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ドラえもんは22世紀に帰るべき? 5 講評、そして

 それからしばらくの間を置いて、講評が始まる。

 最初に口を開いたのは、泉水だった。

「質疑について言うが。……鳳南の茶髪! テメェは質疑の意味から調べ直せ!」

 強い語調で言われ、茶髪が首をすくめる。

 部員たちに絞められたこともあってか、さすがに本人も問題だったと分かっているらしい。


「それから東龍の三上。質疑は自分と応答者だけでやるもんじゃねえ。ジャッジに聞かせるような質疑を意識しろ。それと無理に質疑で相手を潰そうとするな。質疑で反駁やったって、どうせ次の反駁で同じ事もう一回言うだけだ。テメェ一人で相手を潰そうとするんじゃなく、ディベートは団体戦だってこと意識して反駁の手を広げるような質疑を考えてみろ」

 相変わらずぶっきらぼうな言い方だが、先程とは違い落ち着いた口調。

 そして、今までのチンピラのような言動からは想像も付かないほどに、理路整然とした指摘だ。

 真勇は少し戸惑った様子を見せながらも、「はい」と答えた。


 言いたいことを言って満足したか、泉水は息を吐いて背もたれに体重を乗せる。

 それから、次に話せと言うように比嶋さんに目を向ける。

 だが彼女は何も言わず、麗沙に話すよう示した。部長が話すべきだ、と言うようだった。

 麗沙が立ち上がり、話し始める。


「今回の試合は即興型ということで、各パート2分という短い時間でそれぞれの主張を行ってもらいました。しかし今回、肯定側と否定側には一つ、大きな違いがありました。それは肯定側はドラえもんの危険性という一点について主張したのに対し、否定側はドラえもんの有益さ、そしてのび太の家族であるという二点について主張していたこと」

 その言葉に、俺は勝利を確信する。

 以前、部長に言われたことを思い出したからだ。そして、麗沙はその通りのことを口にした。

「複数の理由で主張を行うことは、それだけ個々の内容が薄くなることでもあります。二つ以上の理由を用いるには2分どころか、4分の立論時間があっても難しいことです。今回、理由を一つに絞った肯定側は終始一貫した主張を行えていましたが、否定側は二つの理由どちらもが、非常に薄いものとなっていました」


 鳳南の席から、「あぁ~」と諦めたような叫びをあげる声が聞こえた。

「肯定側の主張した、『一人の少年のために世界全体を危険に晒すべきではない』という内容は十分な説得力がありました。対し、否定側は肯定側への反駁こそ行っていたものの、本来の立論の主張が非常に弱く、説得力に欠けていました。よって、今回は全員一致で肯定側の勝利とします」

 落胆する鳳南の選手と、「まあ、そうだろうな」という表情の俺たち。

 勝利の嬉しさが無いわけじゃないが、さすがに負けるとは思えなかったしな。

 教室に、まばらな拍手が響く。そうして、俺たちの練習試合は終わった。


「お疲れさまでした」と告げ麗沙が着席すると、泉水が立ち上がる。

 俺に向かって歩いてくる……かと思ったところで、比嶋さんが彼の服の襟を後ろから掴んで止めた。

「まだ何も言ってねえだろうが!」

「これから言うつもりだったのでしょう」

 暴れる引きずるようにして、比嶋さんは教室の外へと向かう。

 手慣れた様子を見るに、こうしたやり取りは一度や二度ではないのだろう。

「おい猿渡!全国大会までちゃんと上がって来い!そこがテメェの死に場所だ!!」

 その叫びを最期に、泉水は教室の外へと引っ張り出された。

 それに続くようにして、麗沙も教室を出る。


 残された鳳南の選手たちが、こちらの席へと向かってきた。

「ふっ……ワタシたちに勝利するとは、やるではありませんか。これからはアナタたちを、ライバルと認めましょう!」

 両手を交差させた変なポーズを取りながら、紳士気取りの優男が高らかに宣言する。が、即座に"タカシ"に頭を小突かれた。

 "タカシ"は小突いた手を納めると軽く頭を下げ、部長に話しかける。

「今回は試合に応じてくれて、ありがとよ。いい経験ができた」

「こちらこそ、良い刺激になった。大会では、より良い試合ができることを期待している」

「まあな、今回よりはマシな試合ができるよう、勉強しておくぜ」

 彼は苦笑した。

「名前、聞いてないよな。俺は鳳南の三年、部長の(すが)(たかし)。二文字だ」

 握手を求めるように、部長に手を差し出す。

「あー、あたし、鹿野島夕那。よろしくー」

 なぜか、素早く横から割り込んだ鹿野島先輩がその手を握った。

 タカシ……菅さんは少し困惑したようだったが、「ああ」と言って軽く頭を下げた。


 他の鳳南の選手たちも自己紹介を始める。

 まず茶髪の男が手を挙げた。

「オレ、茶谷(ちゃたに)雷太(らいた)。一年っす。ちなみに彼女いません!」

 彼に若干冷ややかな視線を送りつつ、『紳士気取り』が続く。

「ワタシは二年の川上(かわかみ)志門(しもん)。以後、おしりを……ん?オミシリオキ、を」

 最後に、『だるま』が頭を下げた。

「副部長、大林(おおばやし)平蔵(へいぞう)。三年だ」

 そして、俺たちも自己紹介をする。

 最後に俺が名乗ると、菅さんは笑って言った。

「ああ、噂は聞いてるぜ。どんなボンクラが出てくるかと思ったが、やるじゃないか。うちの部に欲しいくらいだ」

 鳳南の部長らしく、無骨な男だ。

 しかし同時に、いい人そうだな、と思った。



 それから少し雑談した後、菅さんは俺を手招きして教室の外へと連れ出した。

 まさか殴られるわけじゃないだろうな、と少し警戒していた俺に、彼はこう言った。

「……おまえの所の部員、彼氏がいるかどうか、知らないか?」

「は?」

 困惑して固まった俺に、菅さんは小声で説明する。

「いやな、鳳南のディベート部ってのはまあ、部に入りたがる奴は、結構いるんだが。たいてい、他校の女子と話したくて入るって奴ばっかりなんだよ、これが」

「……はぁ」

「一応、入るからには真面目に活動させてるんだが、どいつもこいつも長続きしなくてすぐ辞めちまって、今残ってるのは3人だけ……いや、この話はどうでもいいな」

 俺から目線を逸らし、照れくさそうに菅さんは言う。

「つまりだな、そういう目的も無くはないというか、気になる所もあるからな。良ければ聞きたいと、思ったんだが」


 俺は少し悩んでから、答えた。

「部員に聞いたことないから、詳しいことは知りませんけど。普通はいるんじゃないですか。美人多いし」

「そうか、まぁ……そうだろうな」

 残念そうな様子で、菅さんは言った。

 実際、知らないのは本当だ。嘘をついたわけじゃない。

 それでも「いる」と思わせるような言い方をしたのは、部員に言い寄られるのは嫌だと何となく思ったからだ。

「悪いな。もういいぞ」

 笑顔を浮かべて教室に戻る菅さんの姿に、俺は少しだけ良心が痛んだ。


「彼氏……」

 廊下に一人で立ったまま、俺は呟く。

 思えばうちの部は、俺以外は女子ばかりだ。

 俺はその中で、なんとなく過ごしていたが……そうした話が出てきても、何も不思議はない。

 だが俺は彼氏とか恋愛とかを、あまり考えていなかった。

 自慢じゃないが俺はモテたことがなかったから、そういうのとは無縁だったし……何より、今の部で、部員たちと過ごす時間に満足していたからだ。

 けれど、部員たちに興味が無いわけじゃない。

 部長や鹿野島先輩はもちろん、天王寺と真勇も、女子として……つまり……いいと思う。

 別に俺が彼女たちを独占したいと思うわけじゃない。

 ただ、他の男に独占されるのは嫌だ。自分勝手かもしれないが、そう思う。

 それなら俺は、どうすればいいんだ?

 俺は、どうしたいんだ?


 なんとなく教室に戻りづらくなって、廊下をうろついた。

 しばらく歩いていると、近くの教室から誰かが出てきた。


 麗沙だ。俺は何かを言うべきかと思ったが、そのまま通り過ぎようとする。

 その時、すれ違いざま、彼女は強い怒りを込めた声で言った。


「――全部、お前のせいだ」

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