っているものもあります。

 つまり口直しなど考えない、徹底して甘いたい焼きを好む人も多く存在するわけです。

 要するに口直しが存在することが一概に優れているとは言えず、これは利点とは言えません。


 そもそものところ、きのこ派の主張は相性の悪い取り合わせを無理矢理にメリハリが付いていると言い訳をしているに過ぎません。

 考えてみてください。もしもラーメンに、ケーキが入っていたら?

 それはメリハリの付いた味なんかじゃなく、ただのゲテモノ料理でしょう。

 ラーメンに必要なのはモヤシやチャーシューであって、ケーキじゃない。それが調和というものです。

 ゆえにきのこ派の主張は無意味なものであり、我々の主張する通り調和の取れたたけのこの里こそ、優れたお菓子だと言えるわけです」


 反駁を問題なく済ませ、席へと戻る。会場は困惑した空気のままだ。

「……先輩、大丈夫ですか?」

「帰れるなら帰りたいな」

 俺が肩をすくめて言うと、真勇は少し控えめに笑った。

 ともかく、反駁そのものはうまくいったはずだ。

「ラーメンにケーキを入れる」なんて例えは少し無理矢理な気もするが、それだけ印象には残るだろう。

 相手の主張はしっかり潰しているはずだし……残る不安は、聴衆が俺に対してどんな態度を取るか、だが。

 あれこれと考えながら、俺は鹿野島先輩が演台に立つのを見ていた。

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