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夕那の憂鬱

******


[姉さんのとこの学園祭、遊びに行ってもいい?]

 小夜から送られてきたメッセージに、「忙しいから無理」とだけ返信する。

 けれど、そう言ったところで勝手に来るんだろうなと、半ば諦めていた。小夜はそういう子だから。


 今の生活に、不満はない。

 渚ちゃんがいて、ゆー君がいて、それに秋華ちゃんと真勇ちゃんもいて。

 クラスで過ごすのも悪くないけど、部活はずっと、楽しくなった。

 毎日、いろんな事があって……すごく楽しい。

 家族のことなんか、忘れていられるくらいに。


 なのに、今日はどうしてだろう。妙に気分が沈んでいた。

 受験とか進路とか、そんな話をされたから?

 小夜があたしに連絡してきたから?

 どっちも、関係なくはないと思う。でも、どっちも本当の理由じゃないような気がした。



 学園祭。学園祭か。

 きっとうちの部も、何か楽しいことをやるんだろう。

 ゆー君も、渚ちゃんも、秋華ちゃんも、真勇ちゃんも。みんな、すごく頑張って、どんどん成長してるから。

 ――じゃあ、私は?

 大会にも出ないくせに、みんなの中に混ざって、仲間みたいな顔をしてるだけ?


 沈んだ心に、また影が落ちる。

 渚ちゃんが太陽なら、私はきっと、月だ。

 ただの石っころのくせに、誰かの光を照り返して、自分が輝いているように見せかけている。


 大きくため息をつく。

 これ以上考えたって、勝手に嫌な気分になるだけだ。

 あたしは、強引に思考を打ち切った。


「ねえ、渚ちゃん」

 寮室で、背中合わせに座る渚ちゃんに話しかける。

 渚ちゃんは「ん」とだけ言ってあたしの言葉を待つ。

 けど、あたしは続く言葉が思いつかなかった。なんとなく、無意識に呼んでたから。

「……なんだ?」

「あー、えっとね。学園祭。近いなって、思ったの」

 不思議そうにする渚ちゃんに、あたしは適当な理由をでっち上げた。

 渚ちゃんはバカ正直に、それに答える。

「そうだな。今年は一体、何をしようか。部員は増えたことだし、何か出し物でも考えたいところだが……」

「渚ちゃんさ、他の部とか、クラスの出し物とか、見に行かないの?」

「む? まあ当日になれば考えると思うが……今から考えていることはないな」

「ゆー君と一緒に回ったりしない?」

「え……な、なぜ私が猿渡君とっ!?」

 自分でも、どうして今、ゆー君の名前を出したのか分からなかった。

 けど、渚ちゃんの反応を見て、はっとする。

「ううん、言ってみただけ」

 テキトーに言って、会話を切り上げる。

 渚ちゃんは、少し顔を赤くしていた。


 やっぱり、と思った。

 渚ちゃんは、ゆー君のことが好きだ。

 前々から、多分そうだろうと思ってたけど。今の反応で、絶対そうだって分かった。

 すごい進歩だよ。男子とちょっと話すのも嫌がってた渚ちゃんが、好きな男の子ができるなんてさ。

 いい事。すごく成長してる。絶対ダメだと思ってたのに。こんなにいい事、なかなかないよ。


 でも、どうしてだろう。

 沈んだ気分は、やっぱり明るくならない。

 だって、あたしは気付いてなかったから。

 自分が本当は、どうしたかったのかをね。


******

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