夕那の憂鬱
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[姉さんのとこの学園祭、遊びに行ってもいい?]
小夜から送られてきたメッセージに、「忙しいから無理」とだけ返信する。
けれど、そう言ったところで勝手に来るんだろうなと、半ば諦めていた。小夜はそういう子だから。
今の生活に、不満はない。
渚ちゃんがいて、ゆー君がいて、それに秋華ちゃんと真勇ちゃんもいて。
クラスで過ごすのも悪くないけど、部活はずっと、楽しくなった。
毎日、いろんな事があって……すごく楽しい。
家族のことなんか、忘れていられるくらいに。
なのに、今日はどうしてだろう。妙に気分が沈んでいた。
受験とか進路とか、そんな話をされたから?
小夜があたしに連絡してきたから?
どっちも、関係なくはないと思う。でも、どっちも本当の理由じゃないような気がした。
学園祭。学園祭か。
きっとうちの部も、何か楽しいことをやるんだろう。
ゆー君も、渚ちゃんも、秋華ちゃんも、真勇ちゃんも。みんな、すごく頑張って、どんどん成長してるから。
――じゃあ、私は?
大会にも出ないくせに、みんなの中に混ざって、仲間みたいな顔をしてるだけ?
沈んだ心に、また影が落ちる。
渚ちゃんが太陽なら、私はきっと、月だ。
ただの石っころのくせに、誰かの光を照り返して、自分が輝いているように見せかけている。
大きくため息をつく。
これ以上考えたって、勝手に嫌な気分になるだけだ。
あたしは、強引に思考を打ち切った。
「ねえ、渚ちゃん」
寮室で、背中合わせに座る渚ちゃんに話しかける。
渚ちゃんは「ん」とだけ言ってあたしの言葉を待つ。
けど、あたしは続く言葉が思いつかなかった。なんとなく、無意識に呼んでたから。
「……なんだ?」
「あー、えっとね。学園祭。近いなって、思ったの」
不思議そうにする渚ちゃんに、あたしは適当な理由をでっち上げた。
渚ちゃんはバカ正直に、それに答える。
「そうだな。今年は一体、何をしようか。部員は増えたことだし、何か出し物でも考えたいところだが……」
「渚ちゃんさ、他の部とか、クラスの出し物とか、見に行かないの?」
「む? まあ当日になれば考えると思うが……今から考えていることはないな」
「ゆー君と一緒に回ったりしない?」
「え……な、なぜ私が猿渡君とっ!?」
自分でも、どうして今、ゆー君の名前を出したのか分からなかった。
けど、渚ちゃんの反応を見て、はっとする。
「ううん、言ってみただけ」
テキトーに言って、会話を切り上げる。
渚ちゃんは、少し顔を赤くしていた。
やっぱり、と思った。
渚ちゃんは、ゆー君のことが好きだ。
前々から、多分そうだろうと思ってたけど。今の反応で、絶対そうだって分かった。
すごい進歩だよ。男子とちょっと話すのも嫌がってた渚ちゃんが、好きな男の子ができるなんてさ。
いい事。すごく成長してる。絶対ダメだと思ってたのに。こんなにいい事、なかなかないよ。
でも、どうしてだろう。
沈んだ気分は、やっぱり明るくならない。
だって、あたしは気付いてなかったから。
自分が本当は、どうしたかったのかをね。
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