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秋華の怒り

「なあ、目玉焼きって何かける?」

「塩コショウ」

「ふーん」

「お前は醤油だろうな」

「そうだけど。雄一郎に当てられるとなんかハラ立つな」

「なんでだよ」

「知らね」

 ある日の部活、俺と天王寺は他愛のない会話をしていた。

 部長と鹿野島先輩は受験対策セミナーだか何だかで今日は部活に来られず、真勇も資料を探しに出かけているので、部室に来たのは俺たち二人だけだ。

 二人しか部屋にいないと、妙に静かに感じる。全員揃っているときだって、無言の時間は普通にあるのだが。


「お前、部長のこと好きなのか?」

「……は?」

 唐突に天王寺が言い出したことに、俺はあんぐりと口を開けて固まる。

「何だよ突然」

「答えらんねえのかよ」

「そうは言ってないだろ」

「じゃあ答えろよ。減るもんでもねえだろ」

「そういう問題じゃなくて。なんでそんなこと聞くんだよ」

「気になるからだ。悪いかよ」

「悪いとかじゃなくてな……」

 何故か天王寺は頑として譲らない。

「……好きって、その。異性として……って意味だよな」

「当たり前だ! てめぇこの期に及んで部長としてどう思うとか聞いてると思うのかよ!?」

 天王寺は激昂し、机を叩いて立ち上がる。

「分かってる、分かってるって! 一応聞いただけだ!」

 俺は天王寺をなだめる。

 なぜ彼女がここまで熱くなっているのか分からないが、答えずに済ませるのは無理そうだった。

「……分からない」

「はぁ?」

「いい人だとは思うよ。その……美人だし、しっかり者で……でも面白いところもあって……けど、恋愛対象としては……分からない」

「タイプじゃねえってことか?」

「そうじゃない。ただ、俺と部長が……付き合うとかは……なあ。釣り合うとも思えないし」

「てめぇは釣り合いとか気にするようなタマじゃねえだろ」

「俺一人の問題じゃないだろ。部長の気持ちだって……」

 俺がそう言うと天王寺は強く舌打ちし、机を蹴って立ち上がった。

 窓際に立ち、何度も爪先で床を叩いてから言う。

「……お前、部長が男嫌いだって話、聞いてるか?」

「ああ。鹿野島先輩に聞いた」

「だったら分かってんだろ。仮にも男子のてめぇと二人で普通に出かけたりしてんのが、どんだけ変なのか」

「男として見られてないだけじゃないのか?」

 また天王寺が舌打ちをして、俺の胸倉を掴む。

「てめぇ、いつまでも日和ってんなよ。そんなんでこの先、勝てんのかよ。天才になるっつっただろ」

「部活で勝つのと、部長が好きかどうかって話に何の関係があるんだよ」

「知るか」

「知るかって、何だよ。大体、なんでお前が部長と俺のこと、そんなに気にするんだよ」

「うるせぇ!!」

 ひときわ強く言うと、天王寺は俺を離して席に戻った。

 それっきり、天王寺はその日、一言も俺に話しかけてこなかった。

 なぜ彼女がこうも苛立っているのか俺には分からない。

 ただ、俺を睨んだその目と、叩きつけられた言葉だけが、俺の胸に突き刺さっていた。

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