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VS王麟学院 5 おわり

 主審を務める中年の男が立ち上がり、話し始める。

「えー、この度、肯定側。東龍学園は初めての全国出場ということで、どのような試合を行ってくれるかと楽しみにしていたんですが、なかなか面白い試合を行ってくれまして――」

 前置きから、少しの雑談へ入る。

 俺は「さっさと結果を言ってくれ」と、もどかしさを感じながら待った。


「今回の試合。肯定側は有害な野生動物への対策と言いますか、つまり駆除ができるということ。対する否定側は、愛護法がなくなったら悪いペット業者が増えちゃうぞと、そういう主張でしたが。最後には結局、本当に駆除ができるのか、本当に悪質な業者が増えるのか。それで、その二つを天秤にかけて、どちらが重いのかと。そういう話となりましたが……」

 そして議論の内容に対して一つずつ意見や、感想を述べてゆく。


 愛護法が憎悪を生む危険性と成りうることは考えられるが、それが多数派であるとは考えにくい。

 細かなものも含めれば、野生動物の被害に遭っている人は非常に多いと思う。だが一般人が自分で猫を捕まえて駆除をするのはやはり難しいと思うし、業者に頼むには金銭的な問題も発生する。

 悪質な業者がどの程度増えるかは予測できないが、少なくとも開業のハードルが下がる以上、今よりも増えることはまず間違いないと考えられる。

 ペットに消えない印を刻むことで人の所有物として主張するのは、倫理的な問題があるのではないか。


 俺にとっても、その通りだと納得できるものもあれば、そうでないものもあった。

 はっきりと分かるのは、明らかに俺たち……肯定側の主張を疑問視する意見が多いことだ。

 然して、主審の男は予想通りの結果を告げた。


「今回は愛護法廃止による弊害の大きさを重く見た意見が多く、4対1で否定側、王麟学院の勝利とします」


 室内に聴衆の拍手が響き渡る。

 八木さんがそれに混じって小さくぱちぱちと拍手をしながらチームメイトに笑顔を向けるが、他の選手はあまり嬉しそうな顔をしていなかった。

 当然だ、とでも思っているのだろうか。

 俺の隣では、天王寺が派手に落胆していた。

 それから、俯く部長と、涙をこらえる真勇。

 俺はその様子を、どこか他人事のような思いで見ていた。



「お疲れー。みんなカッコ良かったよー」

 試合が終わり、鹿野島先輩がやってくる。

 俯いたままの部長の肩を、ぽんぽんと叩いた。

「ほらほら、落ち込まない。優勝候補相手にまともに戦えただけでも凄いんだからさー」

「いや、しかし……」

 ひどく落ち込んだ様子。

 おそらく部長は、指揮していた自分のせいで負けたと、責任を感じているのだろう。

 俺には、かける言葉が見つからなかった。


「ども、お疲れさんです」

「え、あ……」

 八木さんがやってきて、真勇へと話しかける。

 真勇は困惑しながらも、涙を拭いた。

「いやね、今回はま、ボクたちが勝たせてもらいましたけど。決してそちらがダメだったわけではないと言うか。えー三上さん、そちらさんはちゃんと、実力ある人やって分かってますから。ま、あんま落ち込まんといてくださいと。それだけ言いたくて」

「あ、はい……」

 ぺこぺこと頭を下げながら、彼は言う。真勇は小さく頷いた。

 それから八木さんは、俺の方に向き直る。

「猿渡さんも、大会初参加とは思えんような立派な反駁でござんした。いやはや、鳳南との練習試合の日、置いていかれたのがほんと惜しいことで」

「ああ、どうも……負けましたけど」

「え、ま、結果としてはそうでござんすが。全員一致じゃない以上、こっちの勝ちとも言いにくいことでして」

「嫌味ですか?」

「いやいや、まさかそんな……」

 手にした扇子ををぶんぶんと降って否定する。

 そこに泉水が割り込んできた。

「全員一致じゃねェって事は、ジャッジ構成が違えば負けてたって事だ。テメェらみてぇな素人に負けた可能性がある時点で、こっちの勝ちとは言えねェんだよ」

「はぁ」

 どっかのスケバンと似たようなこと言ってるな、こいつ。


 そんなことを思っていたら案の定、天王寺が口を挟んできた。

「んなこと言われたって、負けは負けッスよ」

「へっ、まァな。けど、その辺のザコよりは楽しめたぜ。精々次の機会までに、もっと強くなって来やがれ」

「そっちこそ、アタシらに負ける前に、その辺のザコに負けないでもらいたいッスね」

「キャハハハッ! 誰が負けるかよ。どうせ今年も、オレたちが優勝だ」

 不敵な台詞を吐き合う二人の間に、今度は比嶋さんが入り込む。泉水が身構えた。

「あら、まだ何もしていませんけれど」

「されてからじゃ遅ェだろうが」

「不適切な発言をしなければ良いだけのことですわ」

「だったらテメェも――」

 泉水を無視して、比嶋さんは部長へと話しかけた。

「水島渚さん」

 部長が、俯いていた顔を上げる。

「事実を知り、そこから何を考え、どうするべきかを語る。それが弁論でしてよ。ただ事実を述べるだけで勝てるのなら、ディベートなんて競技は成立いたしませんわ」

 部長は頷くことも、言い返すこともしない。

「ですが、あなたも……このまま終わるつもりではないでしょう? 五校戦でお待ちしていますわ」

 そう告げると、返事を待たずに彼女はきびすを返し、教室を出ていく。

 教室の外には、不機嫌そうな顔でこちらを睨む麗沙がいた。

「おっと、あんまり話し込んどるとお姫様に怒られますんで。じゃ、失礼」

 八木さんがそう言って、泉水と一緒に去ってゆく。



「どうでしたか、猿渡くん」

 いつの間にか近くに来ていたボンドに話しかけられ、俺はビクリとする。

 ずっと引率として同行していたのだが、ほとんどボンドは俺たちと話そうとしないし、手続きの時くらいしか前に出てこないので忘れていたのだ。

「……次はもっと、上手くやりたいです」

「そう。どうすれば上手くやれると思う?」

「これから話し合って考えます。部の……みんなと」

 そこで一つ思い出したことがあり、俺は言葉を探した。

「あー……あの」

「何?」

「えっと……ありがとうございました。その、色々」

 俺が中途半端に頭を下げると、ボンドは少しシワの寄った口角を上げた。


 漫画やドラマのような劇的な展開なんて無く、ただ順当に負けた。

 俺の初めての大会は、そうして終わった。

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